【緋彩の瞳】 FLOWER END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

FLOWER END


朝、制服を着替えてもアッサムが迎えに来ないので、部屋を出た。彼女がノックしてくれるのを待つ毎日。お互いに早く準備ができた方が迎えに行くという約束をしているけれど、いつも朝はアッサムが迎えに来てくれるのだ。
「あらあら、人数が増えたわね」
アッサムの部屋の前にずらりと1年生が並んでいた。アッサムが部屋を出てこないのは、これのせいかもしれない。足音なんて聞こえた記憶はない。忍び足でここまで来たのだろうか。

ローズヒップは正座をして、じっとアッサムが出てくるのを待っているようだ。
謝罪部隊はクランベリーとバニラが加わって、ちょっとまともになった様子。

「おはようございます、ダージリン様」

ルクリリが代表して挨拶をしてきた。みんな、頭を下げるけれど、視線はすぐにアッサム部屋に戻される。
「反省文は再提出をさせていただきます」
「その必要はあって?」
「はい。キャンディ様たちが花壇の清掃をされたとのことで、そこまで頭が回らなかった私たちが愚かでした」
昨日、放課後にアッサムは用事があると言って姿を消したけれど、なるほどそう言うことらしい。3人の相手を押し付けて、散々泣いてアッサムが恋しいとうるさいローズヒップを観察している間、楽しく花壇を掃除していたなんて。


ちゃんと、ダージリンを構うように言ったのに。


「……ふぅん。その反省文とやら、もう私はまったく関係ないから、アッサムに渡しなさい」
アッサムには今週で終わらせろと伝えているけれど、関係ない人間が次々にローズヒップを助けようとしている姿を見せつけられてしまえば、許さざるを得ないだろう。出来の悪い子程可愛いものだ。最初にローズヒップを気に入ったのはアッサムなのだから、自業自得というもの。

「アッサム」
1年生がいてもいなくても、ダージリンには関係のないこと。ドアをノックしてから15秒。
「………ここで呼びに来ますか、普通」
「私には関係のないことですわ」
靴音が聞こえなかったから、すぐドアの前に立っていたのだろう。困った眉で見上げてきても、朝の挨拶を頬に出来ないこっちの身にもなってもらいたい。
「アッサム様」
手を付いて、ローズヒップはじっとアッサムを見上げている。
もう、まったくアッサムはダージリンを構う気がないらしい。
「………お花に汚れたお水を捨ててしまって、いろんな人にご迷惑をおかけしまして、ごめんなさいでした」
頭を絨毯に擦り付けて反省をするなんて、聖グロの生徒でこんなことをするのはローズヒップが最初で最後だろう。そうあって欲しいと願うばかり。
ペコが神に祈るようにアッサムを見つめている。
「二度と、アッサム様たちお姉さま方が、代々育てているお花を傷つけるような行為はせぬよう、私たちから十分に言い聞かせます。どうか、お許しくださいませ」
「私たちクルセイダー部隊を代表して、ローズヒップのしでかしたことへの罰は、一緒にお受けします。お許しを頂けませんでしょうか」
心優しすぎるバニラとクランベリー。アッサムは本当に後輩を育てるのがうまいと感心してしまう。それもこれも、ローズヒップが周りから愛されているから。
そして、一風変わっているから、入学当初は浮いていた存在だった彼女を育てて、小隊長にさせたアッサムがいてこそ。

「……ローズヒップ、迷惑をかけたキャンディたちにも、そうやって土下座して謝ったの?」
「昨日、ご迷惑をおかけしたみなさんには、お礼とお詫びをしましたわ」
久しぶりに名前を呼んでもらえたことが嬉しいのか、勢いよく頭を上げたローズヒップ。
目が腫れている。2日程泣きっぱなしだったせいだろう。


アッサムは愛され過ぎだわ。
なんて羨ましい。


「そう。……立ちなさい、ローズヒップ」
「はい!」
勢いよく立ち上がったローズヒップは、嬉しそうな笑顔。
許すとも言っていないのに。

アッサムの右手が勢いよくその頬を叩いた。
加減はしているだろうけれど、パチンと言う音は響くことなく、絨毯に吸い取られていく。

「………ごめんなさい、でした」

ローズヒップは過去に、何度も頬を叩かれている。初めてのことではないのだ。見慣れたものになったけれど、バニラとクランベリーは居た堪れないといった表情。一緒に罰を受けると言ったことを後悔しているかもしれない。
「随分と周りに迷惑をかけたわね、ローズヒップ」
「……ごめんなさいです」
ローズヒップは、怒りをぶつけるアッサムを泣かずにちゃんと見つめている。ここで喚くように泣く子じゃないから、アッサムも見捨てきれないのだ。散々叩かれて育てられたから、強くなった。


と言うよりも、朝食に行きたいわ。


「常に周りを良く見ておきなさい。周りを見るということはね、相手の気持ちを考えるということよ。常に人の気持ちを考えていれば、あんな汚い水を3階から花壇に向けて捨てるなんて出来ないわ。何度、私をがっかりさせるつもりなの」
「………アッサム様が大切にお花を育てているなんて、知りませんでしたわ」
「私が関係していない花なら、問題ないとでも?」
「いえ、そうではありませんわ。……でも、私が愚かでしたわ。とても汚い水でしたもの。それに、勢いでお花がダメになっていたかも知れませんわ。水場に捨てるのが当たり前のことでしたわ」
「そうね、かなりの愚か者ね。本当に呆れたわ」
「ごめんなさいでした。アッサム様が大事にしているものを、汚してしまいました」

早く、朝食を食べに行きたい。放って行ってしまおうかしら。ダージリンは無関係のアピールのために、先に廊下を進み始めた。ルクリリとペコの視線が追いかけてくる。

「ローズヒップは今日中に、昨日入れ替えた汚れた土を、処理施設に運んでおきなさい。土で汚したくないから車は使わないように。それでこの件は終わりにするわ。バニラとクランベリーは手伝わないようにね」

言った後、アッサムがダージリンを追いかけてくる。1年生たちはすぐには降りてこない様子だ。




「先に行かないでください、ダージリン」
「あら、だって私には関係のないことですもの」
「あの場でノックをしたのは、どこのどなたですの?」
「約束を守っただけだわ。あと、私を構いなさいって言ったでしょう?」
「構っていますわよ」
「ローズヒップのことばかりだわ。アッサムは1に後輩、2にお花、私ってば3番手なのね」
朝食に向かう他の3年生たちと、ちょうど玄関先で出くわして、優雅に挨拶を交わす。
「アッサムさん、私が代わりにローズヒップの頬をおもいっきり叩いておくから、もう今日の部隊ミーティングはまともにさせてもらえないかしら?うちの部隊、あれでは機能しませんわ」
クルセイダーに乗る3年生たちに言われて、アッサムは隣でやれやれとため息を吐いている。昨日の訓練も、クルセイダー部隊は随分大変だったようだ。ローズヒップの報告書も訓練内容ではなくて、ほとんどアッサムへの謝罪文ばかりだった。
「大丈夫よ、皆さん。さっきアッサムが平手打ちをして、それで許したから。これ以上迷惑をかけたら、今度は私がアッサムに罰を与えますわ。どうか御心配なさらず」
「…………そう言うことですわ。ご迷惑をおかけしてごめんなさい」

ローズヒップも、モテモテだわ。
ダージリンは頭を抱えながら歩くアッサムの髪を握りしめて、引っ張ってからそっと放した。
「アッサム、あなたの右手は大丈夫?」
「あの子の頬の心配をして差し上げたらどうです?」
朝の日の光の中で、沢山の生徒が食堂に向かっているから、その手を握ることは流石にしない。アッサムに平気で抱き付いたりするのは、ローズヒップたちくらいだろう。
「大好きな人を叩く手は、どれ程痛いものかしらね」
「さぁ、どうでしょう。抱きしめてしまえば、痺れも消えるでしょうね」
「あら、私ならいつでもよろしくてよ」

両手を開いて見せると、乾いた咳払いが一つ。

「盛大な勘違いですわ」

朝から、これ以上疲れさせないでください、だなんて。
アッサムは歩くスピードを速めるから、傍を離れないようにダージリンも歩幅を合わせた。


「………え、これを船尾の一番奥まで運ぶの?車なしで」
「仕方有りませんよ。それで許すって言っているんですから」
処理場を地図で確認して、ルクリリはツバを飲み込んだ。船尾の端も端。歩いて行ったら、帰ってきたころには夕食を食べる時間はとっくに終わっていそうだ。荷台に土嚢にされた土が8袋。2人で押してやっと歩けるくらいの重さ。なるほど、流石アッサム様だ。簡単に許したりしないと言う、結構ハードな罰。
「行きますわ~~~」
おりゃーって気合いを入れて、ローズヒップが力任せに荷台を全力で押し始めた。全然前に進まないから、ペコとルクリリも隣に並ぶ。
「重たいな……」
「処理施設まで、全長7,3km。門限までには戻りましょう」
「そうね、また別の怒りをかってしまうわ」
頭にタオルを巻いたローズヒップは文句を言わずにひたすら押している。罪の償いをしたところで、またいつもみたいに抱き付いたり頭を撫でてもらえるという保証はないけれど、それでも無視されなくなるのなら、何だってするのだろう。まぁ、あんな汚い水を掛けて、この程度で済んだのだからよかった。
「明日、筋肉痛になってそうです」
「ペコは鍛え方が足りないのよ」
「私はお2人より小さいんだから仕方ないんです」
坂のない学生艦の中、ひたすら平坦な道を進むだけだ。途中で何度か休憩をはさみながら、ペコとルクリリは交代しながら。ローズヒップは最後までずっと全力で荷台を押し続けた。処理施設に到着した頃、当たりは真っ暗。聖グロから来たと言って門を開いてもらった。
「君たちか、副隊長に汚い水を掛けたっていうのは」
この学生艦で生活をしている人はみんな、戦車道の隊長と副隊長のことをよく知っておられる。お2人はある意味、この学生艦の大スターなのだ。
「さっき直々にお電話を頂戴しましたよ。その辺の公園に捨てたりしないで行くことを期待しているって。流石にそんな首絞める行為をしないよね、君たちは。えっと、次期隊長さんもいるんでしょう?」
「………えっと、はい。まだ、正式に決まっていませんが」
さっき公園で休んでいるときに、一瞬だけ捨てられたらいいのになんてことを、考えたりなんてしてない。していないのだ。
「お優し副隊長さんでよかったね。前のえっとなんだっけ、アールグレイさんだったかオレンジペコさんだったか、セイロンさんだったか、あの人たちだったら、学生艦にいられないだろうね」
おじ様は、ちゃんと綺麗に処理をしておくと言って、土嚢のすべてを確かに預かってくれた。
「暗いから、気を付けてね。急いで帰りなさい」
「ご迷惑、おかけしました」


3人は交代で荷台に乗りながら、キャッキャとスピードを出して帰った。広い道で車の通りも少ない。
「お腹空いたですわ~~~」
「どこかで食べて帰ります?」
「テイクアウトで何か買って公園で食べようよ」
「え~。真っ暗だし、危ないですよ」
「お蕎麦食べたいですわ~」
荷台に乗って胡坐を書いているローズヒップ。
「お蕎麦か~。公園に出前してもらおうか?」
「いやいや、どうしてそうなるんです?この辺り、お蕎麦ってありましたっけ?」
ペコはもう少しあと、1~2km先に行ったらあるかもなんて言いながら、携帯で場所を検索し始めた。
「もう一歩も歩けませんわ」
「あんた荷台に乗ってるじゃん。次の信号で代わりなさいよね」
ガラガラとローズヒップを押していると、向かいから車のライトが見えたので足を止めた。

「あっ……アッサム様とダージリン様です!」
車がすれ違ってすぐにペコが声を上げた。聞き慣れたエンジン音に車の形。1号車の車番。ゆっくりと停止する車はハザードランプを付けた。助手席から降りてこられたのは、ダージリン様ではなくアッサム様。
「アッサム様~~!」
荷台にいたローズヒップが猛スピードでアッサム様にかけて行く。両手を広げるお姿はもう、すっかりお怒りが静まったご様子だ。
「アッサム様~~~!!!」
衝突の衝撃で倒れるんじゃないかって言うくらい、ものすごい勢いで抱き付いて。まるで何年も会えなかった恋人同士みたいじゃないかって。
「途中の公園で捨てたりなんてしていないわね?」
「もっちろんでございますわ!ちゃんと運びましたでございますわ!」
「そう」
「アッサム様~~~~。もうお許しくださいますか?」
「許したくないけれど、周りが迷惑だというのだから、仕方がないわ」
「アッサム様~~アッサム様~~~」
「はいはい、これ以上制服を汚さないでちょうだい」
尻尾がはち切れんばかりに吠えるし泣くし、きっと涙でぐちょぐちょになっているだろう。
「ルクリリ、荷台を乗せてしまいなさい。どこかに食べに行きましょう」
「はい!」
「ペコ、行くわよ」
「はい!」
運転席の窓を叩いてみると、ダージリン様が窓を開けて満面の笑みを見せてくる。
「あなたの運転は嫌よ、ルクリリ」
「………ペコならいいですか?」
要するにへたくそって言いたいんだろう。みんな言ってくるけれど、全然わからない。
「たまには運転をしたいからって、せっかくドライブを楽しもうとしていたのに。アッサムに言われるがまま運転していたら、こんなところまで来てしまったわ。まったく、してやられたものね」
ドライブと言いながら、ちゃんと心配でここまで迎えに来てくださったアッサム様とダージリン様。やっぱり流石だって思う。聖グロの過去にどんな凄い隊長や副隊長がいたのかなんて知らないけれど、きっとこんな風に厳しくてお優しくて仲のいい2トップなんてダージリン様とアッサム様以外にはおられなかったはずだ。まぁ、ローズヒップ程の問題児も過去にいなかったのだろうけれど。
「お腹空きましたわ!お蕎麦食べたいですわ!」
ルクリリが乗り込み、真ん中にローズヒップが座った。ペコが座ってドアを閉める。
「Uターンをして、すぐに左折してください」
シートベルトを締めながら、アッサム様はダージリン様に指示を出す。
「お蕎麦なの?さっきまで、中華粥のお店に行こうって話をしていたのに」
ダージリン様はミラーで対向車がいないのを確認すると、勢いよくハンドルを右に切ってUターンをかました。
「アッサム様~~、アッサム様~~~」
「ローズヒップ、乗り出さないで。バックミラーが見えなくなるわ」
おでこをパチンと叩かれようと、でこピンされようと、ローズヒップは全然めげる気配もない。
「アッサム様~、明日おデートしてください!!」
「嫌よ。明日はキャンディたちがケーキを作るっていうから、私も一緒に作るのよ」
「ちょっとアッサム、私を構いなさいって言ったでしょう?」
「構っていますわ。作る方は嫌だと言ったのは、ダージリンですわ」
「アッサム様の作ったケーキ食べたいですわ!!お部屋に食べに行きますわ!!」
アッサム様の作ったケーキは食べたいけれど、普通に考えてそれを食べる権利があるのは恋人の“ダージリン”だけだろうって、ルクリリは心の中で思う。構ってもらえずにすねていらっしゃるようだけど。
「私とローズヒップ、どっちが大事なのかしら?」
「どっちも面倒くさいですわ。そこを右折です」
言われて、ブレーキと共にクラッチが踏まれてセカンドに落とされた。
ローズヒップの身体がルクリリにもたれかかってくる。ついでにペコも。

「アッサム様~~!ケーキ食べに行ってもいいですか?」
「バニラとクランベリーに分けてあげる約束をしているの」
「ちょっとアッサム?」

ダージリン様、おすそ分けすらないかもしれない。笑いがこみあげてくる。

ペコの手元が何か光った。携帯電話だ。

「どういうことですの、アッサム様~~!」
髪を引っ張って抗議しても、ローズヒップは朝まで無視されていたのだから、もらえるわけもないのに。すっかり忘れているのだろうか。
「……あ、バニラですか?ちょっと明日、アッサム様とケーキを食べる約束をされているようですけれど、どうしてそんな大事な情報を私たちに黙っているんですか?え?………お詫び?いやまぁ確かに私たちが迷惑をかけましたけれど……あの、その、…一口くらい取り置きしておいてくださいよ」
ペコも黙っちゃいられないのだろう。アッサム様の手作りなんて、そう簡単に口にできるようなものじゃないのだ。
「ちょっと待ちなさい、ペコ。アッサムのケーキは誰にも食べさせません」
「え~。バニラたちのものまで、取り上げることないじゃないですか」
「ダージリン様はお呼びじゃない様子ですよ?」
面白そうだから、ルクリリも参戦したい。きっとアッサム様は“ダージリン”にはちゃんと用意しているはずだろうけれど。
「アッサム、私を構いなさいと言ったでしょう?」
その台詞、何度使うつもりなのだろう。
「アッサム様~~。じゃぁ私もケーキ一緒に作りますわ!それがいいですわ!」
「ダメよ、ローズヒップ。それじゃぁ私の食べるものがなくなってしまうわ。あなたはペコとルクリリと、公園でブランコにでも乗って遊んでいなさい」
そんな、幼稚園児じゃあるまいし。どこまでも邪魔されたくないのはわかるけれど、だからって3人まとめて追いやるなんて。
「嫌ですわ」
「嫌です。バニラが半分残してくれるって言ってますし」
「じゃぁ、私はクランベリーに交渉する」
相手がダージリン様であろうとも、休日の使い方まで決められたくはない。反抗だってするのだ。
「公園に行ってなさい、命令よ」
「「「嫌です」」」


「………あぁ、もうやっぱり許すんじゃなかったわ」


結局、アッサム様のケーキは、小さいものを作る予定から大きなホールケーキを作る羽目になって、午後のお茶の時間に、ダージリン様とルクリリたち1年生でワイワイと食べた。

それにしても、“私を構いなさい”なんて。
ダージリン様って甘えるのがお好きらしい。

もしかして、アッサム様がローズヒップをお許しになられたのも、ダージリン様がローズヒップのことばかり考えているアッサム様にムッとして、何か文句を言ったからだったりして。




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Date:2016/06/16
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