【緋彩の瞳】 Kiss your lip ②

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

Kiss your lip ②

慌てて花屋に飛び込んで、チューリップの球根を探した。オランダから輸入されている球根は色鮮やかに咲くらしく、たくさん種類があって、どれを選べばいいのか、もう全然わからない。一番無難な赤と、可愛らしいピンクを選び、店員さんにアドバイスされて、土に混ぜる肥料もとりあえず買った。小学生の頃から理科の点数は悪くないが、夏休みの宿題だった朝顔もひまわりも、水をやらずに見るも無残なことになった小学生の頃の記憶がある。あれは夏と言う時期が良くなかったと今でも思っているが、自発的に植物を育てるのが、実は人生で初めてだと思い当たって、球根を植えるより先に不安と後悔がレイを襲った。


「……スコップもジョウロもない。このシソはどうやって育っているわけ?」


球根と肥料を買って、いざ植えようとしたところで、育て方の本にはあって当たり前だと思われて書かれていなかったものが家にないと言うことを知り、早くも挫折しそうな1日目だった。





短気な性格ではないが、一向に芽が生えてきそうにない土に向かって、天気予報を見つつ、雨量を考えて水をやるという行為は、最初の1か月で挫折しそうだった。まこちゃんに言わせてみれば、まだまだ芽は出てこないなんて言うし、そもそも10月に植えて3月にならないと花が咲かないって、一体どれだけのんびりした植物なのかしら、と思う。それを言えば、桜は年に一度だとか言われるけれど、あれは木だから放っておいたらいいって。そう言うつまらないやり取りをしながらも、“じゃぁ、やめたら?”って言われるものだから、何か腹が立ってきてしまう。球根は寒さに強いかもしれないけれど、毎日土の状態を見ながら、やり過ぎず、乾かずの水の量を考えるこっちの身にもなって欲しい。


「レイ」
「………ん?」
「どうかして?」

イライラという言葉よりも、多少は穏やかな感情のまま2か月、3か月と季節は過ぎた。

この時期は、遠出をすることもないから、1泊くらいみちるさんのマンションに泊まっても、ただちに球根がダメになって、花が咲かなくなるなんて言うこともないし、ほったらかしにさえしなければ、大丈夫だと思う。まだ、芽は出てきていないが、みちるさんが家に遊びに来ると、裏庭のチューリップのことが気になって、ばれてしまわないかってソワソワしてしまう。今までと違うのは、せいぜい、ジョウロが軒下にちょこんと置いているくらい。多少土の色は昔とは違うが、黙っていれば気が付かないだろうし、みちるさんはうちの庭事情になんて、最初から興味を示してなかった。
「そう?」
「うん。寒いな~って」
部屋でまったりとコタツに入っていても、無意識に雨戸の向こう側を眺めていたみたいで、みちるさんに不思議がられてしまう。誤魔化して笑うと、眉をひそめられて深くは尋ねてこない。何だかんだ毎日イソイソと、チューリップを可愛がっているような日々は、きっとそれだけみちるさんの喜ぶ顔が見たいのだろう。まこちゃんには言わないが、やればできるものね、っていう自慢にもならない思いがあった。

もちろん、みちるさんに見せたいという気持ちがほとんど。

チューリップを育てましたって、それはプレゼントになるのだろうか。いつもまこちゃんに会うたびに、自分の想像するみちるさんの喜びがない可能性について、相談している。
でも、いつも、カラカラと笑って励まされる。

『レイちゃんが、チューリップをみちるさんのために育てるなんてさ、泣いて喜ぶと思う』

泣かれても困るし、初めてのおつかいができた子みたいじゃない?って。
普段、レイがそんなこと出来ない人と思われているって、まこちゃんは言いたいんだろう。
それって、やっぱりムッとする。でも、意外なことをして、喜ぶ顔はみたい。



驚かれそう


それも悪くない



「……レイ?何か悩み事?」
「え?」
「さっきから、ずっと腕を組んで首をかしげて……」
「あ、ごめん」
みちるさんと過ごすクリスマスのことも、お正月のこともすっかり忘れてしまっていて、気持ちは常に3月6日だった。おかげでクリスマスイブにプレゼントを買っていなくて、慌てふためき、ヴァレンタインは何も用意していなかった。そんなことで怒るような人じゃないし、もちろん催促するような人でもない。
「最近、レイは何だか様子が変よ?」
「そうかしら?」
「特に、私がこっちの家にいるときは」
「……そう?」
「何か部屋に隠しているの?」


隠しているのは、部屋の外の庭の、土の中にある


「何にも」
「そう?エッチな本を隠しているとか?」
変な発想をするから、思わず笑ってしまった。そんな本、見たこともないし、どこで買えばいいのか。本屋さんに売っているとするのなら、どう言う表情で買うんだろう。
「みちるさんは、隠しているの?」
「まさか。レイに部屋の鍵を渡しているのに」
「うちだって、勝手に人が出入りするんだから。疑うなら探してみる?」
そもそも、人が来なくても買わない。
「そう?まぁ、いいわ。ここ何か月か、ちょっとレイの様子がおかしいって思っていたのよ」
「それ、また勝手に心配してるだけよ」
みちるさんは鋭い。もちろん、レイがつまらないことを隠そうとしながらも、態度に出やすいだけとも言うが、それでもいつも、レイのことを良く見ている。
レイよりもレイのことを良く知っている。
「本当?でも、あんまり不安にさせないでね」
「……うん、ごめん。あ、違うの、謝るのも変だわ。勘違いよ、本当」
不安にさせる気なんて毛頭ない。本当にただの誤解で。
「じゃぁ、勘違いと言うことにするわ」

チューリップがちゃんと咲くかどうか心配。


なんて言えるわけもなくて。


「えっと、来月の6日、みちるさんはお仕事?」
チューリップのことは秘密だけど、お誕生日に一緒に過ごしたいということは伝えておかなきゃいけない。この部屋でお誕生日をお祝いすることを想定していたけれど、実は地方に行っているなんてことになったら、この5か月近く、せっせと水をあげていた自分が馬鹿みたいだ。
「……あぁ、6日ね。5日は夜までお仕事があるの。でも、今度こそ12時前にはレイの元に辿り着くようにするわ」
みちるさんは、レイの様子が変だった理由に合点が行ったらしく、心配していた瞳が一気に嬉しそうな表情に変わった。まだ何も渡していなければ、そもそも咲いてもいないのにって心の中で突っ込みたい。それでも、一緒に過ごしたいと思ってくれていることが嬉しくて。レイもつられて笑ってしまう。
「えっと、うちに来られる?」
「え?ここ?」
「うん。前も、その前も、みちるさんのマンションだったし。6日の日曜日はお仕事なの?」
みちるさんは手帳を広げて確認してくれた。今年は日曜日だから、お仕事かもしれない。
「お昼から、お仕事があるわ」
「ここに泊まっても問題ない?」
「えぇ」
「じゃぁ、お昼前までは一緒にいてもいい?」
「それは、私がお願いする言葉よ」
まだ誕生日は先なのに、もうお祝いしているような想いになって、それはみちるさんが抱きしめてくれたから。



喜ばせたいっていう思いは、喜ぶ顔を見てレイが幸せになりたいから。
つまり、それって随分と我儘な感情なのかもしれない。





関連記事

*    *    *

Information

Date:2016/03/06
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/680-4432bf08
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)