【緋彩の瞳】 彼女のために ②

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

彼女のために ②

「シナモン様に聞いたけど、ダージリン様とアッサム様、喧嘩しているみたいよ」
「なぜですか?」
「自習の時間に、みんなでお菓子を作るのに、同じ班になって揉めたんだって」
「………あぁ、なんとなく想像できます」
 1,2年生だけで車長ミーティングを終えた後、ルクリリがペコとローズヒップを捕まえて、ヒソヒソした声で話してきた。そんなもったいぶらなくても、いずれいろんな人の耳に入るだろう。それでも、一大ニュースと言わんばかりの“どや顔”。
隊長にまだ(仮)が付いて取れない仮免隊長のルクリリは、これから情報収集に行くらしい。
「想像できるんだ、ペコは」
「お二人の喧嘩は想像できませんわ」
「うーん、何となく、無言でにらみ合ってそう。とにかく確かめに行こう。隊長室にどちらかはおられるはずだから」
 車長ミーティングの報告は、必ずしなければならない。引退後も、ルクリリにはまだ荷が重いため、ダージリン様は3月まで学生艦の責任者のままだ。そのため、隊長室にはダージリン様が座っておられる時間と、ルクリリが座っている時間が入り混じっている。ペコは交互に見ながら、風格の違いを見せつけられて、いつもルクリリが座っているのを見るとがっかりの溜息をもらしてしまうのだ。ダージリン様がご卒業されたころには、板に付いたらいいのだけれど。



「ダージリン様~~!」
ドアを開けると、ダージリン様がお一人で座っておられた。アッサム様の姿が見えない。
「ごきげんよう、3人とも」
「アッサム様はどこですの?」
「さぁね、どこかで誰かとお茶しているのでしょう」
「喧嘩したんですの?!!」
 それとなく様子を聞き出すなんて、そんなうまい具合に事が運ばれることもなく、ものすごくダイレクトにローズヒップが聞いてしまう。でもこれがまた彼女の良いところと言うか、ありがたいというか。
「喧嘩?何のことかしら?」
「お菓子を作っていて、喧嘩したって噂ですわ」
「あら、喧嘩じゃないわよ。見解の相違ね」

 それを喧嘩と言うんだと、ダージリン様は分かっておられないらしい。

「何があったのか知りませんが、謝ったんですか?」
 きっと、ダージリン様が悪いに違いないのだ。ペコは4人分のお茶を淹れるために、お湯を沸かした。
「アッサムが意地を張って、謝って来ないのよ」
「…………左様ですか」
 なるほど、取りあえずダージリン様は自分が悪いとさほど想っておられない、と。おそらくそれがまた、アッサム様を怒らせてしまっているのだろう。
ダージリン様は戦車道の道を進む者としては天才的だし、学内外問わず人気者で、神様みたいな扱いをされることばかりだけれど、戦車を降りると、ちょっとメンドウな人なのだ。  
基本、あんまり何もできない、穏やかなお嬢様。同じお嬢様のアッサム様とはまるで違う。

「手伝うなと言うし、時間が押したら戦力が足りなかったからと言うし、私にどうしてもらいたいのか、さっぱりだわ」

 あぁ、想像できる。とてもクリアにその状況が見えてしまう。この場合は、どっちが悪いと言えばいいのか、微妙なところだ。きっとアッサム様のことだから、とても丁寧に丁寧にお菓子作りをされていたはずだ。隣でその様子に、イチイチ文句を言うダージリン様とのやり取りの末、きっと予定時間が過ぎたに違いない。
「いや………まぁ、ダージリン様が手伝えば、食べられないものが仕上がるんじゃ」
 ペコは熱い紅茶を淹れると、ダージリン様がみんなでソファーに座りましょうと言われて、4人でソファーに腰を下ろした。
最近、こういう時になると、アッサム様とダージリン様が横並びに座るから、ついついルクリリたちは3人並んで座ってしまう。一体どこに行ってしまわれたのだろうか。
「ペコ、さっき、何か言ったかしら?」
「いいえ」
「ダージリン様はお料理できませんの?」
「できますわよ」
「さらっと嘘を得意げに言いましたね」
 ローズヒップに何を吹き込もうとしておられるのか、ルクリリがピシャリと否定してくれた。ちょっとムッとした表情も、ルクリリはさらっと受け流している。流石、仮免隊長。ようやくダージリン様の扱いに慣れてきたみたいだ。
「アッサム様に謝ってないんですか?」
「見解の相違はどうしようもないものよ」
 わずかに震えたまつ毛。偉そうに胸を張っている割に、ちょっとはマズいという自覚はおありのようだ。お付き合いをされている関係で、喧嘩しているとペコ達の耳に入ってきたのはこれが初めて。
「いや……意地張ってないで、ごめんなさいって言った方が良いですよ」
「そうですわ。取りあえず、ダージリン様がきっと悪いんですわ」
「きっと、じゃなくて“絶対”だろう、ローズヒップ」
 3人揃って、ダージリン様を擁護してあげないのもどうかと思うけれど、ダージリン様に誰よりも甘いアッサム様を怒らせたと言うのはきっと、まぁ、ダージリン様が謝った方が丸く収まるのは間違いないのだ。
「………あなたたちは、アッサムの差し金でここに来たのかしら?」
「今日、まだお会いしていません。喧嘩しているって噂になっていますよ」
「あらあら。一体、誰が吹聴したのかしら」
 ご自分たちがこの学生艦の中の大スターであると言う認識を、もっと自覚された方が良い。シナモン様はただ、“注意せよ”とわざわざ言いに来てくださったのだろう。そうやって周りが、気を使っていることを知ってか知らずか、ダージリン様はどこまでも“ダージリン様”なのだ。
「あんまり長引かないようにしてくださいね」
「振られてしまわないように」
「よくわかりませんが、きっとアッサム様、お怒りですわ」
 ムッとした表情で紅茶を飲むダージリン様は、空いた隣の席をちらりと見つめる。アッサム様はきっと、もう隊長室に顔を見せることなく、夕食までどこかで誰かとお過ごしになられているに違いない。あぁ、長引かないといいな。全治1週間もかからずに仲直りされたらいいな。
 ペコは、3年生が作ったお菓子のおすそ分けがどうやらないお茶を飲み終わってようやく気が付いた。今更、欲しいなんてねだることもできず、がっかりしながら隊長室を後にした。


「美味しいじゃないですか」
「当たり前でしょう。レシピの通りにしたものなのよ」
「ですよね。流石、アッサム様です。この、均一に切られているリンゴなんか、もう、アッサム様しかできませんよね」
「あなた、喧嘩売ってる?」
 グリーンが丁寧に豆を挽いて淹れてくれたコーヒーと、おすそ分けに持ってきたアップルパイ。相性はとてもよかった。
邪魔しかしなかったダージリンは、のんきに1人先にお茶会に参加をして、オーブン前で待ちながら洗い物をしているアッサムのことを、笑いのネタに提供していたのだ。
ダージリンが材料を計量する気もサラサラなく、アッサムの周りをウロウロしていなければ、そちらに気を取られずに済んだのだ。遅れたのだって、ダージリンとアッサムは他の学部の責任者をやっている事情があって、他の班とは違い、作る量が多いのだから多少は仕方がないこと。それはシナモンたちだってわかっていたはずだ。
大き目のものを5つ程作り上げ、クラスメイト以外にも、整備科と情報処理部に配った。腹立たしいから、ダージリンには一口も与えてあげなかった。
「うちの学部、みんな涙を流しながら食べていましたよ」
「そう、よかったわ」
「アッサム様とダージリン様が喧嘩しながら作ったらしい、と。3年生がため息交じりに話をしていたのが、広まっているようです」
 GI6のメンバーであるグリーンの元を訪れると、食べずにアッサムを待っていてくれた。噂を耳にしたグリーンは、きっとアッサムが愚痴を言いに来るだろうと見越していたようだ。アッサムもまた、その予想通りに、自分の分をラップに包んで食べずに、愚痴のお供として、取っておいた。
「事実よ。まぁ、あの人はまったく作ってないですけれど。素直に謝れば許してもいいわ」
「そうなればいいですね」
「ダージリンの頭の中に、謝罪するという選択肢があるかどうか」
「……アッサム様がそうおっしゃるのなら、ないのでしょう。この学校の中であのお方のことをよくご存じなのは、アッサム様だけですし」
 よくわかっているから、腹立たしいこともある。人が一生懸命作っていたのを何だと思っているのだろうか。
クラスメイトにはダージリンの素性がばれているからいいとして、嘘でもダージリンが作ったというラベルの付いたアップルパイを渡せば、情報処理部も整備科も、かなり喜んでくれることはわかる。そう言うことを考えて作っていたのに、馬鹿にされるとは思ってもみなかった。
「ダージリンに会ったら、とても美味しかったって自慢しておいて頂戴」
「わかりました。謝らないとって思わせるように、自慢しておきます」
 高いコーヒー豆の香りに包まれた身体は、苛立ちを何とか逃がそうとしている。夜に何事もなく部屋に来ても、キスさせてあげる気はさらさらない。


「アッサム、私の分のアップルパイはどこかしら?」
「すべて、配り終えました。どこにもありませんわよ」
「どういうこと?」
「そういうことですわ」
「ちょっと、アッサム」
 夕食の時間。グリーンと別れて部屋に戻ると、ダージリンが合鍵を使ってアッサムの部屋の中にいた。いつからここにいたのかはわからないが、怒っているのはこっちなのに、何かムッとした表情で睨んでくる。
「何でしょう?」
「いろんな人に、私がアップルパイを作ったことにされて、お礼を言われたのよ」
「えぇ、“ダージリン様”の手作りだと触れ回っておきましたわ」
「美味しかったと、みんな口をそろえていたわ」
「それは良かったですわ。手間暇かけたかいがありました。どなたかが余計な手を出さなかったおかげですわね」
「それで?恋人が作ったものを私はいまだ、口にしていないわ」
 つまり、ダージリンのお怒りはそこにあるようだ。自分のものが全く用意されていないと言う一点だけらしい。
「ですから、ありませんと申しております」
「ご冗談を」
「こちらのセリフです。クラスメイトにも配り終えて、整備科、情報処理部、すべて配りましたわ。“ダージリンが作ったもの”はとても美味しかったそうですわよ」
「私の分は少し待ってと言ってなかったかしら?」
「渡す、などと申しておりません」
 学生鞄の中に入れてあったエプロンを取り出して、洗濯用籠に放り込む。滅多なことでは使わないから、またしばらくクローゼットの奥に眠る羽目になるだろう。手を洗い、うがいをして夕食に行かないと。
「アッサム」
「何ですか」
「本当は隠しているのでしょう?」
 鞄の中に残しているものは、確かにある。夕食後にあの子たちを部屋に呼んで、他の1年生には内緒で、一口ずつ食べさせるために隠し持っているものだ。
「ダージリンの分はありません。そうですね、邪魔ばかりしたあげく、馬鹿にしたことを謝っていただけたら、考えなくもないですわね」
「馬鹿になどしていないわ。恋人を馬鹿にするわけがないわ」
「……左様ですか」
 ここで謝るはずがないと、よくわかっている。ダージリンには、馬鹿にしたつもりが毛頭もないのだと言うことも、もちろんわかっている。
「アップルパイ」
「あげません。食堂に行きますわよ」
 ダージリンは移動中も3度程、アップルパイは?なんて未練がましく呟いていたけれど、絶対に一口もあげないと心に誓った。
食堂に入ると、整備科や情報処理部の子たちが2人の元にやって来ては、とても美味しかったと言ってきてくれる。ダージリンは微笑みながら、ほとんどアッサムが作ったと“ダージリンラベル”を自ら剥がしていったけれど、あの子たちにとっては、ダージリンが一切手伝わなかったということにはならないし、気持ちはさほど変わりないに違いない。
「アッサム様!」
「あぁ、3人とも。ごきげんよう」
ローズヒップが定食をトレイに載せて、真っ直ぐにアッサムの元にやってきた。そう言えば、今日はまだ顔を見ていない。遅れてやってきたルクリリとペコも、アッサムたちのすぐ傍の椅子に腰を下ろした。頭を撫でるとニコニコと小さい子供のように笑う。相変わらず、食べ飽きた食堂の夕食だけど、にぎやかに楽しく食べられると、なぜかおいしいと思えるのだ。  
隣のダージリンは、表情を変えてはいないが、ふて腐れているのはわかっている。反省を促すにはちょうどいい。
「ダージリン様、ごきげんよう。よろしいでしょうか?」
「あら、グリーン。ごきげんよう。どうぞ、お座りになって」
 狙ったかのように、グリーンが近づいてきて、ダージリンのすぐ隣の空いた椅子に腰を下ろした。
「うちの部の子たちにまで、アップルパイのおすそ分けを頂いて、ありがとうございます」
 わざとらしくダージリンに深く頭を下げる仕草。流石、というか。ルクリリ達がニヤニヤしながらその様子を見ているから、きっとあの子たちの耳にも噂が広がっているに違いない。どういう風に言われているのだろうか。
「あら、グリーン。アッサムが作ったアップルパイを食べたの?」
「アッサム様の手作りでしたか?大変おいしゅうございました」
「そう。それはよかったわ。私はまだ頂いていないのよ」
「それは、残念でしたね。本当に美味しかったですわ」
 満面の笑みを見せて、ルクリリ達がズルいズルいと文句を言うのを受け止めるグリーン。
「アッサム、私のものは?」
「ありません」
 人の目があればもらえると言う返事に代わる、などと考えておられるのなら、残念なこと。
「あ~、ダージリン様がごめんなさいって言わないから、お預け食らっているんですわ」
 指さして笑うその手を引っ張り、ルクリリが頭を叩いている。この子たちには、アッサムが怒っていると言う噂が届いているのかも知れない。ダージリンはジロっとルクリリを睨み付けた後、何事もなくいつもと変わらないと言う様子で食事を取った。

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Date:2016/07/18
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