【緋彩の瞳】 その頬に触れるまで ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

その頬に触れるまで ①

両の手がその綺麗な顔を覆う

絞り出すように伝えられた言葉


ハンカチを膝の上に置いて、俯くアッサムの背中をゆっくりと抱き寄せた


「……大事なことは、人の目を見て言いなさいと子供の頃に習ったわ」

あれだけ痛みのあった右手だと言うのに、その痛みを神様が引き受けてくださったのだろう。

強引に顔を覆っていたアッサムの左手を引っ張った。


涙に濡れたその左手
二度と触れることができないと
恋しいと想い続けたその左手


「アッサム」
「……………ダージリン?」


雫に濡れたアッサムの左手を、自分の右の頬にくっつけた。
ハッとして顔を上げ、その赤く腫れた瞳がダージリンを捉える。


「久しぶりに聞いたわ。私、そうやって呼ばれることが好きよ」
「…………わかっています」
「もう二度と、そう呼ばれないと思っていたの」
「………友達では、いられません…こんなっ、想いを……」
「目を逸らすのはおやめなさい」
俯いて、顔を背けようとする行く手を左手で止めた。


指の間に流れる想いが、ダージリンの想いと重なるのであれば

もう、アッサムを傷つけずに済むのなら


「……もうやめて、ダージリン……私は、あなたの傍に…いる、資格が…」
「私の目を見なさい、アッサム」


真っ赤な瞳は、睨み付けてくるようにダージリンを捉える
頬にくっつけた左手はわずかに震えたまま




あなたが好き


とても好き



傍にいて欲しいと願った想いは
視線を感じる距離でいてと願った想いは




きっと、ずっと




恋だった







「私はアッサムが好き。とても好きよ」



ずっと、その頬に触れるよりも早く
ずっと、当たり前のように傍にいてくれて
ずっと、当たり前のように好きだった



「……だって、だから、…その、私の好きは、……ダージリンとは、違う、から」
「同じ、じゃないかしら?いえ、同じかどうかと言うよりも、私はあなたが好きなのよ、アッサム。こうやって、触れていたいと思うのは、それは友達としてではないのよ」


静かな教会


夕闇はステンドグラスを輝かせるにはあまりに弱く、薄暗いぼんやりとした灯りだけが、アッサムの泣き濡れる瞳を照らしている。


指の間を流れる涙の川は
留まることなどないように
次々とダージリンの左手を濡らし
甲へと溢れ出していく



「……………嘘、です」



「あなたが私を好きだと思ってくれているなんて、知らなかったわ。この想いに向き合わないまま、ただ、傍にいてくれるのなら、それでも構わないって思っていたの」


想いを告げたら傍にいてくれることも、目を合わせてくれることもしてくれなくなるだろうと思っていた。

元よりさらけ出す勇気もなかった

本当にアッサムを、失いたくないと思っていた
失うくらいなら、友達じゃなくてもいいから傍にいて欲しいと

アッサムが望むのなら、アッサムの望む関係でいるべきだと
友達じゃなくてもいいから
友達でいたいとすら、思わせてくれないのなら、それでもいいから、と

「……嘘です、だって、そんなはず…」

小さく首を振る瞳に滲む涙と戸惑い

「神様の前で嘘など吐かないわ。あなたが好きなのよ、アッサム」

好き
それ以上、感情を言葉にすることができない

好きという想いを、美しい歌や詩にすることもできない

信じてもらえなくても
溢れ出る想いをこれ以上、どう伝えればいいのかもわからない



アッサムが好き。



「……その、あなたに泣かれては…困ります、ダージリン」


アッサムの左の薬指が、ダージリンの頬をくすぐるように動いた。
ピリピリと感じる痛みは、それでも心地よさを感じる。


触れていて欲しい。


「あなたが好きよ、アッサム。だから、ずっと傍にいて」


真っ直ぐ見つめる瞳
いつもすぐ傍にあった
振り返れば、すぐ傍に恋があった


「これが私の答えよ。嫌かしら?」



「…………相変わらず、ダージリンは……」




ゆっくりと涙に濡れるその頬が近づいてくる。

身体を預けるように額が鎖骨に押し付けられ、ダージリンは両手を開いてその細い身体を抱き寄せた。



「アッサム」



背中の長い髪が腕や指にまとわりついて、そのふわりとした感触にため息が漏れてしまう。
ずっと、こうして指に髪を絡め、アッサムを抱きしめたいと思っていたのかもしれない。
恋しいと、その想いをアッサムに押し付けるように、抱きしめてしまえたら、と。


「あなたの言葉に嫌だと言える強さなど、私は持っていませんわ」


戸惑う瞳だった、あの時。
だけど今、その声は涙交じりだけど、とても穏やかで。




「もう少し、こうしていてもいい?」
「………神様が見ていますが」
「見せつけておけばいいわ」
「……はい」




その頬にそっと唇を寄せると、涙の味は想像を超えてとても甘かった。




「アッサムはどこ?」
「あ、ダージリン様。アッサム様は先にお部屋に戻られました」


卒業試合の相手は、黒森峰と決まった。こちらからお願いをして、快く引き受けてもらった互いの卒業試合。15両対15両。夏の大会の準決勝と同じだ。

決戦は明日、12月10日。この日を最後にして、ダージリンもアッサムも3年生は引退となり、隊長、副隊長職を降りることになる。最後の最後に負け試合を選ぶなんて、と予想通りにOG会からクレームの電話が入ってきた。外線を繋いでいない紅茶の園に、何度も情報処理部からの呼び出しがあり、ダージリンはそのたびに、負けるつもりは1mmもありませんと答え続けた。バニラお姉さまから、クルセイダー小隊は4両出せという面倒な電話。アッサムに繋げばよかったと後悔しながらも、適当にやり過ごした。実際は3両を出して、クロムウェルを1両出す。作戦にはローズヒップが率いるクルセイダー小隊が重要な役割を担うだろう。

「そう。あなたたちも、もう部屋に戻りなさい」
「はい」

1年生3人と、隊長として最後のお茶を楽しんでいたけれど、これで二度とお茶会がなくなるわけではない。アッサムはきっと、そろそろバニラお姉さまから電話があると分かって、こっそり逃げたに違いない。


明日、同じチャーチルに搭乗して、そしてそれが最後になる。
1年生の模擬試合の時、味方の4両をアッサム1人にやられた苦い思い出。
聖グロ最速でチャーチルに搭乗した砲手。
いつもダージリンの少し後ろを歩いてくれていた。


近くて遠い


その距離をずっと守りながら、恋をしていた。




「アッサム?」

彼女の部屋の前で立ち止まり、3回ノックをする。
ドアをノックすれば、開かれるであろうと言うことは知っている。


待つこと15秒。これは変わらない。


「何ですの、ダージリン」
「アッサム、確かに電話で席を外したのは私だけれど、待っていてくださってもよろしいんじゃなくて?」
「ルクリリには伝えましたわ」
「バニラお姉さまの電話から、逃げたのでしょう?」
「やっぱり、かかってきましたの?」
「えぇ」

開かれたドア、自然と招き入れられる。勉強机には、つけっぱなしのパソコンが白い光を放っていた。無造作に散らばっている資料と、2人で一緒に作っている途中のT28のプラモデルの組み立て途中のパーツ。そして、ふわりと広がっている淹れたてのコーヒーの香り。

「明日のことで、何か調べていたの?」
「少しだけ」

ダージリンだけが考えた作戦ではなく、今回の黒森峰の卒業試合は3年生全員の意見と、ルクリリたち3人、整備科、情報処理部、そして、プラウダ高のカチューシャやノンナたちも一緒に知恵を絞ってくれた。悲願の勝利を卒業試合で手に入れて、笑ってルクリリたちにバトンを渡したい。

いかなる時も優雅。それを封印しても構わない。
恋と戦争では手段を択ばない。
だから、がむしゃらになって勝ちに行く作戦だ。

「何か飲みます?」
「コーヒーは嫌だわ」
「そうですか」
では、要りませんわね。そう言ってアッサムはパソコンの電源を落とした。ダージリンは1つだけあるソファーに腰を下ろす。彼女がすぐに傍に来てくれることは、わかっている。

1人では少し余裕のあるソファー。
身体を密着させて、両腕に抱き留めれば狭さなど感じない。

「あなたのデータでは、明日の黒森峰との戦いはどういう結果になるかしら?」
「ダージリンにお教えするわけには、まいりませんわ」
「あら、なぜ?」
「勝つ以外の可能性なんて考えていませんもの。過去のデータなんて、参考になりませんでしょう?」
「それもそうだったわね」

柔らかいアッサムの髪に指を絡めて、撫でるだけでため息が零れ落ちる。
昨日、塗りなおしてもらったマニキュアの淡いピンクが、亜麻色の髪の間を踊った。

「お疲れですか?」
「いいえ、試合が楽しみで仕方がないわ」
「そうですね」
「明日、ペコがアッサムの茶葉とミルクを持ち込むつもりだそうよ。だから2杯目はアッサムティーにしましょう」
「まぁ。それは、楽しみですわね」

アッサムの両手がダージリンの背中に回り、まとめていた三つ編みが落とされた。留めていたピンがテーブルに無造作に置かれる。
一昨日の夜に忘れて行ったピンと合わせて、またきっとこの部屋にダージリンの置き土産が増えてしまうだろう。

「お夕食、どこかに食べに行きます?食堂に行きますか?」
「ドライブがてら、外に行きましょう。ルクリリたちが話をしていたお店、冬季限定メニューがおすすめだそうよ」
「ダージリン、あの3人に何かと情報をもらっていますわね」

聞いてもいないのに、2人であそこに行けとか、あれを食べに行けとか、横浜ならデートはあそこがいいとか、何かと3人がダージリンに鼻息荒くして薦めてくるのだから、仕方がない。デートプランなんて、どうせ考えつかないくせにと笑うルクリリの顔は、卒業しても忘れることはないだろう。

「アッサム」

そっと抱き寄せて、想いを頬に押し付ける。
音を立てて唇を寄せると、三つ編みを引っ張られた。

「お戯れが過ぎますよ、ダージリン」
「明日、勝ったら本当にキスしてくれるのかしら?」
「もちろんですわ」
「……2か月経ってもキスしないなんて」
「いいじゃないですか、清い交際で」
「絶対に勝ってみせます。決してあきらめないわ。決して、決して、決して、決して」

勝たなければ、ファースト・キスをもらえないなんて言うから。
まったくもって、とんでもない策士だわ。
これも誰かからの悪知恵かしら、と疑いたくなる。

「チャーチルですわね」
「ペコの格言よ」
「ペコ?」
「えぇ、そうよ。ねぇ、もう少し、こうしていてもいいかしら?」



鼻先で首筋をくすぐりながら、その左手に指を絡めた。




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Date:2016/06/16
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