【緋彩の瞳】 VS悪女 END

緋彩の瞳

その他×海未小説[ラブライブ!]

VS悪女 END

校門に差し掛かった頃、赤い傘が見えた。ふて腐れている横顔は傘で隠しきれていない。
「真姫」
「………海未先輩、傘を取りに部室に行ったんじゃないの?」
「あ、いえ。その勘違いで…傘が見当たりませんでした」
明らかに待っていた様子の真姫に、待ってくれていたなんて気が付いていなさそうな海未さん。だんだん頬が膨れてきている様子を見て、可愛いなって思ってしまう。
「それで、相合傘?」
「絵里先輩が気を遣ってくださって」
「……ふーん」
真姫の傘は折り畳みだから、今から無理やりに差し出してあげる訳にもいかないのだろう。相合傘をしている絵里を敵視しているわかりやすい態度。
でも、優越感を抱きたくなるのはなぜ。
「ごめんね、真姫。海未さんを独り占めして」
「べ、べ、別に。たかが相合傘くらい」
「ふふ……そう?海未さんはモテモテね」
と言ったところで、きょとんとした顔のままナイトは首をかしげるだけだ。
この無自覚が余計に人を引き付けるのだろう。
「何のことですか、絵里先輩」
「別に。真姫、代わりましょうか?」
断わるだろうと思って聞いてみたら、わかりやすくそっぽ向く赤い頬。
「結構です」
「そう?そっか、折り畳みだものね」
「ふん」
可愛いなぁって思ってみても、やっぱり勝ったっていう感情は打ち消せそうにない。絵里は心の中で咳払いを小さく一つしてみる。

別にこれは、絵里自身が海未さんを気に入っているとか、そういうことじゃない、し。

「真姫、さぁ帰りましょう」
信号が変わり、海未さんは後輩に優しく声を掛ける。傾けている傘の雫が海未さんの肩を濡らさないように気を付けていると、すっと傘を奪われた。
「気づかず、すみません。私が持ちます」
「そんな…別にいいわよ」
「いえ、後輩ですから。半分借りている以上、私が持たないと気持ちが落ち着きません」
海未さんを真ん中に挟んだ、向こう側の真姫はどんなふくれっ面をしているのかしらと思いながら、ナイトの微笑みに絵里も押しきれずに傘を任せることにした。
何ていうか、まるでお姫様みたいな気分に浸りそうになってしまう。
「海未先輩、今度の土曜日はうちで曲を作りたいです」
そんな気分を妨害したいのだろう、真姫が傘の中の海未さんを覗き込んだ。
「それもいいですね。午前中は、ことりが衣装の生地を買いに行くのに付いていきますので、その後に真姫の家に伺いますね」
「ことり先輩は連れてこなくて結構ですよ」
先約があっても、真姫との約束を受け入れてくれる優しい先輩。それだけでありがたいって思わないところが、真姫なのだろう。ことりさんは真姫のライバルなのかしら。結構いつも、仲睦まじくしているようだし、そもそも2人は幼馴染だから圧倒的に優位だろうし。
「え?えっと、せっかくですから衣装のイメージも膨らませておいた方がよいのでは?」
「まだ、曲が出来上がっていないんだから、そこまでしなくてもいいです」

なるほど。
うん、なるほどね。

「……はぁ。ですが、ことりに真姫のところに行くといえば、彼女は付いてくると思うのですが」
「言わなきゃいいでしょう?」
「ですが、その……先約はことりですので。きちんと彼女に説明をするべきですし、衣装も曲に合わせて……」
後輩のキッパリ言い放つ態度とは真逆に、おろおろしている海未さんは、真姫がどうしてこんな風に言い放つのか、欠片も理解しそうにない。それがまた、真姫をイライラさせるのだろうけれど、恋愛に疎そうなのも魅力の一つでしょうし。
「面白そうね。私も曲作りのお手伝いをした方がいい?」
「あ、絵里先輩も是……」
助け船ではなくて、むしろちょっかいを出したのだが、海未さんはパっと明るい表情を絵里に向けてくれた。
「いりません。邪魔です」
海未さんの向こうから舌打ちと一緒に苛立った声が聞こえてきて、わかりやすくて笑いそうになる。
「真姫、何て失礼なことを言うんですか。せっかく絵里先輩がμ’sに入ってくださったんですよ。謝りなさい」
「きょ、曲を作るのに別に絵里先輩なんて要らないって言っただけです」
よっぽど海未さんのことがお気に入りなのでしょうけれど。礼儀正しく真っ直ぐな性格の海未さんは、真姫さんの拗ねたところが、態度の悪い後輩としか見えなかったのだろう。
なんていうか、変な空気になってきた。

うーん。
なるほど、なるほど。

「まぁまぁ、海未さん。真姫はただ、海未さんと2人でいたいだけなのよ」
「ちょ、ちょっと!別にそんなこと一言も言ってないでしょ!勝手に決めないでください」
「あら、そう?新参者だから、よくわからなくて。勝手に誤解をしただけかしら」
「誤解しまくりですよ、生徒会長さん!」
海未さんを間に挟んだまま、一歩先を出て睨み付けてくる真姫に、余裕顔をしてみせる。
赤くなっている頬も熱そう。
「真姫、絵里先輩に失礼なことをしないように。以後、気を付けてください」
「……だって、この人が」
「この人、ではないでしょう。絵里先輩です」
「………はい」
嫌われたくないと言う感情と、拗ねたい心が真姫の中で争って、謝るのが吉という結論を出した様子。不服な顔をしながら、すみませんでしたと謝る真姫。2人きりになった時に取り消しますとか言われるんじゃないかと思ってしまう。絵里はあくまでも先輩と言わんばかりに余裕で笑って見せた。
「土曜日は、真姫と海未さんにお任せするわ」
「よいのですか?」
「えぇ。それにちょっとほら、からかっただけよ」
「からかった?」
「ううん、何でもない」
不思議そうな表情とあからさまにイライラした顔。2人の後輩を見比べて、笑いたくなるのを堪えるだけ。ナイトは絵里の歩幅にピタリと合わせてくる。こう言うところがまた、キャーキャーと後輩に人気のある要素の一つなのだろうと感心しながらも、その気遣いが今、絵里に向けられているのだと思うと、何だか照れくさいような、嬉しいような。

うーん
なるほどね

海未さんはもしかしたら、人を引き付ける魔法を無自覚に振り撒くタイプなのかもしれない。



「あ、海未ちゃん」
綺麗に重なる足音と、意図的にそれから半歩ずらして歩く真姫の足音。3人で並んで階段を下りると、群青色の傘の中から海未さんの幼馴染が顔を見せた。
「……ことり?」
「あ、よかった~~海未ちゃん~~」
「どうしたのですか?」
傘を持っているのは海未さんだから、海未さんが足を止めると絵里も足を止めるしかない。駆け寄ってきたことりは相合傘をしている絵里を一度見つめて、それから天使のような笑みを見せてきた。
「絵里先輩、ごめんなさい。ことりが海未ちゃんの傘を持って行ったから」
ことりさんが差している折り畳み傘。ニコニコと微笑みながら、今さらっと言ったセリフに、海未が困った顔で傘がないと言っていた10分前の記憶がよみがえってくる。
「え?部室から持って行ったのはことりですか?」
「うん。ごめんね、傘持ってきていたつもりなんだけど、忘れていたみたいで。だから、海未ちゃんの傘、借りたの」
穂乃果やほかの子たちに入れてもらえばよかったんじゃ、って声に出そうとしたけれど。
何となくその言葉が喉を通らない。
「ことりが犯人でしたか。だったら、音楽室に来てくださればよかったのに。穂乃果たちは先に帰ってしまったのですか?」
黙って盗んだことを怒るどころか、犯人がわかってホッとしているのだから、どこまでも優しいと言うか、天然というか。昔から、この幼馴染の関係はこういうものなのだろうか。
「うん。傘を探している間に、みんな先に帰っちゃった。一度ね、家の近くまで帰ったんだけど、もしかしたらこの傘がないと、海未ちゃんが困ってるんじゃないかなって」
ことりさんは、わざわざ家の近くまで帰ってきたけれど、思いなおして学校に戻る途中だったらしい。
「いえ、まぁ、探したのは確かですが。絵里が入れてくださっていたので、大丈夫でした」
「そっか。じゃぁ、帰ろう、海未ちゃん」

群青色の傘を“はい”と差し出すことりさん。小さな声で“え?”と呟いた絵里の声と重なったのは真姫の声。

「はい、そうですね」
「「え?」」
もう一度声が重なったかと思えば、絵里の傘はことりによって海未さんの手から奪われて、ぐっと絵里に押し付けられた。
「絵里先輩、ありがとうございます。海未ちゃんの傘、ちゃんとあります」
「……え?いや、そうだけど」
大きな傘の絵里が海未を入れた方が、どう考えてもいいに決まっていると思うんだけど。突っ込もうとしたところで、海未は小さな傘にことりを入れて、肩を濡らしでいるにもかかわらず、何やらことりと見つめ合ってほほ笑んでいる。

あ、もしかして。
海未さんの本命は南ことりさんなのかしら。

「絵里先輩、真姫。雨脚が強くなりますよ、急ぎましょう」
ナイトはことりさんの肩を雨から守るようにして、さっきよりも早めの歩みで先に進み始めた。ただただ、あっけにとられるだけで、いろんなことを突っ込みたいけど、その隙間もなくて。

「ことり先輩って、小さい頃からあんなふうに海未先輩をコントロールしてるんだと思う」
「……真姫」
「怖いのよね、ことり先輩。傘もわざとに決まってるわ。困らせたいから盗んだんだと思う。穂乃果さんに貸したことが気に食わなかったのかも知れないし。でも、海未先輩がことり先輩を怒ったりしないってわかっているから、彼女はやりたい放題なのよね」

“腹立たしいわ”
はっきりとそう言い切った真姫に、絵里は思わず頷いてしまった。いや、別にライバルとかそう言うつもりもないし、絵里は海未さんのことをそんな目で見たことなんてないけれど。

「ことりさんって、……“女子”ね」
「とんでもない悪女だと思うわよ。ほんわりした笑みで、あんな風に海未先輩を操るのよ。なんていうか、いざとなったら身体触らせて、責任取らせそう」
「………真姫、凄いこと想像するわね」
16歳の女の子が、いきなり何を言いだすのかと思えば、あながち冗談でもないような気がしてくる。正直、絵里はまだまだメンバーのことはわからないし、ことりさんと海未さんがただの幼馴染と言う認識だけじゃ、足りないようだと言うことも、わかっているようないないような状態なのだけれど。
「まぁ海未先輩は、ことり先輩が色気使っても、まったくわかってないんですけれど」
「……へぇ」
「好かれているのに気が付いていないし」
「真姫から好かれていることも、気づいてくれなさそうね」
からかってみても、髪をいじりながらそっぽ向いて。可愛い後輩は、好きと言う感情を隠しきれていなくて、そう言う意地っ張りなところは他人のことなら見ていて楽しいって思える。
「ふん。絵里先輩だって、さっき随分楽しそうに足並み揃えていましたけれど」
「いえ、あれは海未さんが私に合わせてくれていただけよ」
「どうですかね、時間の問題だと思いますよ。すでに海未さんのことを気に入っているんじゃないですか」
「さぁ、どうでしょうね」
とは言いつつも、ちょっと気になってしまう存在ではある。後輩に大人気で幼馴染に恋されている園田海未という少女の魅力が、一体どんなものなのか、と。
「ことり先輩に気を付けた方がいいですよ。あの人、海未先輩が幼馴染以上の感情を持ってくれないこと、わかっていると思う。だから周りの誰かが海未先輩に近づくことが、許せないって思うはずだもの」
「真姫は何か嫌がらせでも?」
「……別に、まだ何もされてないです。きっと、土曜日は海未先輩の背中にぴったり張り付いてうちに来るくらいは、覚悟してますよ」
「なるほどね」
「曲作りの邪魔をされるだけ」
「うーん、なるほどね」


なるほど、なるほど


「じゃぁ、私がその2人の邪魔をしに行きましょうか?」
「来なくていいです」
「でも、2対1も嫌でしょ?」
「だからって、2対2にはなりませんけど」
確かに、真姫の味方に付くというつもりはないし、応援したいかと言われても、それも違うような気もする。かといって、ことりさんと海未さんの邪魔をしたいかと言われても、2人の関係を良く知らないし、だからつまりは、取りあえず観察してみたいという感情なのかな、と。
「うーん、そうねぇ。取りあえず、様子を見に行ってみたい、かしら」
「……2人が家に来たら、メール入れます」
「そう?じゃぁ待ってるわね」
まるで熱々のカップルみたいに、相合傘をしているナイトとことりお姫様の姿が、角を曲がって消えて行く。真姫は絵里を睨んだ後、ふん!とそっぽ向いて逃げるように先に歩き出した。

「うーん、これから面白い毎日になりそうな、困った毎日にもなりそうな気がするわ」
真姫が海未を好きなのは、たぶん絵里にとって問題はないだろうけれど。もしかしたら、おとなしくて、全然興味を注がずにいたことりさんが、実は相当強烈なキャラなのかもしれない。
「まぁ、別に私は海未さんのことを好きとか、気になるなんて言うことはないわけだし」
とは言いながらも、そんなことをいつまでものんきに言えるだろうか、って少し不安な気持ちになるのはどうしてかしら。


なるほど
なるほど


「………気にしないようにしないと」
たった1人のナイトに群がる女の子たちの中には、何となく入りたくないような気持ち。できれば一歩先に行きたい気持ち。

気のせいとは思うけど


この気持ちを恋と呼んでしまえば、何だかあの2人と競う気になって嫌だから。

取りあえず何も気が付かなかったことにして、何も考えずにこれからの活動を頑張っていかないと。せっかくμ’sに入ったのだから。楽しいことをたくさんしたい。やりたいことを精一杯楽しみたい。


何となく、自分に言い聞かせて、ローファーの中がじわりと濡れる苛立ちをやり過ごすしかなかった。






関連記事

*    *    *

Information

Date:2015/12/20
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/651-d25bb05f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)