【緋彩の瞳】 相棒は君だ ③

緋彩の瞳

その他・小説

相棒は君だ ③

喧嘩の原因は、アルテミスとの約束を破ったことだった。多少、美奈子だって悪いって思っている。お年玉の半分はバーゲンにつぎ込み、残り半分でレイちゃんとスキー旅行に行った。旅行に行く前に、確かにアルテミスに美味しいものを買ってくる約束した。忘れていたわけじゃないけれど、レイちゃんと贅沢をし過ぎて、お土産を買うお金をまったく残していなかった。でもこんなこと、今までに何度も何度も、本当に何度もあった。いい加減、期待することを諦めたらいいのにって言いたくなるくらい。
「どうせまた、色ボケてレイと遊んで、僕のお土産を買うお金を残さなかったんだろ」
「ははは、うん、その通り」
「………君ってやつは、呆れるよ。パパやママのお土産は買っても、僕に何もないなんてね」
「パパやママはお小遣いくれる人だけど、あんたはただ消費するだけの猫じゃない?第一猫に何か買わなきゃいけないの?小判のありかを教えてくれることもしない、ただの消費するだけの猫のくせに」

これもまぁ、いつも通りだ。
本当にいつも通り。

「そうだな。毎朝毎朝、遅刻しないように起こしてやって、部屋が汚くならないように注意してやって、失くした携帯を探すのを手伝ってやって、迷子にならないように道を案内してやって、忘れたお弁当箱を届けてやって、僕がいなけりゃ、君はまともな高校生活を送れない癖に、感謝もせずによくもそこまで言えたものさ」
「食べさせてやってるんだから、それくらいして当然でしょ」
「君が僕を食べさせているんじゃない。君の両親のお金だろ?」
「あんたをこの家に置いてやってるのは、この私よ」
美奈子だって、毎回毎回、美味しいものを食べさせてやる!とかお土産買ってくる!とか言いながらも、結果的にその約束を果たさないことは、少しは悪いって思っている。

少しは。

「レイと付き合うようになってから、君はますます僕をないがしろにするようになったな。門限も守らない。レイの家に泊まって、僕のエサを当たり前のように忘れる。レイが家に来たら僕を蹴飛ばして追い出す。レイへのプレゼントを買うために、僕に買うって約束してくれたクリスマスプレゼントも結局なかった。お年玉が出るまで待ってと言ったのは君の方だ。それで?バーゲンにつぎ込んで、残りは旅行に使うから、お土産で手を打ってと言ったのはどこの誰だ?」


あんたこそ
どこの誰た


突っ込みたかったけれど、アルテミスに約束をしたのは確かに美奈子。


「あ~~はいはい、私が悪かったです。もう二度と、お土産を買うとか、何か買ってあげるなんて言いません」
「そっちかよ!約束を守りますっていうだろうが、普通」
「だってそんなの無理って、あんたが一番よく知ってるでしょ」
「レイとの約束は守る癖に」
「あんたとレイちゃんが同じ土俵と思ってるわけ?」
美奈子は鼻で笑った。

ふふん。

あのお嬢様との約束は絶対に守る。遅刻は許してもらえるけれど、約束をすっぽかすなんて言うことはしない。大好きな恋人と、果たせない約束なんてしないのは美奈子の信念だ。
………遅刻はするけど。
「僕は君の相棒だぞ!共に命をかけて戦っただろう?!」
命を掛けていたのは美奈子だけだったはずなのに。むしろ美奈子を危険な目にさらしてきたのは、アルテミスだったのに。
「レイちゃんは私の恋人です。あんたは猫。くそ猫。戦いが終わった今は、ただの消費しか能のない猫」
「………もういい。も~~いい、わかった!呆れたよ。君には本当に呆れた。先週のテストの朝に起こしてやったお礼もなかったことにしているし、昨日もジュースをこぼしてソファーにシミを作った罪を僕に押し付けた。君にはもう呆れたとしか言いようがない」
「いいじゃない、別に。あんたは別にママから怒られてもないでしょ」


アルテミスは深々とため息を吐いた。
そのため息の吐き方に、カチンと来た。


「僕はもう、出て行くことにするよ」
「どうぞどうぞ」
「美奈、ずいぶん世話をしてきたな」
「そこは、世話になったな、でしょ」
「世話をしたんだろう?」

イチイチムカつく

「………くそ猫」
「くそ女」
「二度と帰ってくるな」
「土下座して帰って来て下さいって言われても、嫌だね」
「レイちゃんの家に行ったって無駄だし」
頻繁に家出先に、アルテミスは火川神社に行っている。残念なことに、美奈子だってもっと頻繁にレイちゃんに会いに行っているのだから、もれなく引き取らなければいけないことになる。もうそれはお互いにわかっている。喧嘩したことさえ忘れて、当たり前のように一緒に帰るのが恒例行事になっていて、そのたびにレイちゃんに呆れたため息を吐かれるのだ。
「行かないよ、安心しろ。泣きながら君が探すはめになるさ」
「ふーん、だったら遠いところに行ってちょうだいよ」
泣きながら悪かったって言うのは、アルテミスだって絶対思う。
今回は今までみたいに喧嘩したことすらなかったことになんてさせてやらない。
土下座させて、何でもするのでここに住ませてくださいって言わせてやる。

「二度と会いたくないぞ、この嘘吐き女。ガサツ女。部屋も汚い、頭も悪い」

本当にムカつく猫だ

猫のくせに


「アルテミス。最後に良いものをあげる」
美奈子は勉強したことがほとんどない勉強机の上に立って、その目の前の窓から出て行こうとする、ぷりぷりしたお尻に標準を合わした。
「餞別なんていらないね」
「あげるってば。最後なんだからさ」



「おと~し~~だ~~ま~~~!!!」




綺麗に弧を描いて遠くへ飛ばされていく、真っ白い猫。
明日からやってくると言われていた寒波は、もう夜の空気をひんやりとさせていた。


「ふんっ!しばらく帰ってくるな、馬鹿猫」






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Date:2016/01/25
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