【緋彩の瞳】 雨のち晴れ END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

雨のち晴れ END


「ダージリン様!!!!!!」



 カップで両手を温め、少しずつ飲んでいると、廊下を走る音が近づいてきた。ノックもせずに音を立てて開かれた音。零しそうになる紅茶はカップの中で揺れて、何とか踏みとどまった。

「あら、ローズヒップ。相変わらず元気ね」
「はいですわ!ダージリン様のイライラを止める方法を思いつきましたわ!!!」

 いつでも年中、憂鬱とは無関係そうなローズヒップは、さらっとアッサムが余計な事を吹き込んだことを、口にしてしまった。ダージリンは何か言いたそうにして、アッサムを見つめ、それから興奮したローズヒップを手招いた。事情聴取でも始めるおつもりだろうか。

「そうなの?では、その方法を教えてくださる?」
「これですわ!!!!」
「…………あら、可愛い。ありがとう。これでイライラも解消だわ」
「はいですわ!!元気になりますか?」
「えぇ、きっとね」
 何かをダージリンに渡したようだけれど、ソファーに座っているアッサムには見えなかった。
ローズヒップは敬礼をして見せて、それからまた、勢いよく走って部屋を出て行く。方法っていうのは、何だったのだろうか。

「アッサム」

 背筋を伸ばして机の上を眺めようとしていると、視線が重なり名前を呼ばれた。
机を迂回して、ダージリンのすぐ傍に寄ると、その手に晴れやかな笑みが抱かれている。


「……可愛い」
「これは、アッサムね」
「はい?」
「だって、黒いリボンが付いているんだもの」
 

白い布に、丸い頭。後ろには黒いリボンが付いている。てるてる坊主って、坊主なのだから、男の人じゃないのだろうか。そう思ったけれど、ローズヒップのユーモアが、彼女らしくて、思わず笑った。


「久しぶりに、アッサムが笑ったわね」
「……え?」
「あなた、ここ数日イライラしている様子だったから。出港も延びて、訓練もできないし。不機嫌で、元気もなさそうで」
「………それはダージリンの方では?」

 出港が延びてあちこちに電話をかけ、打ち合わせやらOG会で、相当苛立ちを背負っていたのはダージリンの方ではないのだろうか。ずっと、眉間にしわを寄せておられたのに。 アッサムには、そう見えていた。それはアッサムが勝手にそう思い込んでいたのだろうか。

「私は、どんな天気であろうとも、どんな状況だろうとも、いつもと変わらないわ」
「……そうですか?」
「当たり前よ。こんな雨もトラブルも、大したことじゃないわ」
 椅子を引いて立ち上がったダージリンは、手の中にあるてるてる坊主を窓のカーテンレールに括りつけた。黒いリボンが小さく揺れる。きっと、大急ぎで作ったのだろう。丸みが少しいびつだけど、それも何だか可愛い。


「ダージリン」
「何かしら?」
「…………私のこと、心配してくださっていらしたの?」
「えぇ」
「私はダージリンがイライラしているように、見えていましたわ」
「あら、そう?よっぽど、アッサムのことが心配だったのね」


 本当に、ダージリンという人は。


「………紛らわしいですわ」


 きっと、ダージリンの言葉の半分は優しい嘘だ。まったく苛立っていなかった、と言うことはないだろう。でもアッサムが思っているほどのものではなかったのも、きっと本当。

「……私にカモミールを飲ませたかったんですか?」
「えぇ、本当はね。何だかムキになって買いに出てしまったんだもの。相当、苛立っていたみたいね」

 止めない方がいいとアッサムを見送り、だから用事が終わっても、ダージリンはこの場を離れられなかったのだろう。

「私がローズヒップみたいに、簡単にアッサムの機嫌を取れたらいいのでしょうけれど」

 雨で少し濡れていた肩。
靴の中の濡れた指先の気持ち悪さ。
ふんわりしない髪。
小さな苛立ちの一つ一つが、身体から蒸発するように消えて行く。

「………じゃぁ、少し抱きしめていてください」
「少しでいいの?」

 温かい手のひらがアッサムの両頬を包み込む。
カモミールなんかよりもずっと、ずっとこの温度が、その瞳がアッサムを落ち着かせてくれる。


「ダージリンのお好きなだけ」
「そうね、そうしましょう。あなたがイライラしているようだから、私、甘えるのを我慢していたのよ?近づいたら怒られるかしらって」
「………奇遇ですね、私もですわ」

 湿り気を帯びている制服のまま、ダージリンの身体に抱き付いた。
シャンプーの匂い。彼女の匂い。
鎖骨に鼻の先を付けて深く息を吸い込む。

「私がイライラしているってあの子に言ったの?」
「……まぁ、そのようなことを」
「だから、アッサムに似せたてるてる坊主なのね」


 しがみついたセーター。髪を留めている黒いリボンにそっと触れたダージリンは、てるてる坊主のそれと見比べて、小さく笑っている。

「………あの子、たぶん深い意味なんて、考えていませんわ」


 ダージリンは、これから何かあったら、あのてるてる坊主に向かってお祈りでもしようかしらって、随分機嫌よく笑うものだから。

 久しぶりにダージリンの笑う声を聞いたような気がして、ローズヒップお手製のものは、相当な効果を発揮しているかも知れないって思えてきた。

もし、明日もまた、雨が降るなら。
一つの傘を差して、ダージリンとアジサイを観に行こう。


晴れたら、手を繋いでアジサイを観に行こう。

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Date:2016/06/23
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