【緋彩の瞳】 ある日の恋する2人の話 ②

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

ある日の恋する2人の話 ②

「あ、レイ。身体冷えるから、先にベッドに行きなさい」
髪を乾かして出てくると、みちるさんが携帯電話を手に何やら書類をテーブルに広げていた。話し込んでいる途中、小さな声でレイに命令してくる。2週間後にリサイタルがあって、それ以外にも新曲のレコーディングがあって、バタバタしているから、こうやって電話していることが多い。完全なオフの時は携帯電話を切っていることもあるらしいけど、ボールペンを走らせている横顔は、普段見ることができない表情で、それはそれで何て言うか“カッコいい”


”私の恋人って仕事をしているときはカッコいい“

仕事している顔って、レイはほとんど見ないし、本当はレイ以外の人の方がみちるさんの仕事をしているときの顔を良く知っているのだった。これじゃぁ自慢にもならない。
そもそも、誰かに自慢したい想いなのか、そもそも誰に自慢したいのか、よくわからない。横顔を見つめていると、ちらっと目が合って、ボールペンのお尻で鼻先をつつかれた。風邪を引くからベッドに行けっていう合図。もっと表情を見ていたいって思っても、今度は肩を押されるのがオチで、余計な心配をさせるのも嫌だから、素直にそれに従った。


「長引いて、ごめんなさい」
「大丈夫」
みちるさんが定期購買しているファッション雑誌を流し見終えたころ、ベッドルームに入ってきた。携帯電話を充電器に差し込んでいる。
「ねぇ、みちるさん。その携帯電話、貸して」
「え?誰かに電話をするの?」
「違うわ」
雑誌をサイドボードに置いて手を出すと、充電器に繋がれて赤いライトが付いたばかりの携帯電話が置かれた。消えてしまったライト。長い間電話していたからなのか、少し熱い。

画面を開くと4つのパスワードを入れろと命令される。

「なぁに、レイ」
「ん、ちょっとね」
「何か疑われているの?」
「何か疑わしいことでもあるの?」
「ないわよ」
「知ってる」
レイは4つの数字を入れた。携帯電話を新しくしたとき、たまたまレイは機種変更に付き合っていたのだ。メカ音痴が横で話を聞いていて何を話しているのかほとんど理解できなかったけれど、その場でみちるさんが携帯電話の暗証番号を設定しているのを見ていたから覚えている。流石にあてずっぽうで入れたわけじゃない。
「……どうして知ってるの?」
見ていたからって言おうとして、でも言わずに笑って見せるだけ。不服のような表情を見せた恋人は、レイに抱き付くようにして同じベッドに入った。
「何がしたいの?」
「えっと……」
画面を見ただけで、みちるさんの保存している写真をどうやって見ればいいのかがわからない。


メカ音痴って自分でわかっているのに。ロックを解除しただけで、何か凄いことをした気持ちでいる自分が馬鹿みたいになる。

「レイ?」
「見せて」
「何を?」
「みちるさんが保存している写真」
「………え?えぇ」

巷では、携帯を盗み見して浮気発覚、なんてよくあるらしくて、そう言えばうさぎが衛さんの携帯電話を覗き見したいって言っていたのを思い出した。メールとか着信履歴を見たいらしい。レイにはみちるさんが誰とメールしているとか、電話をしているとか、まったくどうでもいいことなんだけど。
みちるさんに渡した携帯電話。レイはその温かい身体に抱き付いて、同じ画面を見上げた。
「どうして、見たいって思ったの?」
「別に、ただ、どういう写真を撮ったりするのかしらって思ったの」
「その雑誌に何か書いてた?」
「何も」
雑誌の投書か何かに影響されたと思ったのだろうか。フォルダがいくつも分かれていて、その画面のままレイの手に戻ってくる。
「お好きなものをどうぞ」
「見られて困るものってないの?」
「ないわよ」
「………面白くないわ」
「残念だった?」
明らかに仕事関係と思われるフォルダ。書類を写真に撮っているとか、楽譜とか、何かの番号みたいなものとか。別のフォルダは風景だった。花や街並み。海外の風景もある。別のフォルダはファッション関係。雑誌のモデルを写真に撮っているものが多いから、おそらく着こなしの参考にでもしたのかなってところ。マネキンが着ている舞台衣装のサンプルもあった。食べ物の写真はないのかなって遡っていくと、料理というフォルダがある。
「みちるさんが食べるものを写真に撮っているのは見たことがないわ」
「……あ、えぇ。外食でそういうことはしないわね」
「ふーん」
フォルダを開けると、それは全部見覚えがあった。見慣れた食器に盛りつけられているものばかりだから、みちるさんの手料理だ。なぜかお弁当を写真に撮っているものがある。そしてそのお弁当箱は見覚えがあって。
「お弁当の写真?」
「え?……まぁ」
「どうして?練習をしていたとか?」
「別に、いいじゃない」
携帯電話を奪われそうになって、慌てて背を向けた。料理の写真を見られて困るようなことってあるのだろうか。実はかなり昔に撮られていて、本当はレイじゃない人に作っていたもの、とか。
「レイ」
「これ、いつ頃の写真?」
「……付き合う少し前」
機種変更をするまえの写真のデータを、わざわざ移し替えて保存している。そんなに大事にしたいものなのだろうか。自分で作ったものなのに。
「どうして、写真に撮っていたの?」
「いえ……その、レイのために作るのが楽しくて、何となく、その、作ったものを写真に残しておきたい頃もあったのよ」


……
………

「………そっ、そう言うことは、言わなくていいんだけど」
その頃のみちるさんとレイには妙な緊張感があったことを思い出した。
手料理をごちそうしてくれるのが嬉しい癖に、緊張してなかなか食べられなくて。今は居心地のいいリビングも、あの時は身体に悪い場所だった。
「言わせたのはレイでしょ?」
初めて料理を作ってもらった時の写真が一番古いみたいだ。本当に、何て言うか、みちるさんらしくない行動って言うか。
「もういい?」
「………あと1つ、フォルダを見てからね」
仲間って書かれているフォルダ。うさぎたちの顔を思い浮かべてしまう。
「それはみんなの写真よ」
「そう」
「ほら、みんなで遊んだりしたときに、せつなが写真を撮っているでしょ?それをデータで送ってもらっていたから、保存しているだけ。レイが持っているものと同じよ」
レイはせつなさんから焼いたものをもらう。こんなデータで保存なんて高度なことをしてくれない。されても、イチイチそれを携帯電話で見ようと思わないし、それを分かっていて、写真を焼いてくれるのだろう。
「ふーん」
ボタンを押してスクロールしていくと、全部見たことのある写真ばかりだった。かなりの量がある。集合写真のようなもの以外でも、その時の風景写真とか、ルナやアルテミスだけの写真もある。それでも、レイだけを映しているものは1枚も出てこなかった。あってもなくても、何というか、嬉しいような嬉しくないような気持になる。
「レイの写真なんてないわよ」
レイが何を探そうとしているのか、分かってしまったのだろうか。
「あっても、困るわ」
「そうね。嫌がるかしらって思って、レイが1人で映っているものはないわ」
あってもなくても、それは何とも言い難い気持ち。それを言葉で上手く説明できないんだけど。
「はい、充電の続き」
「調査は終わった?」
「えぇ」
携帯電話は再び充電器に繋がれた。

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Date:2016/02/26
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