【緋彩の瞳】 零れ落ちた想いは END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

零れ落ちた想いは END

紅茶の園から出て、とにかく静かな場所を目指した。
歩いている間も、ずっとずっと頬を濡らす雫がアッサムの視界を遮ろうとする。
時間外で止まっている噴水の傍を通り、学校外へ続く裏門へと向かった。


「アッサム様~~~」

痛みを消してくださいと乞うために、教会に歩いて行こうか。そんなことを思っていると、
少し離れた場所から、ローズヒップの声と走ってくる靴音が近づいてくる。




「………や~っと見つけましたわ!先輩方がアッサム様は寮に戻られていないっておっしゃるから、もう、あちこち探しまくりでしたわ」
思わず雫を拭おうとしたが、その動作をせずともあたりは暗い。元よりその動作で気づかれることを考え、アッサムはポケットのハンカチを手放した。
「何か御用?」
「大事なもの、お忘れでしたわ」
「………あぁ」
その存在はもう、消し去ってしまっていた。副隊長として花束を贈呈して気持ちをそこで終わらせてしまっていたからだろう。アッサムとしてダージリンに何かをプレゼントしようという気持ちが、あの場にはなかった。それに今更もう、アッサムには要らないものなのだ。彼女の手元に渡ることなんて、考えられない。元より、渡すだけでは済まされるはずもない。ただ、今は、あらゆる質問攻めに答えを用意するために、時間を稼がなければならない。
ダージリンは、待っているだろう。今日と言う日付が変わろうとも、絶対にアッサムのことを待っている。携帯電話を部屋に置いてきているし、部屋にいないことを知れば、探されるかもしれない。いっそ逃げ回り、嫌われてしまえば。だけどダージリンは嫌ってはくださらない。何もかもの行動のすべては、彼女を傷つけるだけだ。

だから、やんわりと戯れが過ぎたと、やっぱりあの場所に戻りたいと、近くて遠い場所が互いにいいと、お願いするしかない。それが傷を深くしない最善。一歩踏み出した気の迷いを許して欲しいと乞うしかない。

「アッサム様?」
「それ……あげるわ、ローズヒップ」
声が少し掠れ、言葉に少し詰まる。彼女はそれを聞き逃してくれなかった。
「………どうなさったのですか?」
「何?」
「ダージリン様が、アッサム様に何かされましたの?」
取り繕うことなどすでに遅い。ローズヒップの両手が濡れた頬を包み込んだ。
「どうして泣いておられるの?ダージリン様が何をされましたの?」
「ダージリン様?何を言っているのか、わからないわ」
頬に押し付けられる雫。ローズヒップの暖かな手で温められていく。
薄明りに馴れてきた瞳が、いつになく真剣なその表情を捉えた。
「アッサム様を泣かせるなんて、ダージリン様以外おりませんわ」
「……何のこと」
「何をされましたの?」
「何もされていないわ」
「じゃぁ、なぜ泣いておりますの?」
「…………それは」

なんでもない。卒業が近づいてちょっとしんみりしただけだ、そんな適当なことを言おうと思った唇は、言葉を綴ることができなかった。

ダージリンはアッサムを傷つけてなどいない。
むしろ、ダージリンはアッサムの踏み出した一歩を優しく受け入れてくださった。

その想いを踏みにじろうとしているのは、ダージリンを傷つけようとしているのは、アッサムだ。

この想いが彩なく無色透明だったなら
互いに手を繋いで歩を合わせることで、満足できたというのに


「アッサム様」
「放し、て……」
「嫌ですわ」
両の手を払いのけようと袖を引っ張る。温もりが頬から消えた1秒後には、ぐっと抱きしめられていた。
「ダージリン様を、私がぶん殴ってきますわ」
「……退学処分よ」
「構いませんわ」
きつく抱きしめてくる彼女の腕にある紙袋が、髪に当たって音を立てる。
「……ダージリン様は関係ないの。ちょっと、いろいろ考えていた、だけ、だから」
アッサムよりも背の高い、ローズヒップの肩に額を押し付けた。放してくれそうにない。
腕に力が入らなくて、押し返すことができずにいる。
「このプレゼント、お渡ししてお返しされたから、泣いておりますの?」
「いえ……別に彼女にあげたいわけでもないの」
「なぜですの?」
「………ローズヒップ、あなたに関係のないことよ。それはもう不要なものだから、あなたにあげるわ」

このあと、ダージリンからも、“なぜだ”“どうしてだ”と言われる時間が待ち受けている。ズキズキと痛む小指。痛みがまた、胸へと伝ってくる。
勝手に溢れる涙はきっと、痛みを逃がそうとしているだけなのだ。

ローズヒップの体温は高くて、探し回った熱を帯びていた。好きだと言って尻尾を振るように懐いてくる可愛い後輩。この子のように素直な感情をいつでも露わにできるような性格だったら、この痛みも押し付けて、砕け散って、涙して、想い出に変えることができただろう。

「嫌ですわ。私は私のために選んでくださったもの以外、アッサム様から何もいりませんわ」
「……じゃぁ、捨てなさい」
ローズヒップの青いセーターをこれ以上濡らしたくない。背中を抱きしめるその手を掴んだ。ゆっくりと引っ張って引き剥がす。

「嫌ですわ、アッサム様」
「………もう遅いから寝なさい。せっかくパーティが大成功したと言うのに、後味を悪くさせてごめんなさい」
ローズヒップを泣かせてしまうなんて。
何の関係もない、優しさだけでここまで探しに来てくれたと言うのに。
「嫌ですわ」
ぐっと差し出される紙袋。アッサムは受け取ることなく首を振り、背を向けた。
「泣かせて悪かったわ。本当にダージリン様とは何もないの。あなたはもう戻りなさい」
「ど、どこに行かれますの?」
「外に出て、風に当たってくるだけよ」
「アッサム様、私も行きます」
「ダメ。せっかく一人でいたのに、邪魔をしないで。命令よ、ローズヒップ。戻りなさい」
振り返らなくても、悔しそうに拳を作っている姿が想像できる。彼女はこれ以上、アッサムに近づいてこないだろう。

「アッサム様はダージリン様のこと、お好きですわよね?」

ローズヒップの純粋無垢な瞳に映しだされているアッサムの想いは、どんな彩だというの。


アッサムの爪に塗られた、無色透明の彩ではない
ダージリンへと選んだそのマニキュアの彩に近い










「…………えぇ。好きよ、とても好き」








左の小指に落ちた涙
はらりと言葉に出した想いは、この場所に捨ててしまおう。

学校の敷地を出て、痛みのない右側に足を踏み出した。このまま船尾まで突き進み、船から落ちてしまえば、想いどころか身体もなくなってしまう。
そんなことを想いながら。


ローズヒップの走り出す靴音が遠ざかっていった。




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Date:2016/04/12
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