【緋彩の瞳】 誰よりも一番 ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

誰よりも一番 ①

「どうしたの、ローズヒップ。眠たいの?」
「アッサム様~~、昨日の夜に、ルクリリとペコと激しくやり合いましたわ」

 隊長室に置かれているソファー。3人掛けが2セット、テーブルをはさみ、向かい合っている。ダージリン専用の隊長椅子以外、幹部と呼ばれている者は皆、ここに座りお茶を飲みながら書類の確認や、話し合いをする。今はローズヒップと2人きり。さっきまで、クルセイダー部隊の射撃訓練計画書の確認をしていて、ようやく解放されたところ。ローズヒップに紅茶を淹れさせると、隊長室に悲劇が起きかねない。アッサムが2人分の紅茶を淹れてソファーに座ると、当然と言わんばかりに密着して隣に座りなおしてきた。

「一体、何をやり合ったのかしら?」
「枕投げのあと、大富豪をして、そのあとレポートを仕上げていないと気が付いて、必死でしたわ」
「………どうして、最初にレポートを思い出さないのかしらね」
 にぎやかに騒いだ後、悲壮感漂わせながら机に向かう姿は、簡単に想像できる。まさか、ペコまでレポートをやっていなかったと言うのだろうか。この様子では、この子だけがやっていなかったのだろう。それでも、開き直ってやらないと言う選択をしないだけ、まだいい。
「こらこら、目を擦らない」
「ん~~~。眠いですわ」
「カップを持ちながら、目を閉じないで」
「はいですわ~~」
 緊張感から解放されたからか、眠たげにあくびを噛み殺し始める。紅茶を零しそうになって、放っておけば熱い紅茶がスカートにシミを作ってしまう。それはそれで目が覚めるには、いいきっかけになるかもしれない、なんて思いながら、目の前で後輩の火傷を見過ごすこともできず、アッサムはティカップを取り上げた。
「アッサム様ぁぁ」
「………あ~、もぅ。こら、ここで寝たら、ダージリン様に怒られるわ」
「まだ、戻ってきませんわ~~。5分だけですわ~~」
 目を擦り、しょぼしょぼとした瞳。アッサムの髪に鼻先をこすりつけてくる、まさか、本当に寝ようとしているのだろうか。
「ちょっと、ローズヒップ」
「ん~~……眠いですわ。お紅茶より、眠りたいですわ~……」
 セーターを握りしめてきて、アッサムの腕に頭をくぐらせてきて、本当に、一体誰にこんな甘え技を教えてもらったのかしら、と、ため息をその頬に吹きかけたところで、勝手に靴を脱いで、勝手に人の膝を枕にして、もうお休みの準備は整ってしまっている。
「まったく、もう……。クーラーで足が冷えてしまうわ」
「ん~~……大丈夫ですわ。おやすみなさい……ですわ」
「………はやっ」

 お休み3秒どころか、2秒もしないうちに寝息になって、肩が上下し始めた。お腹に顔を埋めて、あまりにも堂々と先輩の膝を使って眠り始めるものだから。なかなか度胸のある子だ。怒ることができずに甘やかせているのは、アッサムなのだから、そこがどうにも難しいところ。

「………もぅ、まったく」

 癖のある髪を手櫛で梳き、紅茶を飲むことを諦めた。ダージリンの反応を想像しながら、しばらくの間、清らかな寝顔を眺めることにしよう。



ノックをしても、返事がなかった。確か、先にアッサム様とローズヒップが行っていたはずだ。キャンディ様にダメ出しされて作りなおした訓練計画書を完成させたから、早くサインをもらわなければ。そろそろダージリン様がペコと戻って来られる。返事がないけれど、在室のマークがあるので、そっとドアを開けた。
「アッサムさ………うわっ」
「シー」
アッサム様がソファーに座っているお姿が見えたから、近づくと人差し指を唇にあてて、眉が困った形になっている。
「こ、この馬鹿は一体何を………」
 その細くて小柄なアッサム様のお膝に、なぜだかローズヒップが頭を乗せて、お腹に顔を埋めて、天国にいるような表情で爆睡していた。
「眠たいって言って、あっという間に寝たわ」
「なんて羨ましい……ズルいぞ、ローズヒップ」

なんて、羨ましいことをしているんだ、ローズヒップは。
「シー。もう少し声を押さえて」
「気を遣うことなんてないですよ。叩き起こせばいいじゃないですか」
「この顔見て、起こせないわよ」
「見慣れたものです。ぶっ叩きましょうか?」
 毎日、同じ寮室で、お休みと言ってから3秒待たずに爆睡のローズヒップなのだ。こんな顔は見慣れたもの。ルクリリにとっては、少々腹立たしいくらいの、幸せな寝顔だ。今すぐ頬を叩いてやろうかと思ったけれど、ローズヒップはアッサム様の庇護の元。軽くにらみつけられて、渋々諦めた。
「……ほら、書類を見せなさい」
「はぁい」
「キャンディにちゃんと直してもらったの?」
「はい」
ルクリリは傍に立ったまま。寝息を立てる同期に苛立ち、妬む日が来るなんて。パラパラと書類を一通り見終わったアッサム様は、ルクリリの持っていたペンでサインを入れて、もういいわ、と一言告げられた。絶対に、帰ってやるものか。
「私も、眠いです」
「ちゃんと、レポートは仕上げたの?」
「はい。っていうか、そこの馬鹿だけがやっていなかったんです」
「そう」
「私はちゃんとやっていました」
アッサム様は3人掛けのソファーの端を少し空けて座っていらっしゃるから、ルクリリは強引にその隙間に座り込んだ。ローズヒップにだけ、アッサム様を独り占めさせてなるものか。
「……なぜ、そこに座るのよ」
「だって、ズルいじゃないですか」
「何が?」
「だって、私はちゃんとレポートもやっていましたし、今日の射撃訓練だって誤射しませんでしたし。私の方が良い子でした」
「………良い子って、当たり前のことでしょう?」
 特大の溜息を吐かれようとも、そんなの馴れたもの。アッサム様の左肩にしがみついて、ふわふわした髪に顔を埋めた。
「こら……ルクリリ」
「ローズヒップだけ、ズルいです。不公平です」
「あなた、次期隊長でしょう?」
「次期副隊長が爆睡しています」
 アッサム様の髪は、柔らかい薔薇のシャンプーの香りがする。気持ちがいい。
「………もぅ、まったく。ダージリン様に怒られるわよ?」


 ダージリン様が鬼の形相で睨み付けるのは、一体誰なのだろう。アッサム様が怒られるような気がする。それはそれで面白いような気がして、ルクリリはしがみつく腕に力を込めた。      
相変わらず、ローズヒップは爆睡真最中だ。小言から逃れるために、ルクリリは目を閉じて狸になることにした。


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Date:2016/06/23
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