【緋彩の瞳】 始まりの鼓動 END

緋彩の瞳

その他×海未小説[ラブライブ!]

始まりの鼓動 END

「………放課後、音楽室で歌っている子?」
「うん、スクールアイドルに誘おうって思ってさ!上手だったんだ~。ピアノも演奏していたし、きっと作曲とかもできるんじゃないかな?」

1週間後、穂乃果がスクールアイドルをやると言い始め、部として認めてもらうために人を集める必要があるという話を3人でした時に、穂乃果がランランと目を輝かせて、歌の上手い1年生がいると話をしてきた。すぐに真姫だと思いついた。あれから穂乃果に振り回されたり、部活が忙しかったりで、1度も音楽室を覗いていなかったけれど、まさか穂乃果が真姫を見つけてしまうと言うのは意外だ。
「はぁ、それでその真…いえ、その子を誘ってみるのですか?」
「うん!可愛い顔だったし、アイドル向きだと思うんだ」
真姫とアイドルは結びつきそうにない。本人はそう言うことに興味があるのかどうかもわからない。人前で歌うなんて、海未1人だって嫌がられたのに。
「そうですか……。その、スカウト云々はひとまず穂乃果にお任せします」
今日は弓道部の練習を優先したいと、穂乃果たちに自主練習のメニューを渡して海未は教室を後にした。同じ学年の誰かが名乗りを上げてくれるとは期待していない。誘うのならば、1年生の方がいいのではないか、ということで意見は一致していたけれど、真姫に早々目を付けるというのは、想定外というか、いや、たぶん穂乃果の野生の感というものなのか。


「あっ」
「あ……園田海未先輩」
「ごきげんよう。あなたがここにいるということは、真姫がいると言うことですね」
「えっと、はい」
気になって、音楽室へ向かおうとしたら、あのメガネの少女が音楽室の前に立っていた。
「静かですね」
「さ、さっきまで歌っていました」
「……そうですか。あの、真姫に話があるので、少し歌を待っていてもらってもいいですか?」
「え?あ、えっと、その、帰ります」
「いえ、それほど……」
5分ほど、真姫と会話をするだけだと続けようとしたのに、その子は怖いものを見たかのように、勢いよく逃げて行ってしまった。廊下を走ると危ないと注意するまでもなく、姿を消してしまう。
「仕方ありませんね」

静かな音楽室。窓から覗き込むと、ぼんやりとどこかを見上げている真姫がいた。







「真姫」
「………あ……」
「ごきげんよう。お久しぶりですね」
ノックをする音がして、ぼんやりした意識が瞬間に取り戻される。入り口に園田先輩が立っていた。
「え?あ、えっと、お、お久しぶり、です」
「昨日、穂乃果があなたをスカウトしたと聞きましたよ」
昨日、いきなり現れた2年生は、確か園田先輩のクラスメイト。
「………あぁ、園田先輩は説得に来たんですか?」
あの日から、園田先輩はまったく姿を見せなかった。別に来てほしいなんて思っていたわけじゃない。ゆっくりと近づいてくるその姿は、クラスメイトがピンクのハートを飛ばしながら、うっとりと熱く語っている人そのもの。でも、真姫にはその気持ちがわからない。ピンクのハートなんて、飛ばそうと思わない、そう言う意味でわからない。
「説得、ですか?」
海未先輩はピアノの傍に近づいて、それから首をかしげるように真姫を見つめてくる。
ただ、じっと見つめてくる。
「昨日来た人、すっごく熱くて、なんていうか1人で舞い上がっていて」
「それは、……すみませんでした」
「私、アイドルとか興味ないですけれど」
「そうですか」





………


園田先輩は何か、言いたいことがあってきたわけじゃないのだろうか。



「本当に、興味ないですし」
真姫は念を押すように伝えた。ぜひとも、あの人に嫌そうにしていたと伝えて欲しい。
そう言う願いをこめて。
「そのようですね」
それでも、何一つ表情を変えようとしない。
嫌な顔をしてくると思ったのに。
残念そうな顔をすると思ったのに。
「……昨日の人にも、そう伝えてもらえませんか?」
「いえ、私はスカウトには関与していませんし、真姫を知っていることを伝えていません。真姫が嫌だと言うのであれば、きちんと穂乃果に直接そう言ってください」
 園田先輩は、わざわざ“自分と真姫が知り合いということは秘密だ”と言いに来たのだろうか。そんなことをしてメリットなんてない。
「昨日、断りましたよ」
「穂乃果は、まだまだ説得するつもりですよ」
「……知りませんよ、お断りするだけです」
「そうですか」
とても静かで丁寧な声の出し方。園田先輩は誰も座っていない机と椅子が並んでいるところを見渡して、そしてピアノに一番近い席に腰を下ろした。

「スクールアイドルの話じゃないのなら、いったい何ですか、園田先輩」
「私、きちんと真姫の歌を聴いていないんです。穂乃果ったらズルいです。私より先に真姫の歌にほれ込むなんて。幸い、今日はまだ時間があります。要するにちょっと暇ができたので、何となく覗いたと言うわけです。なので、歌を聴かせてもらえませんか?」


「……いや、何それ。意味わかんない」


さっきの話の流れなんてどうでもいいと言わんばかりに、園田先輩はじっと座って真姫を見つめてきた。
「聴かせてください。私はあと10分だけ時間がありますので。その、ふらっと寄って聴きたいと思っただけですので」

ふらっと寄ったっていうような場所に音楽室はないはずだけど、それでもしっかりと見つめられると、お断りですと言えない何かがあった。

何か。


「わ、わかったわよ、わかりました」
その真っ直ぐな瞳に見つめられて鼓動が速くなったのは、その、たぶん、気のせい。
人がちゃんと聴いていると言う環境で歌を歌うということが、初めてだからなのかもしれないし。

つまりは緊張しているというわけで。

真姫は何かよくわからない言い訳を自分の心に言い聞かせて、それから深呼吸をする。


なんでこんな、緊張しなきゃいけないのだろう
いや、だから人に聴かせるのが初めてだからであって

別に園田海未という先輩だからではない





いつもよりも、奏でるメロディーが早い気がするのは
心臓の音が指先を焦らすせいだ




ペダルを足から放して、最後の音が消えると規則正しい拍手が音楽室に響いた。歌いきった気持ち良さのあとに、聴かせてしまった恥ずかしさみたいなものがこみあげてくる。
「真姫、いい声ですね。それにいい歌です」
「………と、とうぜ…いや、ありがとうございます」
「真姫が作ったのですね?」
「え?まぁ、そうですけれど」
「そうですか」
柔らかく笑みを浮かべている園田先輩。真姫は何となく、恥ずかしくて目を合わせることができない。指に絡ませた髪がきつく絡まってしまいそうだ。
「本当に、いい曲ですね。優しくなれる魔法をかけられた気分です」


なんて、大げさな


そんな言葉を恥ずかしげもなく言葉にする人なんて、園田先輩は詩人か何かなのだろうか。確か日舞の名取だとか、いやそれはクラスメイトがそう言っていたのを“たまたま”聴いていただけなので、本当かどうかは知らないけれど。

っていうか、この場合、日舞は関係ないし。

「……あの、褒めたところでアイドルはやりませんけど」
「いえ、ですからスカウトに来たのではないと、何度も言いましたよ」
「本当に、聴きに来ただけですか?」
「はい。とてもいい気持ちになれたので、今から部活に行ってしっかりと練習ができそうです。ありがとうございます、真姫」
本当に、アイドルのメンバーに入れって言うつもりがないらしい。どうして誘わないのだろう。昨日の知らない人にいきなり誘われたのは、心底嫌だと思ったけれど、園田先輩が一緒に歌いたいって言われたら、別に、その、ちょっとは考えてあげなくもないのに。
「べ、別に。そんな大したことでもないです」
「また、私に時間ができた時に、ふらっとここを訪れるので、その時に気が向いたら聴かせてもらっても構いませんか?」
「別に、構いません、けど」


……

本気で誘うつもりも説得もしないらしい
どうして面白くないって思うのかもわからない


「では、私はこれで失礼します」
「……え?」
「これから、弓道も1年生が入って色々と面倒を見なければいけませんし、穂乃果のスクールアイドルも断り切れませんでしたので、彼女が飽きるまでは寄り添うつもりです。あまり時間が取れませんが、時間を見つけたらここに来ます。楽しみにしていますね」
すっと立ち上がり、サラサラと流れた髪を払って、海未先輩は首を小さく傾けてニコリと微笑む。
「お、お忙しいんですね」
「えぇ。でも、また必ず聴きに来ます」
「………は、はい」
「もしよければ、また、今度は違う歌を聴いてみたいです」
「えっと、はい……」

そんな、沢山曲を作っているわけじゃないのに、どうしよう。
作らなきゃいけないのだろうか、この場合。
同じ歌だったら文句言われそう。
いや、でも次はいつ来るのだろうか。
来週だろうか、それとももっと先?
そんな、作っている余裕なんてあるのだろうか。

「真姫?」
「べ、別に何でもありません」
どうしようか、なんて考えている沈黙を気にされても、別にそんな、園田先輩のために曲を作らなければいけないなんていう義務もないわけで。

「楽しみにしていますね、真姫」
「………わかりました、園田先輩」

今更ながら、なぜ園田先輩は真姫を呼び捨てにするのだろう。新しく弓道部に入った後輩たちのことも、みんな呼び捨てにしていくのだろうか。

って、何でイチイチそんなことを考えなければいけないのだろう。

礼儀正しく頭を下げて、園田先輩が去って行った音楽室はとても静かで

いや、

真姫の心臓だけがうるさかった。








(このあとアニメ1期2話3話と続いて、のちのファースト・キスコンツェルトになるとかならないとか)
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Date:2016/01/11
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