【緋彩の瞳】 Your Wish ②

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

Your Wish ②


「天罰がくだったのでしょう、サボタージュの」
予備校に行ってて捕まらなかった亜美ちゃんの代わりに、第2候補のせつなさんのマンションへ向かい、レイは人差し指でパソコンのキーボードを打っていた。
「こういう能力を持って生まれた不運を、嘆いてくれてもいいのに」
アイスコーヒーに目もくれず、使いなれないパソコンの検索の枠に、聞いてきた情報をそのまま入れて見る。
『深美 ピアニスト』

検索

ヒット 455件

「うーん……」
ざっと見たところでは、めぼしいものはない。
「深美っていう名前の卒業生が、ピアニストかチェリストっていうことなの?」
せつなさんは隣で一緒に画面を見ながら、さっきまでレイが説明していたことを確認してきた。
「らしいわよ。といっても、それは高校生の頃そうなりたいと言っていたっていうことで、そうなった、と言うわけじゃないわ」
「ふーん」

『深美 チェリスト』

検索

ヒット 17件

ただし、無関係のものだらけだ。
「ピアニストとチェリストではなさそうね」
「そうみたいね。一般人だったら、検索のしようがないわね」
あっという間に、打つ手がなくなってしまった。あまりにも情報がおおざっぱ過ぎる。
「深美ね……。どこかで聞いたことのある名前だわ」
せつなさんは腕を組んで首をかしげているけれど、有名人ではないことはインターネットが証明している。せつなさんの知人にいたところで、名前が同じというオチしかないと思う。
「あぁ……わかった」
「何?お友達にでもいるの?」
「みちるのお母様のお名前だわ」
「みちるさんの?へぇ。そんなによくある名前でもなさそうなのに、そう言うこともあるものね」
残念ながら、そんな情報はどうでもいい。
せつなさんも、別にただ話題にしただけと言った感じだ。
「そうね。そう言えばみちるは今、どこで何をしているのかしら?」
「………さぁ」
「あら。また喧嘩でもしているの?」
「していないわよ。連絡を取っていないだけ」

みちるさんとはしばらく連絡を取り合っていない。
1カ月くらい前、レイが父親との食事会を拒んでいる電話をたまたま隣で聞いていたみちるさんに、実の父親と会ってあげればいいのにと知った風に言われて、カチンときて、言い争ったのだ。
レイは自分の家族事情をみちるさんに何も言っていないけれど、たぶん、みちるさんのことだから、ある程度調べは付いているのだろう。恋人だからとかそう言うのは抜きに、レイのことだけじゃなく、まこちゃんや、亜美ちゃんの家のこともたぶん、情報を仕入れているだろう。それについては、文句を言いたくても言えないことはある。ただ、レイはみちるさんの家族については、本当に何も知らないし、調べたいと思ったこともない。司令室に行ってデーターを盗み見ることは簡単だけれど、そう言うことに興味がないし、逆にいえば、みちるさんにもそこに興味を持ってほしくはないし、口を出してほしくもなかった。
『知った風なことを言ってくれるけれど、私の家の事情には口を出さないで』
家族は大切だからと諭すみちるさんにきつく言い放って、それから会ってない。
たぶん、今は東京にいないような気もする。演奏会か何かで、地方に出ているはずだ。

「それは喧嘩と同じようなものでしょう。まぁ、程々にした方がお互いのためよ」
「わかってる」
ほとぼりが冷めて、また何事もなかったようになれば一番いいのだけれど。
会う機会がないのだから仕方がない。向こうからメールもないし。
パソコンではどうやら調べることはできそうにない。出鼻をくじかれて無駄に疲れた。
「そう言えば、レイの学校には卒業生の先生とかいるでしょう?その人たちの中で、あなたのお母様とかその、深美さんを知っている人とかはいないの?」
「あぁ……あ、確か…シスター上原」
シスター上原と言えば、ママと同じように幼稚舎から大学までTAだったような気がする。年齢も、生きていればちょうどママと同じくらい。今さらながら気がついたけれど、あのシスターからママのことなんて一度も聞いたことがなかった。交友関係がなかったのだろうか。しかし、高校までは1学年2クラスしかない。無関係ではいられないだろう。
「聞いてみたら、近づけるんじゃない?ついでにその緋彩という死んだ人とお母様たちの関係なんかも知っていたりして」
せつなさんの言うことは、っとも。
シスター上原と関わるのはなんて言うか、めんどくさい。
「……私、日頃の行いは悪くないのに」
「悪いでしょう。少なくとも学校内では」
ま、だからあの幽霊に捕まってしまったのだけれど。



「え?深美さん?」
「はい。ご存じないですか?藍川深美さん」
「どうしてまた、急に?」
「あ……ちょっと。用事があって」
次の日の放課後、ホームルームが終わり、レイは職員室前で待ち伏せしていた。レイを見かけたシスター上原は、また何か悪いことをしでかしたのかと思って一瞬ひるんだらしい。でも、話があると切り出すと、懺悔室ではなく小さな会議室に連れて行かれた。
「用事って?」
「その……ある人からお願いをされまして」
「ある人?火野さんのお知り合い?」
「あ、えっと、母親の知り合い…ですね」
嘘ではない。挙動不審にならないように視線をそらすことはなかったけれど、幽霊に頼まれまして、なんて言うと、カトリック式の御祓いをレイ自身に施されそうで別の意味で怖い。
「お母様の?……あぁ、葉月と仲よかったから」
シスター上原は、やっぱりレイが綾瀬葉月の一人娘だと十分認識して担任していたようだ。
同級生の娘なんだから、もう少し優しく色々見逃してくれてもいいような気もするけれど。
お固い人だから、そう言うことは言わないでおいた方がたぶんいい。
「仲良かったんですか?」
「深美と葉月はすごく……。あら?何も聞いてない?」
「覚えていません」
「そう。あなたが小さいときだったものね、亡くなったのは」
シスター上原は、過去に引きずられるような表情を一切見せなかった。淡々としている。いつもはレイを相手にしたくないと顔に書いているのに、今日は懺悔室ではないから雰囲気も違う。正直その方がレイも助かった。寂しそうに過去を懐かしんで見つめられたら、どうすればいいのかわからなくなる。レイの中のママはレイだけのもで、他人が想っていたママをレイの中にできれば入れたくはない。
どんな人だったかを他人から聞かされたくもない。
知れば知るほど、生きていないことを思い知らされるだけだから。
「深美は……あの子もたしか、大学を卒業してすぐに結婚をしたわよ。2人ともピアノ科を出ていたけれど、たしか昔、家でピアノ教室をしていたかしら?うちの生徒でレッスンを受けていた子が何人もいたわよ。今は何してるのかしらね。相変わらずピアノをやっているのかしら?チェロもなかなか上手だったけれど。ご主人が世界中を飛び回る人だから、そもそも日本にいるのかしら?この前会ったのは、いつだったかしら……」
これでイタリアにいるとか、イギリスに行けば会えるなんてことになったら、シスター上原にあの幽霊を押しつけてしまおう。海外まで追いかけろなんて言われたら、絶対にそうしよう。そう心の中で決めた。
「その人の連絡先、ご存じないですか?」
「え?だって火野さん、海王みちるさんとお友達でしょう?」
どうしていきなり、無関係のみちるさんの名前が自然と出てくるのだろう。
「………みちるさん?え?みちるさん?」
昨日の夜のせつなさんの話を思い出した。みちるさんのお母様のお名前も“深美”って言う。
「そうよ。火野さんは海王みちるさんとお友達なのでしょう?何度か学校に遊びに来られていたわよね?」
「………藍川深美さんと言う人は、じゃぁ…」
「海王深美。みちるさんのお母様。火野さんは深美とも面識あるはずだけれど?」
覚えていないの?と言いたげな顔をしているけれど、残念ながらそんな記憶などない。
シスター上原の最初の“何も聞いてない?”は、本人たちに聞いたことがないのかと言う意味だったようだ。
「あの……母はじゃぁ、結婚してからもその深美さんと交流があったということですか?」
「えぇ。2人は大親友だったから。本当、呆れるくらい仲がよかったわ」
どういうことだろう。
そんなこと、一切知らない。ママが誰と仲良しだったのか。そもそもママのお葬式に誰が来ていたのかも記憶が乏しい。見知らぬ人が雨のような涙を流していたけれど、それが誰なのかもわからない。それがその深美さんと言う人かもしれない。
でも、だとしたら。
みちるさんはもしかしたら、ママと自分の母親の関係も知っているのではないだろうか。
普通に知っていて当然なのかもしれない。
そんなことを一度も聞いたことはない。
「仲良しですか……」
「みちるさんに聞けば、深美がどこにいるかなんて、すぐにわかるはずよ。わざわざ私に聞くっていうことは、色々と都合があるのね?」
「はぁ…まぁ、そうですけれど」
今は、みちるさんと会いたくはない。というか東京にはいないし、黙っていたこともなんだか腹立たしくて、また喧嘩をしてしまいそうだ。
「何かあったの?葉月のことで、何か知りたいことがあるの?」
「……………いえ。あの、その…。ちょっと、その、色々と」
なるべく、動揺していることを隠そうとしたけれど、いつも悪気なく自信を持っている態度で接している相手に、たまにこういう小さなうろたえを見せてしまったせいか、なんだか色々見抜かれているような気がする。
「火野さんが知らなかったのなら、みちるさんも知らなかったのかもしれないわよ?聞きづらいのなら、直接、深美と連絡を取ってみるといいわ」
「御存じですか?」
「そりゃ、まぁ一応、同級生ですから。今、国内にいるかどうかまでは知らないけれど」
メモ用紙にスラスラと電話番号を書いて、渡してくれた。海外にいても、たぶんこの番号にかけたら繋がるだろうから、と。
「じゃぁ、ついでにもう1人。櫻井緋彩をご存じないですか?」
「櫻井?……あぁ、ヴァイオリンを弾いていた人じゃないかしら。ひとつ上の先輩」
「先輩?」
「えぇ。私はよく知らないけれど、葉月と深美の入っていた部活の先輩よ」
つまり、あの幽霊は同じ部活の後輩に何か用事があるわけた。他にも部活の後輩ならいただろうに、なぜ、わざわざママとみちるさんのママなのだろう。
「そうですか。その人、今は?」
「その人も、残念ながらとても若い時に亡くなったのよ。高校を卒業する少し前かしら。それも関係あるの?」
「………あ、まぁ。いえ、ないです」
これ以上の情報を聞き出すには、こちらから事情を説明しなければ難しそうだ。
幽霊を信じる信じないというより、そんなことに懸命になるなら、普段からやることがあるでしょう、なんて説教が始まるかもしれない。
「まさか。火野さんから葉月のことを聞いてくるなんてね。先生、びっくりしたわ」
「そうですか?」
「えぇ。絶対に火野さんの性格的に、私が同級生だと知っていても意地でも聞いてこないだろうと思っていたから」
流石、長い付き合いだけあって、少しはレイのことを分かっているようだ。
「仕方なく、です」
「誰かからのお願い、だったわね。まぁいいでしょう。誰だかは知らないけれど、お役に立てたらそれでいいわ」
これからも、聞きたいことがあれば素直に聞いてもいいのよ、と言われて、レイはぺこりと頭を下げて部屋を出た。
聞きたいことがないわけではないけれど、色々と考えなければいけないことが多すぎて、何から聞こうかすぐには思いつかなかった。





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Date:2013/12/15
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