【緋彩の瞳】 零れ落ちた想いは ③

緋彩の瞳

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ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

零れ落ちた想いは ③

 隊長室に戻ると、人の気配がした。ダージリン様がおられるのだろう。扉を開くと、バニラの姿が視界に入ってくる。事情を察知して、自分がここにいた形跡を残したまま席を外したことを後悔した。ダージリンが苛立ちを携えた瞳で、アッサムを見つめてくる。アッサムが1人で車に乗っていたことも、彼女は知っているような気がした。自分が勝手にやったことであり、その理由が自分でさえ見つけ出せていないのだけれど、ダージリン様は、1人で黙って行動していたことがお気に召さないに違いない。そんなことをする時間があるのなら、傍にいて欲しいと思ってくださっているに違いない。

わかってしまうと、なお一層、傍でその瞳を見つめることに、眩暈すら覚えるほど胸が痛んだ。

「アッサム」
「はい」
「どこへ行くの?」
「教会に持って行きます。他の作業は自室で済ませますわ」
「積んだまま、車庫に戻しなさい。1日や2日くらいは問題ないわ」
「わかりました」
「ここに帰ってくるように」
「………はい」

カップを洗い、パソコンを閉じて出て行こうとする背中に声を掛けられ、嫌だという言葉が出せなかった。彼女に嫌だと言う言葉を差し出せるはずがない。それを見越しているから、ダージリンは、“ダージリン様”は命令してきたのだ。
車庫に車を戻すと、自室に戻り、ベッドに横たえた。携帯電話が鳴って、キャンディからケーキの試食をお願いされたが断った。美味しくないと言ったところで、作り直す暇があるか?と聞いたら、それもそうだと納得してくれた。元より2年生は何でもおいしく作る子たちが多い。その電話を切った後、隊長室に電話を掛けて、2年生に呼ばれていると伝えた。黙っていれば、彼女は携帯電話を鳴らしてくるだろう。かといって、嘘を吐いて逃げたくもない。嘘か本当かわからないことを言って電話を切ると、そんな電話をした自分に、さらに嫌気がさして、膝を抱えるようにうずくまった。




ローズヒップからの電話で、憂鬱な身体を無理やり立たせた。全員でダージリン様をお迎えすると言うのは聞いていた。おそらくアッサムだけがその場にいないから、呼び出してきたのだろう。顔を洗い、皺になった制服を着替え、髪を整える。ずっと机に置きっぱなしのマニキュアの入った紙袋が、存在を主張してきた。今日渡さなければ、それは自分が使うことになるだろう。それでもかまわない。だが、みんなそれぞれにプレゼントを渡すと言っていた。その流れで押し付けてしまうくらいはできる。あの、朝の子と同じようなものかもしれない。それでも、副隊長のアッサムとして、ダージリン様へ何も用意していないと言うのは、どうなのだろうか。

どうもこうもない。

悩みながらもその紙袋を手にして、部屋を出てしまっていた。渡さないだろうと言うことはわかっている。それなのに。食堂に入るとキラキラした瞳が沢山、アッサムを捉えた。
「アッサム様~!ご覧くださいませ!間に合いましたわ!」
「……みんな、ずいぶん頑張ったわね」
想像を超える飾りつけの凄さにあっけにとられた。この後輩たちの想いは全て、隊長ダージリンのものだ。きっと、本当に驚いてくださるだろう。
「アッサム様、ここにお座りになってください」
「ちょっと、待ちなさい。それはおかしいですわ」
主役の横に置かれた椅子。ローズヒップが手を引いてアッサムを座らせようとするので、慌てて首を振った。
「なぜですの?ここが定位置ですわ」
「そんなわけないでしょう?今日はダージリン様のお誕生日で、彼女のためのパーティです。私はその他の3年生たちと同じ立場です」
「なぜですの?」
「今、説明しました。同じことを二度も言わせないように。ルクリリ、椅子は戻しなさい」
「え?あ、はい……」
キョトンとしたままのローズヒップと、何か言いたいことがあると言ったようなルクリリの姿。進行について前に確認したが、アッサムがこんなところに座らされるなんて、書いていなかった。3年生たちの輪の中に座りなおし、周りから「私たちは気にしないのに」なんて言われるものの、一般参加をしたいと言うと素直に納得してくれた。
「ルクリリ」
「はい」
ペコがダージリン様を迎えに行くと食堂を出て行った。アッサムは台本を持っているルクリリを呼び、その本を奪った。パラパラと捲ると、嫌な予感か的中している。
「前に見ていたものと変えたのね」
「……いや、あの。みんなから、あったほうがいいと要望が」
「ペンを貸しなさい」
「はい」
アッサムは、開始早々に予定されている副隊長からのお祝いの言葉と、最後の花束を渡すという所に黒い線を引いた。
「アッサム様」
「これは、1年生と2年生が計画したことでしょう。最初から最後まで、あなたたちがやりなさい。3年生の私たちは、ゆっくりとそれを見ていたいの。わかるわよね?」
「……ですが」
「以上よ。戻りなさい」
「わかりました。ですが、花束贈呈だけは副隊長からとさせていただきます。これは部隊全員の想いを知っているアッサム様が適任です」
嫌だと言う言葉を言うより先に、ルクリリは逃げるようにその場を後にする。それくらいは引き受けたらと、また、周りから言われてしまい、アッサムは口を閉じた。全員の想いと言われてしまえば、嫌などと言えない。持っていたダージリンへのプレゼントを足元に追いやった。



 登場したダージリン様の姿。こんなに遠いところから彼女を眺めるなんて経験、ほとんどなかった。嬉しそうに微笑み、チラチラとアッサムを見つめてくる。何度も視線を浴び、ずっと気が付いていないフリをしてやり過ごした。クラスメイトの輪に入り、2年生たちが作ったケーキやクッキーを食べながら。一番遠い席を選んで座ったにもかかわらず、これだけの人数がいても、ダージリン様の視線はすぐにわかった。
身体が馴れているのは、彼女の肩越しの瞳。
真っ直ぐに見つめられるたびに、痺れた手をきつく握られるように感じてしまう。

ルクリリが宣言した通り、アッサムが花を渡すことになった。だけど副隊長からとマイクを通じて言われたので、思った以上にそれは割り切れる想いがした。余計な感情ではなく、この青い薔薇に詰められた隊員たちの想い。副隊長としての仕事としては、矢面に立つのはルクリリの言う通り当たり前のことだろう。
「おめでとうございます、ダージリン様」
「ありがとう、アッサム」
隊長の瞳に映し出されるこの姿は、ちゃんと副隊長としてのアッサムだろうか。
差し出された手を軽く握り、すぐに放す。



待っていると言ってくださったダージリンへの答えを、今日中に、無理やりにでも引きずりださなければならないことを思い出した。



1,2年生が片づけを始めた。大成功と言いきれる、本当に素晴らしいパーティだった。3人に任せてよかったし、3年生のクラスメイト達も楽しんでいるようだった。
「ペコ、ルクリリ、ローズヒップ」
先にダージリン様が出て行く姿を見届けて、アッサムは3人を呼んだ。笑顔で駆け寄ってきた。手を広げると、押し倒されるかと思うほど抱き付いてくる。
「とてもよかったわ」
「本当ですか?」
「えぇ。あんな風に楽しそうな顔をしているダージリン様、初めて見たわ」
聖グロの隊長として、全国制覇という頂上に立つ姿を見ることはできなかった。でも、それよりもかけがえのない、形のない想いはダージリン様を喜ばせたのだ。アッサムができなかったことを、アッサムが見込んだ後輩たちが見事、成し遂げてくれた。
「マジですの?!大成功ですわ!!」
抱き付いてくる3人の頭を順番に撫でて、本当に後輩に恵まれていることに感謝した。キャンディたち2年生の頑張りも、目に見えて伝わってきた。聖グロは変わっていくだろう。隊長として、ダージリン様は本当に素晴らしい人だと、彼女たちが証明している。アッサムは最初から最後まで、ダージリン様の背中を見つめる以外、何もすることがなく今まで来てしまった。自らその場所にいることを望んだのだ、仕方のないことだろう。
「アッサム様がお花を渡したとき、ダージリン様はそれまでで一番、嬉しそうでしたわ」
「そう?そうは見えなかったけれど」
「ずっと、ダージリン様はアッサム様をチラチラ見ていましたもの。だからお傍に座った方がよろしかったのに」
「気のせいよ、ローズヒップ」
何が言いたいのか、ちょっと唇を尖らせているその頭を撫でて、部屋に戻るとその場を後にした。途中、使わなくなった飾りつけのゴミが固まっているところに、そっと紙袋を置いた。3年生の後姿がチラホラと見える。ダージリンは一番に食堂を後にしたから、姿は見えなかったが、真っ直ぐに寮に戻れば、そのうち視界に飛び込んでくるかもしれない。

思わず、寮とは反対へと足を踏み出した。にぎやかな食堂の光に背を向けて、紅茶の園へと続く狭い道を選ぶ。秋に咲く薔薇の蕾すら見えない棘と葉。小さな灯りに照らされて、夜風に耐えているようだ。

この場所でダージリンの横に並んでみて、すぐに追いつけないと悟った。あの時、ダージリンの横に並ぶことができないと分かった瞬間、多くの諦めがアッサムの身体に降り注いでいたのだろう。

他愛無い友情を築き上げることも、憧れることも。


淡く想うことも。


彼女の正面に立って、彼女の歩む道の邪魔をしたくはない。そう思った。黒い十字架を背負い続ける限り、邪魔をしたくはない、と。

「………煩わしいわ」

残像が見えて、ため息で吹き消した。この場所は落ち着ける場所ではない。
考えなくてはいけないことなど、本当はもうないのだ。
あるのは、諦めたことへの未練だろう。
そして、諦めることへの未練でもある。
いや、諦めることで手に入れる場所は、いつだって変わらない。
ここから始まった、ダージリン様の背中を見つめる、その場所に戻れるのだ。

全てを失うよりは、自分にとって心地のいい場所で、あと半年を過ごした方がいいに決まっている。


全てを失うよりは、ずっといい。
ダージリンはきっと、なぜだと問い詰めてくるだろう。友達ではないのか、と。なぜ、隣を歩かないのか、と。ダージリンが歩幅を合わせたいと願っているのに、なぜそれを許してくれないのか、と。

想いは同じではないのか、と。


想いは同じでも、想う彩は違う。



あらゆる“なぜ”にアッサムはきっと、ろくに答えられずに俯くだけになるだろう。
“ダージリン”と呼んだのは、気の迷いでした。そう言えば、穏やかな目は吊り上がるに違いない。それはダージリンを傷つける言葉だと分かっている。
それでも、ダージリンが望むアッサムをあと半年演じることをしても、いずれ、小指から腕に伝わり、胸を、“心”を突き刺す痛みで、アッサムは立っていられなくなるだろう。



ダージリンを想う気持ちが痛い



「……痛いわ」
言葉にすると、頬に雫が当たった感触がした。
雨だろうかと空を見上げる。
一面の星空。
夜の海は街の光にさえぎられることなく、キラキラと輝いている。
空ではない場所から雫が零れるそれは、頬を伝って、左の小指に落ちた。


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Date:2016/04/12
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