【緋彩の瞳】 淡く広がるこの想いは ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

淡く広がるこの想いは ①

「アッサム様」

訓練が終わり一礼のあと、いつものように寮へと戻る。大会が終わった後も、模擬試合や他校との親善試合の数をこなし、ダージリン様は随分とそれを楽しんでいるようだった。勝つと言う目的ではなく、後輩を育てることを目的とした日々の訓練では、夏までのダージリン様とは打って変わって、本当にキラキラして後輩の指導をしている。
とりわけ、ダージリン様に素直に愛情表現を見せて、ぴょんぴょん跳ねまわって懐いてくる1年生のことがお好きなようだ。
子犬を拾ったと言って、1年生の入学式の当日にオレンジペコを紅茶の園に連れてきたときの、嬉しそうな表情。ペコはダージリンとアッサムと同率1位で紅茶の園に足を踏み入れた最速記録保持者となっている。ただし、ことの重要性に彼女は全く気が付いておらず、ごちそうさまでしたとニコニコして満足げに帰って行ってしまった。そこがさらにダージリン様のツボに嵌たらしく、すでにその日の夕方には、名前の候補をいくつか口にしていたのだった。ペコは自分がどうしてダージリン様の傍にいる身分なのかと、アッサムに聞いてきたことがあったが“子犬っぽいから”とは本人には言えない。もちろん、容姿の魅力だけで今も傍に置いたりしない。ダージリン様の冗談にも真面目な話にも、突っ込んだり素直にわかりませんと答えることができる、そんなペコの才能は魅力的。

聖グロの隊長ダージリン様は、日々、彼女なりにいかにして全国優勝を果たすべきか、足りないものは何か、それは補えるものなのか、努力で手に入るものなのか、あるいは運なのか。考えてばかりいたように思う。         
1年の秋にチャーチルに共に乗るようになった頃だろうか、授業の合間に本を良く読んでいた。格言集やら詩集が多くて、彼女が図書館で借りたそれを追随してアッサムも借りては、気づかれぬように自室で読んでいた。訓練中や試合中に上級生に命令をするときに、やたら格言に例えて物を言うようになったのも、そのあたりからだ。自分より年上の人間を扱うにあたり、どうすればいいのかをダージリン様なりに考えたのか、それとも、元から彼女はそう言うちょっと変わった人なのか。今ではすっかりおなじみになったけれど、1年の頃は、無線の先から先輩方に『メンドクサイ例えは結構、端的に言いなさい』なんて言われていて、アッサムはよく笑いそうになるのを堪えていた。わざわざオブラートに包んで、湿り気のあるユーモアで上級生を叱咤していると分からない人ばかりで、ダージリン様の目の上のたん瘤はなかなかに固いものだったように思う。


「何?」
そんな過去を懐かしいと思えるほど、月日は流れた。ダージリン様の背中を追うように歩いてい3年生の寮へと戻ろうとしたときに、ペコがアッサムだけを呼び止めた。
「あの……あとでご相談したいことがあるのですが」
「構いませんことよ」
「では、お部屋に伺ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
両手を前にして一礼すると、彼女は小走りで去って行く。マチルダⅡの隊員の最前列を歩いているルクリリが、彼女の背中を早歩きで追いかけて行くのが見えた。練習が終わった後なので、列を乱すなとは言わないが、相変わらず彼女たちは“見えていないと思っているところ”も元気いっぱいだ。

「ペコはどうしたの?」
「さぁ?私、告白を受けてしまうかもしれませんわね」
「あらいやだ。アッサムは1年生にモテまくりね。羨ましい限りだわ」

扉を開けて待っていた“ダージリン”は小さく微笑む。正面からそうやって微笑む姿を素直に受け止めることができるようになったのも、本当に全国大会が終わった頃からだ。時々振り返り、不敵な笑みを見せることもあって、それはそれで好きだった。自信に満ち溢れていると誰もが思うような表情や態度も、いつでも近くの少し後ろから見つめていた。そこだけが自分の場所であり、彼女の陣地であると信じていた。

「流石に3人は、身が持たないですわ。聞き分けの悪い方からお譲りいたしましてよ?」
「そう言えば、今日のローズヒップはおとなしかったわね」

誰、と名前を出さずとも考えている人物は同じなのだ。おとなしく、淑女らしくおしとやかな新入生の中で、クルセイダーに乗りたいと直接紅茶の園に乗り込んできた、そのやる気にアッサムは魅了された。ダージリン様はその時、ノックもせずに入ってきたローズヒップに驚いて、紅茶を零したのだ。隊長としてのダージリン様が紅茶を零すのはたいてい、1年生のあの3人のうちの誰かが問題を起こす時だった。1年の時も2年の時も、ほとんど同じ戦車内で過ごし、お茶会もほとんど一緒にいたが、過去、彼女が紅茶を零すようなことはなかった。その淑女らしく優雅な振る舞いを崩すのは、キャンキャンと懐いてくる子犬たちだ。彼女たちはある意味、完成された、真の意味で開花した隊長としてのダージリン様しか知らない。OG会という組織はあるものの、今の隊はダージリン様のものだ。アッサムも含め、戦車道の生徒たちは全て、ダージリン様のもの。
「クルセイダーは修理中ですから」
「あぁ、ひたすら校庭の草むしりをしていたのね」
「ダージリン様が出した罰ですわよ」
「すっかり忘れていたわ」

立ち止まる“ダージリン”の隣に立つと、満足気に上がる口角。
完璧に音を合わせて階段を上ると、ダージリンの方から歩幅を合わせてきた。

そうやって、アッサムに近づいて来ようとしている、その一秒一秒が身体に妙な期待を与える。

いつか、隣を歩いて、そして他愛無いおしゃべりをして。
それを入学して早々、風格の違いを見せつけられて、無理なのだと悟った。

あれから2年半。

黒い十字架から解放されて、羽が生えたように軽やかに歩くダージリン。
そんな彼女と歩幅が揃うだけで満たされた気分になる。

「告白を受けたら、真っ先にご報告いたしますわ」
「構いませんことよ。人の恋路を邪魔するほど愚かではないわ」
「あら、そうですか。では、また夕食の時に」

ダージリンが幾度となく後輩や他校の生徒から告白を受けていることは知っている。戦車道の隊員は流石にそんな恐ろしいことはしないが、別の学部の子たちからは、黄色い悲鳴を浴びている。彼女の元に届くものはファンレターというよりはラブレターであり、愛の篭ったプレゼント攻撃は特別な日以外にも届けられ、全てボランティアの一環として教会に寄贈されていく。

たとえば彼女が誰かに恋をしていれば、隊長として違った一面をその恋人が引き出してくれただろうか。考えてみるものの、それはありえないと首を振った。いや、そうであって欲しいという願望かもしれない。



……
………


部屋に入ってドアに背を預けて付いた溜息は、何を想ったのか。


誰を想ったのか



「チャーチルは……鈍足ですものね。トリガーもこの指には重くて固いですし」


細く長い彼女の小指が触れた左の薬指
きつく右手で握りしめた



関連記事

*    *    *

Information

Date:2016/04/01
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/692-00d3ab5b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)