【緋彩の瞳】 想いの欠片 ②

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

想いの欠片 ②

「アッサム様~~~!!」
アッサムが復帰した次の日、早朝から隊員の興奮は冷めやらず、どこに行くにも取り巻きみたいに後輩たちに囲まれて大変だった。いない間にローズヒップ達に振り分けた仕事がどんなものだったのか、きちんとこなせていたのか、確認作業に追われて、夕食後も山積みの報告書を読みふける。隣の部屋は相変わらず静か。
「………はいはい」
週末、迷惑をかけたお詫びに何をして欲しいか3人に聞くと、ローズヒップがアッサムの部屋に泊まると言い出してきた。ルクリリはランチデート、ペコはちゃっかりと個人のノートパソコンが欲しいとリクエストしてきた。ずいぶんと金額に差があるものね、と思ったものだけれど、お互いに不満はないらしいので、許可することにした。3人に振り回されたであろうキャンディたちにも、何かしなければいけない。
「アッサム様~~~!!!」
「し~~。寮監に伝えてきたの?」
「もっちろんですわ!!アッサム様のお部屋でランデブーって伝えてきたら、お励みなさいと言われましたわ」
「……寝るだけでしょう?」
ちゃっかり枕と次の日のお出かけセットまで持参してくるあたり、楽しみにしていてくれたのだろうと思うと、可愛げのある子だ。熱を出している間、一度も部屋を訪れなかったのは、ダージリン様が近づくなと命令していたからだと、ルクリリから聞いている。さらに熱を上げかねないという気配りだそうだ。
「お風呂はもう入ってきたの?」
「はいっ!」
「随分、用意周到ね」
夕食が終わって1時間も経っていないのに。寝るには早い。アッサム自身はまだ、お風呂にも入っていないし、読みたい資料の山を片付けたりしたいところだが、約束は約束だ。
「アッサム様~~!」
「はいはい。お茶でも飲んで、落ち着きなさい」
「私が淹れますわ」
「お願いだから、割らないでね」
「もっちろんですわ」
「零してもダメよ」
「もっちろんですわ」
不安で仕方がない。椅子に腰を下ろして、資料に目を通しながら待っていると、機嫌よく鼻歌を歌いながら用意してくれるから、要らぬ心配事だったかしら、と思いなおす。
「ちょっとお待ちくださいませ~~」
「どうしたの?」
「茶葉を入れすぎましたの。助っ人をお呼びしますわ」
「は?」
捨てればいいって言おうとするよりも早く、大きな音を立てて部屋を飛び出すと、隣の部屋をノックしている音。
「……馬鹿、なぜそうなるのよ」
そう言えば、目が合うたびに睨んでいたと、ダージリン様はおっしゃっていたが、ローズヒップとそのことで話しをしていない。とはいえ、機嫌よくダージリン様の部屋をノックしているのであれば、ローズヒップ自身にはもう、終わったことなのかもしれない。いいのか悪いのか、マニキュアは返って来ないし、良かれと思って渡してくれたローズヒップを責めることもできない。
「真打ち登場ですわ」
「………ずいぶん、にぎやかね」
「申し訳ございません」
三つ編みの髪を下ろしてくつろいでいた様子のダージリン様は、ローズヒップに腕を捕まえられて、アッサムの部屋に連れてこられてしまった。
「お茶のお時間ですわ~~」
スエット姿のローズヒップがスキップしそうな勢いで、こんな時間にアッサムの部屋にいることを、何か誤解されなければいいのだけれど。誤解も何も、そもそも何の可能性も生まれない。
「ローズヒップはアッサムのお部屋で何をしているの?」
「今日はお泊りですわ!ラブラブしますの!ベッドで朝まで一緒ですわ」
「変な誤解を与えるような表現はおやめなさい」
ダージリン様は嫌がって帰るような様子もないので、ひとまずソファーにお座りになって頂いた。久しぶりに部屋に来られた気がする。あの夏の戦い以来かもしれない。
「いいえ、誤解するような関係ではないと、十分存じていてよ」
ソファーにお座りになられたダージリン様。三つ編みを下ろしている姿もあまり見かけないから、何だか少し幼く見える。
「ローズヒップ、ずいぶん楽しそうね」
ソワソワしているけれど、本当に零さないでいてくれるか心配になる。
「もちろんですわ。ダージリン様もアッサム様がお元気になられて、嬉しいですわよね?」
「そうね」
「ダージリン様はアッサム様がおられない間、ずっとお元気ありませんでしたわ」
「そうね」
「いつもため息ばかりついて、ルクリリがカウントしておりましたわ。情報処理部と一緒に、推定重量を量っておりましたわ」
「……あとで、個人的にルクリリを呼び出しましょう」
アッサムがいなくても、ダージリン様と1年生たちは仲良く過ごしておられたようだ。激怒して声を荒げたという情報も入って来ていないし、やたらため息を吐いておられたのも、考えさせるというダージリン様のやり方の一つだろう。何よりもローズヒップとルクリリ相手だと、何かしでかしても、やっぱり最初にため息を吐いてしまう。やれやれ、と。
「ローズヒップ、ダージリン様にご迷惑をかけずにちゃんと良い子にしていたかしら?」
「あったりまえですわ。立派にアッサム様の代行を務めましたわ!」
整備科からは、特別クレームのようなものも届いておらず、むしろ、何か次の練習試合への並々ならぬやる気が伝わって来ていた。アッサムのためっていう変なスローガンを連呼していたようだけれど、死んだわけでもないのに、やる気が別の方向に盛り上がっている気がしないわけでもない。とにかく、ローズヒップになら、今後の整備科とのやり取りは任せても大丈夫そうだ。アッサムの仕事の一つを彼女にやらせるべきだろう。
「いい子にしていたのならいいわ」
「いい子じゃなかったのは、ダージリン様だけですわ。ため息ばかりでしたし、アッサム様がいないから、ずっと不機嫌でしたわ」
じろりとローズヒップを睨み付けるダージリン様の目。こうやって、アッサムがいない間はイライラしながらお過ごしになられたに違いない。
「ローズヒップ、ダージリン様に失礼ですわよ」
「本当のことですのに」
頬に空気を入れて拗ねて見せても、ダージリン様は聞かぬ振りをされている。あながち嘘ではないのだろう。アッサムだって、ダージリン様不在で1,2年の訓練を1人で見なければいけないとなれば、ため息しか出てこないのだから、心中は痛いほどわかる。
「ダージリン様は、アッサム様からのお礼は何をしていただきますの?」
「何のことかしら?」
「アッサム様、お休みの間のお礼で、1人1つ、お願い事を叶えてくださりますわ」
それは代行を務めた3人だけだ。確かに、迷惑をかけたという点ではダージリン様にも何かを差し上げるべきなのだろうけれど、生憎、そう言うことを簡単に言える立場ではない。
「あら、だからローズヒップはここにお泊りなのね」
「ラブラブしますの!」
「そう」
「一緒のベッドで寝ますの!」
「そう」
「羨ましいですこと?」
「別に」
キャスター付きの椅子に座らせなければよかったのだが、ゴロゴロと近づいてきながら、紅茶がソーサーに零れているのがわかっていないらしい。
「ローズヒップ、はしたないわ」
2人はアッサムがいない間、何を争っていたのだろう。ムッとした様子のダージリン様も、きつく注意してこないあたり、大嫌いだと言われたとおっしゃっていたのが影響しているのだろうか。ペーパータオルでソーサーの中を拭き取り、手からカップごと没収した。
「人の部屋で零さないで」
「ごめんなさいですわ。でもまだ、ソーサーの上ですからセーフでしたのに」
「アウトですわよ」
没収されたのをいいことに、ダージリン様の座る1人用のソファーに近づいていくから。
「ダージリン様も、アッサム様のお部屋お泊りをお願いされますの?」
「しないわよ」
1人用とはいえ、ゆったりと広めのソファー。無理をすれば2人座れなくはない。ぐっとお尻を押し込むあたり、とんでもないことをしていると言う自覚はないようで、さらにそれを怒らないダージリン様もまんざらでもないのだろう。
「じゃぁ、何をお願いされますの?」
「アッサムが元気になったのだから、もうそれで十分よ」
「でも、ダージリン様のせいでアッサム様が熱を出したのですから、ダージリン様がアッサム様に何か、してあげなければいけませんわね」



……
………

「……そうね、そうかもしれないわね」
「いえ、ダージリン様は何も関係が…」
「あるでしょう。そうよね、ローズヒップ。あなたに嫌われてしまうようなことを、私がしたのだったわね」
ローズヒップは本当に、ダージリン様に嫌いって言ったのだろうか。
ローズヒップはダージリン様に懐いて尻尾を振っているように見える。
嫌いならここへ呼んでくることもないだろう。
「ダージリン様のこと、もう嫌いじゃありませんわ。大好きですわ」
「そう?よかったわ。あなたに嫌われてしまっては、私も生きて行けないわ」
「大好きですわ」
「あらそう?」
下ろしている三つ編みを手のひらにのせて、子供のようにニコニコするから。まったくもって不思議な柴犬だと思う。ダージリン様にこんなことができるのは、ローズヒップだけだろう。もちろん、アッサムの髪で遊ぶのも彼女だけだが。
「アッサム様、ダージリン様が何かお願いを聞いてくださいますわ」
「……勝手に話を決めないで」
「構いませんことよ。あなたが望むのであれば」

謝罪だけでは足りない程、迷惑をかけたと言うのに。
これ以上、感情を揺さぶるようなことをされたくはない。

「いえ、何も……」
「そう?今すぐじゃなくてもいいから、考えておくといいわ」
ローズヒップがシャムネコであれば、絵になるのに。懐く柴犬がワンワンと吠えんばかりにダージリン様にじゃれついている。この子は何がしたいのだろう。
「マニキュア、付けていませんの?」
「え?あぁ、そうね」
「あら?でもこの指だけ塗ってありますわ」
「さっき、塗ろうとしている途中にあなたが入ってきたのよ」
「そうでしたの?でも、ちょっと雑ですわ」
左手の人差し指を握りしめて、ローズヒップも目ざとい。使ってくれようとしていることは、素直にうれしかった。本当はちゃんと渡すことができれば、と思いながら、そんなことを今更後悔しても遅いのだ。

本当は、最初から買わなければよかったのだ。

「ダージリン様、アッサム様に綺麗に塗っていただいた方がいいですわ」
「それは、遠まわしにへたくそと言っているの?」
「ダイレクトに言って、へたくそですわ」
ダージリン様が不器用と言うよりも、塗ろうとしていた途中だったのはないだろうか。余計な事を言うんじゃないと、ローズヒップのおでこを叩いた。
「いたっ」
「失礼なことを言わないの」
「でも……これ、酷いですわよ」



……
………


「……ダージリン様、今度、お時間をください。私がやります」
「そうね、……お願いするわ」
「ひとまず、それは落としましょう」
良い紅茶の香りが充満している中で除光液を使うのも嫌だが、人差し指だけ残したマニキュアも気になってしまうと、アッサムが落ち着かない。ガーゼに除光液を沁み込ませて、ダージリン様の右手に触れる。

ドキっと心臓が跳ねたことなど、誰にも見られたりしないだろう。
左手に感じる痛み。
もう、この人の手に触れることなどないだろうと思っていたのに。

「アッサム様~。今度、私にも塗ってくださいませ」
「はいはい。あなた、マニキュア持っているの?」
「持っていませんわ」
「でしょうね」
「アッサム様と同じものがいいですわ」
「はいはい」
きつい匂いのする除光液。なるべく丁寧に匂いが残らないように拭き取って、ひとまずは元の爪に戻った。ローズヒップは変わらず、ダージリン様の髪で遊んでいる。勝手に三つ編みを解こうとする手を叩かれるし、それでもめげずにわしわしと髪を掴む。お返しにダージリン様もローズヒップの洗い立ての髪を撫でまわしている。
じゃれ合っているようで、心配するほどにらみ合う様子もなくてホッとできる。

「……寝てしまったわね」
「サーモスタットが切れたようですわね」
ベッドにダイビングしたと思ったら、1分もしないうちに寝息が聞こえてきた。散々相手をしたダージリン様は、少し乱れた髪を完全にほどき、手櫛で均している。
「アッサム、明日の予定は?」
「陸に降ります。ルクリリと出かける約束がありますので」
「そう。私もペコを連れて陸に降りるわ」
青森港にはすでに寄港している。プラウダの学生艦もすぐそこにある。ノンナから連絡が来ていて、日曜日に会う約束をしている。
「この子は整備科の担当長たちの部品調達に付き合わせる指示をしています。途中で拾いますわ」
「お任せするわ。タイミングが合えば、私たちも合流してもいいかしら?」
「え?あ、……はい。ルクリリに連絡を取らせます」
まだ、寝るには早い時間だけど、ローズヒップは一体何時に起きるつもりなのだろうか。きっと、ルクリリがランランとした声で部屋にやってくるに違いない。
「ローズヒップがご迷惑をおかけいたしました」
「いいの。楽しかったわ」
「……それならば、よいのですが」
「久しぶりにお部屋で一緒にお茶もできたことですし」
「……はい」
「嫌な想いをさせたかしら?」
「いえ!そんな、そういう…わけでは」


喜ぶことが許されないのは、この感情の問題であり、ダージリン様に一つも罪はない。
気を遣わせたいなんて思っていないのに。


「その……マニキュアは、私がちゃんと塗らせていただきますので」
「楽しみにしているわ」

作られた微笑みでも、そんな顔を見ただけでうれしくて
嬉しいと思った瞬間、左手を襲う痛みが胸のあたりまで広がってゆく。

「おやすみ、アッサム」
「おやすみなさい」
「ローズヒップに襲われないように」
「気を付けますわ」


大の字で寝るローズヒップに気を遣い、膝を抱えて眠りに就いた。
次の日の朝、ローズヒップに抱き付かれた苦しさで、目を覚ました。


関連記事

*    *    *

Information

Date:2016/05/16
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/716-ad163212
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)