【緋彩の瞳】 零れ落ちた想いは ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

零れ落ちた想いは ①


「アッサム様~」
ダージリン様の誕生日パーティまであと1週間。戦車道の訓練が終わるとローズヒップがクルセイダー部隊の列を引き連れて走ってくる。整列してゆっくり歩けと声を荒げるのをぐっとこらえた。少し前をダージリン様が歩いているのだ。
「何ですか、ローズヒップ」
「ご相談事ですわ」
「………私が出向きます。1年の寮玄関で待っていなさい」
「はいっ」
ここのところ、1年生はみんな、ソワソワ浮き足立っている。いつもはおとなしい2年生までも、あの3人のペースに引きずり込まれているようで、少々落ち着きがない。アッサムは手伝う気など一切なく、口を出したいとも思っていなかった。だが、それとなくそう伝えてみても、整備科も含めてみんな、頻繁にアッサムを呼び止めてくる。何かと聞けばダージリン様のことを良く知っているのは、アッサムだから、と。ローズヒップが呼び止めても、幸い、ダージリン様は何も言わず、何もわからない振りをされていた。先に部屋に戻っていくその後姿を見送って、1年生の寮へと向かう。そこには、1,2年生全員が整列していた。

「何ですか、揃って」
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。念のため、進行に問題がないかどうかだけでも、確認をお願いしたいのです」
差し出された十枚以上はあるコピー用紙。ペコの子犬のような丸い瞳に見つめられて、嫌だと言いきれないでパラパラと捲ってみる。
「あなたたちは、結婚式の司会でもするの?」
ケーキ入刀なんて書かれていて、ため息が漏れた。これはこれで、笑ってくださるに違いないだろうが、誕生日にろうそくじゃなくてダージリン様に刀を持たせるつもりなのだろうか。18歳の初めての1人の作業だなんて、想像しただけでアッサムには呆れしかない。
「ほら、やっぱり!」
「ローズヒップ、受けを狙うべきじゃないわよ」
2年生のクルセイダー隊員が声を上げる。頬に空気を入れて拗ねるローズヒップの味方になるつもりはない。
「……ここで立ちっぱなしもよくないわ。ダージリン様はすぐには食堂に来られないから、全員、場所を移動しましょう」
これほど囲まれてしまえば、簡単に解放されることもなさそうだ。ゾロゾロと後輩を引き連れで、準備中の食堂を陣取ることにした。
「これは誰が書いたの?」
「はい!」
「……ペコ、あなたは私に見せる前にチェックを入れたの?」
キラキラした瞳で手を挙げるローズヒップに、アッサムだけではなく2年生の中からもため息が漏れて聞こえてきた。もっとも、1年生3人に押し付けているのは2年生なので、彼女たちに批難する権利はない。
「いや……やめた方がいいと言うことは、いくつか言いましたが」
つまり、それでも止められなかったため、最終手段としてアッサムを介入させたらしい。卒業した後のことが、少し心配だ。
「ケーキ入刀なんて、せめてろうそくを吹き消すくらいにしなさい。あなたたちは着ぐるみを着なくても結構。私たちのカンパ金を、無駄なことに使用するなんて認めません。それと、申し訳ないけれど、他所の学校の方からのお祝いのメッセージも不要ですわ。交流のある学校の方からは、おそらくプレゼントが届きます。あれやこれやと気を遣わせるのはおやめなさい」
隣に座ったペコが黒いペンで、書かれてあるところにバツを付けて行く。
「戦車道1人1人からのメッセージ?何時間かけるつもりなの?」
「ですよね」
「どうしてもそれぞれに想いを伝えたいのなら、他の方法があるでしょう?頭を使いなさい」
「はい」
「え~~」
唇を尖らせているローズヒップの頭を、ルクリリが叩く。ペコはメモを取りながらアッサムを見つめるだけだ。2年生が用意した紅茶を飲みながら、合唱と書かれているところも削除をさせた。放っておいたとしても、これではきっと、2年生に泣きつかれるのがオチだったに違いない。他校に迷惑を掛ける前に、被害を最小限にとどめられたのならば良しとすべきだ。
「ダージリン様はあなたたちがやることを、何でも喜んでくださるでしょうけれど。想像力を働かせない子は、嫌われるわよ」
ローズヒップの考えた、結婚式の余興のようなものは全て削除すると、周りからはホッとしたような溜息が聞こえてきた。
「流石、アッサム様。ダージリン様のことをよく、ご理解していらっしゃいますわ」
「………いえ、普通に考えればいいことですわ」
アッサムは、“ダージリン様”のことなら、分かっている。だから、後輩たちがダージリン様のために一生懸命になることは、応援してあげられる。彼女たちが焦りながらも、一生懸命ダージリン様のために走り回る姿。喜ばせたい。驚かせたい。その想いが溢れ出て、零れ落ちては拾い上げて、それすらも楽しんでいる様子。過去、こんなにも楽しそうに隊長のお祝いをしようとした部隊などなかったに違いない。

ダージリン様だから、彼女たちは必死になれる。

………アッサムは

左の小指をズキズキと襲う痛みだけが、気になって仕方がない毎日を重ねている。
待っていてください、と声に出したと言うのに





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Date:2016/04/12
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