【緋彩の瞳】 閉じ込めた想いは ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

閉じ込めた想いは ①

“ダージリン様”
1年生の秋、夏の大会が終わりアールグレイ様からチャーチルの車長を命じられた。いずれ卒業される3年生の先輩方の多くは、引退、つまり主要な役割を自ら降りて後輩の育成に回られた。マチルダⅡの小隊長を任された時から、ダージリンがそのタイミングでチャーチルに搭乗するということは聞かされていた。訓練や試合を見ていて、アッサムの能力の高さをよくわかっていたから、一緒の戦車に乗ることをひそかに心待ちにしていたのだ。彼女は毎日毎日、チャーチルの3年生の隊員と共に過ごすことが多く、つまりアールグレイ様の近くにいた。そしてダージリンもまた、訓練以外はアールグレイ様に付きそうことが多かった。それでも微妙に立場が違うからか、違う戦車に乗っていると言う影響なのか、近くにいるものの、何でも話し合えるような感じではなかった。アッサムは最初から、いや、ダージリンがその名で呼ばれるようになった頃から、少し距離があった。他のクラスメイトと同じように、面倒事に巻き込まれたくないと言うようなものなのかとも思ったが、それでも彼女は一定の距離を保って、ダージリンの後ろを歩いていた。いつの間にか敬語を使って話しかられるようになった。それを拒絶しなければならない理由も見当たらず、そうしたいのならば、と受け入れていた。
チャーチルは装填手と操縦手はティーネームを授かっている2年生が搭乗となった。1年生のダージリンが車長であったが、マチルダⅡの車内に1年生1人でいる頃よりも、アッサムがすぐそばにいるチャーチルの空間の方が、ずっと良かった。命令をしやすい環境になったのは、好んで読んでいた格言集の影響もあるが、やはりアッサムがいるからだ。それを本人に伝えたいと思ったことはあった。でも、結局そんな些細な一言も言えずに日々を過ごしていた。ダージリンにとって良いと思うことを、アッサムはどう感じているのだろうか。そんなことを考えてしまうと、お互いに淡々としていた方がいいのだろうと、自分に言い聞かせていた。
クラスメイト達はずっとダージリンと呼んでいたが、アッサムはどこでも誰が傍にいても、戦車道じゃない授業中でも、必ずダージリン様と意識をして呼んでいるようだった。それは上級生が目の前にいても、やっぱり変わらなかった。冬が終わる頃、いつしかそのダージリン様という呼び方が1年生にも広がっていて、誰もがそう呼ぶようになっていった。違和感があるとかないとか、もうダージリンには大したことではなくなっていた。
アッサムがダージリン様と呼ぶ影響なのか、ダージリンはある意味、アッサムに話しかけやすくなったように思う。相変わらず、たわいないことを積極的に話しはしなかったが、お願い事をしやすくなった。いつも振り向けば彼女がいる。アールグレイ様と行動を共にする時も、自然とアッサムが同行するようになった。アッサムが自ら考えてダージリンの近くにいると言うのはわかっていた。そうやって、彼女は少し後ろからダージリンを支えてくれていた。ダージリンが“ダージリン様”としてチャーチルの車長になったから、なのだろう。それ以上の理由は、やっぱり聞く勇気がなかった。隊の仲間ではあったが、友達という関係とは違う。彼女がどう思っているのかはわからないが、振り返ればそこにいてくれる、それだけでも心強かった。
クラスメイトとは普通に会話をしている様子を見てきたし、何よりも後輩のことを驚くほど可愛がっている姿を見せつけられるようになり、アッサムにとって、ダージリンは何か違う存在なのだろうと言うことを、ようやく知った。入学してすぐに先輩から過度に期待され、担ぎ上げられたのだ。ダージリンからすればアッサムだってそうだった。アッサムは聖グロの戦車道の歴史上、最速でチャーチルの正砲手になったのだ。歴史に名を刻んだのは彼女の方だと言うのに。それでも、彼女は何を考えているのかを表情に出さずに、いつもダージリンの後ろに立っている。助けが欲しいと考えた瞬間には、もう行動に移しているほど、ダージリンの意図を読み取る能力は高かった。それほどまでにダージリンの思考を読むセンスがあるのなら、このお互いに淡々とした関係がダージリンの心のほんの隅っこをくすぐり続けているものだと言うことまで、読み取ってくれたらいいのにと。後輩の頭を撫でてほほ笑む姿を見るたびに、思うものだった。


それでも、アッサムにとって、この絶妙な距離の方がいいと思っているのなら。
お互いに一番いい距離なのだろう、と。

オレンジペコたちが入学した日、有能な幹部候補としてリストアップされた中に、彼女の名前は書かれていなかった。書かれていたのは今のルクリリ、バニラ、クランベリーの3名だった。それぞれが中学時代に関東代表チームや、東日本選抜メンバーに選ばれていた。ダージリンが自ら1年生の教室に乗り込んでその3人の顔を見に行こうとしたのだが、途中で目が合ってしまったオレンジペコの子犬のような表情に、思わず彼女だけを連れて紅茶の園に連れて来てしまったのだ。アッサムは”ダージリン様は小動物がお好きですね“と、呆れながらもお茶を淹れてくれた。美味しそうに紅茶を飲んでいるオレンジペコはずっと、紅茶の園という場所がどういう場所なのか、理解していなかったようだった。それがまた面白くて、ダージリンはすぐに彼女にティーネームを与えることを決めた。アッサムと比較しているつもりはなかったけれど、素直そうで何を考えているのかわかりやすそうな子が傍にいてくれたら。そう思っていた。



何も知らない1年生が純粋に懐いてくる。後輩を可愛がるアッサムの表情を近くで見ることは、素直に楽しいと思えた。衝撃的なローズヒップの出会いがまた、アッサムの知らない一面を引き出させた。いきなり紅茶の園に乗り込んできて、クルセイダーに乗りたくて聖グロを受験したとまくしたててくる。ノックもせずに開かれた扉に、初めて紅茶を零した記憶がある。その彼女を止めにやってきたらしい1年生が、ぶしつけなことをするな、と、またノックもなしに入ってくる。目の前で引っ張り合い取っ組み合いのような争いが始まり、ただただあっけに取られていたが、傍にいたアッサムはその最中に1年生のリストを見返しながら、名前をこそっと教えてくれた。
「ダージリン様。1人は例の候補者ですわ。あとは、面白そうな操縦手の経験者」
「そう?あなたのお眼鏡にかなうのならば、信じましょう」
「ダージリン様にとって、必要となるような逸材ですわ」
差し出された青いハンカチ。ダージリンは受け取ってこぼれた紅茶をそっと拭き取った。
「堅実な部隊編成より、奇抜な方がいいと言うことね」
「お好きでしょう、あぁいうタイプ」
「あなたが好きなのでしょう、アッサム」
「嫌いではありませんわ」
2人の間を割って入った子犬。小さいながらも、2人を必死に引き離して、何とか言い合う声も止んだ。ダージリンの傍に座っていたアッサムがゆっくりと立ち上がり、ノックをせずに入ってきた子の前に立つ。そっとネクタイに手を差し伸べたかと思えば、ぐっと掴んで部屋の外に引きずり出してしまった。
「あなたも来なさい」
止めに入って状況をややこしくしたもう一人を睨み、部屋の外に追い出す。ダージリンはアッサムのハンカチを自分のポケットにしまった。
「最初からやり直し。ノックして返事を聞いてから、扉を開けて一礼。何をしに来たのかをきちんと丁寧に説明しなさい。ダージリン様の前なのですよ。失礼にも程があります。入学早々、退学処分を受けたいのですか?」
声を張り上げるアッサムの後姿。ずいぶん楽しそうに見える。3年になった彼女を、ダージリンの傍にいつまでも縛りつけているのも可愛そうに思う。彼女は彼女なりにまた、考えて行動をするだろうが、あんな風に楽しそうな姿を見てしまえば、後輩の世話を任せた方がアッサムのためになるだろう。淡々とした関係だけの空間よりも、より、アッサムの能力を発揮する場所が彼女には必要だ。元より、放っておいても彼女は面倒事を自ら背負うに違いない。

オレンジペコの名前はダージリンが決めて、ルクリリ、ローズヒップの名前をアッサムに決めさせた。バニラとクランベリーも、名づけはアッサムに一任をした。アッサムは1年生にも2年生にも随分と慕われていて、時々休みの日は後輩たちと船を下りる姿を見かけた。オレンジペコをダージリンの傍に置き、アッサムは情報収集と後輩指導を中心とした仕事をこなす。具体的にそうしていこうと、2人で話し合った記憶などない。いつしかそうなっていった。彼女はそうやって、なんでも“いつしか”そうなっていることが多い。

だからたぶん、ダージリンも彼女のあらゆる行動はそういうものなのだろう、と“いつしか”そう思うようになっていた。ダージリンはいつも、アッサムの行動を気にかけていた。気にかけて、わかっていて、そっとしていた。

そっとして、ずっとずっと、アッサムのことを気にかけていたのだと言うことに向き合わず。月日は流れていた。


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Date:2016/04/11
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