【緋彩の瞳】 一枚上手

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

一枚上手

先代のアールグレイ様:3年生
先代のオレンジペコ様:3年生

アッサムの本名 :嵩山保奈美
ダージリンの本名:嵩森穂菜美








「ダージリン、ちょっと」
 ティーネームで呼ばれても、まだ違和感が抜けきれないのは仕方がない。周囲に自分しかいないことを確認して、歩みを止めた。
「はい、オレンジペコ様」
「まだ、挙動不審ね。そろそろ慣れた頃かしら、と思ったのに」
「申し訳ございません。善処いたしますわ」
 3年生の副隊長であるオレンジペコ様は、柔らかいはちみつ色の髪を払って、意地悪くウインクを飛ばしてこられる。
午後から、1年生を交えた各車両のメンバーを決める車長会議がある。ダージリンはティーネームを授かったその日から、マチルダⅡの車長を務めるように命じられていた。そして、”彼女“も最重要ポストに就くはずだ。隊長であるアールグレイ様が、どのような編成で夏の戦いに臨まれるのか、ダージリンは何も知らされていない。まだ、入学して1か月程なのだ。ようやく学校生活に馴染んだばかり。
「車長会議の前に、ちょっと聞いておきたいことがあるの。いいかしら?」
「はい」
 オレンジペコ様に連れられて向かったのは、校舎の裏。そこにはもうすぐ咲き誇るであろう薔薇が、いくつか植えられていた。通り道ではない場所だから、こんなところに花壇があるなんて気が付かなかった。
そこには膝をついて花の苗を植えているアールグレイ様と、クラスメイトのアッサム、整備科の生徒数人がいる。
「おっと、近づかない」
「え?お手伝いに来たのでは?」
「違う違う、眺めに来たのよ」
 隊長が随分楽しそうに、アッサムと花壇の手入れをされているのを、少し離れた場所からこっそり眺める。そう言うご趣味があるのだろうか。それよりも、隊長がこんな作業をしていることを、どうしてアッサムは教えてくれなかったのだろう。
「あの、御用というのは、ここで眺めるのに付き合うというものでしょうか?」
 聞きたいこと、とおっしゃっていたはず。仲睦まじい様子でアールグレイ様たちのガーデニングを見ながら、聞きたいことと言うのは、あの姿を見た感想とでもおっしゃるのだろうか。
「午後の会議で、正式にチャーチルの砲手をアッサムにすると発表があるわ」
「……そうですか」
 入学式の日、隣に座っていた嵩山保奈美。その名を知るよりも、その綺麗な瞳に吸い寄せられた。砲手としてとても優秀だと、アールグレイ様がとても気に入っておられるクラスメイトだ。ダージリンがティーネームを授かった次の日、彼女はアッサムと言う名前を授かった。
「アッサムには、1週間ほど前に話をしたけれど、結構嫌がられてね」
「何故ですの?」
「何故ですのって、わかりませんの?」
 明日、チャーチルの砲手に選ばれたら、聖グロ始まって以来最速でのチャーチル搭乗となる。しかも砲手という重要ポスト。聖グロの歴史に名を刻む名誉なのに、アッサムは大真面目にそう言う問題じゃないと、アールグレイ様とオレンジペコ様に向かって、駄々をこねたそうだ。
「荷が重いと思っているのでしょうか?」
 ダージリンは、アッサムと自分たちがどの車両に搭乗するかについて、話をしていない。隊長に命じられたら従うのは当然なのだから、与えられた仕事をこなすことしか考えていなかった。マチルダⅡの車長になって気になることと言えば、砲手や操縦手が誰なのかと言うことくらい。おそらくは3年生のお姉様方が周りを固めて、ダージリンを厳しく育ててくださるのだろう、と。何となくそう思っていた。アッサムがチャーチルと言うことも、それとなく噂が上がっていたし、当然だろうとも思っていた。
「…………アッサムのこと、意外と何も知らないのね」
「申し訳ございません」
 アッサムのことで知っていることと言えば、何だろう。本名がとても似ていることと、相当几帳面な性格だと言うこと。あと、機械に強い。それくらいしか思いつかない。
「謝る必要はないわ。兎に角、あの子には無理やりにでもチャーチルに乗せるつもりだから。愚痴を聞かされたら、諭してあげて」
 昨日も今日の朝も、そんな話を一度もしなかったのだ。アッサムが、ダージリンにそのことについて話をしてくれることなんて、たぶんないだろう。
「嫌がる1年生を無理やりに乗せるのですか?」
「聖グロには必要なのよ。ダージリンだってそう思うでしょう?」
「確かに、アッサムの能力はチャーチルに十分適応しています」
「そうよね、そう思う。でも、あの子はあなたのマチルダⅡじゃないと嫌だって言うのよ。どう思う?」
「………何も聞いておりませんわ」
 随分楽しそうに、土に汚れて作業をしているアッサムの笑顔。ダージリンは毎日、何かと一緒に行動していることは多いけれど、あんな風に笑う姿を見た記憶がない。アールグレイ様のことがお好きなのか、って思えるほど、その笑みは可愛らしい。お好きなのだろうか。でも、お茶会をしているときも、そんな様子はなかった。むしろ、閉ざされた紅茶の園で幹部に囲まれることを、アッサムは居心地悪そうにしていた記憶がある。
「そう。聞いていないの」
「はい」
「私たちが引退したら、2年生ではなくダージリンをチャーチルに乗せるから、それまで我慢してって、私たちで頼み込んだ位なのに」
「……そうですか」
「そうなんですよ」
 芝居じみたため息のオレンジペコ様。ダージリンの反応を楽しんでおられるのだろう。
「意外ですわね。そう言う駄々をこねるタイプだったとは」
「そうなの、意外に駄々っ子なの。おとなしそうな顔の割に、芯が太いわね。まぁ、そこがあの子の良いところだわ」
 アールグレイ様がアッサムを気に入っていることは知っている。その才能を高く評価して、黒森峰に対抗するべく育てるおつもりだと言うことも、分かっている。
そしてダージリンもまた、マチルダⅡの車長の中でも重要な立場を担うであろうと聞かされている。常に1年後2年後のことを考えて、人員の配置を考えておられるのだ。だから、アッサムがチャーチルに乗るのは当然。
「オレンジペコ様は、私に説得しろとおっしゃりたいのですか?」
「いいえ。昨日、ねじ伏せて了解はもらったわ。でも、もしかしたらダージリンまで、マチルダⅡの砲手はアッサムがいいなんて我儘言ってくるんじゃないかしら、って。その確認をしたかったのよ」
「………私がチャーチルに搭乗しない限り、アッサムと同じ戦車には乗れないことはわかっていました」
「その通りよ。あなたは聞き分けがいいのね」
 聞き分けがいいのではない。立場をわきまえているだけだ。アールグレイ様を押しのけて、自分がチャーチルに乗ることができないのだから、どうしようもない。マチルダⅡにアッサムを乗せることなんてもったいなくてできない。傍にいたい気持ちよりも、あの子の才能を無駄遣いさせる方が罪深いのだ。
「………アッサムにマチルダⅡは似合いませんわ。あの子は、チャーチルに乗るべきです」
「まったくもって、その通りね」
 アールグレイ様は花壇の花を愛でながら、アッサムの機嫌が損ねないようにとあれでも気を使っておられるのだ、と言う。きっと頭が上がらない関係になるかもしれない、とオレンジペコ様は笑っておられる。


「ダージリン、気を付けた方がいいわよ」
「何をでしょう?」
「アールグレイ、女癖が悪いのよね。アッサムを傍に置きたい理由は、才能だけじゃないかもしれないから」
 アールグレイ様がアッサムの頭を撫でて、微笑んでおられる。その微笑みに応えるように、アッサムもずいぶん幸せそうな笑みを返している。あんな表情、見たことがない。

「ダージリン、眉間にしわが寄り過ぎ」
 一歩踏み出そうとするより早く、オレンジペコ様の人差し指がダージリンの額を押した。おかげで、あの場に突入せずに済んだ。
「オレンジペコ様、ちゃんとアールグレイ様の幉を引っ張っておいてください」
「善処しますわ」
「もし、アッサムに何かあったら許しませんわ」
「あなたたちって、結構メンドウな性格ね。あなたもアッサムが好き?」


あなたも、と言うのは他に誰を指しているのだろうか。



「さぁ、どうでしょうか」
「メンドウね。恋愛学とか言う授業でもやって、イロハを教えてあげないと、何もできない子ばかりだわ」
「ご心配なく、いずれ自分で何とかしますわ」
「いずれ、って思っているうちに3年生になっていそうだわ」
 見学は終わりと告げられたオレンジペコ様は、肩を叩いてその場を後にする。花壇傍で楽しそうにしているアッサムの笑顔。ダージリンは5秒ほど悩んで、オレンジペコ様の後を追いかけた。



「………それ、騙されていますわよ」
 寒さに身体を震わせて、ダージリンが抱き付いてくる。アッサムは腰を捕まえられて、その両腕の中に納まった。眠る前に詩集を読んでいた隣で、アッサムもまた、電子書籍を読みふけっていた。タブレットの電源を落として、サイドテーブルに置くと、満足そうな吐息が髪を震わせる。
「え?騙されているってどのあたりが?」
「私、チャーチルに乗りたくないだなんて、そんなこと言っていませんもの」
「え?駄々をこねたんじゃないの?」
「喜んですぐに引き受けましたわ」
「………そうなの?」
 ダージリンが耳を唇にはさんで、息を吹きかけてくるから、身をよじって抵抗した。枕の下に顔を隠すと、駄々っ子ねと笑われた。駄々をこねているわけじゃないのに、とクレームを付けると、昔、オレンジペコ様もアッサムを駄々っ子だとおっしゃっていた、と言いだして、時効になったからと、思い出話を聞かせてくれたのだ。
 それがどこまでも嘘なのに、ダージリンは全て鵜呑みにしていたようだ。何というか、完璧に遊ばれていたのだと、1ミリも気づいていなかったようだ。
「当たり前ですわ。チャーチルに乗れと言われて、断るわけがありませんわ」
「アッサムは私のマチルダⅡに乗りたいと、アールグレイお姉さまに駄々をこねたのでしょう?」
「自惚れが過ぎます。オレンジペコ様の創作話ですわ。ダージリン、騙され過ぎです」
 チャーチルに乗ると言う名誉にアッサムは喜んだ。いずれ、必ずダージリンがチャーチルの車長になるのだ。その時までに完璧にチャーチルの砲手として成長しなければならないと、むしろやる気に満ちていた。どこでどうすれば、それを嫌がったと解釈されてしまうのだろう。アールグレイお姉さまには、嬉しいですと頭を下げたくらいだ。
「あら…………一体、どうしてまた、そんな創作をしたのかしら?」
「あなたの様子を見て、遊んでいただけですわよ」
「どうして?」
「つまり、ダージリンが私を好きだと、オレンジペコお姉さまは見抜いておられたんですわ」
 なぜ、もっと早く言ってくれなかったんだと言う意味を込めて。
「あぁ、つまりアッサムが私を好きだと言うことが、バレバレだったと言うことね」
 顔を隠していた枕で、その綺麗な頭を叩いた。ぱふっと当たっても、顔色一つ変えていない。
「何するの」
「お姉さまに遊ばれていたことに、2年以上も気が付かないなんて」
 遊ばれていたのも半分だけど、きっとそれとなくトスを上げてくださっていたのかも知れない。
「今度のお茶会の時にでも文句を言っておくわ。アッサムが顔を真っ赤にして怒っていたと」
「余計なことを言わなくて、結構です」
 枕を取られて、何かでダージリンをブロックする術を失ったときが付いたのは、ぐっと抱き寄せられて、首筋に唇の感触を感じてから。
「んっ、嫌……」
「こっちを向いて、キスさせて。ずっとあなたが好きよ、アッサム」

ズルい人だと、いつも思う。
この人には何をしても勝てないし、許してしまうのだから。


「いつから好きですの?」
「初めて会った日、目が合った日から」
「………私もですわ」

なぜ、その時に言ってくださらなかったのって、口にするより早く、唇が重なるから。


オレンジペコお姉さまは、一体いつから知っていらしたのだろう。
アッサムに教えて欲しかったと、あのはちみつ色の髪と、はにかむ可愛らしいお顔を思い出しながら、ダージリンの背中にしがみついた。



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Date:2016/07/18
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