【緋彩の瞳】 ひとひらの想いは ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

ひとひらの想いは ①

「ただいま戻りました~~」
「ペコ!!!」
「アッサム様は?!!!アッサム様はご無事でしたの?!!!」
訓練時間が終わる頃を見計らって、ペコは食事をアッサム様の元に届けた。シャワーを浴びると言うので部屋を出てきた。そのままの足で自室に戻ると、3人部屋なのにやたらと人数が多い。キャンディ様やバニラ、クランベリー、整備科長や、整備科クルセイダー担当長までいる。

「怖いです、怖いです。近い、近いです!」
ネクタイを掴んで振り回されそうになっているのに、誰もローズヒップを止めようとしない。
「大丈夫ですから、離してください」
「大丈夫ですの?ちゃんと、元気ですの?!」
元気じゃないから、休んでいると分かっていないのだろうか。
「大丈夫ですから。熱があって3日間は絶対安静って、それだけです。ちゃんとお薬飲んでいれば、元気になりますよ」
「嘘吐いたら、トルクレンチで殴りますわよ?」
どうしてローズヒップに殴られなきゃいけないのかって思うけれど、整備科長は許可すると言わんばかりに頷いている。
「本当に大丈夫です。寝ながら、私に仕事押し付けるくらい、ちゃんとアッサム様はアッサム様でした」
必死に無事をアピールして、何とか“良かった”と言うホッとしたため息を吐いてくれた。アッサム様が倒れた時に、本当にローズヒップがいなくてよかったと心から思った。鼻息荒くして、原因と思われるダージリン様を殴りに行ったに違いない。
「昨日も凄く顔色が悪かったもの。ずっと無理をされていたのね」
「新しい編成のことで、色々と気を遣わせてしまっていたものね」
「私たちのせいかしら」
「うちの隊が迷惑かけたからかしら」
キャンディ様たちはみんな、自分たちのせいだと思っておられるけれど、ルクリリもペコもローズヒップも、それよりもっとすさまじく大きな存在のせいだって知っている。
「アッサム様がお休みされている間、精一杯頑張りましょう。見違えるほどになっていれば、きっと喜んでくださるわ」
「そうね。ダージリン様お一人に負担をかけさせられないですし。みんなで隊を盛り上げましょう」
「そうね、アッサム様のために」
「ダージリン様のためにも」
今からでも戦いに行くような雰囲気が、3人部屋に広がった。
「私が部隊を引っ張らなくても、アッサム様という後光だけでこんなに団結するなんて」
ルクリリは腕を組んで、変なところに感心している。キャンディ様が哀れむため息を漏らした。
「アッサム様の代行を任されているのでしょう。アッサム様が毎日されているお仕事がどれほど大変か、身をもって知った方がいいわ」
「そうですよ、さっきまで大変でした」
キャンディ様の方が、性格的に向いているように思われる。ルクリリとローズヒップなんて無理に違いない。
「では助けてくださいませ、キャンディ様」
「……あなたねぇ」
「ほら、みんなもお願いして!」
ルクリリは上手い。だから次期隊長として選ばれるのだろう。まるでダージリン様とは違うし、アッサム様と似ても似つかないけれど。アッサム様はここにいる全員が束になっても敵わないし、ダージリン様はもはや、宇宙人のような……神様のような存在。


早く、元通りに……じゃなくて、お2人で一緒になって想いに向き合ってもらいたい。


「ペコ」
その次の日の夜、食器類を片付けてアッサム様の部屋を出たら、ダージリン様が隣のお部屋から顔を出されていた。
「はい」
「アッサムは?」
「あまり、お食事は取られなかったみたいですね。今はお薬を飲んで、眠っておられます」
ペコの手に乗っているお皿には、半分残ったスープとサラダ。フルーツは全て食べたみたいなので、明日はフルーツを多く持って行かなければ。
「そう」


こんな風に不安そうに瞳を伏せるなんて、らしくもない。
いつも自信満々、背筋を伸ばして何事にも動じない人だった。
アッサム様が傍におられる時は、いつもそうだった。


「いいんですか、ダージリン様。私はアッサム様が大好きですから、看病は喜んでさせていただきますが……」
「あなたが一番落ち着いて対応ができるから、任せたのよ。ローズヒップだと気が休まらないでしょう?ルクリリも余計なことをして、大事なものを壊してしまいそうだわ」
ダージリン様は聞きたいことを分かっていて、そうやってはぐらかす。それもまた、いつものダージリン様らしくない。嫌なところを突いてくるなって言わんばかりだ。心の余裕と言うものを感じられない。ルクリリが言うには、昨日と同じで今日の訓練もピリピリしていたそうだ。元より、アッサム様がおられないと言うことで、隊員はみんな動揺していたから、原因が誰なのか分かっているダージリン様は、ご自分に苛立っておられたのだろう。

アッサム様が傍にいなければ、ダージリン様はダージリン様として立っていられないと、自らが証明されたようなもの。

「じゃなくて、ダージリン様はクラスメイトで隣の部屋にいて、何より隊長ですよ?隊員が倒れても、1年生に面倒を看させるなんて、らしくありません」
「余計な気をアッサムに使わせたくないの。嫌ならいいわ、アッサムのことだから、自分のことは自分でやるでしょう」
それでも、弱っているアッサム様の傍にいられない事情って何だろう。
なぜもっと、ご自分の気持ちについて深く考えないのだろう。
「ダージリン様はアッサム様のことはお好きですか?」
「………ローズヒップも聞いてきたわ」
「お好きですか?」


左右に揺れる瞳。
長い睫が動揺を隠しきれていない。
こんなダージリン様を初めて見た。



左手で右の手首を握りしめて、深く息を吐かれて揺れる前髪。



「…………嫌われているのに、好きも何もないわ」
「アッサム様はダージリン様のことをお嫌いなのですか?」
「そうでしょうね」



きつく拳を作る右手は震えていて
それを止めようとする左手



好きだと泣く右手
それがわからない愚かな左手


ローズヒップが言い切っていたあの言葉。
きっとローズヒップの考える想いよりも、ずっとずっと深い想いがそこにある。
今までペコはダージリン様とアッサム様、3人でいることもたくさんあったけれど、こんなにはっきりと見えたりしなかった。
ダージリン様から離れたのは、間違いなくアッサム様の方だ。ペコ達3人以外には、誰にも気づかれたりしない、わずかな想いの違いがそこにはある。



「どうしてそう思われるのです?」
「彼女に聞いて」
「アッサム様はダージリン様が好きです」





………



「……憶測で、決めつけたような言葉を使うのはおやめなさい」



わずかに震えた言葉は、睨み付けるには頼りない瞳のそれと変わらない。

隊長ではない、1人の人間としてのダージリン様の表情。
初めて見た。

「いえ、ダージリン様のことが好きです。ローズヒップに伝えたそうです。アッサム様はダージリン様のことがとても好きだと告げて、泣いておられたんです。憶測ではありません」


その“好き”という言葉の意味を、ダージリン様はどうお考えになるのだろう。
余計なことをしている自覚はある。
でも、余計なくらいがちょうどいいこともある。
ルクリリに言わせれば、むしろ、まだまだ。

「……好きって言っておきながら、なぜ……」
「それこそ、私が憶測でペラペラと申すわけにはいきません」



震える右手を抱きしめて、アッサム様のお部屋のドアを苦しそうなため息と共に見つめた。




ダージリン様の右手は、アッサム様を淡く想っておられる。
言の葉に想いをこめて、きちんと届ければいいのに。
淡く広がるその想いを集めて、アッサム様に届ければいいだけなのに。




「いいわ。……とにかく、良くなるまでは、ペコに任せるわ。アッサムのためよ」


気になって仕方ないはずなのに。
心配で、心配で、仕方がないはずなのに。


「ダージリン様の意気地なし」


ペコはベーっと舌を出すと、逃げるように廊下を走って階段を下りた。

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Date:2016/05/03
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