【緋彩の瞳】 その頬に触れるまで END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

その頬に触れるまで END

船舶関係者との打ち合わせが終わり、車に乗る直前に携帯電話のマナーモードが数秒震えた。ルクリリから愚痴がずらりと並んでいる。帰ってから3人で夕食に出かける予定だけれど、きっとまたお2人の進展のなさに愚痴が続くに違いない。何やら、アッサム様には暖簾に腕押しのような感じだったそうだ。そんなにうまくいかないに決まっている。ここのところ、お2人はペコたちのために、それぞれがお忙しいのだ。多少すれ違うのは仕方がない。心配なのは、そうすることで、アッサム様が想いをより深いところに眠らせて、鍵を掛けてしまわれるのではないか、ということ。ダージリン様はむしろ、日に日に思いが募っているらしく、ルクリリのことを間違えて、“アッサム”って呼んでしまうことが多いらしい。まぁ、癖が抜けないだけと言えば、そうかもしれないのだけれど。

「ペコ、どうかしたの?」
「いえ、ルクリリから連絡が来たので」


“後は任せた”

そう書いてあった。


「そう」
「3人でご飯を食べに外に出る約束をしていたので、何時ごろに戻ってくるかって」
「あら、じゃぁ急いで帰りましょう」
「はい」

 学生艦の道路は制限速度が陸よりもずっと遅い。ゆっくりと走り出したランドローバー。ダージリン様は窓を少し開けて、潮風を受けておられる。
「今日の夜、アッサム様と、どこかへ食べに行かれたらどうですか?」
「どうしたの、急に」
「いえ、最近、お2人ともお忙しいから。たまにはゆっくりと過ごされたらと」
「プライベートの時間、どう過ごすのかは彼女の自由だわ。食事に誘うなんてしないの。そもそも、したこともないのに」
「え?一度もですか?」
「………そうよ」
毎日、イライラすると言っているルクリリの気持ちが、ちょっとわかる気がする。お2人のことだから、その近くて遠い関係性を保つために、お互いのプライベートを関知していないのは、大人の対応なのだろうと思ってみる。
でも、ダージリン様は何もしないのにセンチメンタルな表情で景色を眺める、その、大きな矛盾に全く気付いておられないらしい。



「アッサム様のこと、お好きですか?」



……
………



「………あなたたちが勝手に色々とお節介を焼くのは自由ですけれど、できればそっとしておいてもらいたいわ」
「そっとして、そっとなかったことにして、後悔するダージリン様なんて、見たくありません」

好きかという質問は、ペコにとっては2度目。やっぱり2度目も答えを交わされてしまう。でも、数秒の空白は“恋しい”と風に乗ってペコに届けるには十分すぎる。

「アッサムは私と友達になりたいとすら、思ってくれないのよ。この距離を保つことで精一杯なのに、想いを告げてしまえばもう、それは関係の終わりを意味するの」

始まってもないのに、勝手に終わりになるって。
アッサム様がダージリン様に何をお話しされたのかはわからないけれど、お友達になることができないと一歩引いたのは、それは恋をしているからだ。
「と言うか、アッサム様とダージリン様はお友達ではないのですか?」
「………違うわね。彼女の唯一の仲の良い友達はノンナですって」
「じゃぁ、ダージリン様は一体なんですか?」
「……わからないわ」

わからない関係って何だろう。同じクラスでずっと一緒に戦車道をやってきて、同じチャーチルに搭乗して、互いに多くを語らずとも、気持ちを合わせて過ごされた日々だったはずなのに。ペコはずっとそれを見てきた。互いに互いを思いやる気持ちがあるからこそ、2人の傍にいる時間は穏やかで優しいものだった。


今、お互いに想う気持ちの狭間で、ペコは少しの息苦しさを覚えている。
恋しい恋しいと、呼吸をするたびに聞こえてくるようで。


「アッサム様には、好きな人がいます」


3人で決めたルールがある。
両想いだと言うことを、ばらしてしまわないこと。
勝手に代弁して気持ちを伝えたりしないこと。


「………ペコはアッサムのお友達にでもなったの?」
「いえ」

信号でブレーキを踏み、ギアをローに戻す。前を向いたまま、ダージリン様を見つめるようなことはしなかった。見つめられていることはわかる。

「そう言えば、ノンナがアッサムと恋愛の話をするって言っていたわ。友達だから、そう言う会話を楽しむって」
「そうなんですか」
「友達でもないペコが、アッサムに好きな人がいるって聞いたの?」
「目は口ほどに物を言うって言うじゃないですか」
「あら、勘違いかもしれませんわよ」

ほとんどを学生艦の、学院内で過ごされているアッサム様の目を見て、好きな人がいると知っていると告げたのに。それが身近な人だというヒントを与えても、ダージリン様は全然お気づきにならないようだ。

ちょっと、イライラしてしまう。
ルクリリの気持ちもわかる。

「じゃぁ、ご本人に聞いてみてはどうですか?」
「……友達でもないのに、聞けないわよ」
「知りたいって今、思ったでしょう」

腹立たしいと言わんばかりの視線を受けて、信号が変わったからアクセルを踏んだ。ゆっくりと教会の前を通って、一方通行の道を進む。


「ちょっと、止めなさい」

文句でも言いたいのか、それとも好きな人が誰なのかを聞き出したいのか、ダージリン様が命令されて、また、ブレーキとクラッチを踏んだ。
「どうかしましたか?」
「いえ……ペコ、今日の車の使用予定って私たち以外にあった?」
「さぁ。事前届はなかったと思いますが、そのあたりはアッサム様の管轄ですし」


窓を開けて、じっと薄暗くなっている教会の中を覗こうとしている。ちらりとランドローバーが見えた。聖グロの車で間違いなさそうだ。

「ダージリン様?」
「……いえ、何でもないわ」
「アッサム様がどうかされたんですか?」
「私、今、アッサムの名前を出したかしら?」
「お顔に出されていますけれど」

アッサム様のことを想う表情はとてもわかりやすい。
恋する瞳は美しいっていうのは、あれは何かの歌の歌詞だっただろうか。ちょっと勉強不足だ。

「ランドローバーが教会にあったから、不思議に思っただけよ」
「じゃぁ、アッサム様ですよ。1号車の鍵がずっと返却されていないので」
「……そう」
「気になるのなら、様子を見てきたらどうですか?」
「様子も何も、教会に用事なんて邪魔をするべきことじゃないわ」
「いいから、降りてくださいよ」
手元のロックを開けて、ほらほらってお節介を焼いた。見つめ合うこと10秒。
ルクリリに“後はお任せ”されたのだから、ルクリリ以上に仕事をこなさなければならない。
「少し待っていて」
降参と言わんばかりに車から降りたダージリン様は、ランドローバーの中に人がいないことを遠巻きに確認しておられる。アッサム様は、教会の中におられるのだろう。お祈りに来られたのだろうか。
「嫌です。1号車で帰ってきてください」
「………ルクリリに報告するおつもりかしら?」
「ルクリリは応援隊長なので」
「………アッサムの気持ちを考えた方がいいわよ」
「アッサム様の気持ちではなく、ダージリン様のお気持ちを考えているんです。神様の前で素直になられた方がいいです」
「好きな人がいるのでしょう、彼女は」
「はい。気になるのなら聞いてみたらいいですよ」
「聞いて、諦めろと?あなたたち、私に一体何をさせたいの?」


いい加減、気が付いてくださいってもう本当に喉の奥まで出かかっている。


「ダージリン様、こんな言葉を知っていますか?」


「……何?」




決してあきらめるな
決して、決して、決して、決して!



握りこぶしを見せたペコは、眉をひそめるダージリン様を置いて、ランドローバーを急発進させた。



関連記事

*    *    *

Information

Date:2016/06/16
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/726-42d13596
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)