【緋彩の瞳】 Your Wish ⑩

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

Your Wish ⑩


「立ち入り禁止の場所に入っちゃったよ」
「特別許可をもぎ取るなんて、レイは一体何様だ?」
「火野レイ様、ということでしょう」
美奈子、はるかさん、せつなさんは、夏休みに突入して静かなTA女学院に来ていた。亜美ちゃん、まこちゃん、うさぎも一緒だ。レイちゃんから渡された関係者のカードを首からぶら下げて、小さな講堂に入る。
「わー。綺麗なステンドグラスね」
ちょっと蒸し暑いけれど、美奈子はまるで海外にある小さな教会のような講堂の天井を見上げて、ステンドグラスを一周するように見つめる。


ここは、神聖な場所なのだろう。


「あらあら、みなさん。ごきげんよう。火野さんが特別に入れて欲しいと言っていた方はみなさんだったのね」
「あ、この前の先生」
すでに最前列の長椅子には、1人腰をおろしているシスターがいた。レイちゃんの先生だ。
「何やら、たった1曲だけの演奏会があるって。そのためにあなたたちを呼んで欲しいと言われた時は、何か複雑な訳があるといった顔だったけれど。火野さんは深美とその娘さんも連れてくるというから……何が始まるのかしらね」


成仏の儀式が始まるんだけど
いや、成仏する前に幽霊の夢を叶えてあげましょうの会、だったかな

美奈子も首をかしげて見せた。
この講堂のどこかに、その死んでしまった人の幽霊がいるのかと思うと、ちょっと怖いような気もしないでもない。

「みんな」
扉が開いて、レイちゃんが入って来た。その後ろから、みちるさんとそしていかにも、親子です!っていう顔の人が入ってくる。
きっとレイちゃん、複雑な気持ちだろうな、って思いながら。
付き合っている人の母親に会う、しかも実はその人は自分のママと親友だったなんて。
でも、やっぱりみちるさんのことが好きだという気持ちを変えられないんだろう。みちるさんだって、最初から知っていて接触したわけじゃないだろうし。みちるさんの性格だったら、そんな相手を恋愛対象として見ないはずだろうから。
「大丈夫なの?」
「えぇ……たぶん」
「え?」
「いや、演奏が不安、っていう意味もあって」
「あぁ…」
レイちゃんは少し疲れた顔をしているけど、肩をすくめて見せた。そして、一点を見つめている。
そこには誰もいないはずなのに、レイちゃんには見えている人がいるのだろう。
視線は先生の座る椅子の隣の列あたり。彼女も最前列に座っているようだ。
うさぎがそんなことを知らずそこに座ろうとするから、あわてて腕を引っ張った。
美奈子たちは、3列ほど開けて座ることにした。

「……美奈子、V時代のゴーグルを付けてみたら?あれを使えば多分見えるわ」
隣に座ったせつなさんが、こそっと話しかけてくる。
「いや、怖いんだよね、ちょっと」
「見た方がいいと思うわよ。レイが何をどうしたいのか、誰かが見てあげた方がいいわ。レイの努力を見てあげられるのは、残念ながら、あなたしかいないのだし」
噂によると、顔も似ているらしい。美奈子はしぶしぶゴーグルを取りだした。
「………いるわ」
「そう」
後ろ姿の彼女は、その背中から楽しみで仕方がないと言った様子がうかがえた。


「レイ、これ何?」
「あの人は、おそらく音が聞こえないのよ。私は霊力を使って彼女に音を届けられるけれど、みちるさんと深美さんの音は、それを利用するわ」
レイはみちるさんと深美さんの持つ楽器の音がちゃんと緋彩に届くようにと、弓を持つ手首に霊力を込めた数珠を巻くようにとお願いをした。
「今も見えてる?」
「いるわ……深美さんが年を取ったって笑ってる」
「そう」
「“学生時代の深美さんにそっくり”、ですって」
「私が?」
「えぇ」
「どのあたり?」
ピアノの前に腰を下ろしたレイは、最前列の椅子の誰もいないところを指差す。その向こうで美奈が赤いゴーグルを付けて同じように指をさしていた。なるほど、そうすれば美奈には確かに見えるだろう。2人を比べてみても、やっぱり似ている。けれど、他人の空似というか、魂の色は違うから、偶然なのだろうけれど。
「みちるさんは何か感じる?」
「何もないわ」
「悪霊じゃないものね」
みちるさんとレイはとりあえず、初対面的なことで深美さんに伝えてある。どことなく距離を保ちつつ、1時間だけ3人で練習をして、本番ということになった。
深美さんには、ボランティア部でどこかで演奏をするのではないのか、と聞かれたけれど、みちるさんと深美さんと演奏をしたいし、するのは今日しかないから、とごまかしつつ喜ばれながら今日を迎えることになった。

そして、結局はこうするしかなかったのだということを認めるしかないのだ。

彼女には音が聞こえない。
レイの演奏が聞こえていたのは、レイが無意識に誰かを想い、それが霊力として彼女に音として認識できていたからなのだ。

だから、絶対的にレイが演奏をしなければいけないことは避けられない。
そしてその霊力に波長を合わせて演奏できる人間なんて、みちるさんしかいない。
みちるさんの母親は自分の娘と心合わせて演奏することができる。
だから、それを何とかうまく利用するしかない。この3人以外にはありえないのだ。


「力を使って大丈夫なの?病み上がりなのに」
「さぁ…。こんなことをしたことがないから、わからないわ」
「あなた見えているこの間も、ずっと霊力を使っているのでしょう」
「いいのよ、もうこれであの緋彩は納得をしてくれるわけだし」
「……そうね。1曲だけ、がんばりましょう」
みちるさんと、深美さんがそれぞれヴァイオリンとチェロを構える。
「2人とも、私に……私の心に合わせて演奏してください。みんな、気がまぎれないように、静かに聞いていて」
頷いた親子を目で確認して、そして、座っている緋彩を見た。


彼女は演奏が始まっていないのに、すでに涙目だ



大きく深呼吸を2度繰り返す



ゴーグルでレイちゃんを見ると、レイちゃんを大きな光が包み込んだ。その光がみちるさんとみちるさんのママを包み、そして波動がシンクロしてゆく。
こんな力を持っているとは思わなかった。
いや、この3人だから、なしえているのだろうと思った。
いろんな形の愛と呼ぶものが、やさしく講堂を包むように広がっていく。

123456、123456、123456、

ワルツかな?いや、これは8分の6っていうリズム。前に学校で勉強したから覚えていた。

123456、123456、

柔らかくて優しい音色
緋彩と呼ばれている少女の幽霊がそっと立ち上がる。
黄金色の光が彼女を包み込んで、眩しいとさえ思えた。


123456,123456、

あぁ、そっか。

彼女は新しい世界に逝くときにこの曲で見送られたかったんだ
叶えられなかった夢が叶う時、人はこういう幸福な光に包まれるのかもしれない

曲が終盤に近付くと、緋彩はリズムに合わせて身体を揺らしそして両手を広げた

幸せそうなその後ろ姿
まばゆい光が天から降り注がれて、まるで階段のようなものが見えてくる





『素敵だったわ。私の夢が……やっと叶った』



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Date:2014/01/01
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