【緋彩の瞳】 始まりの鼓動 ②

緋彩の瞳

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その他×海未小説[ラブライブ!]

始まりの鼓動 ②

2年生1年生の教室の前を通り、そして渡り廊下のある場所を目指しているようだ。最初から、階段の上下ではなく、渡り廊下を突き進み、別校舎という場所から探し始めるべきだったと反省したところで、わからないものはわからないのだから仕方がない。
「この校舎には、音楽室の他には図工室、技術家庭科教室、理科室、視聴覚室、被服室、あと図書室もあります」
「そうなんですか」
「音楽室は2階の一番奥ですよ」
説明を受けながら、わざわざ連れて歩かなくても口で説明してもらえたら、それほど迷わずに一人でも行けるような気がした。音楽室の前まで連れて行ってくれるなんて、相当律儀な人なのかも知れない。
「音楽室の鍵はかけられていません。窓を閉め切って、カーテンをキチンと閉めていれば、音もほとんど漏れません」
何か、この先輩は真姫が今からピアノを弾く気がある、という前提のようだ。いや、もう決定事項みたいな感じ。確かにそうだけど、どうしてそこまでわかってしまったのだろう。
「………あの、別にピアノを弾きに来たわけじゃないんですけれど?」
「そうなのですか?吹奏楽部の練習は月、水、金。このピアノのある教室とは違う練習場所を使っています。コーラス部の練習は火・木。このピアノのある教室を使っていることが多いです。今日は月曜日なので、ピアノは使えます」
その情報はつまり、月曜日と水曜日と金曜日はこの教室には誰もいないということなのだろう。わざわざ教えてくれている、と言うことなのかもしれない。


いやもう、これは絶対に教えてくれている。


「あぁ、そうですか」
「はい、そうなんですよ」


ニコニコと微笑むこの人は、2年生なのだろうか、3年生なのだろうか。3階にいたから、3年生なのだろう。

「つ、連れてきてくださって、その、ありがとう……ございます」
「いいえ。今日の部活動は16時までと決まっていますので、それまでにきちんと帰るように気を付けてください」
「いえ、だから、私はピアノを見に来ただけです」
「……はい、そうでしたね」
ニコニコした、その、子供に向けているような笑みは変わらなくて、それがなんていうかちょっとムッとするような、子供扱いされているのが気に食わないというか、でも、ここでは真姫は年下なわけで。
「それでは、私は用事があるのでこれで」
「あ、はい。その、ありがとうございます」
本当は真姫の方が深く頭を下げなければいけないのに、先輩はとても丁寧に深々と頭を下げて、また背筋をピンとさせてゆっくりと歩いていく。
「………あの人、何者かしら」
後輩に親切な弓道部の人。
きっとこれから先、この出来事を忘れることはないだろう。
なんとなく、そんな気がした。



「カーテンをちゃんと引くようにと、言ったはずなのですが」
水曜日。掃除も終わり、部活が始まるにはまだ少し早い時間。教室には数人の生徒、ことりと穂乃果は部活がある海未を残して先に帰ってしまった。クラスメイトも次々と教室を出て行く。廊下はまだ、少しざわざわしている。
開かれた窓の向こう側からピアノの音が聞こえてきた。何となく籠った音。窓を閉めている音楽室から漏れている。
「……あの子でしょうね」
ここからは誰がピアノを演奏しているのか、見えたりしない。音に集中しなければいけないほどの小さい音ではないが、それでも廊下のざわめきの方が強い。海未は立ち上がり、そっと教室を出た。



「……あ」
「あ、すみません。お邪魔でしたか?」
「いえ、あの、えっと、………ご、ご、ごめんなさい!」

音楽室の前までやってくると、1年生と思われるメガネをかけた子が音楽室の外でじっと聞き入っていた。あの、ピアノを演奏している子のお友達なのだろう。海未は声をかけたわけでも、邪魔だと思ったつもりもないのだが、目が合ったら驚いて走って逃げられてしまった。
「何だか、悪いことをしてしまったようですね」
ピアノの音は、外でそんなことが起こっていることなんて知る由もないと言った感じ。

彼女は、歌を歌っているようだ。

校舎の違う教室ではピアノの伴奏は聞こえていたが、歌が騒音にかき消されていた。
海未は音を立てないようにして、そっと中を覗いてみる。まぎれもないあの子だ。楽しそうに歌っていて、見た限りでは誰も聴いている人はいない。
さっきのメガネの子は、クラスメイトがここで歌っているのを知っていて、そっと聞きに来たのだろうか、それとも偶然なのだろうか。

1曲歌い終わると、満足そうな笑顔。手を組んで大きく伸びをして清々しそう。
「あっ………」
うーん、と伸びをした後の彼女と、バッチリ視線がぶつかってしまった。
海未はドキッとしたが、隠れて聞きに来たというわけでもなく、ちょっとだけ覗こうと思って、悪気はなかったと言わなければと思い、そっと扉を開けた。
「すみません、その、何となく、ピアノの音がしたのであなたなのかな、と思いまして」
「………いや、えっと」
「歌、お上手ですね」
「…………いや、別に」
視線を逸らされて、それでも嫌と言うほどの感情は読み取れない。もちろんだからと言って、海未も馴れ馴れしくするつもりはない、ただ、いい歌だったと伝えたい。
「とてもよかったですよ」
「……社交辞令、どうもありがとうございます」
「いえ、そういうものではないですよ。いいと思ったことを素直に伝えただけです」
「2年生だったんですね?」
「え?」
「弓道部のエース、園田海未先輩」
「………それは私の名前ですが」

そう言えばあの日、海未は彼女に自分の名前を告げなかったし、告げる理由もなかった。あの時は確かに弓道着を着ていて、3年生の先輩を探しに3階に行っていたが、彼女は海未の学年も知らなかったようだ。3年生と思って、委縮させていたのかもしれない。
「昨日教室で、クラスメイトの人が言っていました。弓道部の2年生でカッコいい人がいるって。黒髪の長い髪で、凛々しくて、エースで、後輩に対しても礼儀正しい人って」
「………そ、そうですか。何かそれは私ではないような気もしますが」
「でも、園田海未先輩ですよね?」
「はい、そうですよ」
 ピアノの前に座る彼女はじっと海未を見つめて、それからまた、ぷいっと拗ねた感じでそっぽ向いた。それが何だか、年齢よりも幼く見えて思わず笑ってしまう。
「な、なんで笑うんですか?」
「いえ、何でもありません。それより、ここのピアノは気に入っていただけましたか?」
「……え?え?えっと、そうね。手入れもしっかりされているし、音も綺麗に響きます」
「そうですか。授業で散々弾きならした曲よりも、あなたのように独自性のある曲を弾く方が、ピアノも喜ぶでしょう」
赤い頬を隠すことができずに、そっぽ向くその可愛らしさは、やっぱりちょっと幼く見えてしまう。
「べ、別に、たまたま空いていたから何となく、弾いてみただけです」
「……そうですか。空いている日はいつでも、ここでピアノを演奏してください。もちろん、歌も」
音楽は嫌いではないけれど、歌って演奏なんて海未は当然したこともない。だから自分にない才能を持っていると言う人は、単純に尊敬できる。羨ましいと言う感情は妬みとは遠い。
「…………園田先輩」
「はい」
「その、勝手にピアノを使って怒られたりしますか?」
「いえ、それは大丈夫ですよ。あのあと、音楽の先生に放課後の音楽室のピアノを使うことについて、きちんと問い合わせをして、何の問題もないと確認をしています」
「な、なんで園田先輩が?」
「いえ、気になっただけなので。というか、私があなたを誘導したようなものですし」
「そ、そうだけど………」
海未にとっては、それくらいは大したことではないが、後輩はたいそう驚いたようだった。そして意を決したように立ち上がって、わざわざ頭を下げてくる。
「あの、その、お手数をおかけしました」
「いえ、私が好きでしたことなので。あなたはきっと、丁寧にピアノを扱うでしょうから、限られた時間で楽しくピアノを演奏してください」
「………なぜ、そこまで?」
「困っている後輩がいたら、助けるのが先輩の役目でしょうし」
何か理由があればいいのかわからないが、海未はただ、困っていた後輩に音楽室を案内して、彼女が何の心配もなくピアノを使えるように音楽の先生に許可を取っておいただけだ。そんなことは些細なこと。だから、イチイチ彼女にも言わなかったし、そもそも海未はもうそのことさえ忘れていた。

「………あぁ、だから入学2日目ですでに人気者になるわけですね」
「はい?」
「いえ、こっちの話です」
「あの、それよりも、あなたのお名前を教えてもらってもよろしいでしょうか?」
「あ、えっと、1年の西木野真姫です」
「真姫、ですね」
「は、はい」

真実の真と、姫(ひめ) 
漢字まできちんと教えてくれた。

「そうですか。いい名前です」
「……はい」
「改めまして、私は園田海未と申します」
お互いに、また、深く頭を下げる。

閉じられた窓
開かれたカーテン
陽が少しだけ傾いて、その光が彼女の背中を照らしている


数秒頭を下げた後、また視線が重なった
何だかおかしくて、笑いがこみあげてきた

「な、何かおかしいですか?」
「いいえ。名前を知っていただけて光栄です。私も名前を知れてよかったです」
「………変な人ですね」
「そうでしょうか?」
「1年生のファンの人たちが知ったら、悲しむかも」
「それは困りますね。3年生からは、部員をちゃんと集めるようにと言われていますし。あ、真姫は弓道に興味は?」
「ありません、お断りします」
1秒すら悩む姿を見せずに、音を立ててまた椅子に腰を落とす。ムッとして視線を合わせないのは彼女の照れ隠しであり、きっと癖なのだろう。幼い癖だと思いながらも、穂乃果やことりに対しても、もしかしたら自分もこんなことをしてしまっているのかも、と反省してしまう。
「そうですか。確かに指を怪我するかもしれないので、積極的にお誘いはできませんね」
「っていうか、本当に興味がないです」
「ふふ……それも、確かにそうでしょうね」
海未もピアノを演奏して見ろと言われたところで、お断りするしかないのと同じなのだろう。どうしても真姫を弓道部に入れたかったわけじゃない。なんとなく、とりあえず流れで言ってみただけ。

「……あの、いつまでそこにいるんですか?」
「え?」
「弓道部の部活は、原則毎日あるはずですよね?」
「あ、そうですね。よくご存じで」
「た、たまたま後ろに座っている子が、園田先輩がカッコいいからって、その、話をしていたのを聞いていただけです!べ、別に園田先輩に興味なんて、ないですよ」
「そ、そうですか」

しんと静まり返る音楽室。海未は真姫の次のセリフを待つだけしかできない。

「……………だから、園田先輩は部活に行ったらどうですか?」
「真姫はもう、歌わないのですか?」
「先輩がいなくなったら、もう少しだけやりますけれど」
「私が聴きたいというのはダメなのですか?」
「ダメですね」

また、1秒もかからずに拒否された。もしかしたら、先ほど覗いていた子も拒否されると分かっていたから、あぁやって外から聞いていたのかも知れない。
「人前で歌うのが恥ずかしいのですか?」
「園田先輩には関係のないことですよ」
「いえ、関係はまぁ、ちょっとはあってもいいような」


「そ、そうかもしれませんけれど!今は関係ないんです!今は!」


顔にメンドクサイと描かれていたので、海未は素直に引き下がることにした。拗ねて、せっかくの真姫の楽しみを、自分から放棄されてしてしまってはもったいない。

「そうですか。わかりました。じゃぁもう聴きに来ないので、後片付けと終わる時間だけはちゃんと気を付けてくださいね」

きちんと頭を下げて、振り返る。真姫に背を向けて扉を開けた。
「あ、あの!」
「………はい?」
とっとと帰れというオーラを背に受けたはずなのに、呼び止められてまた彼女の顔を見ると、少しだけふて腐れている様子。

もしかしたら、弓道部に本当は興味がある、と言ってくれるのではないだろうか。


「あの、その、……たまに、なら、その……別に、き、聴きに来ても、いいです、けれど」
「え?」
「あ、いえ。別に、聴きに来てほしいとかじゃないです。その、一応、暇だったり、したら、別に、いいですけれどっていう意味で」


………聴きに来てほしいのか、嫌なのか、よくわからない。
でも、本当に嫌だったら、出て行く海未を止めたりしないだろう。


「そうですか。えっと、では、そうですね、弓道部の練習がなくなったりして、暇になった時にでも、またふらっと立ち寄ってもいいですか?」
「べ、別にいいけど……」

“別に”いいって、何とも不思議な言葉だと思う。嫌じゃない、の方がしっくり来るのに、って思ってしまう。

「では、楽しみにしています」
「た、楽しみにしなくても結構です!」
「……あ、そうですね。では、まだいつか」

“いつか”、そんなことを言わなくても、同じ2階ですぐ近くの教室だし、何度でもこれから顔を見るのは間違いないだろう。事実、昨日も廊下ですれ違って軽く頭を下げたのだから。



「あ、あの」
「ひぃ、ご、ごめんなさい」
「いえ、何もあなたは悪いことをしていませんよ」
音楽室を後にして渡り廊下を進むと、さっきのメガネの少女が海未を角から覗いていた。思わず声を掛けてしまう。それにしても、なぜそんなに怖がられてしまうのだろう。
「あの、えっとせっかく真姫の歌を聴いていたのに、お邪魔してすみませんでした」
謝らないといけないのは、海未の方だ。
「………に、西木野さんとお知り合いですか?」
「えっと、はい、まぁ少しだけ。あなたが聴いているのを邪魔したかったわけではないので、どうぞ、その、見つからないように、ごゆっくり」
1クラスしかない1年生なのだから、当然この子と真姫はクラスメイトと言うわけで、つまりお友達と言うことになる。聴いていたのかあるいは声を掛けるタイミングを計っていただけなのか、真姫はこの子に許可を与えているのか、何もわからないが、海未は丁寧に頭を下げて彼女に自分が塞ぐようにしていた、音楽室への道を譲った。
「あの…え?あの、その、ありがとうございます。えっと、園田先輩」
「いいえ、どういたしまして」
それにしても、知らない後輩に名前を当然のように知られているのが何だか不思議な気持ちだ。昨日訪れた入部希望者の1年生たちの中に、彼女は混じっていただろうか。そんな記憶はない。
「あの、園田先輩は西木野さんの歌、お好きですか?」
意を決したように真っ直ぐに海未を見つめてきたその子は、両手をきつく握りしめている。
「え?はい、そうですね。ちゃんと聴いたことはないのですが、きっと、好きですね」

“きっと、好き”
聴いたら好きになるだろう。

誰かが歌う声を聴いて、それが嫌いだなんて思う人なんていない。もちろんそう言う理由で“好き”と答えたわけじゃない。
「……そうですか」
「ですが、今日はなんだか拗ねてしまっていて、私がいたら、真姫は歌ってくれないんです。今日は諦めて部活に行きます。どうぞ、ごゆっくり」
「えっと、は、はいっ」
なるべく靴音を立てないように音楽室へと向かう、その1年生を見送って、自分も今度はあんな風にそっと聴く方法を取ろうか、なんて考えてみる。


でも、聴くのなら真っ直ぐに堂々と、そしてしっかりと、同じ空間にいるべきだろう。
海未はそれほど熱心に音楽が好きだとか、誰かの歌を聴くのが好きというようなことはなかったはず。それなのに、なぜかあの子がどんなピアノを弾くのか、どんな歌を歌うのか、興味が湧いてしまう。わざわざ家に帰らずに、学校の誰もいない時間を見計らって、誰かに聞いてもらうわけでもない歌とは、どんなものなのだろう、と。

音楽室にそっと耳を傾ける1年生の背中を少しの間見つめた後、ため息を吐いて、海未は弓道部に向かった。




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Date:2016/01/06
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