【緋彩の瞳】 彼女のために END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

彼女のために END




「突撃だ~!!!」
 腹7分くらいで夕食を済ませると、ローズヒップが取りに行ったタルトを手に、アッサム様の部屋を訪れた。きっとダージリン様もおられて、イチャイチャしているんだろなんて思っていたけれど、1人でコーヒーを飲んでおられるアッサム様しかいない。
「どうしたの、3人揃って」
「友達がタルトを作ったので。デザートに」
「あら、そうなの」
 ダージリン様は用事があると部屋を空けられたそうだ。5分待っても戻って来ないから、きっとどこかで道草をしているんだろう、と。待つことないと言われたので、お茶を淹れなおして、タルトをペコが均等に分けてお皿の上に置いた。
「美味しそうね」
「そりゃ、家政科が作ったんですから」
 高そうな苺やラズベリー、クランベリー、ブルーベリーがちりばめられている。
 あれ、ベリータルトって言ってたかな。レアチーズじゃなかったかな。
「そう、お墨付きなのね。ダージリンがいつ戻ってくるか分からないし、食べちゃいましょう」
「いただきます!!」
 手を合わせてから、ローズヒップは大きな口を開けて、ケーキを頬張った。相変わらずなんでも美味しそうに食べるヤツだ。
「ん~~~」
「え?美味しくないの?」
「美味しいですわ。でも、生地がちょっとパサパサですわ」
 文句だけは一人前。とはいえ、口に入れてみると、いつもの飛び切りの美味しさが、確かに舌にやってこない。
「ん~。まぁ、でも美味しいよ」
「そうですよ。普通に美味しいですよ」
 アッサム様は少し眉をひそめてルクリリを見つめてきた。アッサム様にも、何度か焼き菓子を御裾分けした実績があるから、美味しいことはご存じのはず。
「大丈夫ですよ、アッサム様」
「そう?まぁ、昨日のアップルパイよりは、きっとおいしいでしょうね」
 そう言って、フォークで切って口に運ばれる。ルクリリは紅茶を飲みながら、スカートの中の携帯電話がマナーモードで震えるのを取り出して、画面を見つめた。着信相手は、今日のパティシェからだ。お茶の時に出るべきじゃないと、直ぐに切った。まだ鳴っていたが、鳴らしっぱなしにしておいた。
「美味しいと思うわよ」
「よかったです。伝えておきます」
「えぇ」
 アッサム様は普通に召し上がっておられる。半分ほど残されているのは、きっとダージリン様が戻られてから、一緒に食べられるのだろう。何だかんだ、お優しい人だ。
昨日と同じように4人で楽しくお茶をしていると、部屋のドアの鍵が開いて、ノックもせずにダージリン様が入って来られた。
「あら、ルクリリ……やっぱりここにいたのね」
「え?はい。私に何か御用でしょうか?」
 ルクリリたちがいると確信した言葉と笑み。何というか、怖い感じにニッコリされている。
「えぇ。電話をしたわ」
「あ、すみません。友達からだと思って、放置していました」
 2回目の電話はダージリン様からだったようだ。一体何の用なのだろうか。何か、こっそり提出しておいた書類に今更不備が見つかったとでも言うのだろうか。アッサム様に確認してもらったから、それはないはずだけど。
「…………この箱に、見覚えは?」
「はい?」
「あなたのお友達が作った、レアチーズタルトと言うものが、ここに入っているのよ」
「へぇ、そうなんですか………え?」



「え?」
「え?」
「え?ルクリリ、あなたのお友達が作ったのは、これじゃないの?」
 


 ダージリン様はとてもとても美しい笑みをルクリリに向けている。間違えてローズヒップが持ってきてしまったのは仕方がないとして、どうしてダージリン様がレアチーズタルトの存在を知っておられるのだろう。
「えっと、あれ?ローズヒップ、私、家政科の第3教室って言ったよわね?」
「ちゃんと取りに行きましたわよ。タルトだって中を確認して持ってきましたわ」
「冷蔵庫に、タルトがたくさん入っていたの?」
「一つだけでしたわ。入り口すぐの小さい冷蔵庫」
「……小さい冷蔵庫」
 責任を擦り付けようとしたところで、ペコが三つ編みを引っ張って、連帯責任だと呟いてくる。


ところで、この食べてしまったものはどこの誰が作ったものだろうか。



「…………まさか、このベリータルトは」

 アッサム様が何かを察して、呟かれた。


 まさかって、何。何が待ち受けているのだろうか。


「えぇ、私が放課後2時間以上費やして、アッサムのために必死に作ったものよ」



……
………
…………


「「「…………えぇぇぇ~!!!!!!!!!!!」」」



 短い隊長期間だった。

 あの椅子に座ったわずかな回数が、走馬燈のように脳裏を駆け巡った。



「それ、本当ですの?」
「嘘を吐いてどうするの。せっかく喜ばせようと頑張ったのに」
「………信じられませんわ。まともな味だなんて」
 アッサムは、ダージリンと残してあるベリータルトを何度も交互に見つめて、それでもまだ信じられなかった。ダージリンが作ったのではなく、ダージリンが誰かに作らせたのではないだろうか。
「キャンディ達に、みっちり指導していただいて、きちんとすべて計量して作ったわ。ところで、お呼びじゃない1年生までお口にしてしまっているようね」
「キャンディ達?他に誰が?」
 犠牲者を生み出してまで、ダージリンは放課後に家政科の教室に籠ったとでも言うのだろうか。一体どれほどの被害が広がってしまっているのだろう。
「あ、バニラとクランベリーですわ!放課後行方がわからなくて、電話しても繋がりませんでしたわ」
「可愛そうに。心に傷を負ってしまっているかも」
「ルクリリ、シー!!」
 あんなおとなしい子たちが、ダージリンに頼まれたらお断りなどできるはずもない。何となく、ダージリンがあの3人を選び、このタルトを作っている姿が想像できた。3人で必死になって、計量させ、混ぜ方だの、温度などを説明していたに違いない。
「それで、勝手に食べてしまったのね」
「……えぇ」
「まぁ、アッサムの口に入らずに消えたのならば、ルクリリたちを聖グロから追い出そうと思ったけれど、取りあえずいいわ」
 ふぅ、と大きくため息を吐いた3人は、空のお皿を見てそれぞれがにらみ合っている。
「あの、その、悪気はなかったので」
「ルクリリ」
「は、はい!」
「食べ終わったのなら、申し訳ないけれど、これを持ってこの部屋から出て行ってもらえるかしら?」
「は、はい!も、もちろんすぐに」
 慌てて立ち上がって、押し付けられた、本当に美味しいであろうレアチーズタルトの箱を受け取り、ルクリリはカニ歩きをしながらその場を譲った。

「ルクリリ、ペコ、ローズヒップ。タルトは美味しかった?」
 ダージリンは満面の笑みを浮かべて、逃げようとする3人の背中に声を掛ける。無言で振り返って、必死に頷く様子。さっきパサパサしていると言っていたローズヒップの舌は、確かに素人臭さが残っていると、見事に見抜いていたのだ。
「そう。あぁ、ほとんどなくなってしまったわねぇ」
「ごめんなさい!」
「アッサム様、あとお願いします」
「ですわっ!」
 廊下を全力で逃げて行った3人が、ドタドタと階段を下りて行く足音。大きな音を立てて玄関の扉を開けてやがて静寂が訪れた。

「………化け物に出会ったみたいな逃げ方でしたわね」
 アッサムはブレンドティを淹れなおして、ダージリンの前に置いた。
「美味しく出来たら、あの子たちにもわけるつもりだったから、怒ってないわよ」
「そうですか」
「アッサムに食べてもらえたのなら」
 半分残しておいたタルトを、もう一度口に運んでみる。それをじっと見つめてくるダージリンがいるからなのか、製作者がどこの誰なのかがわかったせいなのか、さっきよりも随分美味しいものに思えた。そう言えば、昨日の喧嘩の原因はアップルパイだ。昨日のアップルパイよりもおいしいって、今になって思ってしまうのは、きっと惚れている弱み。
「私は、美味しいと思いますよ」
「そう?」
「えぇ……ちゃんと計量して、食べてもらう人のことを考えているのがわかります」
「そう?」
「お食べになります?まだ残っていますよ」
「いえ。それはアッサムが明日の朝にでも食べて。その、美味しいなら」
 さっきまで、静かに威圧感を見せつけていたのに、何か嬉しそうにちょっと照れた感じで微笑むから。口の中の苺の酸っぱさが、やけに甘ったるく感じてしまった。
「ダージリン、私のためにやる気になれば、きちんとできるものですね」
「当然よ。でも、キャンディがあそこまで鬼教官だと言うのは意外だったわ」
「ルクリリのお目付け役には、ぴったりですわ」
「そうね。バニラもクランベリーも、見ているだけで、一切手を出さなかったわ。正真正銘、私が作ったの」
 かなり注意を受けなければ、作れませんでしたって言っていることに気が付いていないようで、でも、胸を張ってどうだと言わんばかりだから、それはそれで、進歩したと思うことにした。
「そうですか。本当に美味しいですわ」
「よかったわ」
 アッサムは一口だけ残して、ダージリンの口に運んだ。サクサクと音を鳴らしながら食べ進めるその眉が少しだけ潜む。
「………ちょっと、しっとり感がないわね」
「そうですか?」
 わずかにがっかりした様子を見せるから。

アッサムはその唇にキスをした。

「これで、しっとりしました?」
「………足りないわね」
「あら、ダージリンが作ったものですわよ」
「もっと、しっとり感が欲しいわね」
「私はとても美味しくいただきましたわ」
 腕を取られて、その膝の上に腰を掛けなおすと、両腕が柔く腰に巻き付いてくる。
「好きな人に美味しいものを食べさせるために、丁寧に作るのは大切なことね」
「そうですわね」
「いい勉強になったわ」
「あんまり、後輩を巻き込まないであげてください」
 ダージリンの前髪を撫でて、その額にキスを落とす。アッサムに隠れて、珍しく真剣に本気でタルトを作り、お疲れの様子だ。
似合わないことをしない方が、周りのためなのに。
「………そうね。今度は、2人で作りましょう」
「ちゃんと、言うことを聞いてくださいますの?」
「えぇ。あなたの口に入る物なら、きちんと作るわ」
「誰の口に入る物でも、きちんとしてください」
「わかったわ」



ねぇ、もっとキスして。


 抱きしめてねだってくるその頬に、許しを与える口づけをひとつ。唇にしなさいって言われてしまう。


「明日、お礼とお詫びに、キャンディ達を食事に連れて行ってあげないとダメですわね」
「もう誘っているわ」
「そうですか。ルクリリたちも怖い思いをさせたから、まとめてどこかに連れて行きましょう」
「相変わらず、甘いわね」
「連帯責任ですわ」
 

 何度もキスをねだってくるダージリンを、結局は許してしまって、すべて受け入れてしまうものだから。



 本当にどうしようもなく、彼女のことが好きなのだ。


 なんだかちょっと、悔しいくらい。




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Date:2016/07/18
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