【緋彩の瞳】 不思議な未来へ END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

不思議な未来へ END

「アールグレイが、私の名前を呼ばないって拗ねていたわ」
「拗ねていないわよ」
「お姉さま方がいらしたら、助けてくださったのに。呼べばよかったですわ」
 3年生のアッサムは、どうしてダージリンと一緒に寝ていたのだろう。当たり前のようにアッサムのベッドで寝ていたと、そう言う様子だった。そんな風に仲良くなれるのだろうか。仲が悪いわけじゃないけれど、近くて遠い距離感を埋める術が、アッサムにはわからない。   
お姉さまを追いかけて聖グロに入ると思っていた。でも、同じ聖グロに嵩森穂菜美が入らなければ、アッサムはお姉さまを裏切って、嵩森穂菜美と同じ高校を受験していたかも知れない。それくらい、嵩森穂菜美に憧れていた。お姉さまに向ける憧れや親しみとは違う感情は、確かに存在している。
「その夢の中では、きっとアッサムとダージリンは凄く仲良しだったのよ」
「…………よくわかりませんわ。4歳の穂菜美しか登場しておりませんもの」
 バニラ様はのんびりした口調で、それが話のオチのように締めくくられた。そう言えば夏の大会の動画を見せていたが、それはこの前の大会のことだった。実際の記憶と夢が色々リンクしてしまったのだ。それにしても、ダージリンの妹が4つ下で、馬術が得意なんて話、彼女から聞いたことがあっただろうか。そんな、他愛ない話をしたことなどないはずだ。彼女のお母様が聖グロの生徒で、戦車道の隊長を務めていたなんていうことも知らない。それらはアッサムが夢の中で作りだした勝手なフィクションなのだろうか。それにしてはリアルだ。そのことを確認するのも、何となく聞きにくい気がする。


「お姉さま、お夕食はお外に行きたいですわ」
 とにかく夢だったのだ。アッサムは3年生で後輩に色々と命令する立場でもなければ、今は甘えても許してもらえるお姉さま方が傍にいてくださるし、ダージリンだって子供じゃない。アッサムは夢の中の穂菜美がしてきたみたいに、お姉さまに抱き付いた。
「いいわよ」
「本当に、アールグレイはアッサムに甘いわね」
「そう?もう一緒のチャーチルには乗れないのだから、これくらいはいいのよ」
 頭を撫でられて、気持ち良くて目を閉じる。あぁ、きっとさっき眠ってしまったのも、こうやって甘えていた時にうつらうつら来てしまったに違いない。その時はバニラ様もおられなかったから、うっかり気が緩んで眠ってしまったのだ。

「失礼します」
 ノックの音が響いて、オレンジペコ様とダージリンが入ってきた。あぁ、何だか久しぶりにダージリンに会えたような気になる。元に戻ってよかったと、声に出したくなるのを堪えた。もうあの4歳だと言う可愛い穂菜美に会えないのだと思うと、あの夢をもう一度見たいような、見たくないような。
「ごきげんよう、オレンジペコ様」
「ごきげんよう、アッサム。また、アールグレイに甘えていたわね」
「………いいえ」
 お姉さまがアッサムにだけ甘いことを、オレンジペコ様はいつもプンプンされながら小言を言われる。ダージリンとはわざと距離を取っているお姉さまの、そう言う後輩の育て方にヤキモキされていらっしゃるのだ。だからなのか、オレンジペコ様がダージリンをあちこち連れまわして、仕事を覚えさせている。今も、ブリッジまで行って来たそうだ。
「ダージリン」
「はい、アールグレイ様」
「あなた、4歳の時に苺柄のパンツをはいていたの?」
「…………はい?」
「お姉さま、ちょっと」
 三つ編みをまとめている姿も、ようやく見慣れた頃。決勝の少し前位からこの髪型にするようになったダージリン。4歳の彼女が気に入って、アッサムが結ってあげた。もちろん、夢の中で。
「さっきね、ダージリンが小さい頃はどんなパンツをはいていたかって、盛り上がっていたの」
 バニラ様は柔らかく微笑みながら、勝手な創作をされた。アッサムが突っ込んだら、夢のすべてをばらしてしまわれる。
「そうですの?そんなお話で、紅茶を美味しくいただけましたの?」
 一瞬だけムッとした表情を見せたダージリンは、すぐにちくりと言い返した。物怖じしない強さは相変わらずだけど、からかわれていることはお気に召さないようだ。それでもちゃんと笑みを返すところは流石。
「美味しくいただきましたわ。ねぇ、アッサム」
「えっと……えぇ。まぁ」
 ダージリンの視線を浴びながら、アッサムはお姉さまの身体を盾にして、その綺麗な瞳から逃れた。夢の中の穂菜美は愛らしくてかわいかった。いつ、何があって、ダージリンはダージリンになったのだろう。あぁ、夢でもアッサムはそうやって悩んでいたのだった。だからわからないのだ。結論なんて出せない。



「ダージリン」
「何かしら?」
 隊長室でお茶を楽しんだ後、アールグレイ様と夕食のための待ち合わせを確認して、寮へと戻った。いつものように隣を歩くダージリンの横顔。長い睫と、意志のある瞳。綺麗な色。
小さい穂菜美を抱き上げて、膝の上に乗せていた。重みを感じていたのもすべて、夢の中だった。
「あの、お姉さまと夕食を外に食べに行くのだけれど、あなたもいかが?」
「アールグレイ様と?」
「えぇ」
「でも、アールグレイ様はアッサムと2人で行きたいのでしょう?」
「そう言うことでもないわ」
 ダージリンは右手を顎に当てて、立ち止まって考え込んだ。その癖は出会ったころから見てきたが、夢の中では一度もみなかった。
「……いえ、今回は遠慮しておくわ」
「そう」
「その……また誘ってくださると嬉しいわ」
「えぇ。じゃぁ、お姉さまにダージリンを誘うように伝えておくわ」
 お姉さまは、きっとダージリンを積極的に食事に誘うなどされないだろう。ダージリンはオレンジペコ様やバニラ様とお食事に行かれることは良くあるが、お姉さまと2人で食事をされたことがないはずだ。3人で食事というのも、アッサムが勝手にダージリンを連れて行かなければ、成立することもない。
「いえ……その。今度、2人で外に食べに行きましょう」
「ダージリンとお姉さまのこと?」
「いえ、アッサムと」
「あぁ。……えぇ、よろしいわ」
 夢の中ではファミレスで、お子様ランチを食べていた。でも、この現実世界では、一度も2人きりで外に食事に行ったことはない。学校内の食堂では、当たり前のように2人で食事を取っているから、外に出掛けたことがなくても、そのことに寂しさを感じたりしない。今は同じ戦車に乗っているから、朝からほとんど多くの時間、一緒に過ごしている。それが当たり前になってきている。でも、言われてみれば、2人でどこかにのんびり出かけたりなんてしないのだ。それに、ダージリンが休日、どんな風に過ごしているのか、アッサムは何も知らない。


傍にいるはずなのに、少し遠い。嵩森穂菜美という人間に憧れて、この学校に入ったというアッサムの気持ちがそうさせてしまっているのかも知れない。


「ダージリン」
「なぁに?」
「どうかしたの?足」

 寮の大きな扉を開いて中に入ろうとした頃、何かダージリンの歩き方に不自然さを覚えた。ここまで歩きながら目を見て話をしていたから、そちらに意識を取られていたけれど、右足を引きずっているように見える。
「あぁ、この革靴、買い替えたところなのよ」
「そう。水ぶくれになっているかもしれないわね」
 鞄の中にある手帳に挟んでいる絆創膏を、ダージリンに渡した。何だろうか、ちょっと前にも似たようなやり取りがあったような、なかったような。小さくて可愛らしい踵。赤く腫れていたものに、おまじないだって吐息を吹きかけた気がする。それも夢の中のことだ。あの時は、穂菜美が自分から痛いって言ってきてくれたのに。大人のダージリンは我慢強いらしい。
「ありがとう、アッサム」
「いいえ」
 階段を昇ればすぐに部屋だから、わざわざ差し出さなくてもよかったかもしれない。思いなおしてみても、小さく笑みを浮かべるダージリンを見てしまえば、少し心臓が飛び跳ねてしまうから。

「じゃぁね、アッサム」
「また明日」

 小さく手を振るダージリンと別れて、部屋に戻った。使い慣れたパソコン。膝に乗せた穂菜美と一緒になって鑑賞した試合のDVDは、パソコンに入れられたままだ。



「面白い夢だったわね」



 大人のダージリンが、当たり前の様にアッサムの隣で寝るなんて、そんな日が訪れるのだろうか。なんて、思ってみて首を振った。あれは夢なのだ。夢だから、そんな日が来たらいいのにと言う願望を、勝手にアッサムが映像化したのだ。どうせなら大人のダージリンと楽しく過ごす夢を見ていたいものだった。
「………まぁ、夢だもの」
 服を着替えて、学生鞄の中から必要なものだけを取ってすぐに部屋を出た。この廊下をドタバタと走ってくる後輩たち。いつか、そんなにぎやかな後輩たちが聖グロに入ってくるのだろうか。何か、とても苦労させられそうな気がしてならない。


「それにしても、妙にリアルだったわね」


 音を立てずに階段を下りながら、3人の名前を忘れないように、そのティーネームを3回ほど心の中で呟いた。どうしてオレンジペコ様の名前が入っているのだろう。きっと、オレンジペコ様に可愛がってもらっているダージリンが、あの小柄で愛くるしい顔の子を気に入って、その名を付けたのかも知れない。まだ見ぬ未来だと言うのに。なんだかそんな気がしてならない。




 まだ見ぬ未来で、ダージリンが子供になってしまう。
本当によくわからない夢だった。過去と未来、どちらかにしてもらいたいものだ。
いつか、2年後にもこの夢を覚えていて、もし、本当にあの騒がしい1年生たちが聖グロに入ってきたら、それは予知夢になる。と言うことは、ダージリンはある日突然小さくなったりするのだろうか。


 そして、ダージリンはアッサムの隣で眠ったりするのだろうか。


結局のところ、そこが一番知りたいのに、肝心なことは何一つわからなかった。


それは夢のまた夢。

たぶん、自分の手で何とかしなければならない夢。

 






いつもpixivご閲覧ありがとうございます。
よろしければ、拍手、感想等をお願いいたします。
バニラ様たち3人の話は近いうちに執筆できたらと思います。
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Date:2016/07/18
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