【緋彩の瞳】 彼女たちの笑顔 END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

彼女たちの笑顔 END



リストに書かれているものを買い終わり、指定された場所に5分前に到着すると、ベンチに座ってアイスクリームを食べているローズヒップの姿が見えた。
「アッサム様~、2人が来ましたわ」
「ちょうどいい時間ね」
隣で紙コップの何かを飲んでいらしたアッサム様。大きな紙袋を両手に持っていたルクリリはローズヒップにうらやましい視線を流して、それを声に出さずに堪えた。あの様子だと買い与えたのはアッサム様に違いない。
「荷物を船に送る手配をしてきます」
「どうぞ」
纏めた荷物を、学生艦の指定倉庫へ届けてもらう手続きをサービスカウンターで行う。食べ終わったローズヒップの手を引いたアッサム様が立ち上がって待ってくださっていた。カップルと言うより、親と子にしか見えない。
「さて、買うべきものは買ったかしら?」
「私、ダージリン様へのお誕生日プレゼントを買っていません」
ルクリリが手を挙げると、ペコとローズヒップも手を挙げる。
「あ、私もです」
「私もですわ」
「みんなでゾロゾロお店を回る?それとも、時間を決めて一度解散しましょうか?」
アッサム様は腕時計に目をやった。お昼にはまだ早い。ペコとルクリリは目を合わせてどうしようかと首をかしげてみせる。バラバラで買って、被ってしまう可能性もなきにしもあらず。
「アッサム様は、もう、何か買われましたの?」
ローズヒップが質問した。2人はルクリリたちが買い物をしている間に、プレゼントを買ったわけではないようだ。
「いえ、何も買っていないわ」
「これからですか?」
「いえ、私は…………」
この、作っている笑顔。何かをそっと隠したように見える。
「そう言えば、ダージリン様へのプレゼントは、教会に寄付されるっておっしゃっていましたよね」
ペコがその笑顔を見て、いい質問をした。買わない様子だったので、何か手作りでもするつもりかなって思ってみたが、贈ると言う気持ちがないとペコは読み取ったのだ。
「そうね。流石にあなたたち3人からのものを手放すということは、ダージリン様もしないでしょう」
「でも、アッサム様からのプレゼントも、手放すことはしないと思いますわよ?」
素朴な疑問を口にするローズヒップ。きっと、そう言うことじゃない“何か”があるんだろう。
「そうね」
アッサム様はそれ以上何も言おうとしない。買うものを秘密にされたと思っているのか、ローズヒップは首をかしげたままだ。ルクリリもペコと同じ考えで、そもそも贈らないつもりなのではないか、と解釈した。でも、贈らないと言わないのは、実は迷っているからなのかもしれない。
「大丈夫ですわよ。ダージリン様はアッサム様からのプレゼントなら、とても大切にされるはずですわ」
解釈がやや違うローズヒップ。空気は吸うもので読むものじゃないらしい。
「私のことはいいから、3人が何を買うかを決めなさい、ローズヒップ」

話題から逃げたアッサム様の、その作り笑顔は何を考えておられるのだろう。

「じゃぁ、ダージリン様が好きそうなものを教えてくださいませ。アッサム様が一番ご存じのはずですわ」
「どうかしらね。私の意見を参考になんてしないで、自分があげたいと思うものにした方がいいわよ」
唇を尖らせるローズヒップ。さらっと難しいことを聞いていると自覚していないのだろう。どうしようかと話した結果、3人で1つのものをプレゼントすることにした。アッサム様は待ち合わせの時間と場所を改めて確認すると、1人でゆっくりと買い物を楽しみに行かれた。
「どうする、ローズヒップ?」
「どうしましょうか、ペコ」
「うーん。お茶の葉なんて贈っても仕方ないし」
ティカップもたくさん持っていらっしゃる。好きなものと言っても、格言集の本なんてあげたところで、鼻で笑われそうだ。
「いいものを思いつきましたわ」
何か閃いたローズヒップが館内図を広げて、ある場所を指さした。
「………何を買うのよ」
「そりゃもう、いい思い出の品ですわ」
受けを狙っているのだとしたら、それはそれで成功なのかもしれないけれど。



プレゼント、と言われても全く何を買えばいいのかがわからない。そもそもダージリンはアッサムから何か、物をもらいたいなど考えていないだろう。彼女が欲しいのはそんなもので誤魔化すものではない。

と思ってみても、彼女が欲しいものを自分が持ち得ているのか、それがわからないのだ。


3人と離れて、時間を潰そうと専門店フロアをゆっくりと歩く。途中で戦車道の2年生たちと出くわして、パーティ用のお菓子の食材とプレゼントを選びに来たと言うので、途中でお茶でも飲みなさいと、お小遣いを渡した。キャンディは今年、ウエディングケーキみたいな大きなケーキを作るつもりらしい。去年、大量に作ったスコーンは、後で全員が胃もたれを起こしてしまったので、その反省だろう。嫌でもいつでも食べられるスコーンより、飛び切り面白いもの、とデザイン図まで見せてくれた。1年生3人が仕切っているから、今年はお笑い路線にシフトしたようだ。戦車の形のケーキは、きっとお腹を抱えて笑ってくださるだろう。

愛されている隊長ダージリン様。

彼女たち2年生は、プレゼントはマチルダⅡとクルセイダーに分かれて贈るつもりだと言う。沢山のものをもらう方が迷惑になると言う判断らしい。懸命だろう。キャンディたちも、参考にアッサムは何を贈るつもりなのか、と聞いてきて、ハッキリと贈るつもりはないと答えられずに、まだ考えていないと答えた。彼女の好きなものは何か、と聞かれても、何を贈っても喜ぶ顔しか思い浮かばない。紅茶の葉はやめた方がいいというアドバイスくらいしかできず、2年生と別れた。
再び一人になり、何を悩んでいたのかと30分前を思い出してみる。何だったのだろう。
ゆっくりとジュエリーショップを横目で見ていると、鞄の中から携帯電話が鳴った。番号は隊長室からだ。
「はい」
『ローズヒップは迷子になっていないかしら?』
「今は、ペコとルクリリと3人でいますわ」
『あら、そう』
「ご心配ですか?」
『あの子が迷子になって血相を変えるあなたが心配よ、アッサム』
それは本心だろうか。嘘ではないはずだけれど、冗談の範疇と捉えていいだろう。
「あら、意外ですわね」
『今日、1年2年の全員が外出願いを出しているのよ。私も暇を持て余したところだし、出てしまおうかしら』
「みんな、隊長のためにあちこち走り回っておりますのよ。プラウダがお隣にいらしているみたいですが?」
『そうそう、そうなのよ。隊長室で3人仲良くお茶をする約束だったわ』
「全員、きちんと連れ戻しますので、おとなしくお茶しておいてください」
『隊長もつまらないものね。とにかく、1年も2年も全員下船しているはずだから、お任せするわね』
「承知しました。カチューシャとノンナによろしくお伝えください」
『わかったわ。じゃぁ』

声が聴きたかったのですか?
なんて冗談を言えばダージリンは何と答えただろう。

珍しい電話だった。珍しいどころか、こんな電話をわざわざ掛けてくるような人ではない。ローズヒップは別として、全員高校生だ。騒ぎを起こす様な問題児はいない。もし、どうしても心配なら、ダージリン様は問題児に直接電話を掛けるだろう。
なぜ、電話をしてきたのだろう。

なぜ、アッサムはそんな些細なことを気にしてしまうのだろう。


「………面倒なことになりそうですわね」


もし、ただ声を聞きたいと思って電話をしてきたのなら。
あるいは1年生たちと買い物をしていることに嫉妬しているなんていうことなら。
それは嫌な気分ではない。


何て厄介な感情なのだろう。



結局、何も思いつかなかった。下船した時に買おうと思っていた透明のマニュキアを求めて、ブランドショップに立ち寄った。プレゼント包装にしますかと聞かれて、思わず1つ淡いクリアピンクを買い足して、プレゼント包装にしてしまったのだけれど。自分が愛用しているものを、別にダージリンが気に入るとは思わないし、あげるという選択肢は最後まで保留にしておくことで誤魔化せる。ロゴのマークの入った紙袋に入れられるプレゼント。見つめながら歩いていると、待ち合わせ時間が近づいていた。

アッサム様は小さな紙袋を手に待ち合わせ場所に現れた。ローズヒップがダージリン様へのプレゼントかと聞いていたが、自分が使うために買ったものだそう。結局、アッサム様は誕生日にプレゼントを差し上げたりしないのかも知れない。2人の間に見え隠れする距離は、ルクリリが傍から見ただけでは簡単に理解できないものなのだろう。
 ランチを取って、せっかくだからと遊園地に遊びに行くことにした。途中でキャンディ様たちも合流し、2年生全員を呼ぶことになった。他の1年生も合流して、アッサム様率いる聖グロ戦車道61人は、ワイワイとそう広くはない遊園地をあちこち走り回って楽しんだ。ローズヒップは何度もジェットコースターを繰り返し乗るし、ペコは迷路の中で迷子になって、キャンディ様が救出しに行く羽目になるし、ルクリリは他の1年生たちと全制覇目指して、ひたすら次から次へと乗り物を梯子した。
アッサム様はずっと、園の真ん中らへんにあるベンチで、みんなを見渡しているようだった。
「アッサム様」
「なぁに?」
「あれに乗りましょう」
「構いませんことよ」
迷路から脱出したペコと、6回目のジェットコースターに乗ろうとしていたローズヒップの手を引いて、アッサム様を観覧車に誘う。
ランドローバーよりもずっと狭い向かい合うゴンドラ。ゆっくりと頂上を目指して円を描き始めると、アッサム様は窓の景色、遠くに見える学生艦を探して目を細めた。
「あ、プラウダとうちの学生艦」
「カチューシャとノンナは、うちの学校に来ているみたいだったわ」
「え?そうなんですか?」
「さっき、ダージリン様が電話をしてきて、そう言っていたのよ」
ペコが眉をひそめる。その姿を見て、ルクリリも彼女が同じことを考えているのだろうと思った。何故そんなことをわざわざ電話するのだろう、と。ダージリン様はそう言うことで、アッサム様の携帯電話を鳴らす人ではない。ペコに電話をする可能性はあっても、アッサム様にそう言うことで電話をしないと言うのはわかっている。
「ダージリン様の要件はそれだけでしたか?」
「えぇ」
ペコが確認を取り、アッサム様は小さく頷く。ダージリン様はたぶん、3人がアッサム様と一緒に行動していることを見抜いておられるに違いない。1、2年全員が下船しているということは、隊長のダージリン様の許可をもらわなければいけないし、コソコソしても、ある程度見抜かれている可能性もある。そうだとすると、そのあたり、アッサム様とダージリン様は知らぬ振りをする共謀者なのだろうか。具体的に何を目的に買い物に出掛けたのかまで、見抜かれてしまっているのだろうか。
「ピロシキ、お土産にお願いしてくださいましたの?」
「忘れていたわ」
「え~。残念ですわ」
「今度、伝えておくわ」
ローズヒップの関心事は違うらしく、立ち上がって落ち始める夕日を見下ろした。アッサム様の視線はずっと、聖グロの学生艦だ。
「アッサム様は、ダージリン様と遊園地に行かれたことはありますか?」
「ついこの前、派手に戦ったでしょう?」
「いえ、遊びで」
「ないわよ」
なぜかと聞こうとしたけれど、ペコに袖を引っ張られた。タブーだったのだろうか。ルクリリは口を閉じたが、ローズヒップは黙っていなかった。
「何故ですの?」
「ダージリン様は1年の秋には副隊長になっていたのよ。入学してからもずっと、先輩方に付きっ切りで、お忙しかったもの。元よりダージリン様は遊園地に出掛けるような人でもないですわよ」
「そうなんですの?でも、お買い物とかには行かれますでしょう?」
「どうかしら。ペコは一緒に行くでしょ?」
「あ……はい」
話を振られて、小さく頷いているペコ。でもローズヒップが知りたいのは、“今”ではないのだろう。彼女が単純に知りたいのは、アッサム様とダージリン様の関係だ。ルクリリとペコが空気を読んで聞かずにいたことを、彼女は素直に知りたいらしい。
「アッサム様とは?」
「行かないわ」
「何故ですの?」
ゆっくりと、ゴンドラが下り始めた。ローズヒップはアッサム様の前に座りなおして、学生艦を眺めるその視界を奪うように、質問を投げる。
「考えたことがないわね」
「1年の頃からですの?」
「えぇ、そうよ」
「何故ですの?」
「何故でしょうね。彼女が“ダージリン様”だからかしらね」
自分と同学年に、天才がいたらどうするだろう。ルクリリは考えて、アッサム様のような立場に立てるかどうか考える。天才には近づけない。敬遠してしまうかもしれない。でも、アッサム様はダージリン様の傍らにいつもいらした。近くて遠く見えて、それでも、わかり合っているような距離で。それは、それだけアッサム様も天才的なセンスをお持ちだからに違いない。
「とても、仲良しですのに?」
「そう見える?」
「と~っても仲良しですわ」
ローズヒップは一体、何を見てそう感じているのだろう。
「そう?仲がいいとか悪いなんて、意識したことないわね」
きっと、本当にそうなんだろうと思う。アッサム様の言葉に嘘は感じられない。夕日が照らした微笑みは、作られたものではないのだ。
「ダージリン様はアッサム様のこと、とても好きでいらっしゃいますわ」
「そう。あなたたちのことも、とても大好きでいらっしゃるわ」
「後輩に対する好きと、アッサム様へ向ける好きは、全然違いますわ」
前にも、ダージリン様はアッサム様のことをお気に入りだとローズヒップが言った時、適当な返事をしてやり過ごしておられた。お気に入りと言う言葉ではなく、ローズヒップは今回“好き”だと言葉を変えた。ローズヒップには、大した違いはないかもしれない。
「………好き、ね。あのお方は隊員を全員、等しく好きよ」


数秒、左右に揺らした瞳。
アッサム様は、ローズヒップが使った“好き”という言葉について、何を考えておられるのだろう。その好きと言う感情の持つ意味を、どう捉えておられるのだろう。

ダージリン様とアッサム様の関係は、お二人にしかわからない。

近くて遠い

アッサム様が、一定の距離以上にダージリン様に近づこうとされない。


「私、ダージリン様とアッサム様が私たちみたいに、楽しく遊ばれているお姿を見てみたいですわ」
「なぜ?」
「だって、ダージリン様がハメを外して、楽しそうに笑う姿なんて見たことありませんもの」

ルクリリもダージリン様はアッサム様のことを大切に想われているのは間違いないと思う。好きという表現をどういう風に使えばいいのかわからないが、決してその言葉が違うと言うものでもないだろう。それでも、近くて遠い距離は縮まらない。ローズヒップは、そもそも、その距離を感じる琴線を持っていないのだろう。ペコとルクリリが感じ取っているあの距離感なんて、最初からないと言わんばかりだ。

でも、素直な心の持ち主には見えないのかも知れない。

「残念ながら、私もないわよ。あなたたちが馬鹿をやっているのを見て楽しそうにしているのは見たことがありますけれど」

地上へと近づいているゴンドラ。こうやって円を描いて離れては引っ付きを繰り返す関係ではなく、ダージリン様とアッサム様は同じ距離を開けて保たれたまま、この2年半を過ごされていたのだろう。

コンクリートの地上すれすれに近づいて、係員にドアを開けられた。アッサム様が降りられて、ペコに手を差し伸べる。ゆっくりと動くゴンドラから全員が降りるのを確認すると、アッサム様は先を歩かれた。これで話を途切れさせたいのだろう。ペコがローズヒップの袖を引っ張り小さく首を振る。先を歩かれながら、携帯電話でキャンディ様を呼び出して、全員を集合させるようにご命令されていた。

「アッサム様は、ダージリン様のことをお好きじゃないから何も買わないのかしら?」
ポツリ呟くローズヒップ。彼女も彼女なりに、2人の関係を気にしているのだろう。ペコやルクリリが読み取る2人の関係性なんかより、もっと純粋な気持ちを持って。
「いえ、それはないですよ。あの紙袋の中、プレゼント包装のものが入っていました」
「本当ですの、ペコ?」
「はい。まぁ、ダージリン様へのプレゼントかどうかはわかりませんが」
「そんなの、ダージリン様以外ありえませんわ」
沈んだり浮いたり、ローズヒップも忙しい人。心からお2人のことを好きだから、お2人が仲良くしておられる姿を、見たいという想いだけなのだろう。
「アッサム様~」
背中を追いかけて、その腕にしがみつく。あんな風に後輩を優しく見つめる瞳は、ダージリン様に向けられることはない。アッサム様がダージリン様を見つめているときは、いつも、副隊長と隊長の関係だった。意識して、そうされているようだった。
「ペコはどう思う?」
「何がですか?」
「ダージリン様とアッサム様」
眉をハの字にして腕を組むペコ。チャーチルでも一緒、仕事も一緒。3人でいることは少なくはない彼女には、どう見えるのだろうか。
「どうでしょうか。お2人の傍でわかることは、ただただ、メンドクサイです」
「それはどう言う意味で?」
「お2人とも、ご自分の感情に向き合うということが、苦手のようですね。何と言いますか、意図的に向き合うことを避けています」
「似た者同士ということね」
「ですね」
「どうなるのかしらね?」
「でも、ダージリン様がわざわざ電話してきたんですよ?」
「つまり、鈍足チャーチル、と言うこと?」
「かも知れません」

いずれにしても、3人が何かするなんていうのは余計なお世話なのだろう。お2人のことはお2人にしかわからないと言いたいけれど、ペコが言うには、そもそも分かっているということすら怪しい様子なのだ。

「………じれったい」
「きっと、私たちの知らないことも色々あるんだと思います。私たちは見守るだけです」


アッサム様のプレゼントが、どうかダージリン様の手元に届きますように。
ルクリリはそんな願いをこめて、あの紙袋を睨み付けた。


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Date:2016/04/11
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