【緋彩の瞳】 FLOWER ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

FLOWER ①

「へぇ、チューリップの球根ですか?」
「そう。私たちの卒業式に間に合えばいいんだけれど」
「チューリップって花が咲くまで、かなり手間暇かかるものなんですね」
「咲いている日数は少ないけれどね。でも、手間を惜しまないから綺麗に咲くのよ」

 校舎脇の花壇。夏はひまわりや朝顔が並び、場所によってはミニ薔薇が咲いていたり、コスモスが広がっていたりと。場所によって、季節ごとに違う花が咲いていて、生徒たちの目を楽しませてくれる。紅茶の園へと続く道などは造園業者が定期的にメンテナンスをしてくれているが、生徒が自主的に種を植えて管理している花壇もあって、誰が責任者などというきちんとされたものではない。それでもアッサムは、入学当初から整備科の同級生や情報処理部の同級生と一緒になって、色々な花を育てていた。趣味というほど熱心なものではないけれど、気分転換の一つと言ったところ。植物に触れる機会を無理にでも作らないと、油まみれの戦車やパソコンしか触らないなんて、寂しい限り。そう思っていた。

「ここに植えられている球根は、去年花を咲かせたものなのよ。オランダから取り寄せたもので、日本では売っていないものなの。毎日眺めていれば、だんだん花びらの色が変わってくる様子が見られるの」
「わぁ。楽しみですね!」

夕暮れ時、花壇の様子を見て水を上げていたところに、偶然ペコが通りかかって、ずっと誰が育てているのか知りませんでした、と声を掛けてくれた。海上の花壇は種が風に乗って雑草が生えると言うことは少ないけれど、もともと学校内に生えているものの種が飛んでくると言うことはもちろんあって、定期的な手入れが必要だ。害虫もゼロではない。時間ができたら愛でるついでに、水をやったり、花壇の状態を確認したりと、アッサムには少しの楽しみでもある。本気を出してハウス栽培で野菜を作っている学部もあるけれど、そう言うのとは違う。
「キャンディたちもね、時々お世話をしてくれているのよ」
「そうなんですか。ずっとここって誰が管理しているんだろうって思っていたんですよ。業者さんにしては、素人っぽいっていうか」
言って、慌てて口をふさぐ仕草をしても、アッサムだってガーデニングのプロって言うわけじゃない。素人に毛も生えてないくらいで、それでちょうどいいのだ。几帳面は自負しているが、のめり込んで他がおろそかになってしまうのもよくない。
「お褒めいただいてありがとう、ペコ」
「すみません……」
「いいのよ。この花壇は誰かがいつの間にかひっそり花を育てているっていうくらいが丁度いいわ。私の前はね、アールグレイお姉さまが。私たちが1年生の時の隊長がとても熱心に花を育てていらしたのよ」
ダージリン様はまったく興味をしめさなかった、と付け加えたので、ペコは一緒になって笑った。誕生日パーティの時にテーブルに飾った薔薇は、学生艦のハウス栽培のものなのにね、と。

「さて、お茶でも飲みに行きますか」
「はい。あ、そう言えば私も、ココア飲みたいです」
「じゃぁ、自動販売機のところまで行きましょう」
「ルクリリたち、どこ行ったんでしょうね」
時間は16時を回った。放課後、ダージリンは教師たちの会議に呼ばれている。1人で行きたくないと言う視線を浴びていたが、呼ばれてもいないのにアッサムが付き添うわけにもいかず、手を振って見送った。

今は、午後のホッとしたひととき。
生徒の多くはお茶の時間を楽しんでいる。

「ローズヒップがミーティングルームの使用申請を出していたわ。ルクリリもそこで整備科の子たちとお茶しているのでしょう」
「え~。誘われてないです」
豪快シスターズも、仲良しなのかそうじゃないのか。とはいっても、いつでも何でもべったり3人というよりは、元々性格がそれぞれ違うし、友達の多い3人なのだ。部屋が一緒なのだから、ずっと何でもと言うわけではないだろう。
「あの子たち、こっそりジュースとスナック菓子を買いこんでいたみたいだから、ペコは行かない方がいいわ」
「なるほど……それはこちらから遠慮した方が良さそうです」
ダージリンの目がないのをいいことに、英国淑女流なんていう堅苦しいものではなく、グラスにジュースを注いで、ポテトチップスをつまんでいるらしい。隠しているつもりだろうけれど、情報処理部を甘く見過ぎている。
「行きますか」
「そうですね」

立ち上がり、土をいじった手を洗いに行こうと足の方向を変えた。


『平気平気~~~!!どうせ花壇ですもの!!お水もあげられるし一石二鳥ですわ!!!』
『それ、ジューズ混じってるじゃん、花に影響すると思うわ』
『構いませんわよ、そ~れ!』
『ちょっとマジ?!』


頭上から聞き覚えのある声。
空を見上げるように顔を上げると、水の塊がアッサムめがけて落ちてくる。


……あっ


声を出す前に、ピリッと叩かれるような痛みが襲った。


「………な、な、な、なんっで…」


建物の3階はミーティングルームだ。自由自在にテーブルを動かすことができるし、輪になっておしゃべりするにはとても便利な部屋。授業中はちゃんと、真面目にミーティングをするために使われていて、作戦会議なんかも頻繁に行われる。車長ミーティング、他の部とのミーティング、あと、放課後は使用申請をすれば、誰でも使うことは出来る。飲食は禁止されていない。精密機械のある周辺に水分を置かないことさえ守ればいい。それくらいゆるい。ミーティング中もみんながお茶を飲めるように、3階に給湯室もちゃんとある。ちなみに映像なんかを見られる設備もあるから、映画鑑賞なんかを、ひっそりと楽しんだりする生徒もいる。

「アッサム様、だ、大丈夫ですか……」
ピンポイントでアッサム様を狙ったかのように、水が落ちてきた。バケツか何かの水を放り投げたと言った様子だった。あれはきっと、ローズヒップの声。
というか、この学校でローズヒップ以外、水を窓から撒くなんてする人はいないだろう。
「ペコ、自動販売機のある場所はわかる?」
「は、はい……」
「私は部屋に戻って着替えてくるわ。これで好きなものを買って。1人で飲むのが嫌なら、私の部屋にいらっしゃい」
濡れた手でポケットからIDカードを出したアッサム様。
何というか、さっきの話の続きを無理やりされていらっしゃる。
「い、………いや、あの。ローズヒップを蹴飛ばしに行ってきます」
「放っておきなさい」

感情の一切を排除したような、アッサム様は無表情のまま寮へと歩き出した。頂点を超えた場所に怒りが向かってしまったらしい。毎日のようにローズヒップを咎めるお声は、決して本気ではないご様子だったけれど、今回のこれはもう、横浜で迷子になったとか、廊下を走るとか、ティセットを粉々にするとか、そう言うレベルのことではないようだ。
「これは、………ついに退学処分かもしれない」
連帯責任は常に3人でと言われているけれど、ペコもルクリリも一緒に学校を辞めさせられるのだろうか。


大急ぎで3階へと駆け上ると、そこではポテトチップスの匂いを充満させた、女子会みたいな空気が広がっていた。
「あれ?ペコ、どうしたの?ジュース&チップス会に参加したいの?まぁ、ジュースはローズヒップが零したから、あと半分しかないんだけど」
チップスを手にしたルクリリが、ノックもせずに入ったペコをキョトンとみている。
「………大変なことをやらかしましたよ」
「え?何、ジュース飲んでいること、バレた?」
それはとっくにバレバレだ。アッサム様が知っているのならば、きっとダージリン様も知っておられるに違いない。知らない間に勝手にやっていることを咎めることはしないお2人なのだ。校則でチップスを食べるなと書いているわけでもない。

だから、そう言う問題じゃなくて。

「ローズヒップ!!さっき、さっきのあれ!水を窓から捨てたでしょう?!」
どうやらペットボトルのジュースを零したようだ。彼女の手元には、半分以下になったペットボトルと、その甘い匂いが残っている。
「ばれました?流石に床は水拭きしなきゃって思って、雑巾で綺麗に拭きましたわ。機械にかかっておりませんわ」

やってしまったの、っていつものような乾いた笑い。ペコの怒った声に、何かがあったと察するほどの能力はないらしい。

「ペコ、見てたんだ。やっぱマズいと思ったんだ。だってジュース混じったものをぶちまけるってさ。よくないよね」
「この高さなのよ?水でもダメでしょう。花が折れてしまうわ」
ルクリリの言葉にバニラが突っ込みを入れている。だから、そう言う問題じゃない。

笑えない事態になってるのに。


「ア、アッサム様が下にいらしたんですよ!水っていうか、何か色の付いた水がアッサム様にかかったんですよ!!」


ただの水と言うよりも、雑巾で絞ったジュースもまとめて、アッサム様の身体に降り注がれてしまった。




……
………



「………嘘」
「嘘~~!!!」


バタバタと窓の外に顔を出したところで、もうアッサム様は静かな怒りを携えて、寮に戻られてしまっている。

「なんで?!なんでアッサム様が花壇にいらしたのよ~~~!!!」
頭を抱えてローズヒップは叫んでいるけれど、ジュースを拭いたバケツの水を捨てるなんて。小学生でもやっちゃいけないことだってわかることを。

「アッサム様は?!」
「部屋でお着替えされるって」
静まり返るミーティングルーム。チップスの油っぽい匂いが充満している。きっとこれもあとで、消臭剤を撒いて痕跡を残さないようにするだろう。隠すだけ無駄なことなのだ。いや、もう二度と1年生の秘密のジュース&チップス会とやらは開かれることはきっとない。
この、お葬式のようなみんなの表情。

「…………謝りに行きましょう」
「そうね。とりあえず、ここは解散して、私たち3人でアッサム様のお部屋に謝りに行ってくる。誰がここにいたかは言わない。水を窓から捨てたことが悪いわけだし、ジュース飲んだことはまた、別の問題だから。ほら、行くわよ、ローズヒップ」
放心状態で、ムンクの叫びのようになってしまっているローズヒップ。
ルクリリはみんなに片づけを任せて、ローズヒップの腕を引っ張った。
「……私、今回も連帯責任ですか?」
「私だって連帯責任なんだから、付き合いなさいよ」
「ルクリリが止めないからでしょう?」
「いや、止めたって。……止める声より、威勢よく水を捨てたのはローズヒップだし」
確かに、元気なローズヒップの一石二鳥!って言う声とルクリリの“ジュース混じってるじゃん”っていう声は聞こえてきた。でも経験上、ローズヒップを止めると言うことは、体当たり位しなきゃいけない。だから、ルクリリが連帯責任を負うのは当然だ。
「今回ばっかりは、退学かなぁ………よくて戦車道から普通学科へ転籍」
「うちの親、泣いてしまうかもしれません。次、副隊長かもしれないって言ったら、嬉しそうにしていたのに……」
「ローズヒップは退学だろうねぇ」
「どうでしょうかね」
あのアッサム様の、怒りを通り越したような無の表情はもう、それはもう、どんなことが待ち受けているのかわからない。


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Date:2016/06/16
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