【緋彩の瞳】 FLOWER ③

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

FLOWER ③

「早いなぁ」
「……うーん、逆効果だから止めた方がいいと思いますが」
「この時間から廊下待機しても、火に油を注ぐだけだと思う」
昨日の夜、止めろって言ったのに部屋の前で待っていると言ってきかなかったローズヒップは、案の定泣きながら戻って来て、ついでにダージリン様に反省文を書くように言い渡されてきた。ペコもルクリリも同じように反省文を書いて、3人、少しいつもより眠るのは遅かった。誰よりも早起きのローズヒップは、ベルと同時に飛び起きて、すさまじいスピードで着替え終わる。また、アッサム様が部屋から出てこられるのを待っているつもりらしい。やめた方がいいって言ったけれど、聞く耳持たずで、ルクリリとペコが着替えている間に姿が消えてしまっていた。
「どうするの、ペコ」
「まぁ、誠意は伝わるかと思いますが」
「あの怒り方だと、今日中にお許しは無理だと思うけど」
「どうでしょう。アッサム様はお怒りと言うよりは、呆れかえっているような気もします」
「っていうか、どっちもでしょう」
いつも通りの時間に服を着替えて朝食前に3年生の寮に向かってみると、ダージリン様とアッサム様のお2人にローズヒップがまとわりついて、謝る声が聞こえてきた。昨日と何も状況は変わっていないようだ。ダージリン様の表情はいたって普通だけれど、アッサム様の背後霊のようにローズヒップがまとわりついて、心から迷惑と言ったような眉の角度だ。
「おはようございます、ダージリン様、アッサム様」
「おはようございます」
「おはよう、ルクリリ、ペコ」
「2人とも、これをどけて頂戴」
いつもならふわふわとした髪は、きっと朝から丁寧にブラッシングされたに違いないのに、もうすでにローズヒップがグチャグチャにしている。ペコとルクリリは両サイドからローズヒップを引っぺがした。
「ルクリリもペコも、ローズヒップを戦車道の授業以外で、私の視界に入れないようにしなさい」
乱れた髪を手櫛で梳きながら、アッサム様はルクリリに向けて言い放つ。何もそこまで言わなくても、って言いかえすのを飲み込んだ。代わりに、ダージリン様が眉をひそめてアッサム様を見つめた後、小さくため息を吐かれる。ダージリン様はアッサム様に任せるつもりらしい。
「………ですが」
ルクリリはペコを見つめた。腕を引っ張っているローズヒップはもう、この世界が終わった様子で、うなだれた身体の重みを2人で支えているだけだ。
「返事は?」
「………でも……」
ペコもまた、困った眉をさらに角度を深くしてルクリリを見上げてくる。
「返事、と言ったのよ」
アッサム様はいつになくキツイ口調をお使いになっている。怒っているときも、何だかんだと言いながら、愛があった。

これも愛なのだろうか。

「どうすれば、私たちをお許しくださいますか、アッサム様」
「あなたたち、ではないわよ、ルクリリ」
「いえ、連帯責任です」
これは、連帯責任だ。常識外れの行動を仲間が取ったとしても、ローズヒップのしでかしたことなのだから、ルクリリとペコも同じ罪。流石に予測不能なことだったけれど、それでも一緒に反省文を書き、彼女が罰を与えられたのなら、同じ罰を背負わなければならない。
「だったら、私に近づけないでちょうだい。責任を持って監視しなさい」
そう言われてしまうんじゃないかって思ったら、案の定だった。ルクリリが言い返せない先手を打つんだから、アッサム様は。
「……わかりました。朝から不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」
じっとルクリリを数秒見つめた後、アッサム様は髪を気にしながらダージリン様と食堂へ向かわれた。昨日の朝は、とても機嫌よく一緒に朝食を取ったと言うのに。今日は一番遠くの席に座った方が良さそうだ。お2人の紅茶の準備をバニラとクランベリーにお願いする電話を入れないといけない。
「たぶん、ですが」
姿が見えなくなってから、ペコがローズヒップの頭を撫でながら呟いた。
「何?」
「………きっと、謝り続けてもダメなんだと思います」
「許す気はないってこと?」
「はい。でも、退学とか転籍とかそう言うこともするおつもりはないと思いますよ。戦車道の授業以外では視界に入るなっていうことは、戦車道の授業にローズヒップが参加することは認めていらっしゃると言うことですし」
「そうか。そうだね。うん、少し時間を掛けて解決方法を考えましょう。ローズヒップ、ほら立って」
立っていられない、朝から絶望の様子のローズヒップ。罵声を浴びせられるよりも、無視が一番堪えるんだろう。目も合わせてくれないのだから。



「誰かのせいで、サンドイッチがあんまりおいしくないわね」
「私のせいですか」
「どうかしら。任せると言った以上は、何も言いませんわよ」
「言っておりますわよ」
いつもはペコたちが傍に座って、紅茶を淹れてくれる。それもついさっき、視界に入れるなと言ったアッサムのせいで、3人は遅れて食堂に入り、コソコソと一番遠いテーブルに座った様子だ。ローズヒップは屍のようになってしまっている。ダージリンとアッサムの傍には、なぜかバニラとクランベリー。ルクリリから連絡が行ったのだろう。座るとすぐに、土下座のようにアッサムに頭を下げてきた。

「アッサム様の大切にされている花壇に汚い水を捨てる行為、止めることができずに申し訳ございませんでした」
「お花を傷つけてしまい、申し訳ございませんでした。アッサム様にお怪我はございませんでしたでしょうか?」

バニラだけがその場にいたらしく、クランベリーはジュース&チップス会の参加者ではなかったそうだ。それでも、自分の部隊の責任者がしでかした行為を詫びてきた。アッサムが花の世話をしていることを、2人は知っていたようだ。

「心配してくれてありがとう。あの馬鹿が捨てた水は、ほとんど私にかかったでしょうから、マリンゴールドやコスモスに直撃は致しませんでしたわ。チューリップの球根を植えているあたりに水がかかっていたけれど、多くもないですし、きっと問題はないでしょう」

そう言えば、1年生の頃、時々、アールグレイお姉さまがアッサムを連れて花壇の手入れをされていた。義務ではなかったからダージリンは付いていかなかったけれど、アッサムはずっと、ちゃんと花壇のお守りをしているらしい。付き合うようになってからも、アッサムがダージリンの傍にいない時に何をしているかなんて、あんまり気にすることはないが、知らないところで花を可愛がるなんて、流石のアッサムと言いたくなる。

「放課後、私たちで球根に影響が出ない程度に、土を入れ替えさせていただきます」
「それ以外のお花も、影響が出ていないか、きちんと確認をさせていただきます」
「そう。情報処理部の3年生で園芸に詳しい人がいるから、教室を訪ねるといいわ」
丁寧に紅茶を淹れる2人に、アッサムは笑顔を振りまいている。元々は1年生の中でもきちんとした淑女なのだ、この2人は。ローズヒップの影響で時々ネジが緩むこともあるけれど、アッサムが静かに怒っている理由もわかっているし、詫びる内容も的を射ている。
アッサムは、普段ローズヒップたちが座る場所に座るように2人に告げたけれど、ローズヒップたちの場所を奪うことはしたくないからと、丁寧に頭を下げて身を引いた。何と出来た子たちなのだろう。クルセイダー部隊を支える貴重な人材であり、2人を育てたのもまた、アッサムだ。ローズヒップのことを見捨てない絆もちゃんとある。
「2人を上げて、ローズヒップの座を下ろす?」
「それもいいかもしれませんわね」
「スピードを出せないクルセイダー部隊になりますわよ?」
「故障も少なく済みますわ。バニラお姉さまがお喜びになるかもしれませんし」
同じ名前を受け継ぐものが小隊長になれば、バニラお姉さまもくだらないクレームの電話を掛けてくることもなくなると、アッサムはおいしそうに紅茶を飲みながらすました顔をしている。視界に入れるなと言いながらも、しっかり視界の隅に入っている3人。
ペコが困った眉でダージリンを見つめているから、軽く手を振っておいた。一瞬にして笑顔になって、ブンブンと腕を振り返してくる。
「可愛いわねぇ、ペコは」
「……そうですわね」
アッサムは一瞥もすることはない。こういう風にわかりやすく感情を見せてくれるなんて今までなかったことだから、これはこれで嫌というわけではない。きっとどこかで許すチャンスを与えるだろう。ローズヒップがそのタイミングを見誤らなければいい。


通常授業を終え、午後の戦車道の授業になった。車長ミーティングから始まった午後、最前列にルクリリとローズヒップ。アッサムはいつも通りにダージリンの傍でパソコンを広げている。卒業試合に向けた編成の打ち合わせ。3年生を全員出場せるために、9月に変えた編成をもう一度考え直さなければならない。マチルダⅡとクルセイダーの各部隊は、3年生ではなくルクリリとローズヒップにさせるつもりだ。夏の大会とまったく同じでは勝てないのだ。3年生もプラウダの練習試合を見ていたので、2人の能力をかっている。ただ、勝ちにこだわる。どんなことをしてでも、勝って引退をしなければならない。
「………ローズヒップ、聞いているの?」
「は、はい!も、もっちろんでございますわ~!」

最前列の2人と言えば。

必死にノートを取っているルクリリの横で、ローズヒップはずっとアッサムに熱視線を送り続けてばかりだ。後ろの席のバニラが頭を叩いても、全くノートに文字を書く様子もない。
「では、意見はあるの?」
「え?えっと……えーっと、お水は3階から捨ててはいけませんわ」
ルクリリの手刀とバニラのノートが、ローズヒップの頭に直撃した。本当にこの子たちは楽しませてくれる。アッサムの身体を包む空気の温度が上昇したと言うことに気が付いているのだろうか。
「ローズヒップ、立ちなさい」
「は、はい!!!」
無視を決め込んでいたアッサムが彼女の名前を呼んだから、嬉しそうに尻尾を振ったローズヒップは、ガタンと盛大な音を立て、椅子を倒しながら立ち上がった。
「後ろで立ってなさい。バニラ、クランベリー、前に詰めて座りなおしなさい、すぐに」
「…………ア、アッサム様~~」
ルクリリはローズヒップの机に広げられたノートや資料をまとめて、彼女の腕に押し付けている。次、アッサムが言葉を発せられる時は、こんな静かなものじゃ済まないってわかっているのだろう。バニラとクランベリーもすぐに移動のために立ち上がった。
「アッサム様!その、ごめんなさいでした!ダージリン様のお話、あまり聞いておりませんでしたわ」
「ほら。後ろにって言われたでしょう?」
アッサムの視線はもう、パソコンの画面に戻ってしまっていて、一切視界に入れようとしていない。バニラに背中を押されて渋々後ろに立たされてしまう。
「えっと、どこまで話をしたかしら、アッサム」
「クロムウェルの搭乗者を、クルセイダー部隊から選ぶということですわよ」
「そうだったわね。えっと、それでローズヒップの意見は……ないみたいね」
半べそをかきながら後ろに立たされているローズヒップは、きっと話の最初から何も聞いていなかったに違いない。
「全員3年生選出でいいでしょう。クルセイダーは3両ですから、ローズヒップを下ろせばいいですわ。隊長の話をまともに聞けないような車長は必要ありません」
3年生の車長は2人いる。バニラかクランベリーのどちらかを後方支援として編成を組む必要があって、今回はクランベリーの参加は見送られる予定だ。無論、車長ミーティングは参加不参加関係なく、この卒業試合は全員が毎回出席することになっている。
「……と言う意見が出ているのですけれど、ローズヒップ、小隊長のあなたの意見は?」
アッサムはどこまで芝居のつもりなのだろう。カタカタとパソコンを打つ指の動きに苛立ちが溢れている。
「お待ちください、アッサム様」
「アッサム様、ローズヒップは小隊長として必要です」
バニラとクランベリーが手を挙げて、アッサムだけを見つめてくる。アッサムの視線は彼女たちを捉え、それから後方のローズヒップを見つめた。
「2人とも、ダージリン様が意見を聞いているのはローズヒップよ。その手を下ろしなさい」
ぴしゃりと言われて、何も言えずに手を下ろす2人。ルクリリが振り返ったまま、ローズヒップに視線で何か合図を送っている様子。
「どうするの、ローズヒップ」
ダージリンは声を張り上げた。正直、無駄な時間だわ、と思う。ペコがそっとお茶を淹れなおすために立ち上がった。流石、出来た子。
「わ、私は……その、アッサム様が嫌だとおっしゃるのなら、試合に出られなくても、その、仕方ありません、ですわ」
「アッサムのことなんてどうでもいいのよ。あなたが出たいのか出たくないのか、黒森峰に勝つ気があるのか、自分の意志を示しなさい」
ローズヒップの真っ赤な瞳は、アッサムだけを捉えていて、だけどアッサムの瞳はまったくもってローズヒップを捉えない。何度もゴシゴシと涙をぬぐう姿は先生に怒られている小学生みたいだ。ダージリンは何も悪いことをしていないのに、何て損な役割なのだろう。
「……アッサム様に嫌われてしまっては、試合には出られませんわ」
「アッサムは嫌いだなんて言ってないわよ。話を聞いていないことを怒っているの」
「………はい」
「黒森峰に勝ちたいの?勝ちたくないの?」
「勝ちたいですわ」
「じゃぁ、試合に出る気はあるの?」
「アッサム様とダージリン様の最後の試合に出て、勝ちたいですわ」
「だったら、私の話を真面目に聞いてノートを取りなさい」
「………ごめんなさいでした」
ダージリンの手元に、暖かな紅茶が置かれた。ペコがニコっと微笑むから、思わずダージリンもニッコリと微笑み返してしまう。
「アッサム様、どうぞ」
「ありがとう」
アッサムは無表情のままだ。
「よろしい。無駄な時間だったわね、次に進みましょう。ローズヒップはアッサムの許可が出るまでそこに居なさいな」
「………はいですわ」
部隊編成のミーティングはそのまま続いた。チャイムが鳴り終わるまで、アッサムは何も言わなかった。

関連記事

*    *    *

Information

Date:2016/06/16
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/729-e0e698d4
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)