【緋彩の瞳】 触れられぬ彼女へ END

緋彩の瞳

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ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

触れられぬ彼女へ END

「いかなる時も優雅。両手を挙げてしまっては、紅茶を自らにぶちまけてしまうわ」
「先に、私の方に掛けられてしまいそうですわね」
小さく首をかしげて微笑むその笑みが、作られていないのではないかと一瞬だけ思った。
そう、願ったのかも知れない。
「明日の試合では、アッサムティを淹れましょうか?」
いつも、チャーチルは車長の名前の紅茶を飲んでいる。それもまた、古くからの伝統。
「おやめになった方がいいですわ。それで負けたら、私のせいにされてしまいますもの」
「あら、習慣も大事だが、なかには守るより破ったほうがいいものもあるって言いますわよ?」
「シェイクスピアも、大事な一戦では控えるようにおっしゃると思いますわ」
「そうかしら?」
「お姉さま方になんと申し開きなさるおつもり?」
「アッサムティのせいにするわ」
眉をひそめ、その冗談にも辟易と言わんばかりの溜息。きちんとのばされた背筋。決して崩されることのない、副隊長アッサムとしての姿勢。副隊長としての眼差し。
「明日、急遽ミルクを持ち込むとなると、ペコの困った眉の角度がさらに深くなりましてよ」
「あら、それは困るわね」
元より、いつもと違う匂いがチャーチルの中に漂えば、妙な緊張感が生まれるだろう。
何も変わらず、いつも通りの戦いをして、いつもと同じダージリンを味わう方がいい。そんなことは当たり前。一瞬たりとも、つまらない疑問を隊員に持たせるべきではない。
「それに、私はダージリンが好きですもの」
「えっ?」
「ペコは上手に淹れてくれます。気分を落ち着かせてくれる味と香りですわ」
「……あぁ。……そうね」
数秒間、何度も瞬きをして彼女を見つめる、その仕草のすべてをじっくりとアッサムは観察しているように思えた。そしてそれを楽しんでいるかのように、作っていた笑顔は満足そうなものに変わる。
「えぇ。明日は、私の好きなダージリンでお願いしますわ」
これはもう、わざとなのだと分かっても、身体はその軽い意地悪に素直に反応してしまい、顔が熱くなってきているのは、手の震えよりも感じている。


「………決勝ではアッサムにするわよ。その、私もアッサムが好き、ですもの」


初めて口にした感情は
初めて気が付いた感情で
そしてそれは、やっぱり近いのに遠く感じる距離があるからこそ、抱いたものなのだろう


「ではその時は、前もってペコにミルクを用意させておきます。こんなところで、もうお開きの許可は頂戴できますか?」
「………えぇ」
ため息を飲み込んだ。もっと、もっと何か話をしたいと思いながら、何も思い浮かばない。明日がすべてなのだ。すべては明日のために。
先に立ち上がったのはアッサムだった。慣れた手つきで髪を束ねてある黒いリボンを解き、外されたネクタイが置かれているその横に並べる。その後ろ姿は、副隊長アッサムをあまり感じなかった。感じるという言うことを、それでも自ら拒絶した。


「ねぇ、アッサム。また、この部屋に来てもいいかしら?」
「用事があるのでしたら、こちらから紅茶の園に伺いますわ」
「隊長としての用事じゃないわ。あなたのお友達として、他愛ないおしゃべりを楽しむために、よ」

明日が終われば、違う景色が見たい。
聖グロリアーナ女学院の隊長ダージリンではない自分など、遠い過去に消したのだ。
過去に手をのばすことなどあまりにも無様だが、今、それを欲している。


本当に欲しいのは未来なのだけれど。


「構いませんことよ、ダージリン。その時はあなたの好きなアッサムティで、もてなして差し上げますわ」


明日を迎え、そして明日が終わり、また、新しい1日が始まることを初めて待ち遠しいと思った瞬間、ダージリンを悩ませる黒い十字架を、いつも近くにいる彼女が半分背負ってくれていたのだと知った。

やはり、まだ近くて遠い。

それでも、明日が終われば、この距離こそ愛しいものだったのだと懐かしむことができるのなら。


「おやすみなさい、アッサム」
「おやすみなさい。あなたの無邪気な笑顔、楽しみにしていますわよ、ダージリン」



久しぶりに心に染みるその呼び方。
腕をのばせば届く距離を測るものは、きっと長さではなく時間なのだろう。

柔らかく優しい笑みに魅せられて、それならば待ちましょうと心に誓った。







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Date:2016/03/22
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