【緋彩の瞳】 想いの欠片 END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

想いの欠片 END

「寒い!」
「青森なんだから、当たり前でしょう?」
暖かそうな服に身を包み、ショールを羽織っておられるアッサム様と並び、駐車場に向かった。ルクリリも鞄の中に羽織るものは入れてきているが、想像よりもちょっと気温が低い。
「あ、こっちは荷物が積んでありますね」
「……あぁ、忘れていたわ。私が積んだままだったのよ。今度動かしておくわ」
5台あるランドローバーの1号車に乗ろうとしたら、後ろに荷物がたくさん積まれている。アッサム様は思い当たる節があるらしく、1号車のキーをアッサム様に預け、隣の2号車に乗り込んだ。
「アッサム様のおすすめのお店ですか?」
「ノンナが薦めてくれたから、信用できると思うわよ」
「へぇ。ノンナさんと仲がいいんですね」
「小学生の頃から、試合でよく会っていたから。気の合うお友達なのよ」
「そうなんですか。あれ?ダージリン様とは?」
「有名人でしたもの。選抜で同じチームになったことはあったけれど、会話はしなかったわ。高校に上がるまで、同じ戦車に乗ったことはないわね」
酔いたくないと、ルクリリが運転するのを拒否してきたアッサム様。良く知っている道だからって言われて、渋々助手席に座る。せっかくのデートなのに。駐車場を出ると、ちょうどダージリン様とペコが駐車場に向かって来ていた。アッサム様は軽くブレーキを踏んで頭を下げるだけだ。ルクリリは窓を開けて、2人に手を振った。
「ダージリン様~。アッサム様と手を繋いでラブラブなデートをして来ます!!!」
「……何をしているの、ルクリリ」
明らかにムッとした表情。隣のペコは、やり過ぎだと言わんばかりにおろおろしている。
これくらい刺激しておいた方がいいに決まっているのに。
「ペコ、今日はダージリン様と一緒に街散策だそうですよ」
「そうみたいね。あとで合流すると思うわ」
「そうなんですか?」
「ローズヒップともね。みんな、ちょっと山の奥に連れて行ってあげるわ。いい景色だから」
過去の練習試合や、交流会などで、アッサム様は青森港の周辺に詳しいらしい。30分ほど走り、こじんまりした海鮮料理がおいしいレストランで豪華なランチをごちそうになった。話す内容と言えば、もっぱらダージリン様のこと。アッサム様がお休みの間、ダージリン様はずっとイライラされていて、ため息が気球一杯になるくらい積もりに積もったことを話した。それはもうすでにローズヒップからも報告を受けているようで、そもそもなぜ、ため息を吐かせたのかと、ルクリリに尋ねてこられる。報告書の修正や、立てた作戦の荒さ、訓練中の言葉遣いや、不適切な指示……。ルクリリも自分で言っていてため息が漏れた。確かにダージリン様のため息には訳があるのだ。
「しっかりダージリン様の傍で、隊長としてのイロハを学んだ方がいいわね、ルクリリ」
「ダージリン様はアッサム様という優秀な副隊長がおられるから、あんな風にできるんですわ」
「あなたには、ペコとローズヒップがいるでしょう?上級生のキャンディたちもいるし。一番恵まれているはずよ」
「本当に私が次の隊長なんですか?」
「そうね」
「プラウダに惨敗しても?」
「勝つわよ……気合いがあれば」
それは負けると言いたいのだろうか。食後のデザートと一緒に、コーヒーを飲まれている。実はお好きらしい。でも、ダージリン様の前では飲まないんだとか。隠れコーヒー党は情報処理部にも沢山いるから、時々、コーヒーでお茶会をするらしい。
「訓練はあと2日しかないですよ」
「そうね、励みなさい」
「勝ったら、何かしてくれます?」
「それはダージリン様にお願いしなさい」
「勝って当たり前って笑われそうです」
「それでいいと思うわ」
硝子張りに見える砂浜。学生艦から見る海は、辺り一面同じで、砂浜を見る機会はそれほど多くない。波を打つ音も砂が引き寄せられていく音も心地がいい。アッサム様もダージリン様とここに2人で来たらいいのに。

 近くの美術館やショッピングセンターを見て回ったあと、ローズヒップの携帯電話のGPSを追いかけて捕まえた。アッサム様からの指示で、ペコに電話を掛ける。
「私とアッサム様のデートの邪魔をどうしてもしたいのなら、合流しても構わないですけれど」
すでにローズヒップを拾っているし、ダージリン様と5人での行動なんて、普段はないことだから、是非ともそうしたいところだ。あわよくば、頃合いを見て2人きりにさせなければならないのだし。
『うわ、それをそのまま伝えろって言うんですか?』
「ふふん」
ペコと合流場所を確認して、10分後に落ち合った。2人はいつものように、必需品の買い物をしていたらしい。きっと明日、荷物は学生艦に届けられているはずだ。2台のランドローバーは山道を登り、景色が綺麗だという場所に車を止めた。子供向け用の遊具がいくつかあって、海を見下ろす様な展望台が設置されている。
「綺麗~~~!」
地理的な問題で、目の前に夕焼けが広がると言うことはなかったが、それでも遠く赤く染まり始めた世界と、巨大な学生艦の影は綺麗だった。アッサム様は椅子に腰を下ろして、じっと穏やかに景色を楽しんでいらっしゃる。
「ペコ、車の鍵は誰が持っているの?」
「え?私です」
「うちはアッサム様が持っているわ」
「いや……置いて帰るのは怒られますよ?」
言いたいことがすぐにわかったらしく、ペコは眉をハの字にしている。せっかく2人きりのチャンスなんだから、置いて帰らなきゃ意味がないのに。
「大丈夫よ、ダージリン様の弱みを握っているのは、私たちよ」
「……アッサム様のお気持ちを無視するんですか?」
「アッサム様は、ダージリン様がお好きよ」
「いや、まぁ、それはそうかもしれませんが。アッサム様は、それはそれで、割り切ろうとしているようにも見えますよ?」
隠し続ける想いは、昇華させることができない、やむなき事情があると言った様子。
ダージリン様がアッサム様に好意を寄せる可能性がなければ、ルクリリ達もこんな風にお節介を焼かず、むしろお守りしていただろう。だけど、互いに想うのであれば。
神様に恋をしているわけではないのだ。

せめて、両想いだっていうことくらいは気づかせておかないと、この好き同士だけど、変にお互いに気を遣い合っていて気持ち悪い感じが卒業まで続いたら、恋は間違いなく枯れてしまう。いつか思い出になって、あの時は好きでした、みたいな話になる。

「取りあえず、この作戦に乗るの?乗らないの?」
「………乗ります、次期隊長」
ローズヒップは絶好調に、ダージリン様にまとわりついている。ルクリリもそれに加わって、ローズヒップごと、ダージリン様をアッサム様の座る長椅子に連れて行った。
「ローズヒップ、あっちにブランコがあったわ」
「マジですの?!」
ダージリン様から引っぺがして、その場から去る。いきなり消えたら怪しまれるから、騒ぎ声が聞こえる場所でしばらくその後ろ姿を観察することにした。

「後ろから見たら、お似合いですよね」
「まったくよね」
「ブランコなんて、お子様すぎますわ。もうちょっとマシな誘い方ありましたでしょう?」
ギーギーとブランコの音を立てながら、ローズヒップも呼ばれた事情が分かったらしく、子供扱いに不満の様子。帰りの運転は誰がするのか、じゃんけんをして、ルクリリが勝った。山道で気分が悪くなると抗議を受けたけれど、山道なんてめったに運転出来ないんだから、させてもらいたいものだ。


お二人は景色を眺めて、互いに何を想っておられるのだろう。

きっと、互いのことを考えておられるのだろう。

好きという想いに付いて、考えておられるのだろう。


想いは、態度でわかるものだけれど。
それは想い人には気づかれないものだ。
ダージリン様は、何をきっかけに好きだと言う想いに気づかれたのかわからない。でも、アッサム様が体調を崩して寝込まれていた頃に、やっぱり変化があったのだろう。好きだと思い知らされる何かがあったはずだ。

「奇跡を起こすには、私たちが練習試合に勝たないとダメよね」

アッサム様がご自身の感情を切り捨てようとして、ダージリン様を傷つけたのかも知れない。


アッサム様は恋を諦めるために、ダージリン様との間に今まで以上の距離を取ろうとされているように見える。

ダージリン様は緩やかに拒絶されていても、アッサム様を傷つけないために、それを受け入れている。



お互いに



恋しいから



近づかず遠からずのあの頃の距離よりも、今はもっと遠い。
あの、自然に作られたような絶妙さもなく、あからさまに不自然な距離。


でも、ダージリン様はアッサム様が意図して離れた本当の理由を知らない。
そしてアッサム様も、伝えれば全力で応えてくれる想いが手を伸ばせば届く場所にあることを、知らないまま。


「恋愛小説とか、あの2人は読むのかしら?」
「ルクリリ程、暇じゃありませんわよ」
「ダージリン様は、詩集とか格言集は読みますよ。アッサム様はどうでしょうかね」
夕闇に紛れて、音を立てないように駐車場の傍まで移動する。ルクリリはダージリン様の携帯電話を鳴らした。ついでにエンジンを掛ける。
「ダージリン様、あとは、お二人でどうぞ」
『……何のこと?』
「お先に3人で温泉に行ってきます、ということです。それでは、ピロシキ~」
ダージリン様の次のお言葉を待たずに携帯電話を運転モードにした。クレームの電話がローズヒップやペコに入ってくるかなって思って待っていたが、それも鳴らない。

DA作戦は今日も、取りあえず成功したことにしようと思う。


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Date:2016/05/16
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