【緋彩の瞳】 想いの欠片 ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

想いの欠片 ①

「どうぞ」
「あ、ありがとう」
アッサムはルクリリが座っていた場所に座りなおすために、ぬるくなったカップを移動させた。2人でいるのに、やはり隣同士に座ることができない。本当は挨拶をしてすぐに部屋を出るつもりだったが、ルクリリがいて嬉しそうにしてくれたので、出て行くタイミングを見失ってしまった。
「……そっちに行くの?」
「ですが」
「……そうね、あなたが嫌なら仕方がないわね」
ダージリン様のお顔をちゃんと見るのは、どれくらい久しぶりだろう。まともに交わした会話がいつの、何のことなのか。

瞳を見つめて、思い出した。
ひとひらだけ零れ落ちた涙。

「1週間も休んでしまって、本当に申し訳ありませんでした」
「いいのよ」
「……ご迷惑ばかり、おかけして」
「いいの。ただ、元気になったのだから、きちんと話をしておくべきとは思っているわ」

1週間ほどベッドの上で過ごし、熱が引くのと一緒に気持ちが消えることを期待した。想いは一過性のものだから、と。それでも、一過性ではなくて、ずいぶんと長い間携えていたものだったらしいと言う結論を出すには、ベッドの上にいる時間は十分すぎるほどだった。ずっと、探していた。この気持ちの終わらせ方を。でも、やっぱり変わらなかった。

変わらず、傍で、その背中を見つめていたい。
神様は高熱を出すと言う罰を与えた。
諦めろという罰だと思った。
終わらせなければ、と。

それでもそれに抗いたい想いは、左の小指からは消えてくれない。

離れている間に見た幻想が、アッサムの頬に触れた。
幻想でもうれしいと思える感情だった。

この学校にいる以上、ダージリン様という存在から逃れられないのだ。
傷つけることなんてしたくない。
ならば、アッサムが傷を負うべきだと思う。
この左の小指が使い物にならなくなっても、ダージリン様を傷つけるなど。





あぁ




ひとひらでも涙を流させた罪は重い。






「何を、お聞きになりたいのですか?」
「ローズヒップが押し付けてきたわ。淡いピンクのマニキュア」



………
…………



「……ローズヒップにあげたものですが」
「あの子が私に嘘を吐くと?アッサムが私の誕生日に買ったものだって言っていたわ」
違うという言葉を先に言わせないようにしてくる。アッサムは左右に目を揺らして、ため息で認めた。
「……はい」
「私の部屋に置いてあるわ。あなたが嫌だと言うのなら、お返しするつもりでいるけれど、どうしたらいいかしら?」
テーブルに置かれた作戦ノートの表紙に、黒いマジックで『DA作戦』と書かれてある。
一体何の頭文字かしら、なんて考えている余裕がどこかにあった。
考えたくないことが心を痛めると、別の違うことを考えたくなるらしい。
「………お好きになさってください」
「あなたが嫌なら、お返しすると言ったのよ。渡したくない事情があったのでしょう?」

あった。
1週間くらい前のことなのだ。そのせいで一晩外にいて、熱を出す罰を受けた。



「………渡したくないのではなくて、お渡しする資格がないと」
「なぜ?」






あなたが好きだから







「なぜでしょうか。私にもわかりません」
「ローズヒップは、私を責めたわ。あなたを泣かせる私のことが大嫌いだそうよ」
「あとであの子には言い聞かせます」
「すべては私が悪いのでしょう。目を合わせるたびにあの子は睨み付けてくるわ」
「……ダージリン様は何一つ悪くありませんわ。私が……」


ダージリンを好きにならなければ
好きだと気付かなければ


喉を鳴らして飲み込んだ言葉。
傍にいたいと思う以上、声に出してはならないのだ。


「1週間経っても、あなたは何も言ってくれないのね」
「…………はい」
「あの子たちにチクチクと攻撃を受けている、私の身にもなってもらいたいものだわ」
「………はい?」
「いえ、まぁ、それはこっちの話。それで、私があなたからのプレゼントだと受け取っても、それは構わないと言うことでよろしくて?」

捨ててくださいと言っても、その事情を説明しなければ、納得してくださらないはずだ。
何か別の話題を出したとしても、必ずここに辿り着くように持ってくるはず。

「……………ただのマニキュアですが、ダージリン様がお使いになりたいのなら」
「随分、困った顔をするのね。いじめているみたいな気持ちになるわ」
「いえ、そう言うわけじゃ」


「アッサム」


落ち着いて名前を呼ばれる。その名前の呼び方でわかる。
ゆっくりと手に持っていたティカップをテーブルに置く仕草。
薄い湯気が立ち、消えて行く。


「私のことが嫌い?」

真っ直ぐに見つめてくる眼差しは
否定など何があっても認めないと語っている

そして、アッサムが絶対に否定しないと信じてくださっている

「…………言わせるのですか」
「嫌いなら、ハッキリと言えばいいわ」
「言えば、副隊長を外すと?」
「そうね。嫌いな人間の傍に長いこといさせたことを、心から謝らなければいけないわ」

そんなこと、思っていないと疑わない瞳。
言えるものなら嫌いと言ってみろと言うことなのだろう。

「嫌いになる理由が見当たりません」
「……そう」
「尊敬しています」
「嫌いではないけれど、触れて欲しくない程度には好きではない、と言うことかしら?」


朦朧とする意識の中、そんなことをダージリン様に言い放った記憶がある。

それよりも、ひとひらの涙のことだけが脳裏に焼き付いていて。
差し出された信愛という想いを、ひどく傷つけたのだ。


「………申し訳ございません、あの時は体調が良くなくて……本当に、酷い言葉を浴びせてしまいました」
「今もでしょう?」
「いえ、もうすっかり元気に」
「違うわよ。わざわざ、そこに席を移動するくらいには、好きではないと言うことでしょう?」


なぜ、視線を逸らしておかなかったのだろう。
なぜ、真っ直ぐに見つめてきてくださるのだろう。
あれほど酷い言葉を浴びせたアッサムを、それでも。


「いつもの場所に座っただけです」
「………ではまた、明日からもいつもの場所にはいてくれるのね?」
「もちろんですわ。お許しくださるのであれば、私はダージリン様のお傍に」

その背中を見つめる場所に戻れるのなら
ダージリン様の喜ぶ顔を諦めてでも
二度と……あんな風に笑ってはくださらないとしても
アッサムが傷を背負うと決めたはずなのに

ダージリン様は先回りして、アッサムが無理をすることを拒絶されたのだろう。
無理をしてまで、友達としての信愛など欲しくないと。



「……あなたの好きにすればいいわ、アッサム」
「申し訳ございません」
「あなたの友達として、ふさわしくない存在だったのね」
「いえ、違います」
「そうなのよ」
「違います。私が……」





あなたを好きだから





左の小指が痺れるように痛い。
ダージリンに触れたすべての指に伝わって、腕へと広がり、首筋から胸へと痛みが流れ込む。




「もう、この話はしないことにしましょう」
「………はい」
「だから、卒業するまでは変わらず傍にいなさい」
「もちろんですわ」
「義務だと思われてもいいの。あなたが傍にいてくれるのなら、私はそれで構いませんわ」
「義務だなんて。私の意志ですわ」



この場所に帰ることを強く望んでいたのに。


ダージリン様は無理に口角を上げておられる。
傷つけてはならないと分かっていたのに。
もう、すでにアッサムの帰る場所なんて、どこにもないのかもしれない。

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Date:2016/05/16
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