【緋彩の瞳】 涙の海に沈む想いは END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

涙の海に沈む想いは END

ローズヒップ、ルクリリから提出された各隊の編成を元に、昼からはまず、新しい部隊での隊列訓練が行われた。チャーチルを初めて動かす隊員のため、ペコをマチルダⅡに乗せ、ダージリンが装填手の席に付いた。ペコ以外はみんな、初めて乗るチャーチルに顔を引きつらせている。アッサムはキャンディの車両に乗っている。キャンディの車両の砲手は実戦経験のない1年生に変更をされたから、その指導のためだ。いつもは座らない場所に腰を落ち着かせ、ぎこちなく動くチャーチルの激しい揺れは吐き気を引き起こそうとする。ルクリリを見上げても、顔が引きつったまま。
「ルクリリ、キョロキョロするだけ?あなたが引っ張るのよ」
「は、はい!」
慌てて無線を掴み、緊張した声が飛ぶ。
「全車、単縦陣で前進のまま。クルセイダー部隊、4号!乱れないように!」
『は、はい!』
操縦手変更になった車両だ。頻繁に操縦訓練をしていても、空気が違うと隊員はぎこちなくなってしまうようだ。ピリリとした空気がチャーチルを包む。
ダージリンが初めてこの車両に乗った時、模擬試合ではあったが、こうやって隊長が装填手になって嫌な気分だった。味方車両が次々にアッサムの砲撃にやられて行き、特大の溜息をずっと浴びせられ続けて、血を吐きたい気分だったのを覚えている。今のルクリリもそれを乗り越えなければならない。無論、いじめたいわけじゃないのだ。アールグレイ様のように、代わりに誰かを引き摺り下ろすためのものでもない。
「右90度旋回、横陣に変更」
チャーチルが激しく揺れる。緩やかに踏むブレーキを相当強く踏んだのだろう。
「…………吐きそうよ、ルクリリ」
「も、申し訳ありません!」
「チャーチルが隊列を乱してどうするの?」
マチルダⅡで身体が覚えた動作をすべて、一度、頭から消してしまわなければならない。1日で済むことではないだろう。3月までに完璧になればいい。

こうやって後輩の指導を訓練のメインにするということは、アッサムと一緒にチャーチルに搭乗する機会がかなり減ると言うことなのだ。いや、もう本当にわずか。アッサムの背中を眺めながら、すべての信頼を預けていた。黒森峰との戦いで、最後の一騎打ちで負けたのも、アッサムでダメなら仕方がないと思えた。この鈍足チャーチルで、よくあそこまで持ち込んだ。前夜に訪れたアッサムの部屋。彼女が淹れてくれたアッサムティーはペコが淹れてくれるものよりも、ずっとおいしかった。
「……ルクリリ、喚くのはおやめなさい。耳が痛いわ」
無線での指示をすれば、隊はすぐ乱れる。何度もそれを繰り返しては、次第に声が荒ぶっていく。
「す、すみません」
「隊長の仕事は喚くことではないわ。指示もタイミングが大事よ。全員の足並みが揃う前に次の指示を出せば、乱れるのは当たり前でしょう?」
「……はい」
履帯が小石を潰し進む揺れに身体を預け、お茶を飲むのもままならないわ、と思った。アッサムみたいにルクリリに紅茶を掛けられたくはない。
「ルクリリ、落ち着いて、もっと頭を使うの。命令された側の立場になりなさい。その人の心理を考えなさい。そして、相手に自分が何をしようとしているのか、読んでもらえるような関係を築くの。自分本位な命令ばかりでは、理解されず、誰も付いてこないわよ」

その言葉を言い聞かせる必要があるのはダージリンだ。自分本位なだけの感情は、アッサムが何を望んでいるのかなんて、考えたりしなかった。立場を押し付けたくないと、その言葉そのものが、すでに押し付けのようなものだった。

“ダージリン様”
彼女が後ろを歩きたがるのなら、なぜ待たなかったのだろう。なぜ、アッサムに合わせようとしなかったのだろう。それをよしとすることで、アッサムは離れないと信じていた。
ずっと信じていられたのに。
アッサムはずっと、あの距離以上は離れて行かないと。


「ダージリン様もアッサム様のお心なんて、まるで考えていらっしゃらないようですし。そもそも、ご自分の感情が何なのかお気づきになっていないんじゃないですか?」
装甲に跳ねた小石の音のリズムの狭間に、ルクリリがはっきりとダージリンにだけ伝えてくる。

「……………」

睨み付けようと顔を上げても、彼女はキューラボにすぐに身体半分を出した。無線でテキパキと指示を出し、ローズヒップが元気な声で返事をする声が響く。
「鈍足チャーチル、もっとスピードを出せるはずよ。急停止を恐れてアクセルを踏みたくないのなら、操縦手を辞めてしまいなさい!」
激を飛ばす声に、操縦手が応えるように加速させていく。安定してきたスピードは、乗り馴れた心地よさを次第に取り戻していった。





Side:Another




「……何があったの、ローズヒップ」
食堂の片づけも終わり、寮に帰ってからしばらくして、アッサム様の忘れ物を届けてくるといなくなったローズヒップがやっと戻ってきた。
「アッサム様が泣いていらしたの」
「え?……は?」
「ダージリン様が泣かせたに違いないですわ」
泣いているのはローズヒップの方なんだけど。幼稚園児みたいに目を腫らしたローズヒップがゴシゴシと袖で涙を擦るから、落ち着いてとその手を掴んでベッドに座らせた。
「えっと。ペコ、何か知ってる?」
「いえ……でも、アッサム様はここのところ様子がおかしいし」
「喧嘩しているの?」
「そんなことありませんよ。喧嘩なんて一度もしたことありません。様子がおかしいって言うのも、ほら、それはあれで……」
ローズヒップが届けたのは、ダージリン様へ渡すはずのアッサム様が用意したプレゼントだった。お忘れになったのか、捨ててしまったのか、ゴミをまとめておいていたところに隠すように置かれていた。ローズヒップが見つけなければ、知らない人が捨ててもおかしくないような場所。
「ダージリン様には渡さない、あげるって、あのプレゼントを押し付けてきましたわ。アッサム様は泣きながら、お外に出て行かれたわ」
「……じゃぁ、きっとお二人の間に何かあったんだ」


何か。

アッサム様がご自分のお気持ちを、素直にダージリン様にお伝えしたとは思えない。想いに耐えられなくなれば、アッサム様の性格なら、諦めるか、ひたすらに隠し通すはずだろう。だから、想いをこめたプレゼントを渡せずに捨てたのではないだろうか。
「ちゃんとダージリン様にお渡しして来ましたわ。アッサム様を泣かせたのはダージリン様ですもの。アッサム様を泣かせるなんて、ぶん殴ればよかったんですわ」
鼻水を垂らすから、ペコが慌ててティッシュで抑え込む。幼稚園児の背中を摩りながら、こうやって何歳になろうとも感情を露わに出せるローズヒップを、アッサム様もダージリン様も羨ましがっているに違いない。だから、お二人はこの子を溺愛しているのだ。
「ダージリン様は受け取ってくれたの?」
「当たり前ですわ」
「そっか」
「いい加減、ダージリン様もアッサム様に大好きだから付き合ってと言えばいいんですわ。好きなら抱き付けばいいんですわ。きっと好きな子をいじめる男子みたいなことを、アッサム様にしたに違いないですわ」



……
…………



「…………は、は、はは、ははは。ダージリン様の方がアッサム様をお好きっていうの、そんなに露骨には見えませんでしたけど」

ペコが引きつったように笑った。あえて口に出さないで確かめ合わなかったことなのに。
“そうかもしれない”、っていう想いはあった。なんとなく、夏の肌がいつのまにか消える位の不確かなものだったけれど。意図的に空けられたあの近くて遠い距離。

「ペコはいつも一緒にいるのに、何を見ていたのでございますの!ダージリン様は最初からずっと、アッサム様“激ラブ”ですわ」

それは違うと思うって言葉を出すにも、“違う”という根拠もない。何だかローズヒップが言えばそうであるかのように聞こえてしまう。困ったペコの眉。ルクリリも困っている。

「……アッサム様の想いは、ダージリン様には届かないと思う」
「アッサム様はきっと、距離を縮めたりしないでしょうね。今を失いたくはないとお考えになるでしょうし」

でも、あのマニキュアはダージリン様に渡ったのだ。いい加減、ダージリン様もアッサム様のことを想う気持ちと向かい合う時だと気が付いてくれたらいい。聖グロの生徒でいられる時間は多く残されていないのだから。

「メンドクサイ人たち……」
「色々とあるんですよ。でも、アッサム様が想いを手放してしまえば終わりです」
「ダージリン様がアッサム様の想いに気づくっていうのも、期待できないし」
「気づいたところで、ダージリン様はご自分からは何もできませんよ。そう言う性格です」
つまり、高飛車って言いたいのだろうか。
ルクリリはローズヒップの隣に腰を下ろして、散らばるティッシュを丸めてゴミ箱に投げた。
「………可愛そうなアッサム様」

想うことが、苦しい立場に立たされてしまうなんて。
アッサム様は守りたいのだろう。
失うことよりも、守る方を選ばれたのだ。
触れ合えることができなくても、離れずに済む絶妙の距離のまま、最後までその場所にいた方がいいと。

「アッサム様は、ダージリン様のことをお好きですわ」
「そうね」
「ちゃんと聞きましたもの。好きって、とても好きって」
「とても好き、か。アッサム様は、ローズヒップに嘘を吐く人じゃないものね」

アッサム様が一晩泣き濡れて、その想いを身体から綺麗に洗い流してしまいませんように。




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Date:2016/05/03
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