【緋彩の瞳】 ある日の恋する2人の話 ①

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

ある日の恋する2人の話 ①

「ねぇ、見せてよ~」

さっきから近くに座っている女子校生たちが、何か写真を見せあっているという様子の会話をやり取りしていた。聞き耳を立てるつもりはないけれど、こっちは話し相手がいないし、勝手に聞こえてくるのだから仕方がない。
「でも、見せるために撮ったわけじゃないし」
携帯電話で撮影された写真なのだろう、流石にこの時代に写真を持ち歩いたり、ロケットに写真を入れるなんて古風な人はいない。嫌がる言葉を選びながらも、自分の携帯電話を差し出すあたり、満更でもないと言ったところ。


見せたいって思っているに違いない。


……
………


「やだ、彼氏カッコいい~!」
「え?そうかなぁ、普通だよ。背も高くないし」
「なんでなんで?背なんて関係ないよ」
「でも180ないんだよね。それに割り勘ばっかり」
「贅沢~。顔がこれだけいいんだからさ~」


メンドクサイ人たちね。


会話が聞こえないくらい離れたところに席を移動したくても、今更ティカップを持って移動するというのもおかしい。今日、みちるさんは遅くならないと言っていたから、暇つぶしになるものなんて、何も持ってこなかった。学生鞄の中にある教科書を広げるのも耳を塞ぐ道具になんてならない。4人の女の子たちは、自分の携帯電話をテーブルに出して、互いの恋人自慢を楽しんでいる。自慢したい想いが、なぜか愚痴として言葉に出てくるんだから、人間って不思議なものだ。


「お待たせ」
「………15分、待ちました」

入り口のカウベルが鳴るよりも前に、感じる恋があって。

「あら、機嫌を損ねてしまったかしら?」
背後から近付いてきて、ゆっくりと前に腰を下ろしたその人は、いつも通りの麗しさ。ゆるくふんわりとした髪の毛を耳にかけながら、じっと見つめてくる瞳。
「遅くならないって、言ってたのに」
「ごめんなさいね。16時の約束をしたのは私だもの、怒られても仕方ないわね」
メニューを見ないで、みちるさんはレイが飲んでいたものと同じものを頼む。15分の間に半分以上なくなったロイヤルミルクティは、ぬるくなっていた。
「言い訳は、交通渋滞?」
「似たようなものよ。タクシーが1つ道を間違えてしまったの」
「ふーん」

キャッキャとにぎやかな女子高校生たち。レイと変わらない年齢の女の子たちは、互いの携帯電話を見せ合って、“付き合っている人の愚痴をこぼす幸せ”を謳歌しているようだ。
「どうかして?」
「ん?」
「何か、気になることでも?」
みちるさんはレイの視線が少しずれていることをわかっているのだろう。自分を越えた先へ送られた視線が何を捉えたのか、ちゃんと認識していて、おそらく彼女たちの会話も聞こえているはず。
「………別に。平和な世の中って思っただけ」
「タクシーが道を間違えて、レイが不機嫌になる世の中って平和なの?」
「平和よ。別にそのタクシーを燃やしてやろうかしら、なんて思ってないもの」
みちるさんは小さく眉をひそめて、ちょっとだけ渋い顔をして見せる。遅刻に腹を立てたりしない。そんなことに怒ったりしようと思ったことなどない。チャイムに合わせて生活をしている学生のレイと、他人に合わせて仕事をしているみちるさんとでは、何もかものリズムが違うのだから。15分なんて遅刻にはならない。会える時間が読める日の方が、よっぽどいいのだから。
「そう。よかったわ。お仕事を終わらせてきたから、夜は大丈夫よ」
「そっか。じゃぁ、行ってもいい?」
「もちろん」

温かいロイヤルミルクティが2つ。レイはぬるくなったものを店員さんに下げてもらった。もう少し静かなお店で待ち合わせをしたいって思うこともあるけれど、それでもここがみちるさんのマンションに行きやすくて、レイも学校から来るには便利な場所だから仕方がない。TAの生徒はほとんどいないが、知らない女子校の生徒がそれなりにいて、店内も流行っているらしい曲が流れている。ありふれた、よくある風景の中に混じっているだけなのだ。

「レイ。今日、何が食べたい?」
「温かいもの」
ここで待ち合わせをして、一緒に帰って夕食を取る時、いつもこの会話をする。夏は冷たいものって応えて、秋になれば、今が旬のものがいいって言って、冬になれば温かいものって応える。
「それ、3日前にも聞いたわ」
みちるさんの答えもワンパターン。レイの意見なんて何の参考にもしていないんだと思う。
それでも、本当に手の込んだものをいつも作ってくれる。

さっきと同じロイヤルミルクティなのに、1人で飲んでいた時よりもずっといい香りがした。

「あ、ごめんなさい」
みちるさんは、謝って携帯電話を鞄から取り出した。マナーモード設定で、ジージーと震えている。レイは目で、どうぞと促した。
「はい、海王です」
仕事の電話らしく、鞄から手帳を出して、何度も相槌を打ちながら時間を復唱したりしている。スケジュール確認か何かだろう。みちるさんの背後では、変わらず互いの彼氏を褒めあう女の子たちのにぎやかな声。互いの携帯電話の画面を覗き合っている。
デートしたときに写したものだとか、もらったピアスが安っぽいだとか。


「ごめんね、レイ」
「ん?別に。来週の土日は朝からお仕事なのね」
「えぇ。先方の都合で、金曜日をキャンセルで土日にしてくれって」
「そっか。じゃぁ、私は美奈たちと遊ぼうかしら」
「いい子にしていてね」
1か月しか誕生日は違わないのに、みちるさんはレイのことを子供みたいに扱うことがあって、それはそれで嫌じゃない。そういう風に接する人の方が少ないから。
「お望みどおりに」


“ねぇ、もっと彼氏の写真見せてよ。2人で撮ってるの、もっと見せて”
“え~、そんな~、恥ずかしいよ。あの人、服がダサいんだもん”


背後では、変わらずにぎやかだ。





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Date:2016/02/26
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