【緋彩の瞳】 Kiss your lip ①

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

Kiss your lip ①

「みちるさん」
「…………暗い顔して、どうしたの?」


3月5日の夜


仕事が終わったみちるは、約束通りレイの家に急いだ。みちるのマンションではなく、来てほしいというレイからのお願いだった。タクシーを飛ばして仙台坂を上り切ると、静かな別の世界に来たような錯覚。暗闇の中で境内の中を通い慣れた歩数分進んで、玄関に向かう。ぼんやりと擦り硝子の向こうから見える明かりは、レイの部屋ではない。そこから裏庭に続く通り抜けて、レイの部屋の前の雨戸をノックして、そっと開けた。


やっと、レイを抱きしめることができる。


それなのに、今にも泣きそうなその顔



「間に合わなかったの。全然」
「…………え……何のこと?」


時計がちょうど、12時を指した。





Kiss your lip








「そういや、美奈の誕生日プレゼント、何にする?」
10月初め。遊びに来ていたまこちゃんが聞いてきた。そう言えば、そろそろ美奈の誕生日だ。仲間の誕生日っていうのは、毎度毎度、悩むことになる。欲しいものを言ってくれる人はいい。望み通りのものを買えばいいから。うさぎと美奈はおいしそうなものを送っておけば取りあえず納得してくれる。まこちゃんには、去年、みちるさんに相談をして、ティーカップのセットを送った。亜美ちゃんには、何をあげたらいいのかわからなくて、悩んで悩んで、万年筆をプレゼントした。
「あぁ、考えてなかったわ。うーん、今年も、ちょっと高めのお菓子でも買うわ」
「そうだね。んじゃ、私は今年もケーキ作ろうかな」
「そうね、それでいいんじゃない?」
手抜きのつもりはないが、確実に喜ぶと分かっているもの以外、プレゼントする勇気がない。そう言う意味で、レイは贈りものを選ぶ才能がないと自分では思っている。去年のみちるさんの誕生日には、プラチナの髪飾りを贈った。喜んでもらえたけれど、今年はどうすればいいのだろう。思いつくものと言えば、ピアスとかネックレスとか、ストール、そのあたりだろうか。

「……何、眉間にしわを寄せちゃって。美奈のプレゼントなんて、ポテチ10袋とかでも別にいいと思うよ?」
「いえ、あの馬鹿のことじゃないわよ」
「あぁ、みちるさんか」

腕を組んでカラカラと笑ってくれるまこちゃん。他人事だから笑えるんでしょって言いたいんだけど、まこちゃんは毎年、亜美ちゃんの誕生日にはきっと手料理でもてなして、手作りの何か凄いものをプレゼントしているはず。そういう才能がある人には、レイの悩みなんてわからないんだろう。
「レイちゃん、5か月先のことなんだからさ。その前に美奈、せつなさん、あと、はるかさんとほたる、あとついでに私の誕生日もあるよ?」
「そのあたりは、ほら、いざとなったら、欲しいものを聞けばいい話でしょ」
「ふーん。みちるさんだと、そうはいかないいんだ」

じゃぁ、高そうな紅茶の葉っぱが欲しい。まこちゃんは早速リクエストをしてきた。忘れてしまうだろうから、11月末にでも、改めて聞く羽目になりそう。

「………まぁね。きっと、何もいらないって言うでしょうから、聞かない方がいいと思うもの」
「言いそうだよな」
「何をプレゼントしても、喜んでくれるのは分かってるのよね」
「特別をあげたいんだ」
「………特別、って言うか」
レイがやりそうにないことを、みちるさんにしてあげられたらいいと思う。手料理でもてなすことも出来ないわけじゃないけれど、料理上手な人に料理を作ってあげるなんて、もう、すでに考えただけで眩暈。手作りのマフラーを編んだところで、3月過ぎたら必要はない。
お金を出せば何でも買ってあげられるけれど、親のお金を使って、自分で稼いでいる人にプレゼントをしてあげても……それでレイ自身は満足するのだろうか。


自分が納得して、心から贈りたいものって何だろう。


「はいはい。とりあえず仲間全員の誕生日が終わったくらいから、そう言うポーズしなよ」
「………その時はもう、きっと手遅れなのよ」
きっとその頃になれば、あたふたするだけで、結局また、みちるさんが気に入っているアクセサリーショップに駆け込む羽目になる。それでも、本当に心から嬉しそうな笑顔で受け取ってくれることはわかっている。
「まったく、TA女学院の火野レイ様をこんなに悩ますなんて」
「………海王みちるだもの」
「だねぇ。凄い人から愛されているよね。流石だよ、火野レイ様」

あれほど、優しく愛してくれる人なんて、この世界には海王みちるだけ。
愛を求めて、縋って、それでも抱きしめてくれる人は、この世界には海王みちるだけ。

「………本当、困るのよ」
「ありきたりなものでもいいんじゃない?それで、レイちゃんがやらなさそうなことをしたら、驚くかも」
「まこちゃんみたいにケーキを焼くとか?」
「それも意外性はあるかもしれないなぁ。でも、料理を作ったことくらいあるだろ?もっと、想像を上回るようなこと」

それじゃぁ、そもそも想像できないから、何も浮かばないのでは?
ヒントを求めようとしたら、まこちゃんがいきなり部屋の襖を開けて、それからちょっと重たい雨戸をあけた。
「何?」
「いや、なんとなく。前から思ってたんだけど、ここの中庭、綺麗にしているのに、何も育ててないんだね」

立派な松の木があって、花壇もある。でも、何も花なんて植えていない。レイは園芸に興味がないし、おじいちゃんも同じ。ママが子供の頃はどうだったのだろう。季節ごとの花を植えていただろうか。今は、お手伝いさんが勝手にシソを育てているくらいだ。雑草が勝手に生えては、誰かがいつの間にか引っこ抜いてを繰り返している記憶しかない。神社の中にはあちこち桜の木があるから、4月のその時期に花見を楽しむくらいで、チマチマと花を育てると言うのは、そもそもレイには向いていないと思う。枯らしてしまうのが目に見えているし、枯れてゆく姿を見ていることは、いい気分ではないから。

「十番高校、園芸部に貸して欲しいのならどうぞ?」
まこちゃんは、話題を変えたかったのだろう。5か月も先のことを、ウジウジする必要なんてないと言うことなのか。そりゃ、まこちゃんからしてみたらそうなんだけど。
「いやいや。夏が終わった後になすび育てても仕方ないよ」
「そう?」
「うーん、たとえばだけどさ。今、思いついたんだけど」
「…………何?」
「春に咲く花をレイちゃんが育てて、プレゼントする、とか?」


意地悪くウインクしてきて


「私にはできない。まったく向いていないって、まこちゃんが一番よくわかってるくせに」
「ははは~~~。だろうね、うん。言ってみただけ。せっかく育てたものを切って渡すのも、ちょっと可愛そうだしね」
「そうね。育てたものを切って渡すなんて、それはむしろ嫌がられると思うわ」
「だね。でもまぁ、誕生日とかじゃなくてさ、せっかく花壇があるんだからもったいないよねって話でさ」
まこちゃんは、春になったら間借りさせてもらおうかなと、少し声を小さくして呟いた。





「………花、か」
結局、みちるさんへのプレゼントのことは、みんなが来てワイワイと遊んでいる間は、忘れ去られていた。部屋に1人になって、雨戸を閉めようとしたときに、ふとまこちゃんの話を思い出して、深く深くため息を落とす。
「花って言っても……」
みちるさんは、わりとよく花束を抱えてマンションに帰ってくる。どれほどの規模であろうとも、どこかで演奏をすれば必ず花をもらうようなお仕事で、花瓶にはいつも花が綺麗に飾られている。
あれだけちゃんと飾って愛でるくらいだから、花が好きだっていうのは知っている。
「………でも、誕生日だったら余計、いろんな人が花を渡すはずだし」
それに、まこちゃんに言ったように、育てた花を自分で切って渡すって言うのは気が引けた。みちるさんに自分で育てたと申告したところで、それが本当かどうかなんてわからないし、そのために証拠写真を撮るなんて言うのも、相当間違えている。


「うーん…………」
本棚にあるのは、ユリ科の花の図鑑だけ。
カサブランカって何月に咲くのかしら、なんて思いながら手に取ってパラパラ。


「……あ………チューリップ」

ユリ科チューリップ属

小さい時によく耳にした歌通りの「赤白黄色」の綺麗なチューリップの写真が飛び込んできた。

その瞬間、チューリップを嬉しそうに眺めるみちるさんの姿を思い浮かべてしまって。



「………チューリップか」
いつの間にか、育て方という項目を探し始めていた。





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Date:2016/03/06
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