【緋彩の瞳】 彼女の背中 ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

彼女の背中 ①

10年に1度の逸材が入学してきた。同じ聖グロに入るということも知っていたので、その逸材という人物がすなわち彼女であると言うことは、誰もがわかっている。入学式が終わると同時に、戦車道の3年生が1年生の教室を訪れて、どこかへ連れていかれた時のとても落ち着いた様子は、すでに風格があった。戦車に乗るよりも早く、先輩方に連れていかれるなんてどんなコネを持っているのだろうかと、周りのクラスメイト達がヒソヒソと嫉妬の花びらを巻き散らかす。由緒あるお嬢様学校なんて、どこでもこんな感じなのだということは、中学の頃から知っている。それについて何か想うことなどない。もとより彼女もまた、そういう孤高の静寂には馴れているはずだろう。


「ちょっと、よろしいかしら?」
「はい、私でしょうか?」
 

彼女の背中を見送り、教室を出ようとしたところ、落ち着いた口調で呼び止められた。目の前には3年生の副隊長が微笑んで立っている。
「あなたが西住まほのティーガーを撃破したことがある砲手?」
「それは……去年の試合のことでしょうか?」
「そう。あの西住流から白旗を上げたって話題になったわ」
中学時代、西日本代表混合チームと東日本混合チームの試合の時に、確かに西住まほのフラッグ車を撃破したが、自分の名前が戦車道関連の情報誌に掲載された記憶がない。聖グロは情報処理学部があると聞いているが、戦車道の1年生全員の経歴は、受験の時にすでに調べられているのだろう。
「付いてきなさい」
「……はい」

嫌な予感がする。

副隊長の名前は、たしかオレンジペコ様。隊長の名前がアールグレイ様。葉桜が左右に並び、まだ蕾すら付けていない薔薇のアーチを潜り抜けるより先に、自分がどこへ連れていかれようとしているのか、薄々わかり始めて、逃げ出したくなった。


「連れてきましたわよ」
「あら、こっちも可愛い子ね」
 ニスの光沢もすっかり消えている、ただただ重苦しい扉が開かれると、そこにはアンティークの丸いテーブルセットが置かれていた。甘い匂いが鼻先をくすぐるよりも先に、アールグレイの匂いが気管を刺してくる。

これが噂の紅茶の園。
3年生の隊長と副隊長、クルセイダー小隊長のバニラ様もいらっしゃる。
そして無表情の彼女は、直立不動のまま、隊長の傍にいてこちらを見ていた。


指定された場所に座らされて、何故呼び出されたのかの説明を受けることなく、隊長主催のお茶会に強制的に参加をさせられた。話題は隣で静かに紅茶を飲む彼女のこと。学年1位の成績で入学、誰もが良く知る一流商社の創設者の直系のお嬢様。
「この子には、早々ティーネームを与えることができそうね」
「今日、決めてしまう?」
「流石に実力も見ずになんて、お姉さま方から電話の嵐ですわよ?」
「8年ほど、“ダージリン”の名前は誰も継いでないものね。この子にダージリンって付けて優勝すれば、私たちもお姉さま方のお鼻をへし折ることができますわよ?」
 話題はずっと彼女だけで、なぜ自分がおまけのようにここにいるのかが、紅茶を空にしてしまってもまだ、説明はされなかった。きっと幹部たちに1人囲まれる彼女の緊張を和らげるために、比較的中学時代の成績で目立ったものがあった自分を呼び出したのだろう。穏やかそうな、それでいてやや緊張している作り笑顔で、彼女はまさしく淑女の鏡と言わんばかりに紅茶を飲んでいる。傍にいなくても、何ら問題もなさそう。

「この子がダージリンなら、砲手の彼女は何がいいかしら?」
隊長のアールグレイ様は、ずいぶんと気が早い。聖グロでティーネームと言うのは、幹部候補として上級生から授かる。名前を選ぶことはできないし、勝手に名乗ることも許されない。永遠とその名前と顔写真が聖グロの戦車道資料として残されていく。無関係と思っていたところに急に話題にされて、髪を引っ張られたような想いで背筋を伸ばした。
「空いているのは、アッサムとリゼ。ローズヒップもお姉さまが卒業されたので空きましたわよ」
オレンジペコ様は、副隊長兼マチルダⅡの小隊長。
「待って、ローズ様の名前は歴代クルセイダーに乗るものに与えられるのだから、砲手としてなら、チャーチルかマチルダの方が向いているわ」
クルセイダー小隊長のバニラ様は、OG会という恐るべき存在について10分程愚痴を漏らした。卒業されたお姉さま方の脅威と言うのはなかなのものらしい。
「まぁ、いいわ。ファースト・フレッシュちゃんたちの実力を見てから、考えましょう」
“はい”という返事以外特に何も話すことなくお茶会は終わり、連れてこられた道を、1年生2人は放り出されるように帰ることになった。

 隣を歩く彼女は、ただ真っ直ぐに前を見つめて、その横顔は圧力に耐えた後と言うのに、少し険しい。
「………ダージリンと言う名前、あなたに似合うと思うわ」
聖グロの戦車道を知るものであれば、ティーネームの重みを良く知っている。ダージリンと言う名前はアールグレイよりも重い。歴代のOGは近年、その名前を後輩に付けようとはしなかった。自分を越えるものなどいないし、自分の顔に泥を塗られることも嫌。そういう想いがあるのだ。
「褒め言葉かしら」
「そのつもりですわ」
「私は、あなたの名前はリゼよりもアッサムの方がいいと思うわよ」
「私にティーネームは重いですわ」
「奇遇ね、私もよ」

しれっと吐いた嘘は虚勢なのだろうか。隣を歩く彼女は少しずつスピードを速める。
彼女はきっと、最重要人物だとずっと調査されていたに違いない。家柄も成績も、戦車道を進むものであれば、西住まほの次に彼女の名前は有名だった。


“ダージリン”


彼女には、その名前がよく似合う。最初からそう言う名前だったかのように思えた。



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Date:2016/04/01
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