【緋彩の瞳】 ひとひらの想いは END

緋彩の瞳

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ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

ひとひらの想いは END

月曜日、火曜日と、アッサム様はお休みされた。水曜日も、試合まで毎日行われる車長ミーティングに参加していた。もちろんただ、座っているだけじゃない。ルクリリが前に立たされているのだ。アッサム様が持っていたデータをペコが整理したものを持ちこみ、いろんな人を巻き込んで、3人でまとめた作戦をわかりやすく車長達に伝えなければならない。ダージリン様からは荒さを次々指摘されて、その都度言葉に詰まる。そんな時に、いてくれるだけでホッとする存在のアッサム様の姿を思わず探してしまうのだけれど、ダージリン様のお傍には誰も座っていない。
表面的には、ダージリン様は何も変わらない。自信満々に堂々と優雅なダージリン様は、存在するだけで周りに薔薇が咲いたかのような方だったのに、今のダージリン様は、ダージリン様ご自身を演じているような様子だ。周りはどれくらい、そのわずかな違いを見抜いているのだろう。いや、アッサム様が傍にいなくてお休みされていることを、純粋に心配されていると言う風に見えているのだろう。


わざと鍵を渡して逃げたあの後、何かあったのだろうか。結局、鍵はペコに戻って来て、完全に治るまでのお世話を改めて命令してきたそうだ。意気地なしって言ってやったとペコは報告してきたけれど、その程度の攻撃は、ダージリン様には効果がなかったのかもしれない。

なかなか、敵も手ごわい。
まぁ、聖グロ1のメンドクサイ人だから仕方がない。
もっと、もっとチクチク刺さなきゃ。

午後の通常授業が終わり、放課後に隊長室を訪れた。修正に修正に修正をした4回目の作戦案と、明日の訓練計画書を提出しに来たのだ。
「ダージリン様」
アッサム様のいないこの時間、ダージリン様はおひとりだったようだ。部屋に入り一礼をする。
「あぁ、ルクリリ。持ってきたものを置いたら、出て行ってもいいわ。明日でいいから、整備科長に、そこにある書類を渡しておいてくださるかしら?」
「はい。あの、お茶をお淹れましょうか?」
傍らに誰もいないからなのか、紅茶の匂いがしない。
提出書類を机の上に置いて、指差された書類を鞄に入れた。
「ありがとう、お願いするわ」
「アッサム様、明日あたりから復帰になりますか?」
「だといいわね」
「知らないんですか?」
「ペコに任せているわ」
「何故です?」
「気を遣わせるからに決まっているでしょう?」
「そうですか?」
ペコが聞いた言い訳と同じ。ルクリリはアッサムティーの茶葉を選び、ティカップを棚から出した。シュンシュンと音を鳴らすポット。身体が覚えているお茶の淹れ方。
「良ければ、あなたもどうぞ」
「はい」
ダージリン様がソファーテーブルに移動してくださったので、そこにティカップを置いて、ルクリリはいつもアッサム様が座っておられる場所に腰を下ろした。
向かい合ってダージリン様と座るなんて、あまりない。
「ところで、この、DA作戦っていう名前は何を意味しているの?」
作戦案の書類を持って座ったダージリン様は、首をかしげて聞いてきた。
「頭文字です」
「何の?」
「我らがダージリン様とアッサム様のです」
ミルクを入れたアッサムティーの香り。ダージリン様は一口飲みながら聞いたせいで、ルクリリの言葉に吹き出しそうになっておられる。
「………みほさんくらい、わかりやすい作戦の名前にしたらどう?」
「隊員みんな、この名前でやる気満々です。これ以上わかりやすい名前もないと思いますが」
「名前と作戦内容に、何の関係があるの?」
「整備科も情報処理部も含めて、やる気を出すために、多数決でこの作戦名になったので」

頭が痛いと言わんばかりの、盛大なため息。アッサム様が傍におられない間のダージリン様のため息量は、気球レベルではないかと思う。空気よりだいぶ重いから、空なんて飛べない。むしろ、地上にめり込んでいくくらい。

「提案したのは誰?」
「みんなで決めました」
「………まぁ、いいわ」
「みんな、ダージリン様とアッサム様を喜ばせたいって、一生懸命です。今もローズヒップが整備科と色々やり合っているところです。情報処理部はキャンディ様やバニラと話し合いをしています」
「アッサムが1人でしていたことを、みんなで手分けしているのね。私は3人を指名したはずだわ」
ダージリン様は、いつも傍らにおられたアッサム様の頭脳明晰さと、人望の厚さがどれほどのものか、分かっておられるのだろうか。あまりに長く傍にいすぎて、それが当たり前だと思われているんじゃないだろうか。
「お言葉ですが、アッサム様の能力は私たちが束になっても追いつけません」
「まぁ、当然ね」
自慢げに鼻を上げておられるが、ダージリン様の所有物じゃないのに。
アッサム様はダージリン様のために働いておられたのだけれど、そのあたり認識されていらっしゃるんだか。

アッサム様は、ダージリン様のために一生懸命だった。
後輩の面倒も他の部との関係も、あらゆるすべてのことはダージリン様のため。
本当に、アッサム様はいつもダージリン様のことを想っていらした。

「ダージリン様が羨ましいです。アッサム様のような優秀な方が傍にいらして」
「そうね」
「そろそろ、ご自分の感情をお伝えした方がいいですよ。アッサム様は私たちに仕事を任せて、ダージリン様から離れてしまうかもしれません」

ガチャとソーサーにカップが雑に置かれる音が響く。
ジロリと睨んでくる視線は、戦車に乗っている時よりも弱い。
弱いどころか、ルクリリの知っている“ダージリン様”ではない。

「………あなたは何を知っているの、ルクリリ」
「具体的に、言葉にして説明してよろしいですか?」




……



険しくなって行く表情は拒否なのだろう。
無自覚でいらしたはずなのに、ダージリン様の感情はやっぱり変わったのだ。


「おやめなさい。アッサムが部屋に来るわ」
「はい?」
「音が聞こえているでしょう?アッサムよ」

耳をすませば、確かに靴音が響いている。でも、なぜこの靴音がアッサム様だと気づかれたのだろう。



1つしかない答え


「失礼します」
3回ノックの音がして、制服姿のアッサム様が入って来られた。表情もお元気そうだ。
「アッサム様!」
久しぶりに元気そうなお姿。ルクリリは立ち上がり、駆け寄って思わず抱き付いた。
「ルクリリ、迷惑かけたわね。でも後でね。ここは隊長室よ」
ちょっと痩せてしまったような気もするけれど、病み上がりなのだから仕方がない。無理してここまで来たようにも見えない。ちゃんと治したから報告に来られたのだろう。
「ダージリン様、失礼いたしました」
「いいえ。もう大丈夫?」
「はい。大変ご迷惑をおかけしまして、申し訳ありませんでした」
アッサム様はダージリン様に90度頭を下げた。ルクリリに見せる柔らかい笑みとは違って、ダージリン様に見せる表情は、副隊長としてのそれ。
「座りなさい、アッサム。ルクリリ、お茶を淹れて差し上げて」
「はい」
ダージリン様は自分が座っていた場所にあるカップをよけて、隣に座るように仕向けている。素直に腰を下ろしたアッサム様とダージリン様の後姿。久しくこうやって、隣同士に並ぶ姿を見ていなかった。

お似合いなのに。
声に出したくなる。

「ペコにも迷惑をかけてしまいました。ダージリン様の傍に行けと何度も伝えたのですが」
「構わないわ。元より、放っておいてもあの子はアッサムの傍にいたいと申し出ていたでしょうし」
「報告書をまとめて読んでしまいたいので、しばらくお借りしてもよろしいですか」
「お好きにどうぞ。酷い誤字脱字はキャンディが見直しをしてくれていたわ」
ダージリンの茶葉を躍らせながら、ルクリリにチクッと嫌味が飛んでくるのを受け止める。

ダージリン様、何か急に絶好調な声のトーン。
さっきまで半音低かったのに。

何だかんだ、アッサム様と会話するのが嬉しいんだって思えてきて。
もうそれは、“恋”以外の何者でもないってわかっておられるのだろうか。


好き、なんて曖昧なものではなくて















なのだと





「どうぞ」
「ありがとう。ルクリリも、洗濯を押し付けたりして悪かったわね」
「いえ、洗濯機のボタンを押したのは私ですが、その後はダージリン様が畳んでお部屋に持って行ってくださったので。私は特に何も」
そんなはずはない、と首をかしげて眉をひそめるアッサム様。ダージリン様が余計な事を言うなと言わんばかりに睨んでくる。
「それは、ご迷惑をおかけいたしました」
温かいダージリンティーの香り。しっかりと味わいながら一口飲まれる。美味しそうな表情を見てホッとすると、ダージリン様からもホッとため息が漏れた。このため息は空に昇る方の軽やかいものだ。
「ルクリリと何か話をしている途中でしたか?」
「いいえ、何も」
「みんなで手分けしてアッサム様のお仕事を振り分けても、やっぱりアッサム様おひとりには敵わないと、ダージリン様からため息交じりのお小言を」

咳払いを小さく一つ。
ダージリン様はせわしなく、なくなりかけているアッサムティーのカップを揺らしている。

「整備科と情報処理部の協力のおかげなので、私だけではないですわ」
「いえ、みんなアッサム様を慕っておられるから。ね、ダージリン様?」
飲み干したカップをゆっくりとテーブルに置く。どれだけの勢いで飲んでおられるのだろう。まだ、ルクリリのカップの中は半分以上残っているのに。
「ルクリリたちもアッサムが復帰したからと言って、彼女に任せきりにしてはダメよ」
「はい、頑張ります」
空のカップだと言うのに、また手にしようとして。
「何か淹れましょうか?」
「ありがとう、お願いするわ」
アッサム様が気を利かせて立ち上がった。ルクリリも立ち上がり、わざとらしく時計を見る。
「お邪魔になるので、私はそろそろ」
使ったカップを片付けて、2人の時間を作るために早く出て行かなければ。
「あ、そうだ。アッサム様、私もダージリン様を見習って格言の一つでも覚えようと思いまして」
「ルクリリが?」
傍でダージリン様のためにお湯を沸かすアッサム様に向かって、ピンと人差し指を天井に向けてみる。ちゃんとダージリン様に聞こえる声のトーン。


「恋のいいところは、隊長室に向かってくる足音だけであの人だってわかること」


ソファーに座ったままのダージリン様の背中は、微動だにしない。
振り向いて睨んでくることすらせず、あれはきっと固まったままでいらっしゃるのだ。

「隊長室?それは、……階段の間違いじゃないかしら?」
アッサム様と言えば。眉間にしわを寄せてルクリリの言葉に冷静に突っ込んできて。
「そうでした?でも、あながち間違えていないですよ?」
「間違っているし、格言でもないと思うわ」
ルクリリの言いたいことを分かっておられない様子だ。
でも、ダージリン様の背中からは、ひしひし感じている。

止めて欲しい、って。

「そうなんですか?では、”恋は歩けない時は、這ってでも進む“とかどうですか?」
「それはドイツのことわざ。いくらチャーチルが鈍足でも、そんなに遅くありませんわよ」
「“恋はお茶を一番おいしくさせる”」
「“恋と噂話は、お茶を美味しくさせる”よ。フィールディングね。でも、お茶を一番おいしくするのは、淹れ方よ」
流石、アッサム様もダージリン様と長い付き合いだから、何でも知っておられる。
「美味しく飲んでもらいたいという気持ちは?」
「それもあるけれど。だからこそ、淹れるときの手間を惜しまないことね」
ダージリン様のために、同じ名前の茶葉をを選んだアッサム様。
お湯の中で広がる葉っぱ。

じわじわと広がる彩。

「ここぞと言う時に、無線でみんなに伝える格言ではなさそうですね」
「ルクリリはいったいどんな戦術を立てているの?恋愛小説を読みながら考えたのかしら?」
頭をポンポンと叩かれるから、ルクリリは笑って見せるだけ。
「作戦名にちなんで、色々本を読み漁ったんです。では、私は失礼します」
スキップでもしたい気持ちを押さえて、ルクリリは鞄を手に取ると、ちらりとダージリン様の横顔を見た。

でも、決して顔を見られないようにって、ぷいっと明後日の方向を向いておられるから。
『DA作戦』は、今のところチクチクと遂行して行けそうだ。



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Date:2016/05/03
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