【緋彩の瞳】 淡く広がるこの想いは ②

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

淡く広がるこの想いは ②

彼女がダージリンと呼ばれることになった日から、彼女の背中を見つめてきた。その背をこの手で支えているというおこがましい想いもなかった。ただ、見つめていただけだ。アッサムが早々にティーネームを授かり、チャーチルに乗りこんだのは、ダージリンのためだと、アールグレイ様に言われたことがある。いずれのしかかる重圧は1人より2人の方が耐えられるでしょうから、と。だと言うのに、アッサムは何も彼女にしてあげられることはなかったように思う。ダージリン様が図書室で山積みの資料に埋もれている間、傍にいて読んでいるものから必要なことをパソコンに打ち込んでいったり、おそらく彼女が調べたいだろう事柄のリストを作って渡したり、そんなことをして自分の能力のなさを誤魔化していただけのように思う。
“ダージリン”の傍にいたけれど、ずっと彼女とは距離があった。

近くて遠い






 着替えが終わり一息ついた頃に、部屋の電話が鳴った。ペコの声で部屋に行っても大丈夫かと聞いてくる。10分後と約束をして受話器を置いてから、8分で1人以上の足音が廊下から聞こえてきた。絨毯敷きとはいえ、全く聞こえないわけではない。3人揃って部屋に乗り込んでくるなんて、トランプ遊びでもするつもりなのだろうか。
 ノックが聞こえてから15秒。ゆっくりと鍵を開けてドアをあけると、予想通りの顔ぶれがランランとした目でアッサムを見つめていた。
「寮監に怒られるような馬鹿騒ぎはしないようにね」
部屋に招き入れた3人は、部屋の広さをうらやましがるように身体を1周させた。夕暮れの光が入らない部屋なので、少し暗い。
「アッサム様のお部屋、お人形とかありませんの?」
「ローズヒップは私を何だと思っているの?」
「え~、ほら、フランス人形を抱いて眠るイメージですわ」
その頭を平手で叩くルクリリ。このやり取りも見慣れたものになった。少々やんちゃな部分のある彼女だけれど、ローズヒップとは仲良くしているので、信頼はできる。嫌い合っているなら2人を同室にしなかった。
「何です、ルクリリ~!」
「ここは3年生の寮だから、問題を起こさないでちょうだい。取りあえず適当に座って。お茶を淹れましょう」
叩き返そうとするローズヒップの手を掴み、アッサムは馴れたようにペコに視線を向けた。背筋をピンとして頷いた子犬は深く頷いて見せる。
「アッサム様、お茶は私が淹れますので、お座りになってください」
アッサムはベッドに腰を下ろし、ルクリリをキャスター付きの椅子、ローズヒップをソファに座らせた。この部屋にはガスコンロと小さなシンクしかなくて、紅茶を淹れる以外に使うことはない。
「ローズヒップ、そのおでこの赤いマークは何?ペコにキスでもされたの?」
「蚊に刺されましたの。今日はず~~っと草を引っこ抜いてましたわ。もうすっかり達人の域ですわ」
罰を与えられたと言うのに、何かしてやったりの表情。呆れたため息を漏らすルクリリも最初の1時間は連帯責任として付き合っていた。当然、ペコもそれに付き合った。
「そんなところで達人の域に達しても、ダージリン様はお喜びにならないわよ」
「真剣に引っこ抜きましたのに?」
ダージリン様は、すっかりそんな罰を忘れて後輩の指導をしていたのだけれど。可愛そうだからそのことは黙っておこう。ペコが淹れてくれたアッサムティを一口飲むと、本題に入った。
「それで、3人揃って私の部屋に来たのは何?トランプでもしたいのかしら?」
「アッサム様にお願いがございますの」
「ローズヒップが?ペコじゃなくて?」
話があると言ってきたのはペコなのに、お願いしてきたのがローズヒップで、ここにはルクリリもいる。
「いえ、3人からです。ダージリン様のことで」
今はペコの方が時間の長さではダージリン様と一緒にいることが多いはずなのだが、神妙な顔つきで何を相談したいのだろうか。アッサムの気がつかないところで、ダージリン様から何か命が下ったとでもいうのだろうか。そう言うことも全て、アッサムは分かっているつもりでいたのに。
「お誕生日のことです」
「…………ダージリン様の?」
「はい。その、正直、何をすればいいのかわからなくて。3人で悩んでいても、どうしようもないって思って、アッサム様に相談してみようかと」


モテモテなのは、ダージリンの方ね。


「私に相談されたところで、何のアドヴァイスもできないわ」
「アッサム様、去年は何をされましたの?」
物を渡した記憶はない。おめでとうございますとお祝いの言葉を伝えて、隊員たちと食堂でパーティを開いた。今の2年生が準備を仕切っていたはずだ。
「後輩や他校からのプレゼントの山を、教会に持って行くために車を運転したような……」
アッサムはダージリン様に誕生日のお祝いとして、何もしてあげていなかったのだと思い出しても1年遅い。ちょうどあの頃、ダージリン様は3年生の副隊長が引退なさるからと、アッサムを副隊長に指名したのだ。一度、チャーチル車内に隊長と副隊長が乗ると言うことになり、いかがなものかとやんわりと拒否をした。彼女の背中を見つめることはできても支えることはできない。だが、同学年に優秀な人がアッサム以外にいないと言われ、それが素直に嬉しくて、断ると言うことができなくなった。結局、今まで副隊長を続けている。
「マジですの?そう言う冗談を聞きに来たんじゃありませんことよ?」
「本当です。去年はキャンディが仕切っていたから、あの子に聞いたらどうかしら?」
マチルダⅡの車長で2年生の子なら、教えてくれるだろう。1年生が仕切らなければならないものでもないし、もっと言えばパーティをしなければいけないわけじゃない。ただ、アッサムが入学してから、隊長の誕生日は必ずパーティが行われていた。雰囲気は毎年そうだと言った様子だった。
「キャンディ様には、3人が仕切れって言われました。マチルダの先輩もみんなそれがいいって」
ルクリリは小隊の先輩1人1人に相談したが、全員が3人に押し付けてきたらしい。アッサムが同じ立場でも、やっぱり1年生3人に仕切って欲しいと思うだろう。ダージリン様なら、この3人が何をしてもお喜びになるだろうから、と。他の隊員を嫌っているわけじゃない。全員を平等に愛しているのは確かだ。ただ、いかに笑わせてくれるか。いかに想像を超えてくれるか。ダージリン様のお眼鏡にかなうのは、この3人しかいないのだ。
「確かにそれが一番だと思うわ。あなたたち3人は、ダージリン様のお気に入りですし」
熱い紅茶をひと口。ペコは本当に紅茶を淹れるのがうまい。4つも同じカップがなかったので、2つずつお揃いのティカップ。すべて上級生から譲り受けたものだ。この部屋では、いつも1人でお茶を飲んでいた。ダージリンが初めて部屋に入ったのが夏のこと。
「それは、お笑い的な意味ですよね?」
「否定はしませんことよ」
ローズヒップとルクリリが“あなたのせいだ”と互いをにらみ合う。どっちもだと言わんばかりのペコの溜息。このバランスが楽しい。
「でも、ダージリン様の一番のお気に入りはアッサム様ですわ」

ローズヒップはスカートに紅茶を零しながら力説する。アッサムはテーブルにティカップを置いて、ペーパータオルを取りに立ち上がった。

「私がダージリン様のお気に入りというのは、聞いたことがないわ」
脱いですぐに染み抜きをさせたいところだが、仕方がない。こんなことをダージリン様の前でしたら、クドクドと格言交じりの説教が始まっただろう。身体中、蚊に刺された罰を受けた今日くらいなら、見逃してあげてもいい。
「え?違いますの?」
ペーパータオルを受け取ったローズヒップは、いつものことだと言ったような手つきで、バシバシと太ももを叩きながら零した紅茶を沁み込ましていく。
「絶対そうですよ、ねぇ、ペコ」
「はい、そうですそうです。そりゃもう、間違いないですよ」
はしたない仲間を見慣れた様子のルクリリもペコも、もはや注意すらしないらしい。上級生の部屋の中だと忘れている様子の1年生の態度に、清々しい想いすら感じてしまう。ダージリン様がいれば、流石にここまではしないだろう。
「間違いも何も、ただ同じ学年で長い付き合いと言うだけですわよ」


触れた彼女の小指はあたたかくて、ダージリンから触れてくることが嬉しいと思うのに、その感情に戸惑いを覚えてしまう。

想いは淡くて、何と呼べばいいのかはわからなくて。
“お気に入り”と言うものは、それはどういう想いなのだろうか。
歩幅を合わせ、指を戯れのごとく絡め、袖が触れ合うように歩いてみて。
そうやって、自分の感情を試してみても、彼女もまた、同じように試してくる。

騙し合いではなく、今は互いに何か試し合っている。


「絶対、ダージリン様はアッサム様のことお気に入りですよ」
「そうね、あなたたち3人の次くらいなら嬉しいわ」
お気に入りと言って、ペコ達にかなうものではない。目の中に入れても痛くないほど、お気に入りの1年生なのだから。彼女たちが主催した誕生日パーティなら、ダージリンは泣いて喜ぶだろう。
「え~。ぶっちぎりで1位だと思いますわ」
「はいはい、もういいから。それよりも話を進めるつもりはないの?私が主催しない方がいいのよ。1年生がやることに意義があるのだから。もちろん、お手伝いくらいはさせていただくわ」
クシャクシャに丸めたペーパータオルをゴミ箱に向かって投げようとする、ローズヒップのその手を叩く。ここが上級生の部屋だなんて、もうすっかり忘れているに違いない。
「ではさっそく、食堂を飾るお花やグッズ購入のカンパをお願いします」
「…………それが目的ですのね」
待っていましたと言わんばかりに、どこに隠していたのか、ペコがその名のついた茶葉の缶に“かんぱ”と書かれているものをアッサムの前に差し出した。
「お料理はケータリングにして、焼き菓子は2年生が作って、食堂の飾りつけは1年が担当します。3年生のみなさんはカンパのご協力のみお願いをしようと思っていまして」
「ペコ、あなたも私の扱いが上手くなったものね」
流石に戦車道の必要経費として、学校に申請するわけにはいかないだろう。アッサムは机の引き出しからお財布を取りだして、万札を入れた。
「買い物にいつ行くの?」
「今度、横浜に寄港するタイミングで」
「そう」
「アッサム様、一緒に買い物に行きたいですわ」
「時間が合えばね」
「デートですわ!デート~~~!!」
おでこがかゆいのか、指で擦るから部屋に虫刺されの薬なんてあったかしらと、机の引き出しを上から開いていく。
「ズルい、私もお供したいです!」
「あ、じゃぁ私もです!!」
「3人まとめて相手して差し上げるから、トラブルを起こして、下船禁止命令がくだらないようにしなさい」

“は~い”

手を挙げて返事をする無邪気な後輩。日ごろの訓練で機敏に返事をしている姿すら思い出せないような締まりのなさ。オンオフを使い分けることは悪いことではない。こんな風に仲良く笑い合える3人が何だか眩しいくらいだ。


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Date:2016/04/01
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