【緋彩の瞳】 Your Wish ⑧

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

Your Wish ⑧

「……騒がしいわね」
一般診察の受付は時間外のはずだ。救急外来と書かれているそこの診察室では、ようやく点滴も終わって、まだけだるく頭の痛いのを抑えながら診察を受け、脱がされた制服に着替え終わったところ。
「身内の方でも運ばれたのでしょう?私は学校に電話をしてきますので、火野さんはその、お迎えに来てくださると言う方に連絡をしておいてください」
シスターは珍しく、普通のサマードレスだった。あの、いかにもTAですっていうシスターの服ではなかったのは、もう帰ろうとしていたからかもしれない。授業のない午後、先生も早く帰るから、予定があったとしたら申し訳ないことをしてしまった。
「……レイちゃん、うちの亜美のお友達よね?」
「あ……亜美ちゃんのお母様?」
診察をしてくれた先生に言われて顔を上げると、亜美ちゃんのママだった。ぼっとしていてまともに顔を見ていなかったせいで、気づかなかった。
「そうです。レイちゃん、家に帰ったら兎に角しっかり栄養を取って、身体を休めてくださいね」
「御迷惑…おかけしました」
「いいのよ。この暑さだから、よくあることよ。それに、相当疲れが溜まっているみたいね。うちの亜美でよければ、相談をして、すっきりしたらいいわ」
「……はい、そうします」
3日間は絶対に安静にしておくようにと言われて、小さく頷いた。心配しなくても、そんな元気はやってきそうにない。
「そうそう、騒がしくしてごめんなさいね。どこから嗅ぎつけたのか、亜美が来ているわ。病院からは誰がどこに運ばれたなんて、漏れないはずだけど。学校内で噂が広がったのかしら」
「………亜美ちゃん?」
救急車で運ばれたらしいから、噂が噂を呼んで亜美ちゃん達の学校まで行ってしまったのか。それにしても、倒れてから一体何時間経ったのか。
電話せずとも、送ってくれる人間とは連絡が取れそうだ。亜美ちゃんがいるなら、美奈やはるかさんもいるかもしれない。

「「レイちゃん!」」
シスターと一緒に診察室から出ると、ものすごい大声で名前を呼ばれた。
「あら、火野さんのお友達ね」
「何か、噂が広まった……そうです」
「うちの生徒から漏れたのでしょう。よかったわね、心配して駆け付けてくれる人がいて」
そっか。そう考えれば、心配してくれる人がいることは嬉しいことかもしれない。
「レイちゃん、大丈夫?倒れたって聞いてさ」
「美奈……ごめん、もう平気」
「顔色悪いわ。ママはなんて言っていた?」
「安静にしておけばいいって。本当、ちょっと疲れていただけだから」
心配掛けてごめんね、って笑ってみせると、美奈も亜美ちゃんもほっとしたように胸をなでおろしてくれた。
「先生、私、この人たちと帰ります。迎えも連絡がつくので」
「そうですか。学校にはもう報告は終わりましたので、完全に良くなってから、一度、学院長に挨拶に行くようになさい」
「はい」
「では、私は帰りますが、あとはお友達にお任せいたしましょう」
「御迷惑おかけして、申し訳ありませんでした」
深く頭を下げると、シスターは頭をそっと撫でてくれた。
「素直でよろしい」
「……はい」
レイの鞄を美奈に預けて、シスターは先に帰った。





「ごめんね2人とも。はるかさんたちを呼ぶよりもタクシーの方が早いだろうし、乗ってく?」
レイは立っているのがまだ辛くて、長椅子に腰を下ろした。
「いや、……みちるさんが来ると思う」
美奈は気まずそうに立ったまま、亜美ちゃんに“ね?”なんて聞いてる。
「……は?」
どういうことだろう。
「いや、あのさ、なんか東京に戻ってきているみたいで、亜美ちゃんから情報が入った時、たまたま電話していたんだ、みちるさんと。それでその、漏れ伝わって……」
「ごめんなさい、レイちゃん。私……2人が喧嘩しているなんて知らなくて、その、みちるさんに十番病院にいるらしいって、つい」
亜美ちゃんは美奈をかばうように、必死になって謝ってくれる。どうやら、さっき外で騒がしくしていたのは、とっさにみちるさんに伝えたけど、かえってレイを怒らせやしないか、なんてことでもめていたようだ。
「………そっか。気を遣わせて悪いわね。別にいいわ」
嫌とも、いいとも、なんとも云えなかった。
ただ、みちるさんにあれやこれやと倒れた事情を説明するほど、今のレイには元気がない。
頭を抱えるようにため息をつくと、とれない頭痛が少し強さを増したようだ。



いくつもの信号に引っ掛かってイライラしながらタクシーでようやく病院に着いた。サマードレスの女性がちょうど自動ドアから出てくるタイミングと重なり、その開いたドアにみちるも身体を差し入れる。
「あ……海王みちるさん?」
「えっ?」
名前を呼ばれて、みちるは自動ドアの向こうを振りかえった。
「深美の娘の海王みちるさん、でしょう?」
なぜママの名前を出すのか、怪訝になりそうな顔を作る直前に、ママの話を思い出した。
「あ、莉緒……TAの先生ですか?」
「えぇ。火野さんを迎えに来てくれたのかしら?」
レイを病院に連れて来てくれたのは、この先生のようだ。
「レイが御迷惑をおかけいたしました」
頭を下げた後、しまった!と心の中で叫ぶ。こんな保護者みたいなことをしたとレイが後で知ったら、面倒なことになりかねない。
「いいのよ。こちらこそ、今日は深美が娘を連れてくるからってお茶をするはずだったのに。すっぽかしてしまったわね」
「いえ」
「深美は?」
「喫茶店においてきました。レイのことは伝えていません。その……勝手を言って申し訳ないのですが、母親にはレイが倒れたことを秘密にしていただけませんでしょうか?」
みちるは真剣なまなざしで先生にお願いをした。
「わかりました。お約束しましょう」
「あと、私とレイが知り合いだということも、母親は知らないんです。事情があってまだ言えないんです」
「そう。そう言えば、火野さんは驚いていたわね、あなたが深美の娘だと知って……。あら、かえってごめんなさい、私、火野さんに言ってしまったわ」
みちるは謝られる理由はないと首を振り、今からでも母親に会うという先生に本当に、レイが迷惑をかけたと再度頭を下げる。
「早く、火野さんの元に行ってあげて」
「失礼いたします」
曇りガラスの自動ドアをもう一度くぐる。
レイより先に、赤いリボンの美奈子の姿が見えた。

「レイ」
赤いリボンを目指して歩くと、そのヒールの音に気付いた美奈子がそっと場所を譲った。
そこには青白い顔をしたレイが、力なく座っていた。
「……みちるさん」
「大丈夫?」
しゃがみ込んで、紫色の唇を指でなぞり頬を包む。大丈夫、と伝えるように上下した目。
「よかったわ。怪我はないの?」
「ないわ」
「そう……」
頭に包帯を巻いていることもなく、ひとまず入院する感じでもないのでため息が漏れる。
「もう、帰ってもいいみたいよ。みちるさん、レイちゃんをお願いね」
「えぇ。ありがとう、美奈子、亜美」
「とりあえず、3日間は安静にするようにってさ」
「わかったわ」
大人しく文句も言わないレイの様子だと、しばらくそっとしておいた方がいい。頭を撫でながら、美奈子と亜美は先に帰ると言うので、レイの鞄をもらい、見送った。
少しふらついているレイを抱くようにタクシーに乗り込み、何も言わないレイをマンションへと連れて帰る。
何も聞かず、何も言わず。落ち着いたら自分から言ってくるだろうと、そう信じるしかない。
「レイ、食欲はある?」
「ない…」
「まずは身体を治して」
服を着替えさせて、ダブルベッドにレイを寝かしつかる。虚ろで生気のない瞳。
瞼の上にキスをする。
「みちるさん」
「なぁに?」
「鞄の中に、古いスコアがあるの。それ……3日間で完璧にして」
レイはけだるい身体をベッドに落ち着けると、目を閉じて呟くように言った。スコアってなんだろうか。
「……何のこと?」
「説明は……3日後にするから。お願い」
「……わかったわ」
話したくはない、と言いたげに頭まですっぽり布団をかぶってしまう。
スコアって、もしかしてあの、ママが言っていた先輩の曲とかっていうものだろうか。
みちるはレイの髪にキスを落として、ベッドルームを後にした。




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Date:2013/12/28
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