【緋彩の瞳】 触れた指の間を流れる想いは ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

触れた指の間を流れる想いは ①

ガルパンのダッサム(ダージリンとアッサム)




「………ローズヒップ、何事かしら?」
クルセイダー小隊の訓練場から、激突音が響く。マチルダⅡの射撃訓練を見ていたダージリンは椅子から立ち上がり、モクモクと上がる黒い煙を双眼鏡で確認しつつ、近くに置いてあった無線機で静かに名前を呼び出した。
『た、ただの故障ですわ、ダージリン様!』
「あらそうなの?では整備科の責任者をすぐに呼びつけましょう」
『うっ、あの、いや、だ、大丈夫ですわっ!』
無論、ダージリンは遠く離れた練習場で、スピードを出し過ぎたあげくスピンをして別の戦車にぶつかっていったすべてを、ちゃんと目の端で捉えていた。スピード狂のどこかの誰かのクルセイダーだけ、聞こえてくるエンジン音が違うこともちゃんと聞いていた。それでもひとまず、ことが起こるまでは何も言わないようにするのも大事なこと。問題が起きた時に、いかにしてうまく対応するか、それが小隊長の責務であり、小隊長を育てるのはダージリンの責務だ。もっとも、小隊長が一番の問題児なのだが。おとなしく人の言うことを忠実に聞く淑女だらけの聖グロの中では、異色中の異色。見ていて飽きることはない。
「大丈夫?それを判断するのが整備科の仕事なのよ、ローズヒップ」
『いや、あのっ、その、整備科の皆さまには、これ以上戦車をぶっ潰すと、トルクレンチでぶん殴ると言われておりますのでございまして………整備科には、何卒、御勘弁を!』

……
………

相変わらず、よくわからない日本語ですこと。
聞いているうちに、自分にもその言葉遣いが移ってしまわないか心配になってくる。


「今日の訓練内容に、リミッターを解除して爆走なんていうのはあったかしら?アッサムがそれを許可したのならば、責任は彼女に取らせなければならないわね」

その日の訓練内容は、事前に各小隊長が車長と話し合いをして、まとめたものをアッサムに提出する。適切な内容かどうかを精査するのがアッサムの仕事であり、すべての書類に彼女のサインが入ったものが、ダージリンの元へと送り届けられる。データ主義の副隊長がきちんと確認しているものなので、信頼を預けている。

『ご、ごめんなさいでした。提出の内容に、私なりのアレンジを取り入れただけですわ!アッサム様は何も悪くありませんことですの!』
「………私は素直な子が好きよ、ローズヒップ。さっさと降りて、小隊長としてなすべきことをしなさい」
『はい!』

双眼鏡の先では、顔を汚したローズヒップがモクモクと煙の上がる車内から飛び出してきて、砲手と操縦手がその後に続く。全員の無事を確認したローズヒップは、周りに停まっていたクルセイダーを整列させて、テキパキと動き回っていた。

「………トラック10周の罰くらいは受けてもらわなければダメかしらね」
砲弾の発射音が次々と柔らかい青空を切り裂くように響いた。ルクリリが車長のマチルダⅡには、アッサムが砲手の指導として装填手をしている。彼女の戦車に無線を繋げていないから、遠くからの衝突音は聞こえていないだろう。行進間射撃訓練もあと20分程で終了予定だ。

整備科の女の子たちを乗せた牽引車がクルセイダー訓練所に近づいてくるのを確認して、ダージリンはため息を吐きながら、固い木の椅子に座り直すのだった。
「ペコ、やはりここの椅子はお尻が痛いわ」
「チャーチルの車長席よりは柔らかいと思うのですが」
「次から、ソファーにしましょう」
「お言葉ですが、150のらせん階段の上までソファーを持ち運ぶのは無理です」
「それもそうね」

双眼鏡がなくても、とてもとても小さな蟻が、整備科に追いかけまわされているのが見える。相変わらず、楽しませてくれる子だ。




「何やら、ローズヒップがやらかしたみたいですわね」
マチルダⅡの訓練を終えて、ずらりと整列した隊員たちが一斉にアッサムに一礼をする。その姿を監視塔から確認して、ゆっくりと階段を下りた。マチルダⅡの小隊長であるルクリリを連れて、アッサムがこちらに向かってきた。
「毎日毎日、にぎやかな子だわ」
「様子を見てきます。昨日、整備科のクルセイダー担当長から、しばらくは絶対に故障させるなときつく言われておりましたの」
その報告は、ダージリンには届いていない。アッサムは出来もしない約束を整備科と交わしたらしい。
「それはなぜなの?」
「あまりの故障の頻度に、いくつかパーツが在庫切れらしいですわ。次回横浜に寄港した時に、調達しなければなりませんの」
「ローズヒップはそれを?」
「重々承知していても、おとなしくしないのがあの子ですわ」
「………そのようね」
行ってもいいと許可を出すよりも先に、アッサムはルクリリを連れてダージリンが乗ってきたランドローバーに乗り込んで走って行ってしまった。

「私たち、徒歩で戻らなければいけないですね」
「……そのようね」
運転がへたくそなルクリリの隣で身体を揺らしながら、アッサムの後ろ姿はそれでも楽しそうに見えたのは気のせいではない。





「アッサム様~~~!!!!」
尻尾がブンブン揺れているような表情のローズヒップが、手を振りながら近づいてくる。車を止めさせて、アッサムは少しの酔いを消すように、二度ほど深呼吸をした。
「………反省の欠片もない笑顔ですわね」
ルクリリは彼女の同期であり、同じ小隊長でもある。上級生の前では淑女を保っているあたり、ルクリリの方が聞き分けのいい子ではあるが、整備科の生徒から、マチルダⅡのルクリリの車内はいつも紅茶がこぼれまくりだと報告を受けてもいるし、ティカップを割った回数はローズヒップの次に多い。それでも、そう言う子の方がダージリン様はお好きなのだ。普通の淑女が群れを成したところで、黒森峰には勝てない。戦車を替えることができないのであれば、戦車を扱う者を変えるしかない。
「まったくですわね。ルクリリ、ダージリン様を迎えに行きなさい。きっと車道を歩いておられるわ」
「わかりました」
「あの2人に、その紅茶のシミの着いたブーツを見られないよう、精々気を付けなさい」
「……紅茶をかけてしまって申し訳ありませんでした、アッサム様」
「構いませんことよ」
アッサムの髪は、いつもよりもしんなりとした仕上がりになってしまっている。後ろから盛大に掛けられた温かい紅茶は、髪を伝ってジャケットの背中の一部にシミを作っていた。
「アッサム様~!お助け下さいませ~~」
駆け寄ってくるローズヒップの後方から、整備科の生徒たちがトルクレンチを振り回している姿。
「………世話の焼ける子ね」
クルセイダーを2車も故障させたローズヒップは、アッサムに詫びもせずに盾になれとばかりに、背中に回り込んでしがみついてくる。
「アッサム様~!整備科に殺されてしまいますわ」
「一度殺された方があなたのためと思うわよ、ローズヒップ」
近づいた彼女から、少し酸味のある香りがする。きっと今日もティカップは粉々に違いない。
「一度殺されてしまえば、生き返りませんわ」
「でしたら、殺意を抱かれないようにしなさい」
「アッサム様~~~」
整備科のクルセイダーを担当している生徒たちも、流石にアッサムの姿を見てトルクレンチを振り回す手を後ろに隠した。整備科の中でもクルセイダーを扱う者たちは、基本的にはスピード狂で少々気が荒い。だから、本当はローズヒップの敵でもあるが、試合となれば俄然張り切って、いらぬ知識を与えるのも彼女たちである。リミッター解除方法を教えた罪は重いと言いたいところだが、ダージリン様が教えるように仕向けたことだ。
「ローズヒップがご迷惑をおかけして、ごめんなさい。しばらくは修理できないことは承知しております。うちのクルセイダー小隊全員に修理を手伝わせますので、それで許してくださいませんこと?」
いつものように微笑んで見せたら、整備科は引き下がるしかないことはわかっている。背中に張り付いているローズヒップは湿ったアッサムの髪に顔を隠していた。

「……整備科の皆さまはいなくなりましたよ」
渋々とした表情ながらもトルクレンチ片手に帰って行く整備科を見送り、ようやくほっとする。
「はぁ……命拾いですわ」
「服を着替えて、シャワーを浴びなさい。綺麗にし終えたら隊長室に来るように」
「………一難去って、また一難ですの?」
「ローズヒップ。ダージリン様の方が難易度は高くてよ」
隠れておきながら、人の髪をいじっていじけるなんていい度胸の持ち主だ。アッサムがここできつく叱らなくても、ダージリン様の方が数倍キツイのは彼女もわかっている。
「アッサム様もいらしてくださいます?」
「私はあなたを管理するものとして、責任を追及される立場ですのよ」
それがどう言う意味なのか。彼女は決して頭が悪い子ではない。むしろ要領はいい方だ。こうやってしおらしく機嫌を伺うのも、1つの才能だと思う。淑女らしさは大事だが、何を考えているのか分かってしまうような、聖グロの生徒ならば誰でもできるという才能は、これ以上の成長を望めない象徴。だから、この面倒な子の世話を焼きたくなってしまうのだ。
「………ごめんなさいですわ」
「ダージリン様にも、素直に謝りなさい」
「そういたします。ところでアッサム様、髪も背中もびちょびちょですわ」
「マチルダⅡで指導をしていて、ルクリリにやられましたのよ」
「ルクリリに?まぁ、なんてこと!アッサム様に代わって、私がぶん殴って差し上げますわ!」
ペコとルクリリ、ローズヒップは3人同室の寮生活だ。1人1室を与えることはできたが、ダージリン様が3人まとめて同室に入るように命じたのだ。毎日大変だとペコが言っているが、その大変さはよくわかっている。だが、2人をうまくコントロールできない限り、ペコを隊長に指名出来ないというダージリン様の考えは正しい。
「マチルダ小隊は全車無傷で訓練を終えましたわよ。ルクリリを責める権利はあなたにはありません」
「私のアッサム様に紅茶をかけたのは重罪ですわ~!」
アッサムはいつから、この後輩の所有物になったのだろう。
「クルセイダーの訓練場にまで出向いて、整備科に頭を下げさせるあなたの方が重罪ですわよ」
唇を尖らせるローズヒップの汚れたおでこをパチンと叩いた。
「………ごめんなさいですわ」




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Date:2016/03/25
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