【緋彩の瞳】 FLOWER ④

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

FLOWER ④

その後の訓練は、クルセイダー部隊とは別にチャーチルはマチルダⅡと少し離れた場所で射撃訓練を行っていたので、穏やかに時間は流れて行った。訓練終了後、解散したらすぐにローズヒップはアッサムの傍に寄って来てまとわりついていたが、アッサムの一喝でルクリリとペコが引き剥がしに来た。
「アッサム様……ごめんなさいですわ。もうお傍にいられませんの?お話もしてくださいませんの?」
恋人同士の別れのセリフじゃあるまいし。ダージリンは隣で笑いを堪えている。関係がないから笑っていられるのだろう。とはいえ、さっき、周りが迷惑だから、この件は今週までと言われてしまった。明日は金曜日。土曜日が過ぎたら、アッサムは気持ちを切り替えなければならない。ダージリンに言われてしまった以上、仕方がないのだ。隊を乱しているのはアッサムとローズヒップの2人だと言うことはわかる。アッサムが許せばすべてが解決することくらい、誰もがわかっている。
「お茶でもする、アッサム?」
「いえ……。3人の相手をお任せしていいかしら。ちょっと、用事があるので」
「そう?あれの相手を私にさせるの?」

“あれ”は昨日と変わらず、永遠の別れを惜しむような叫びと、その両サイドから腕を引っ張る2人。

「慰めておいてください。迷惑だって伝えてくださらないかしら」
「面倒くさいわねぇ、あなたも。懐いてこなければ、それはそれで物足りないでしょうに」
ダージリンはアッサムの髪を指に絡めてくる。ローズヒップを真似るように軽く引っ張って、それからすぐに手放した。

戯れはわずか5秒。

「………もう少し、厳しく育てればよかったですわ」

だけどその5秒がずっと欲しかったのだ。
それだけで心が穏やかになって、何もかも許してしまいたくなるほどに、幸せだと想えるのだから。

「思ってもないことを口にするのは、よくないわよ」
「どうでしょうか。あとで連絡を入れますわ。お夕食、ノエルの新作のバーガーをキャンディたちが買いに行くって言っているので、御遣いをお願いしたいのですが、ダージリンはどうされます?」
本当は昨日、新作が出たから買いに行くつもりでいた。でも、ダージリンが嫌だと言うから諦めたのだ。彼女に嫌だと言われる限り、期間限定の新作はずっと食べられないままで終わりを迎えてしまう。もちろん、そのうち嫌だと言われようともタイミングを見計らって1人でこそっと買いに行くつもりでいる。
「お店で食べないの?」
「えぇ、テイクアウトをして食堂で食べます」
「そう。じゃぁ、私も便乗しますわ」
要らないって言うと思った。ちょっと拗ねたように見せながらも付き合うようになってからは、出来る限り夕食を一緒に取ると言う約束は、ちゃんとお互いに守っている。朝も昼も今までお互いにバラバラに食堂に行っていたが、一緒に行って一緒に食べる。無論、互いの自由を縛るのではない。ただ、一緒にいたいのだ。
「ハンバーガーですよ?」
「ポテトも付けてね」
「コーラもお付けしましょうか?」
「結構ですわ」
どこに行くのかと尋ねてこなかったので、アッサムはダージリンに3人を押し付けて、着替えなおして花壇へと向かった。

バニラとクランベリーがジャージ姿で花壇の清掃を始めているようだ。あと見覚えのある顔がちらほらと。
「あら、キャンディ。あなたもいたの?」
「はい。バニラに聞きました。不快な想いをさせて申し訳ありませんでした」
「毎度毎度、無関係のあなたにまで頭を下げさせるなんて、ローズヒップもなかなかやるわね」
ミーティング中ずっとメソメソしていたのだから、みんな事情を知りたがっているはずだろう。3年生からも何があったのかって聞かれて、説明すると、傷害罪ねって笑っていた。アッサムが怒るのも無理はないとため息を吐かれたけれど、クルセイダー部隊の3年生たちからは、思いっきり頬を叩いてそれで終わりにしたらいいって言う意見をもらった。ローズヒップが小隊長として仕事をこなしてくれない方が困るのだ。それはわかっている。あそこまでメソメソしていれば、きっと訓練中もまともじゃなかったに違いない。
「いえ、普段の彼女の行いを放置している私たちにも、責任はあります。アッサム様にもご迷惑をかなりおかけしたようで。でも、お花が折れたりせずにいたのが幸いでした」
「そんなことになっていたら、私はあの子を退学にしているわ」
花とローズヒップ、どっちが大事かと言われれば、ローズヒップだ。だけど、花壇があると認識しながら、悪影響を及ぼすと言う考えもなく、一石二鳥と言えるその精神を改める気持ちがないのなら、もう、人として問題があると言ってもいい。
でも、そんなことを思わせないで欲しいのだ。
「私たちで、綺麗にさせていただきます。お手間はおかけしませんので」
「関係のないあなたたちを巻き込んで悪かったわ。早く終わらせて、みんなでお茶をしましょう」
ローズヒップがここにいてくれれば、アッサムはため息を吐いて許しただろう。でもあの子は、水を浴びせたことばかりが気になってしまっているようだ。朝、ダージリンから貰った反省文にも、アッサムを汚したことを深く反省している様子は嫌になるほど伝わってきた。ペコは直前にアッサムとチューリップのことを話していたから、花壇のことも触れて、申し訳なかったと書いていた。ルクリリは非常識なことをするより先に、体当たりをして止めるべきだったと書いていた。
「……まったくあの子は」
ジュースの匂いも消えて、乾いてしまっている土。アッサムが被害を受けて、ある意味良かった。それでも球根をむき出しにしない程度にみんな素手で土を入れ替えて、昨日以上に綺麗な花壇にした。ついでに、昨日は手の回らなかったところまで手を入れなおして、みんなでワイワイ楽しみながら綺麗にして、これで、幾分気持ちもすっきりした。
バニラたちは、ローズヒップに何も言わずにここに来ているのだろう。言うべきか悩んだに違いない。みんなでジャージ姿のまま、自動販売機でコーヒーやココアを買って飲んだ。制服に着替えてキャンディたちがハンバーガーを買いに行くと言うので、お金を渡して手伝ってくれた人数分とダージリンの分も買ってくるようにお願いした。今日の食堂はポテトの匂いにまみれそうだ。


「あ、楽しそう」
食堂をそっと覗くと、ダージリン様とアッサム様を何人かが囲んでいた。キャンディ様やリゼ様、カモミール様がいらっしゃる。あと、3年生の整備科や情報処理部の先輩もチラホラ。なにやら大所帯で、わいわい楽しそうに食べていらっしゃるようだ。
「いいなぁ、楽しそうだな~」
ルクリリが羨ましそうに言いながら、食券を買いに行こうかって、ローズヒップの手を引いた。視界に入れるなという命令はまだ解かれていないのだから、仕方がない。
「私、見に行ってきます」
「怒られない?」
「きっと、大丈夫です」
ずっとべそをかいたままのローズヒップ。ちょっと待っていてと、ダージリン様の傍に向かった。
「ダージリン様」
「あら、ペコ。今からお食事?」
「はい。珍しい、ダージリン様がハンバーガーを食べていらっしゃるなんて」
「でしょう?アッサムが食べたいと言うのだから、仕方ありませんわ」
と言う割には、凄くおいしそうに食べていらっしゃる。見せつけるように大口を広げて、まるでサンダースの生徒のようだ。練習試合の時にサンダースの生徒が出しているお店を見て、下品な匂いと一言呟いて近寄りもしなかったのに。
「美味しそうですね」
「大雑把な味ですわよ」
「美味しそうに食べているじゃないですか」
「みんなで食べるから美味しいのよ」
素直に認めたらいいのに。アッサム様は聞いていないフリをしていらっしゃる。
ポテトをつまみ食いしたい気持ちを我慢して、その場から遠くの席に戻ろうとしたら、キャンディ様が小さく“おいでおいで”と仕草を見せていた。
「アッサム様は、あなたたちの分も買ってあるから、バニラたちの席に行くといいわ」
「本当ですか?ありがとうございます」
堂々と一緒に食べようと誘わないのは、ローズヒップを許していないからだろうけれど、それでもちゃんと買ってきてくださっているなんて、まったくもって思っていなかった。何だかんだと、アッサム様はお優しい方なのだ。
「アッサム様、お気遣いありがとうございます」
ペコは抱き付いて、頬っぺたを摺り寄せたい気持ちを我慢しながら丁寧に頭を下げた。
「………別に、キャンディが数を間違えて買っただけよ。余っても仕方ありませんわ」
走りたいのを我慢して、一礼をしてその場を去る。端っこに座って待っていたルクリリにヒソヒソとハンバーガーの存在を告げる。周囲を見渡すとバニラがさっきのキャンディ様と同じように“おいでおいで”としていた。
「ローズヒップ、何だかんだ言って、アッサム様から好かれているわね」
3人はバニラとクランベリーのいる席に場所を移動して、アッサム様が買ってくださったハンバーガーの包みを広げてみる。さっきダージリン様が食べていらしたのと同じもの。
「アッサム様が3人の分もちゃんと買うようにって、キャンディ様に伝えていたわ」
「そうなんですか」

ほら、やっぱり。

「花壇も綺麗に清掃して、土も入れ替えたし、お怒りも少しマシになったと思うの」
「え?花壇の掃除?何それ、アッサム様はそんなことをされていたの?」
大きな一口を飲み込みながら、ルクリリは唇に付いたソースをぺろりと舐める。ペコはクランベリーの言葉に、しまった!と思いついた。アッサム様の怒りの原因を見誤っていたのだ。
「そうよ。バニラと私とカモミール様、あとキャンディ様とリゼ様、ダージリン様以外のあそこにいるメンバーで花壇の土を替えて、周りも清掃して、前よりも綺麗な花壇になったわ」
「ウソ、何それ。何で誘ってくれないのよ。私たちが参加しないのが一番良くないじゃない」
ルクリリはクランベリーに文句を言うけれど、お門違いと言うもので、そもそも花壇を綺麗にすることを率先しなければいけないのは、ペコたち3人なのだ。ペコはアッサム様がお花を可愛がっておられるのを目の前で見ていたと言うのに。水が頭の上に落ちてきた衝撃を目の当たりにしてしまって、すっかり忘れていた。
「でも、アッサム様のお気持ちを考えたら、普通に綺麗にしなきゃって思うものでしょう?てっきり、3人の申し出を拒否されたと思っていたわ」
「………でも、汚い水はアッサム様にかかってしまいましたわ」
あっという間に食べたローズヒップは、ゴクゴクと紅茶を飲む。しょげている割にはペロッと平らげてしまうんだから。きっと殺しても死なないタイプなのだろう。
「それも怒っておられるでしょうけれど。ローズヒップはアッサム様が大好きなのでしょう?アッサム様の大切なものを台無しにする行為、ちゃんと反省するべきだわ」
「アッサム様が花壇のお花をそだてていらっしゃるなんて、知りませんでしたわ」
「誰が育てていても、やってはいけない行為よ」

大切な人を汚してしまった。
大切な人が大切にしているものを汚してしまった。
アッサム様のお怒りは、水を掛けられたことだけじゃない。

「きっと、ローズヒップじゃなければ、あそこまでお怒りにならないのかも知れないです」
一口が小さいペコは、噛み切れなかったレタスがぺろりとバンズから飛び出して、慌ててフォークで掬った。やっぱりフォークを持ってきておいてよかった。
「だろうね」
「………アッサム様ぁ~~」
ルクリリは、もう一度謝ろうって、ローズヒップの頭を撫でた。きっと、バニラたちにいろいろ教えてもらったって、それでアッサム様も気づかれるだろう。
「私たちも連帯責任で一緒に謝りに行きますわ」
「そうね。ローズヒップが使い物にならないと、クルセイダー部隊がまともに訓練出来ないもの」
クルセイダー部隊って、本当にローズヒップ以外が優秀だから機能しているんだと、つくづく思う。クランベリーもバニラもローズヒップのせいで味方撃ちされるわ、激突されるわ、散々な目に遭って来たと言うのに。アッサム様が彼女たちにティーネームを授けたのは、間違いなくクルセイダー部隊を影で支えてもらうためだろう。それはつまり、ローズヒップのためだ。
「ローズヒップの小隊長を下ろす様子もなさそうだし、ちゃんと心から謝ればいいわ。泣いて抱き付いたって、何を謝ろうとしているのかが伝わらないのよ」
「明日、朝のミーティングの前に一緒に謝りましょう。私たちも付いていきますわ」
涙が出るほど優しいクラスメイト。ローズヒップのしでかしたことなのに、放課後に花壇の土の入れ替えをしただけではなく、一緒に謝ってくれるなんて。
「ローズヒップってお得な性格ね」
「感心している場合ですか、ルクリリ」
「出来の悪い仲間がいると、絆も強くなるものよ」
ルクリリは、時間が経てばアッサム様の機嫌も良くなると思っているのだろう。あるいは何か作戦を考えているのか。
「“出来が悪い”の中に、ルクリリも片足入っていますよ。ティーカップ破壊率の問題で」
ペコは指に付いたソースをティッシュで拭き取り、ローズヒップに沢山食べられてしまったポテトの残りを1本食べた。ちょっとしなっている。
「ルクリリが何かしでかしても、私たちは助けませんわよ」
「何それ、バニラ~。裏切り者」
「だって、ルクリリにはキャンディ様がいらっしゃるじゃない。キャンディ様も大変よ。ローズヒップが何かしでかしても、ルクリリが何かしでかしても、必ずいつもお2人に頭を下げに行かれているもの」
実は、ペコはそのことを知っている。何だかんだダージリン様とアッサム様の傍にいるのが一番多かったから、キャンディ様がお2人に頭を下げておられる様子を、何度も目撃していたのだ。
「今回のことも、一緒にジャージ姿で土を入れ替えていらしたし、頭を下げておられましたわ」
クランベリーは、だからローズヒップ達は迷惑をかけた全員にも、謝った方がいいとアドバイスをおくってくれた。きっとそう言うことも、アッサム様は見ておられるはずだから、と。





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Date:2016/06/16
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