【緋彩の瞳】 誰よりも一番 END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

誰よりも一番 END

「…………あらあら、何事かしら?」
 ダージリン様と共に、職員の打ち合わせに参加して隊長室に戻ってくると、アッサム様とルクリリの頭がやけに接近して見えた。広いソファーで、どうしてそんな抱き合っているのだろう、なんて。冷静にペコは観察しようと近づいたけれど、隣に立っておられたダージリン様の周辺から、何か青い炎のようなものが立ち上がったのは、気のせいではない。
「……お帰りなさい、ダージリン様」
ルクリリはアッサム様に抱き付いている。何というか、なぜ?いや、抱き付いている理由がわからないし、部屋にダージリン様が入って来てもお構いなしと言うか、見せつけていると言うか。
「ルクリリ、ほら。もういいでしょう?起きて」
「………はぁい。あ、ダージリン様。ごきげんよう」
 わざとらしい。ペコは声に出しそうになるのを堪えた。何だかものすごくしてやったりのルクリリの笑みは、明らかにダージリン様を挑発していて。立ち込める青い炎の大きさが一段と増した。
「ルクリリ、“私の”アッサムは寝心地はよかったかしら?」
「はい。“私たち後輩にお優しい”アッサム様は、暖かくて気持ち良かったです」
「それは大変結構。お茶を淹れてくださる?」
 ダージリン様、青い炎を背負いながらもあくまでも優雅だ。一方のアッサム様は、何だか頭痛そうに、額に手を当てて深くため息を吐いていらっしゃる。きっと、嫌な予感と思われているに違いない。
「喜んで。あ、ところで、ここに寝転がっているもう一匹はいかがされますか?」
 ルクリリはとても寝起きとは言い難い、機敏な動きで立ち上がり、満足げな笑みをダージリン様に見せている。きっと、寝心地は…狸心地は最高だったに違いない。


ズルい。


「…………あらあら……」
「仕方ありませんわ。起こせなかったんですもの」

 靴音を立てて近づいたダージリン様の炎は、瞬く間に萎んでいった。何がそこにあるのだろう。いやもう、想像しているものに違いない。ペコはアッサム様の背後に周り、ソファーの背から、どうしようもないルームメイト兼親友の寝顔を覗き込んだ。

あぁ、なんて幸せそうな寝顔。

「アッサム、まったくあなたと言う人は」

 思った通り、ダージリン様の怒りの矛先はアッサム様に向かわれた。この寝顔を見てしまえば、眠るローズヒップを怒るなんてできないだろう。ルクリリは、構うことなく難を逃れて紅茶を淹れている。

あれが次期隊長。
ズルくて、賢い。

「………ダージリン様は、この顔を見て怒れますの?」
「こうなる前に手を打つのが、立場ある物のすべき行動だわ」
「いえ、もう、あっという間でしたのよ?」
「言い訳は結構。アッサムが普段、甘やかせているから、この子はいつまで経っても緊張感が薄いのよ」
立ったまま腕を組み、ダージリン様は“嫉妬しています”と言うことを、遠まわしに言っておられる。ルクリリが背中を震わせて笑っているのは、きっと視界に入っておられない。
「何がいけませんの?訓練中でもありませんし、今は放課後ですわ。疲れている後輩に膝を貸すことくらい、問題じゃありませんわ」

 アッサム様はため息交じりに、ダージリン様を諭しておられるけれど。いやもう、ダージリン様のそれは、“私も甘えたい”なのだから。素直に謝っておけばいいのに。想いながらも、ペコだってローズヒップが羨ましくて仕方がない。ローズヒップはアッサム様のお部屋にお泊りしたこともあるし、本当、気に入られている。ペコだって、あんなことしてみたいものだ。

「ダージリン様、お茶をどうぞ」
 ルクリリが表情は優雅だけれど、苛立っておられるダージリン様の目を通り過ぎ、隊長机にティカップを置いた。ペコ達のものはソファーテーブルに並べられていくけれど、置かれたカップの位置が妙におかしい。
「ちょっとルクリリ」

それを見逃さないのがダージリン様と言うお人で。

「はい、何でしょう?」
「アッサムのカップの隣に置いたのは何?」
「私のティカップですわ」
「その狭い隙間に座るおつもり?」
「さっきまで、そこに座っていましたもの」
「………ペコ」

 名前を呼ばれて、ペコはそのティカップを自分の隣にスライドさせた。なぜ4人なのに、1対3で座ろうとするのだろうか、ルクリリは。いや、明らかにダージリン様の反応で遊んでいるのだろう。どうして、ルクリリが次期隊長なのかわかる気がした。これくらい、ダージリン様に向かっていける度胸がないと、きっと務まらないのだ。

「アッサム様、今度、私も膝枕して欲しいです」
 ルクリリの淹れてくれたダージリンティを一口飲み、起きる気配のないローズヒップがあまりにも羨ましくて、本音が声に出た。羨ましいものは羨ましいのだから仕方がない。
「はぁ………はいはい。今度またね」
「お約束ですよ」
「はいはい」
「ズルい、私も!」
「あなたさっきまで、抱き付いていたでしょう?」

ガタン。

隊長席に腰を下ろしているダージリン様の足元で、何かが音を立てた。たぶん、何かを蹴られたんだと思う。それでも一切表情を変えずに優雅に紅茶を飲まれている。

「ふわふわして、いい匂いでした」
「もうおしまい。平等にしましょう。あなたはもう終わりよ、ルクリリ」
「……はぁい」

 アッサム様の紅茶は、いつローズヒップが飛び起きるかわからないから、火傷させたくないと言って、手を付けられずにドンドン冷めて行く。そう言うお優しいところがあるから、1年生はみんな、アッサム様を慕うのだ。ずっと癖のある毛を撫でている手が、何とも羨ましいものだ。
部屋の時計が16時になって、外からチャイムの音が聞こえてきた。アッサム様のお腹に顔を埋めていたローズヒップが、その音に反応してうーん、とうなる。
「起きなさい、ローズヒップ。ダージリン様が戻っておられるわ」
 アッサム様は声を大きめに出して、チャンスと言わんばかりにその肩をゆすった。うーん、ともう一度呟いて、それからいつものように爽やかに飛び跳ねる。

「朝ですわ!!」
「……夕方だってば、ローズヒップ」
呆れたルクリリの声。キョロキョロとあたりを見渡して、それからアッサム様を見つめたローズヒップは、ニコニコしながら抱き付いた。
「アッサム様~。おはようございますですわ」
「朝じゃないわよ。寝ていたのはあなただけ」
「あら~~?ここはどこですの?」
「隊長室よ」
 状況を確認するように、ルクリリとペコを見つめ、それから右を向いて、隊長席に座っておられるダージリン様を見つめて3秒。
「ダージリン様~~!ごきげんようですわ~~!!!」
 元気いっぱいに立ち上がったローズヒップは、主に会えた犬のように尻尾を振る勢いで、そのすぐ傍まで近づいていった。

「ローズヒップ、おはよう」
「おはようございますですわ!!!」
「アッサムの膝の寝心地はどうだったかしら?」
「ぐっすり寝てしまいましたわ!!!」
「あらあら。そうなの、それはよかったわね」
「暖かくて、ふわふわといい匂いでしたわ」
「そうね、それは存じていてよ」

 何か、さらっと言ったけれど、嫉妬から来る自慢を混ぜていらっしゃる。アッサム様は冷えた紅茶を飲みながら、ため息も一緒に流し込んでおられる様子。ルクリリは笑うのを必死に止めているようだ。

「ダージリン様も、アッサム様に膝枕してもらったことありますの?」
「さぁどうかしら?」
「アッサム様のお腹、柔らかかったですわ」
「そうね、当然、知っているわ」


……
………

アッサム様は、困ったように眉をハの字にされていた。ルクリリはカップをソーサーにおいて、両手で口を防いでいる。吹き出さないように必死のようだ。


「最っっっ高でしたわ!!!」
「そうね。当たり前でしょう。アッサムの身体の温かさと柔らかさは、私が一番存じていてよ。髪はふわふわ、指先はいつも綺麗。足の小指まで抜かりなく完璧。肌はきめ細かいし、頬だって本当に柔らかくて、すべ……」


「ダージリン」

乱暴にティカップが置かれる音と、アッサム様のとても静かなお怒りが隊長室に響きわたる。
きっとダージリン様は、頬はすべすべって言いたかったのだろうけれど、その頬は赤く染まって、お怒りのご様子だ。


「えっと………ダージリン様。私たちは、バニラたちと学外で遊ぶ約束がありますので、そろそろ失礼いたします」

何とか声を出して笑わずに済んだルクリリが、沈黙を破って立ち上がった。ペコも慌てて紅茶を飲み干して、一緒に立ち上がる。

「え~?バニラたちとそんな約束ありませんわ」
「寝て、すっかり忘れているんですよ」
ペコはローズヒップに、おいでおいでと手招きをして、そんな記憶がないと首をかしげたままのその裾を捕まえた。


「えっと……ごゆっくり」
「ダージリン様~~!また、後でですわ~~~」
ドアを開けて一礼する。ダージリン様にはこれから、どんなお仕置きが待っているのだろうか。
「ローズヒップ、もう今日は無理だろ。あれは……しばらく無理」
 閉じられたドアに向かって、ルクリリが呟いた。

ダージリン様は怒られて、拗ねながらも謝る羽目になるのだろうか。そんなことより、ほとぼりが冷めた頃に、膝枕はちゃんとさせてもらわないと。



「………アッサム、紅茶が冷めているでしょう?淹れなおしましょうか?」
 3人が部屋から逃げ出した後、沈黙を破ったのはダージリンだった。どっしりと座っている黒革の隊長椅子から立ち上がり、カップを手にアッサムの隣に座りなおしてくる。アッサムはぬるくなった紅茶を新しく淹れなおしてもらい、わざとらしい咳払いをひとつしてみせた。
「ダージリン」
「なぁに?」
「ちょっと、近いです」
「そうかしら?2人の間に距離なんてものは存在しないはずだわ」
 せっかく淹れなおしてもらった紅茶だと言うのに、ダージリンがぴったりと密着してくるから、思うようにカップを口に運べない。何のために淹れなおしてくださったのか、わからない。たぶん、“口実”なのでしょうけれど。
「離れてください」
「あら、どうして?」
「甘やかせないように、厳しくするべきだと思いますので」
「あら、でも、さっきは平等って言っていたわよ」
 指を挟む隙間も埋められて、手にしていたカップも取られてしまう。拗ねていらっしゃるご様子。でも、ダージリン様はご自分でお認めになるような、素直らしさを持ち合わせておられない人なのだ。


あの子たちと大違い。


「もう少し可愛く甘えてくだされば、お相手いたしますわ」
「あら、私にはその作法というものがわからないわ。アッサムが私に、お手本を見せなさい」


何様ですかって言い返そうと思ったけれど、彼女はまさしくダージリン様で。たぶんアッサムがもっとも甘やかして、教育せずに放置していたことが悪かったに違いない。
 抱き付いてはこないけれど、ぴったりと身体をくっつけてくる。アッサムに一体何をして欲しいと言うのだろうか。ご自分から言わないという捻くれ者。少しはローズヒップを見習って欲しい。


まったく、面倒な人なのだから。


「はいはい、分かりました。ローズヒップが温めた膝でよろしければ、いくらでもどうぞ」
温もりはまだ残っているし、ジワジワとした痺れもまだ残っている。ルクリリが温めていた左肩から、ようやく疲れが消えたばかり。どちらかと言うと、後輩に優しくしたことを褒めてもらってもいいくらいだと思う。
「あら、私はお手本を見せてと言ったはずよ?」
「いらないんですか?膝枕。じゃぁ、そろそろ情報処理部にでも遊びに行きますわ」
 やっていられないと立ち上がろうとすると、髪を引っ張られる。ストンとまたソファーに座らされてしまうから、アッサムはその耳元で呆れかえるようなため息をしてみせた。
「ダージリン。私は素直に甘えてくれる人の方が好きですわ」
「あら、では、あなたの恋人という資格を、私が持っていないことになるわ」

そう言うところは、素直にお認めになるからズルい。

本当に、ズルい。


「どうするの?アッサム」

なぜ、ダージリンはそうまで自信満々なのだろうか。



「…………致し方ありませんわね。選んだ私が馬鹿でしたわ」


ここは幼稚園で、アッサムは先生だっただろうか。どれだけため息を見せつけても、ダージリンは動じないお人なのだ。

「言うわね、アッサム」
「はい」
「それで?」
「………“日々正直に行動することが、成功に達する最も確実な道”という格言をご存じでいらっしゃるダージリン様が、素直に甘えてきてくださらないと言うことですので、もう、どうしようもありませんわ」



………
…………


「アッサム」
「はい」
ゆっくりとカップをテーブルに置かれて、ダージリン様は作った笑みで、アッサムを捉えた。
「私の部屋でゆっくりしたいのだけれど」
「私の身体に抱き付いて、キスしたいと素直におっしゃってください」
お手本を見せるなんて、何となく癪だから、言わせてみようと思った。そんなことを考えたのが間違い。

「アッサムの身体に抱き付いて、キスしたい。ベッドでぴったりくっついていたい。できれば身体中に唇を寄せて、アッサムは私のものだと痕を残しておきたいわ」


……
………

ダージリンで遊ぼうとするから、罰が当たったのだ。ちょっと優位になったくらいで満足しておかないと、最終的には全てひっくり返されてしまう。何度も経験しているのに、やっぱり負けてしまう。


「これでいいかしら?」
「………仕方ありませんわね」
「上手にできたかしら?」
「お上手でしたわ」

 なぜ、この人を好きになってしまったのだろう。考えても答えなんて出せない。いや、きっと、勝てないからなのだろう。この人には勝てない。あらゆることに勝てない。それなのに、何だか嬉しいと思ってしまうのだ。




「ルクリリがきっと、あの後どうなったのかって聞いてくるに違いないでしょうから、素直に、抱き付いて甘えてきたと伝えておきますわ」
「おやめなさい、アッサム」
「ペコにも膝枕してあげないといけませんわね」
「ちょっと、アッサム」
「あの子にも、ダージリンの甘えん坊のことを話してあげないと」

 アッサムの身体にしがみついて離れない彼女は、お願いだからと呟いて、アッサムのお腹に顔を押し付けてくるから。

一番の、どうしようもなく甘え下手の甘えん坊は、やっぱりダージリンなのだと、アッサムは小さく笑った。




 

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Date:2016/06/23
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