【緋彩の瞳】 ある日の恋する2人の話 END

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

ある日の恋する2人の話 END

部屋の明かりが落とされた。サイドライトだけが揺れる影が近づいてくる姿を映して、レイは両手を広げたい思いを声に出せずにただ、抱きしめてくれることを待つだけ。
「どうして、見たかったの?」
「何となく」
「喫茶店の女の子たちが、携帯を見せ合っていたから?」
「………別に」
こういう時に読みを外してくれない人だから、レイは傍を離れられないでいるのだろう。
縋り付くことを求めて、その腕の中でじっとしていたいと思わずにはいられない。
「そう」
「……みちるさんは、あんな風に人に写真を見せたいって思う?」
「あんまり思わないわね」
「そうよね」
レイは必要に迫られない限り、携帯電話の写真の機能を使わない。そしてその必要に迫られるというシーンは今のところ、ない。誰かに自分の恋人を見せるための写真を持ち歩いていないし、部屋に飾っていると言うこともない。そもそも、仲間に対してみちるさんについて自慢話をする意味がない。だけど、恋人の写真を携帯電話に保存していることの方が、普通なのだろうか。少なくともそれはきっと、おかしいことではないのだろう。自分と年齢の変わらない子たちが見せ合っていたあれは、見せびらかすためだけのものなのだろうか。それとも、会えない時に眺めたいからだろうか。
「実はね、レイの写真を保存していた時期もあったのよ」
「……え?あ、そうなの?」
「人に見せるためじゃないわよ、もちろん。自分のために」
世界中の人の心を癒す音を奏でるその指先が、レイの髪を撫でる。髪の間を縫う指と、シーツが立てる波の音。それだけで心地がいい。
「私、知らない間に盗撮された?」
温かい胸に埋めた顔を少し上げた。
嫌な気持ちはなくて、でも恥ずかしい気もして、だけど恥ずかしがっているって思われたくもなくて。
「付き合うようになって割とすぐだったんだけど。美奈子からいいものあげるって送られてきたのよ。私と知り合う前のレイの写真」
「……あの馬鹿。それこそ盗撮でしょ」
「でも、いい笑顔だったわよ」
変な瞬間を盗撮されたようなものではないと思いたい。今度、あの馬鹿に会ったときに1発殴りたい。でも、もう2年くらい前のことなのだから、今更っていうことになる。とにかく何か、何でもいいから理由を見つけて殴っておかないと。
「……それ、消したの?」
「消したわ。可愛いって思うけれど、私が知らない時代の、私じゃない誰かに向けられたレイの笑顔を見つめていると……何だか、言いようもなく自分が嫌になってきちゃって」


レイは今、眼の前にいるみちるさんだけに満たされて、今のみちるさんがすべてで。
それはただ、レイが恋や愛に不慣れだからだろうか。
でもきっと、考えないことにしているだけなのだろう。欲しいと願った瞬間、すべてを縛りつけてしまうに違いない。何もかもを、過去も、そして未来も。みちるさんのすべてを。


「よくわからないけど、私、ここにいるわ」
「えぇ、そうね」
みちるさんより体温が低い身体を押し付けて、温めてと我儘をしている。過去の誰も好きではなかった、みちるさんと出会っていなかったレイは、二度といらないと願っている。
「レイの過去が欲しいって思っていた頃、きっと私は初めて心から愛しいと言う人と付き合えることに舞い上がっていたの。何もかもが欲しいって思っていて、手に入れられないことが苦しいって思ってしまって。でも、そう思っているっていうことを、レイに知られたくもなくて。1人で色々、ウジウジしていた時期もあったのよ、これでも」

ちょっと、そう言うのはズルい。

みちるさんはレイができないことを簡単にやってのける人だから。
声に出してレイの反応を見て、レイの想いを読み取って、そうやって、好きって言葉をみちるさんは勝手に持って行ってしまう。
「…………そういうこと、言わなくてもいい」
「過去のことよ」
「……そうだけど」
「レイがそうやって照れる顔を見たいの。写真じゃなくて今のレイの表情は、私だけのものだもの」
縋りつく胸に押し付けた顔。見せてと囁かれても、その掌がレイの頭を優しく撫でても、顔なんて見せてあげない。
「………恋人の写メを持っていることって、普通のことなのかしら。見せびらかしたりするものなのかしら」
抱き付いた背中。手の甲に触れた緩やかな髪をそっと指に絡めてみる。同じシャンプーの匂いと、レイよりも高い体温。触れて、感じて、縋って。海王みちるという人物がどれほどレイにとって大事な人なのか、愛しと想っているのか。例えば日常の一部分を写真に収めて誰かに見せたところで、きっとこの想いなんて誰にもわかってもらえないだろうし、語りつくすことなどできないだろう。そもそも、したいと思うだろうか。自慢ってどういうものだろう。

海王みちると言う人は、レイの所有物でもなければ、レイの身体の一部でもなくて。

「人それぞれだと思うわよ」
「………私はいい」
「レイの場合は、携帯電話を使いこなせないっていう理由が半分でしょ?」
クスクス笑われる。頬をかすめる優しい空気がこそばゆい。
「………そうだけど。今更、美奈たちに何か自慢することもないんだし。っていうか、自慢っていうのは…やっぱり、おかしいもの」

大好きなその手が頭を優しく撫でてくれて、それがどれだけ心地いいか。
誰にもわかってもらえないだろうし、誰かに語りたくはない。それに言葉では伝わらない。
この瞬間はレイだけのもので、誰かと共有する想いがあるとしたら、それは全てみちるさんだけだ。

「私はせつなやはるかに言うわよ。レイの寝顔がどれだけ可愛いか。レイがどれほど愛しいか」
「…………やめてよ」
でも、嫌な気持ちになりきれない。メンドウだと言わんばかりのせつなさんとはるかさんの表情が目に浮かんできてしまって、何だか申し訳ない想いが湧き出てしまって。
「いつも、2人に呆れられるのよね」
「そうでしょうね」
「じゃぁ、今度写真に撮って来てっていつも言われるの。だから、絶対に嫌って」
「だったら、そんな話を聞かせるなって言われるんでしょ?」
「えぇ。はるかなんて、僕が隣で寝てやろうって」
「……変な会話」
あの女子高生たちみたいに、自慢していると言うことには変わらないんだろうけれど、どうにも何かが違う。
「そうね。でも、あの2人だけよ」
「……みちるさんが楽しいならいいけど」
恋人の容姿や条件の自慢と、よくわからない愚痴なんかをキャキャ言いながら披露しあう女子高生たちとは違うのはわかる。
「愛している人が傍にいるって、それを大切な仲間に語ることができるのも、きっと幸せの一つよ」
レイも、美奈に“みちるさんは元気?”って聞かれて、“元気よ”って答える、それだけでも本当は幸せなのだろう。見せびらかす写真なんてなくても、持ちたいと思わなくても。
「………そうね」
「で?そろそろ顔を上げて、キスしてくれるかしら?」

みちるさんの愛など、誰かに語りつくすことなどできない。この身体に注がれる想いのすべてはレイだけのもので、言葉で表すことなんてできない。

でも

「……ねぇ、あのお弁当の写真、私の携帯電話に転送してくれる?」
「え?」
「私も、自慢しようかしら。初めて作ってくれたお弁当って」
美奈もまこちゃん達も、きっとお弁当の中身よりも、そう言うことをするレイに驚くに違いない。
「ダメよ。あれは、見せるためのものじゃないんだから」
首筋をくすぐられて、身体をよじりながら自然と笑みがこぼれてくる。

これ、今はお互いにお互いの恋人を自慢し合っているのかしら、なんて思うと、なんだかおかしくて。

「キスして誤魔化さないで、レイ」
「してって言ったくせに。あの写真、欲しい」
「だ~め」
今度はみちるさんが誤魔化すように、レイの身体に覆いかぶさって唇を塞いでくる。
指に絡めていた髪を放して、その愛をもっと欲しいと背中を抱きしめた。

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Date:2016/02/26
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