【緋彩の瞳】 Your Wish ⑪

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

Your Wish ⑪


『素敵だったわ。私の夢が……やっと叶った』


最後のみちるさんのヴァイオリンの音色が消えると、聴いていた全員がつばを飲み込み、そして立ち上がって拍手をした。


「御満足いただけたかしら?」
レイちゃんは、天使から下ろされた梯子の前にいる緋彩に声をかけている。
『ありがとう。生まれ変わった時にも、あなたの近くにいられたらいいのに』
「お断りよ」
断絶だわ、レイちゃんらしい。でも、怒っているわけじゃなさそうだ。
『あら、そう?でもいいわ。葉月さんたちとこの学院で、確かに私は生きていたと……心に刻んだわ』
「あなたが生きていたという証拠は、この曲に託されているのでしょう?安心してまた、生まれてきたらいいわ」
『深美さんによろしく伝えておいて。娘さんにもね』
レイちゃんは頷いて、光が注がれている天井を見た。
美奈子が同じように天井を見上げるから、となりのせつなさんも天井を見上げている。
はるかさんも亜美ちゃん達も。

見えないけれど、見送るために。うさぎは大きく手を振っちゃっている。
ちょっと、その方角ではないけれど。銀水晶が胸元で光っているように見えるから、きっと次は幸せな人生が待ち受けているんだろう。

そして、視線を戻した時には、緋彩の姿もその光も何もなくなっていた。





顔面蒼白のレイ。今にも力尽きて気を失いそうだ。覚悟の上でこんなことをするのだから、とレイには内緒で手を打ってあるけれど……間に合うかどうか。
なんとかピアノの前の椅子に腰を落ち着かせているけれど動けない様子。
「レイさん……誰かと話をしていた?」
ママが何か不思議そうに声をかけてくる。顔色が悪いことが知れたら、計画が台無しになる。
「ママ、ちょっといい?」
「は?」
「さ、チェロをしまって」
問答無用でみちるは壇上から母親を引きずり下ろした。同じようにせつなとはるかが、シスターの腕を取り、問答無用で講堂から追い出そうとしている。
「みちる、何なの?レイさんを置いて」
「何か、友達とやりたいことがあるんですって。曲が終わったら出てくれってお願いをされているのよ」
「何、それ?」

「さぁ?今度はあの子だけが、1人でお友達に曲を聴かせるのかしらね」
シスターとママを追い出すことに成功した。
美奈子がうまくやってくれているだろう。



「レイちゃん」
そっと肩に手を置くと、その弾みで身体がぐらりと揺れた。
「わっわっ…」
慌てて抱きとめたまこちゃんは、ゆっくりと亜美ちゃん手伝ってもらってレイちゃんを背負ってくれる。
「あんまり、余計なことをしてレイちゃんの評価を落としちゃだめよ」
「大丈夫、大丈夫。とりあえず、もう帰るっていうことにして、1人で神社に行けばいいんでしょ?」
「じゃぁ、あとでね」
「レイちゃんをよろしく」

“ムーン・パワー!”

変身した美奈子は、気を失っているレイちゃんを少しの間だけ演じることになっている。
あんなに力を使って、たったひとりの幽霊のために、誰にも見えないその人のかつての夢のために捨て身になった友達。

そんな友達が誇らしい。


火野レイを演じている間、みちるさんの母親に何がどうなったのか、一体、誰に向かって会話をしていたのか、しつこく聞かれて大変だった。
となりのみちるさんは美奈子だとわかっているけれど、こっちはこっちでしどろもどろ。確かレイちゃんとみちるさんが繋がっているということは、ばらしちゃいけないんだったかな。
とにかく、火野レイらしくいてこの場を乗り切るためには、みちるさんに頼るしかないのだ。
「レイさん、お友達とこの後予定があるっておっしゃっていたわね?」
みちるさんが何とか引き離そうとしてくれている。
「は、はい。そうです。申し訳ありません……」
「あら、せっかくだもの、お食事に行かない?お友達たちも御一緒でいいわ」
「ママ、無茶苦茶言わないで」
「あら、だってみちる、あなたは何も感じなかったの?」
「えっと……あの…」
思いのほか、シスターはあのレイちゃんが誰かに向かってしゃべっていたことが気にならなかったのか、黙って状況を見守っている感じだ。
「今日は御無理をお願いして、講堂を解放していただき申し訳ありませんでした。シスター、私たちはこれで失礼いたします」
みちるさんがシスターに向かって、話題を切り上げるように挨拶をした。
それ、まずくない?
みちるさんは呼ばれた側なのだから、それはレイちゃんがいうセリフなのに。
「いえ……お二人とも、こちらこそ、うちの生徒の無理を聞いていただいてどうもありがとう。ほら、火野さん。あなたからもきちんとお礼を」
「あ、その…本当にどうもありがとうございました」
みちるさんはシスターをちらりと見て、それからぺこりと頭を下げた。
このシスター、どこまで事情を知っているのだろうか。
「莉緒、また何かあったら連絡して。レイさんも、今度はうちに遊びにいらして」
是非!と言いそうになる。危ない危ない。レイちゃんは、みちるさんの母親と親しくなんてなりたくないだろう。
「レイさんと葉月さんが親子だろうと、ママとレイさんは無関係なのよ。そっとしておくべきだわ」
みちるさんは、ママさんを引きずるようにして、高そうな車に乗った。
あ~、これで火野レイから解放される。

「火野さん」
「は…はい」
「昔から、火野さんは色々と視える人だったわね。よく、生徒が噂をしていたけれど。巫女のお仕事も手伝っているようだし」

ぎくっ

この場合、火野レイとしてどうするべきなんだろうか。
視えません。いや。何のことでしょう?って笑ってごまかしておいた方がいいのか。
フリーズしていることが、肯定ととらえられてしまったみたいだ。
「とりあえず、私は深くは聞きません」
「……何も言えません」
「あなたが深美と接触を図るなんてこと、よほどの事情がなければしないでしょうから。最初は葉月のことで何か考えでもあるのかしらって思っていたけれど。……そう、きっと……誰かからのお願いっていうのは、そういうことなのね」
「……………先生は信じてくださいますか」
美奈子はレイちゃんを演じている自覚はあるのに、つい聞いてしまった。レイちゃんが1人で苦しい思いをしていることを、たとえば誰かが近くにいて知ってくれていたら、それは心の支えになるかもしれない。
「私は会ったこともないキリスト様を信じているの」
「……レイちゃ……私は目に見えているものだけを信じています」

レイちゃんは、ときどきそう言うのだ

目に見えるものだけを信じている、と

「そうですか。そのお願いをされたという人は幸せそうでしたか?」
きっとそれは、緋彩のことだろう。
このシスターはわかっていて聞いてきていると思っていいのだろうか。
カマをかけた、なんてシスターと言う人がするはずないだろうし。
「えぇ。天使の梯子を登って行きました。また、生まれ変わるからって。夢を叶えてくれてありがとう、って」
「………葉月にも会えたのかしら?」
「さぁ……」
死後の世界ってどんなだろうか。死んでもなお、夢を叶えたいと願い続けた彼女は、この20年の間、ずっとずっと、声が届く人を待ちわび続けたんだろう。
レイちゃんに出会えて、やっと夢が叶う。
生きているだけで、レイちゃんは幽霊まで幸せにしちゃうんだから。
誇らしい友達だよ、本当。




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Date:2014/01/03
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