【緋彩の瞳】 相棒は君だ ④

緋彩の瞳

その他・小説

相棒は君だ ④

1週間と3日過ぎた。相変わらずの遅刻。
高校に入ってから連続して遅刻をすることはほとんどなかったので、うさぎちゃんやまこちゃんからは、アルテミスと喧嘩をして、朝、起こしてもらえなくなったんだとからかわれたけれど、本当にそうなので何も言えなかった。

別にアルテミスがいなくても生きて行けるし。
ちょっと寒くてあと5分って思っていたら10分以上寝ていただけだし。
ママがもっと早くに起こしてくれないのが悪いだけだし。

「レイちゃん、今から遊びに行ってもいい?」
テストも補修もない放課後。学校が終わったら、レイちゃんに電話をするのが習慣だ。
『別に……いいけど。昨日も来たし、今日は私がそっちに行くわ』
凄まじい部屋の汚さ。もはや足の踏み場どころか、物を踏んでベッドに行かなければいけない。
「いやいや、いいって。んじゃ、クラウンでお茶しようよ」
『昨日、お小遣い使い果たしたって言ってたわよね?』
今月をあと10日くらい残しているのに、美奈子はちょっと前にゲーセンでお金を使い果たした。いつもはアルテミスがそろそろ家に帰れとか、お小遣いの残りは1000円もないはずだとか、うるさくしている。それがいないから、ついつい嬉しくて本当に財布がぺちゃんこになるまで使い切ったのだ。
「………やっぱ、レイちゃんの家に行くわ」
『いや、……まぁ、別にいいけど。しないわよ。泊まらせないし』
この前だってさせてくれなかったくせに。何かエッチしたくない理由でもあるのだろうか。
「何かあった?」
『別に』

何か、歯切れが悪い。もしかしたら、アルテミスが居座り付いているのかも知れない。美奈子には秘密にしておけとか言われて、レイちゃんってば、だからエッチするとアルテミスがいるから嫌だ、とか。


絶対そうだ。
そうに違いない、くそ猫め。

「レイちゃん、もしかしてアルテミスがいるんじゃない?」
『……っていうか、すぐに探しに来なさいよ。毎回毎回、家出先にうちを利用しないでくれる?』
「前に行ったときもいたの?」
『いたわよ』

くそ猫

「火川神社じゃない方角に蹴り上げたはずなのに」
『悪いんだけど、取りに来てくれない?』
「いや、うちはもういらないんだけど」

かといって、お金がないからレイちゃんに会うには、うちに来てもらうか神社に行くかだ。部屋が綺麗なら呼ぶことができたんだけど、そもそもアルテミスが神社にいるから行けないとかありえない。

『……美奈、電話を聞いていたアルテミスが、神社から出て行くって、いなくなっちゃったわよ』
「本当?」
『家に帰るんじゃないの?』
「………それはそれで……まぁ、いいか」

部屋もそろそろ掃除しなきゃいけないし。
これ以上遅刻を繰り返したくないし。
ここらでお互いに許し合おう。

お小遣いがないから、何も買ってやれないけれど、っていうか買うつもりはないけれど、まぁ、愛野家でこれからも面倒を見てあげるだけで十分。
『で、美奈は今日、うちに来ないで、アルテミスと仲直りをするんでしょ?』
「え?なんで?いなくなったんでしょ?レイちゃんに会いに行って、エッチするわよ」
『馬鹿美奈』

ブチっと電話は切られたが、これはきっと照れ隠しに違いない。
アルテミスが家を出てから、そう言えばレイちゃんとエッチしなかったし。
美奈子はルンルン気分で神社に向かったが、アルテミスとはすれ違わなかった。





「で、どこに行くの?」
「適当にウロウロするさ。あの色ボケ女は、結局、僕なんてどうでもいいんだ」
今回の喧嘩は、ちょっといつも以上に長引いている。ずっとふて腐れたままのアルテミスは、何があったを教えてくれないけど、取りあえずレイも原因と言いたげだ。色ボケ色ボケって美奈を呼ぶから、きっとレイとの約束を優先させて、アルテミスのことをないがしろにしたのだろう。

それは美奈のせいで、レイに関係がないことなのに。

「明日も寒いわよ?ご飯はどうするの?」
「放っておいてくれ。だいたい、レイが勝手に連れてきたんだろ?」
あのまま木あら降りられなかったら、冷やし猫になっていたくせに。
「まったく、あんたたちって本当に迷惑ばかりかけるわね。つまり、美奈が謝るまで、アルテミスは家に帰らないっていう意志を曲げたくないんでしょ?だったらうちにいたら?」
今晩からさらに冷え込みが厳しくなる。また、雪も降り始めるらしい。アルテミスが外でプルプル震えて一晩を明かすなんて思えないが、レイだってどこで何をするか心配しながら一晩を明かしたくもない。
「嫌だ。美奈は、レイに言われたから謝るとか言い出すに違いないんだ。心から詫びるんじゃなくて、レイの機嫌を取るみたいなのが嫌なんだ」
「………プライド高いんだから。はいはい、わかりました。みちるたちの家に行ってよ。電話しておいてあげる。ほたるに頭撫でてもらって、癒されて来たら?きっと、おいしいご飯食べさせてくれるわよ。寒波が来るって言ってるんだから、温かい家の中がいいでしょ?」

アルテミスの居場所を美奈に言わないこと、みちるたちにも美奈に言わないようにとその場で電話をして見せて、レイはアルテミスを蹴ることなく送り出した。フォボスとディモスには悪いけれど、しばらくあっちの家に行って見守るようにとお願いをした。なんでここまでサービスしてあげなきゃいけないんだろう、って思いながらも、これからサービスをするのはレイじゃない。さっそくみちるから、文句の長文メールが届いたのだった。電話では言い負かされることを、みちるはよくわかっている。


「やっほ、レイちゃん」
「本当に来たのね」
「会いたかったんじゃないの?」
「…………そうね、いい加減、事情を聞かせてほしいわ」
レイちゃんはものすごくイライラした様子だった。美奈子は手土産すら買うお金もないから、頬にキスをひとつして両手を合わせて、ごめんのアピールをするだけだ。
「本当に、アルテミスは出て行っちゃったわよ。私が美奈に謝らせるようなのが嫌なんですって」
「何よ、そのプライド」
「可愛がってあげなさいよ、猫なんだから」
「猫としての可愛い要素がどこにあると思う?」
猫が主に向かって“くそ女”だなんて言わない。
猫が主に向かって、お土産買って来いなんて言わない。
まぁ、正確にはお土産を買うって言いだしたのは美奈子の方だけど。
「アルテミスはあんたのことを大事に思っているでしょ?」
「感じたことないわ、そんなの」
「………可愛そうなアルテミス。どこに行っちゃったのかしらね?」
「どうせ、うちに帰ってるわよ」
それより、レイちゃんにキスしたいし抱きしめたいし、一緒にお風呂入ってエッチしたい。
押し倒そうとしたら、みぞおちに拳がめり込んだ。
「な、なんでよ、なんで殴るのよ?!」
「しないって、電話で言ったでしょ?」
「なんで?アルテミスはいないんでしょ?」
「確かにいないけど、問題は解決してないわ」
「家に帰ったら、もうすっかり仲直りしてるって」

だから、ばっちり、大丈夫!
両手を広げたら、今度はどこまでも冷たい視線が突き刺さってくる。
会いたがっていたのはレイちゃんだって同じのはずなのに。

「………あれは家に帰るような感じじゃなかったわよ」
「だってあいつ、あとはうさぎの家くらいしか行くところないもん」

まこちゃんちは猫禁止だし
亜美ちゃんのマンションだってそうだし
はるかさんたちの家は遠いし、美奈子だって場所を覚えられないんだから、アルテミスだって覚えていないはず

「アルテミスが家出している間に、うちで食べたキャットフードの代金、あんたに請求するからね」
「なんでよ。勝手に食べさせたのはレイちゃんでしょ?」
「家出させた原因は、あんたじゃないの?」
「勝手に怒って、勝手に出て行ったのよ」
レイちゃんは、何か言いたいことがあるみたいだけど、じっと美奈子を睨み付けるだけだ。アルテミスが何か余計な事をレイちゃんに告げ口したのだろうか。
お土産を買わなかったこととか、蹴飛ばしたこととか。


「………別にいいわ。私が謝らせることを、アルテミスは嫌がっていたから。美奈が悪いって思うまで、私はもう関わらないし。アルテミスがどこかで凍死したところで、私のせいじゃないのだから」
「なによぅ。もういいでしょ?アルテミスと私のつまらない喧嘩に、レイちゃんは関係ないんだから」
「関係ないって思いたいわよ」
レイちゃんは抱きしめさせてくれたけど、唇は冷たくて、美奈子のことを拒絶しているのは感じられる。
レイちゃんのことは全部わからないけれど、わからないから、知ろうという努力をしなきゃいけない。

アルテミスはそうじゃない。わかるとかわからないなんてことじゃない。
アルテミスは相棒なんだから。

「……まぁ、そのうち帰ってくるでしょ」
「帰ってくるって言いきらない方がいいわよ」

レイちゃんは相変わらず冷たい。かといって、アルテミスみたいに目くじらを立てたところで、彼女は高温になんてならない。ドンドン、マイナス方向に下がっていく。
アルテミスと真逆。そっぽ向いて相手してくれないレイちゃんに媚を売りながら、原因はアルテミスなのか、美奈子のアルテミスに対する態度なのか。

でも、レイちゃんの機嫌を取るためにアルテミスに謝るのは、それはどっちに対しても違うのだろう。そんなこと、言われなくったってわかる。

「………あ~、もう!!!」
レイちゃんの背中を抱きしめながら、思わず声を上げた。
「それを言いたいのは、こっちよ」
冷たい声が返ってきた。




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Date:2016/01/25
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