【緋彩の瞳】 不思議な未来へ ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

不思議な未来へ ①

「………ん」
 6時に設定した目覚ましの電子音が、アッサムの左耳を強く刺激してくる。緩やかに真っ黒の世界から引っ張り出された意識。
ダージリンはデジタル時計の電子音では、起きるのが肌に合わないらしく、いつもアッサムがその肩を揺さぶって起こしてあげる。きっと、そう言う言い訳をして起こしてって言うお願いを素直に言えないだけなのだろう。何というか、メンドウな人だから。
「ダージリン、起きて」
 右側に眠る、その頭を撫でて、肩に手を置いた。いつもより暖かい。

「…………え……」

 気のせいだろうか、プニプニした感触と言うか、何か違うようなものを触っているように感じて、そっと蒲団を捲った。


「え?えっ?えっ?……え、何?何事?!」


 そこにはダージリンではなく、見知らぬ子供がスヤスヤと眠っている。何が起こっているのだろう。何がどうなって、この子はアッサムの部屋に潜り込んだのだろう。

「ダージリン?」
 あたりを見渡して、念のためにバスルームを覗き込み、さらに隣の部屋にも探しに行ってみた。手の込んだ仕掛けをして驚かせようとしている、ダージリンの悪戯だとしか思えない。電話を掛けてもアッサムの部屋に携帯電話は置かれたまま。
「一体、どこの誰なの、あなた」
スヤスヤ寝息を繰り返し、幸せそうな寝顔。面影が誰かに似ているような、似ていないような。どことなくダージリンに似ている気がする。彼女に妹はいるがここまで年下ではない。
「…………いや、でもまさか」
 一瞬、おとぎ話のようなことを想像して、直ぐに打ち消した。それはおかしい。昨日も一昨日も、ダージリンと同じものを食べて同じように過ごした。彼女がアッサムに秘密で何か口にしていたのなら把握できないけれど、そんな医者もびっくりの展開などあるはずがない。   
腕を組んで、しばらくベッドの上でうーんとうなっていても、時間ばかりが過ぎて行く。徹底的にダージリンの悪戯が行われている可能性も無きにしも非ず、取りあえずアッサ
ムは先に身支度を整えて、子供の目が覚めるのを待つことにした。




「………ママ~~?」
 着替え終わり、そろそろ起こしてみようと強めに小さな肩をゆすってみると、嫌がるように顔を背けられた。それを2度繰り返して、観念したように開かれた目。その瞳の色は、ダージリンと同じものだ。
「あの、あなたのママはどこ?」
 大き目の寝間着は、確かにダージリンが着ていたものと同じだけれど、アッサムはまだ、これもまた、ダージリンの悪戯の一つかもしれない、と、最後まで希望を捨てないでいようと思った。目を擦った後じっと見上げられて、その瞳がどうにもこうにも、アッサムのよく知っている人のものと重なってしまっても、だ。
「あなた、だぁれ?」
「いえ、あなたこそお名前は?」
「ママは?」
「あなたが誰なのかわからないのなら、あなたのママがどこにいるかもわからないわ」
 首をかしげて言葉の意味を理解できないと言うアピール。そろそろ、この悪戯を仕掛けた本人がどこからか、笑いながら出て来てくれたりしないだろうか。20秒ほど見つめ合ってもそのままだ。
「あの、あなたのお名前は?」
「ほなみ」
「……えっと、嵩森穂菜美ちゃん?」
「うん」

……
…………

 アッサムはニッコリ笑って見せて、その小さな頭を優しく撫でた後、直ぐに部屋の受話器を取った。



「何事ですか?!」
「私が聞いているのよ、これは何事なの?」
「………いや、知らないです。本当に何も知らないです」
「あなたたちが私を驚かせようとして、仕込んだのでしょう?ダージリンはどこ?」
 呼び出したルクリリは、ローズヒップとペコを連れてアッサムの部屋にやってきた。1分以内に来るようにと告げてすぐに電話を切ったから、階段を駆け上がる音が派手に聞こえて、ドアも乱暴に叩かれた。残念ながら2分は経過していた。
 息を切らしている3人に、起きたら隣にダージリンの本名を名乗る子がいたことを告げて、そろそろ悪戯に笑っていられないのだけれど、と、3人の様子を伺ってみたものの、全員首をかしげて意味を理解していないようだ。
「あの、ダージリン様はどこなんですの?」
「私がそれを聞いているのよ、ローズヒップ。こういう悪戯を教えたのは誰?」
 あのダージリンのことだ。参謀がこの中にいるに違いない。絶対そう言うことを考えそうなルクリリを睨み付けたところで、必死になって首を振り続けている。
「私は関係ありません!何のことかさっぱりです!って言うか……この子は誰ですか?」
「お嬢ちゃん、この人たちにお名前を教えてあげて」
 無実を訴えたルクリリは、本当に何もわからない様子で小さい子の頭をそっと撫でてみた。キョトンとした顔で、「たかもりほなみ、4さいです」と名乗ると、オレンジペコが悲鳴をあげた。
「誰ですの、それ」
「ダージリン様の名前ですよ!!」
「マジですの?同じ名前ですの?それで、……この子は誰ですの?」
 理解していないのは、ローズヒップ1人だけのようだ。頭を撫でてしまったルクリリは、ぎょっとして子供に向かって土下座している。
「………ということで、何とかしてもらえないかしら?」
「アッサム様、一体……何がどうなってこうなったのですか?」
「わかるわけがないでしょう?ダージリンが見当たらない以上、暫定でこの子を本物とするしかないわ」
 4人で腕を組んで囲んだところで、何の解決にもならない。きっと怖い顔に見えたのだろう、穂菜美は怯えるように蒲団の中に潜って行ってしまった。
「ママ~~~」
「………うわ、プリティですわ!」
「ペコ、今のうちに写メ撮っておこう」
「合点!」
「こら。そうじゃないでしょう?どうするかを考えないと」
 携帯電話を取り出して、蒲団の中の穂菜美の機嫌を伺おうとする2人。本当に何も分かっていないようだ。
「取りあえず、お腹空きましたわ。朝食に行きたいですわ」
「……そうね。取りあえず、何か子供が好きそうなものを買ってきてくれる?穂菜美は4歳って言っているから、菓子パンみたいなのと、あと流石に紅茶を飲ませるわけにはいかないから、ジュースかミルクを」
「わかりましたわ。ひとっ走りしてきますわ」
「ルクリリ、車長ミーティングにダージリンがいなくても構わないわね?」
「もちろん」
「ミーティングが終わったら、空いた時間に4歳の子が着られる服と下着を買いに行って」
「はい」
「取りあえず、何がどうなっているのかさっぱりわからないから、極秘にしましょう」
「「「はい!」」」
 アッサムとダージリン揃って、授業は欠席するとメールで担任に伝え、1年生3人を送り出した。




「ママは?」
「えっと……ちょっと、大事な用事があるみたい」
「赤ちゃん生まれるの?」
 ローズヒップが買って来たドーナッツと瓶入りのプリンを見せると、蒲団から出てきた穂菜美。アッサムは顔を洗わせて、手もちゃんと洗わせて、とりあえず、ぶかぶかだけどアッサムの服を着させた。寝ていた時に付けていた下着も足から脱げてしまいそうだけれど、脱がせるわけにもいかない。なるべく動き回らないようにと膝の上に乗せて、ナプキンを首に掛けてやり、朝食を口の中に入れた。
「あぁ……妹さん、4つ違いだったわね。穂菜美、お姉さんになるのね?」
「うん。ママ、もうすぐ赤ちゃんが生まれるわ」
「そう…そうね、だからちょっとママは大変なの。その間、穂菜美は私とここでお留守番よ」
「お姉さんは、お手伝いの人?」
 なんだか、お手伝いの人よって答えるのも癪だ。うーん、と悩んでから、ママのお友達、と答えた。お手伝いの人って言った瞬間に、色々と命令される気がしてならない。まぁ、今のダージリンとの関係も、何かとお世話しているようなものだけど。
「ママの写真と同じ服」
 アッサムの制服を指さして、穂菜美は納得してくれたようだ。
「そう?ママもこのお洋服を着ていたの?」
「写真で見たわ」
「そう」
「戦車に乗っていたって言っていたわ」
「そうなの」
「一番、偉い人だったわ」
「あらそう」
 ダージリンからそんなことを聞いたことはなかった。資料館に行って調べればすぐに出てくるかもしれない。親が戦車道をしていたと言う生徒は多く、2代目、3代目と言う子も少なくない。幾分機嫌よくしてくれていて、どうやら本物の嵩森穂菜美であると認めるべきだろうと、アッサムは諦めが付いた。

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Date:2016/07/18
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