【緋彩の瞳】 Your Wish ⑥

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

Your Wish ⑥


「あぁ、よかったわ。やっと目が覚めた」

えっと……

自分の状況が把握できなかった。この声は誰だろうか。聞き覚えのあるような、ないような。
「火野さん、大丈夫?」
「………大丈、夫?」
何がどうなって、この人に心配されているのか。
誰だっけと思いながら数秒。
「……シスター?」
いつもと何かが違うのは、馴れた視界ではない状況で人から見詰められているからだ。
もしかしなくても、寝かされているようだった。
「死ぬのかと思ったわよ、本当……」
特大のため息が漏れて、その人は視界から消えてしまった。
ここはどこで何がどうなって寝かされているのかがわからない。

まったくわからない。

最後に記憶があるのはどこで何をしていた時だろうか。レイは目を閉じて、自分の記憶をリプレイさせてみた。
暑いところ、講堂にいたはずだった。そこから出て、そのあと家に帰ろうと思って……
そこでもう、記憶がない。
そう言えば、気持ち悪いって一瞬思ったような気がする。
ということは、どうやらそのまま倒れたとでも。
「……あの、ここはどこでしょうか?」
「十番総合病院です」
「えっ……病院」
てっきり保健室とばかり思っていたレイは、ことのほか自分は重病だったようだと反省した。
いや、反省というより、周りが大げさに対処したんだな、と。
それとも、派手に倒れたのか。ここまで連れてこられたことの一切を記憶していないということは、意識がなかったのだろう。記憶がなくてよかった、って思ってしまう。きっと無様な姿だったはずだから。
「気分はどう?」
「あの……すみません、私、状況が全く分かりません」
「講堂のそばで倒れていたの。生徒が見つけて、ゆすっても叩いても、真っ青なまま反応すらしなくて。保健室の佐竹先生はもう帰られた後だし、残っている私と守衛さんたちだけではどうすることもできなくて、救急車を呼んだのよ」
意識がない間、学校の中ではちょっとした騒ぎになっていたようだ。しかも救急車を呼ばれていたなんて。恥ずかしさこの上ない。
「………その、大変ご迷惑を……」
「本当、あなたに何かあったら、私は葉月に呪われてしまうわ。サボりくらいで治めてもらわないと」
以後、気をつけます。なんて言えない。気を付けるも何も……
「講堂にいたのですか?あんな暑いところにいるから熱中症になるのですよ」
「熱中症……ですか?」
「あとは貧血も。血圧が低すぎるようです。ちゃんと食べているのかしら?」
「あ……はぁ。一応は」
霊力を使いすぎたらしい。心の中で原因が分かったレイは、恨めしくあの緋彩の顔を思い出していた。相変わらず、美奈にかぶってくる。
この暑い時期になると、体調を崩すことは多いが、ここ最近はほとんど無意識に霊力を使って会話をしていたことが、余計に身体の変調を呼んでしまったのだろう。遮断したくてもできないものはどうしようもない。しかもレイ自身は少々の体調の悪さは暑さのせいだろうと、それほど敏感にはしてなかった。
「もう少し休んで、この点滴が終わったらもう一度診察を受けて、帰ることはできると思います」
「そう…ですか」
「おじい様にはこちらから連絡しました。迎えは秘書にさせるようにって」
おじいちゃんが神社を離れるわけにはいかないくらいわかっている。海堂さんに迷惑をかけてまで、別にそこまでしてもらわなくても、アテくらいたくさんある。
「シスター上原、私、もう大丈夫です」
「送りましょうか?」
「知人に迎えに来てもらいますから」
こんな時のF1テストドライバーなのだし。
仕事をしている可能性もあるけれど、ボタンひとつでひとっ飛びだから。せつなさんもいるし。
「そう。おじい様にちゃんと御自分で報告できるわね?一応、私の方からお父様にはお伝えしました」
「そんな、子供じゃないですし」
「子供でしょう」
「………はい」
ぴしゃりと言われて、その通りだな、と思い直す。
学校で倒れたのだから、一応おじいちゃんとパパにも連絡はされてしまっているようだ。
「あなたは何でも一人で抱え込むクセがあるから、先生は気が気でならないのですよ」
それは悩みがあるなら言えという気遣いをしてくれていると言うことだ。
だけど何からどう説明したとしても、何一つ理解してくれないだろう。
上手く説明のしようもないし。
眠ってぐっすり何事も解決しました、というわけにはいかないのだ。むしろ、まだまだ厄介が続くのだ。
「火野さんが手を差し伸べれば、いくらでも助けてくれる人はいるのですから」
「……はい」
みちるさんの顔が浮かんだ。
こんなことになったなんて、知れてしまえばただじゃ済まないだろう。
鬼のように怒られるか、泣かれてしまうかもしれない。



東京から戻ってきて、すぐにレイに連絡を取ってみたが、携帯電話は繋がらなかった。怒って出てくれないのか、まだ学校にいるのかわからない時間帯。出ないことはよくあることだが、前に会ったときに喧嘩したこともあり、出ない理由があるとしたらそれのせいかもしれない。みちるはひとまず母親に仕事の途中経過をするために待ち合わせ場所に向かった。2か月に1度くらいは会うけれど、だいたいは仕事の話しがほとんど。たまに想い出話もされて、はいはいって聞いてあげるくらい。実家で会ういつもとは違い、今日は喫茶店で待ち合わせをしていた。
指定されたのはレイの学校のすぐそばのお店。
なぜか今日は同級生を連れてくる、と言われている。仕事の話より、想い出話がメインになりそうな気がする。
「お待たせ」
「あぁ、みちる」
ママはいつになく、少しそわそわした様子でみちるに向かって手を振っていた。
「遅くなってごめんなさいね。で?お友達は?」
「それが、……来られなくなったわ」
「そう」
それで、先に1人でアイスコーヒーを飲みきってしまったようだ。みちるは前に腰をおろして、のんびりとメニューを手にする。
「TAに10分くらい前に救急車が入って行ったのが見えたの」
「……TAに?」
みちるの中では、TAという言葉はレイしか連想させないものだ。
「生徒さんかしら?莉緒が来られないのは、そのせいらしいわ」
「リオ?ママ、説明が足らないわ」
誰なの。
みちるはママに誰と会うつもりなのか、なぜここが待ち合わせだったのかの理由を求めた。どうやら、ママが約束しているのは学生時代の同級生で、その人は今TA女学院の先生をしているらしい。
「先生が付き添うっていうことは、救急車で運ばれたのは生徒さんっていうことじゃないの?」
何か、とてつもなく嫌な冷や汗がみちるの背中に幾つも流れて落ちていく。
聞きながら、鞄から携帯電話を出してリダイアルでレイの番号を押す。さっきとは違って、電源が落とされているという趣旨の機械音が返って来た。
「どうかしら?とにかく、今日は会えないみたい。葉月の娘じゃなければいいけれど……」

葉月の娘
それはつまり
レイのこと

「葉月の?……って」
「レイさんよ。そうそう、この前すごく久しぶりに会ったわ。みちるも葉月のことを覚えていないっていつも言っていたけど、レイさんにも私のことを覚えていないって言われたわ」
「…………え?会った?」

どういうこと……
一体、何がどうなって、ママとレイが繋がったのかがわからない。
ただ、どうやらその莉緒という先生が絡んでいるのではないか、という想像はできる。

「学校の部活のことで相談があってね。ボランティア部らしいわ。すっかり葉月に似て美人になって。みちるにも会わせてあげたいわ」

繰り返し携帯電話のボタンを押しても、繋がる気配は全くない。ボランティア部?一体そんな嘘を吐いてママに会うというのは、どういう事情なのかがわからない。レイがどういう必要に迫られてママと会ったのかもわからないが、それはつまり、みちるがレイの母親とママが同級生だということを知っていたことを隠していたことが、バレているのだろうということはわかった。
「そのボランティア部がどうしたの?」
救急車に乗せられたのがどうかレイではありませんように。
みちるは祈りながら、ママにレイと何を話したのかを詳しく求めた。


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Date:2013/12/24
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