【緋彩の瞳】 Because I love you ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you ①

「ん……何、アールグレイ」
「起きて。私は先に行くから」
「………あぁ、もう月曜日なのね」
 ふわりとした銀色のセミロングの髪をかき上げて、バニラは朝を嫌うようにゆっくりと身体を起こした。背中に残る噛み痕。しなやかで真っ白な素肌。裸体をさらけ出して伸びをするその胸に、バスローブを投げる。
「ありがと」
アールグレイは制服ではなく、タンクジャケットを着て、袖のボタンを丁寧に止めた。受験に合格した1年生たちの入学式がある。檀上でのあいさつや、オリエンテーション、すべての指揮をアールグレイが取らなければならない。
「うるさいのが電話をしてくる前に、講堂に行って」
「そうね」
「私は学院長と打ち合わせをして、その後行くわ」
 ブーツを履いた後、鞄を手に部屋を出た。学生艦の責任者として執り行われる、年に1度しかない大切な入学式だ。今年、倍率が20倍以上だったという戦車道生徒40人、整備科30人を始め、毎年優秀な生徒が入学してくる。
主席入学者は嵩森穂菜美だそうだ。去年、中学東日本チームの隊長を務め、最優秀選手に選ばれた子だ。情報処理部の話では、プラウダや継続高校、BCに西側のサンダースまで特待生入学のオファーがあったそうだが、すべて蹴って、何もオファーを言わなかった聖グロを受験したらしい。母親が聖グロの卒業生だから、だそうだ。ダージリンという名高いティーネームを受け継いで隊長を務めていたと資料に書いてあった。母親は準優勝を2年連続経験したそうだ。
西住まほが黒森峰に入学し、あの常勝高校はついに伝説への道をスタートさせる。嵩森穂菜美という逸材が聖グロにとって、最重要人物になるのは間違いないだろう。正直、中学時代に何度か顔を見たことがあるはずだが、それほどの印象が残っていない。

 2つ下には、アールグレイにとって大事な“保奈美”がいるのだ。他に目を向けないのは、仕方がないことだ。



 打ち合わせも終わり、新入生全員が集まったと連絡を受けて、アールグレイは学院長と共に講堂へと向かった。オレンジペコに無言で指をされた先に、マイクが準備されている。こういう人前で挨拶をすることは苦痛だ。できればそう言うことは全て、オレンジペコにやってもらいたいところだが、無言で蹴りを入れられるのはわかっている。
「新入生のみなさん、入学おめでとうございます。聖グロリアーナ女学院、学生艦責任者の戦車道、隊長である、アールグレイです」

 入学式に参加をするのはこれで2度目だが、去年のルクリリお姉さまは笑いを取っておられた。本名じゃないけれど、呼びにくくてごめんなさいね。リリーって呼んで、と。アールグレイの方が呼びにくいわね、と内心思いながら、そのままオレンジペコが書いてくれた挨拶の原稿用紙を読み続けた。壇上から見える最前列が、戦車道生徒。真新しいタンクジャケットに身を包んでいる。視界の中に保奈美がいた。目が合って、小さく手を振ってくる。おそらくその左側が嵩森穂菜美だろう。おさげを2つ作って可愛らしい顔。真っ直ぐにアールグレイを見つめてくる。長々、クドクドと聖グロの生徒としての心得のようなものを読み上げた後、一礼をしてその場を去った。いくつか来賓の挨拶だの、学院長からのあいさつだの、新入生からの挨拶なんかを終わらせたら、学部別のオリエンテーションだ。




「バニラ1人に任せて大丈夫なの?」
「ここをバニラとあなたに任せる方が、大問題なのよ。あっちはいいの、整備科の責任者とGI6、合計4名を付けているわ。あの子は笑って立っているだけ」
「……そう」
 あまり、人と積極的に会話をすることを楽しいと思ったことはない。華道も茶道も、誰かに見てもらう、誰かをもてなすということをしなければならない、それが嫌で戦車道の道を歩んだ。だが、ルクリリお姉さまに隊長職を押し付けられて、無理やり隊長にさせられた。オレンジペコのしっかりした性格の方が向いているというのに。ルクリリお姉さまは単純明快だった。成績順で人事を命じられたのだ。それを察知して、成績を落とすことをしなかったのは、アールグレイのミス。
「ほら、1年生全員、直立不動よ」
 オレンジペコに背中を押されて、戦車道校舎前に整列している1年生の前に立たされた。青空の元、影もなく、とても爽やかな4月。久しぶりに会う保奈美の笑顔が飛び込んでく
る。


 相変わらず、お人形みたいに愛らしい。


「成績上位10名のみ、搭乗希望車両と希望配置を第二希望まで受け付けます。ただし、2,3年生のお姉さま方とのチーム編成の都合で、必ずしも確約をされるものではありません。チャーチル、マチルダⅡ、クルセイダー、うちの学校はこの3つの車両でチーム編成をしています。10名は今日中に副隊長であるオレンジペコに提出を。では、まず車両の説明をします。2列になって、オレンジペコについていくように」

 戦車道の生徒は、まずは戦車だ。学校内の案内なんて、勝手に歩き回ればいいし、校内地図は至る所に置いてある。中学では使用されない戦車について、徹底的に頭に叩き込む。見て、触れて、操作して、身体に馴染ませなければならない。それらの戦車が作られた歴史、過去に起こった事故などもすべて頭に入れて、直ぐに試合に出られる体制を整えるのだ。
聖グロはサンダースや黒森峰のように、十分な生徒数と戦車数があるわけではない。2軍3軍などを作ることはせず、1年生を含めて全員が第1線で戦う少数精鋭の学校だ。そのため、受験生は毎年多い。今年、かなり多かったのは、おそらく嵩森穂菜美のせいだろう。

オレンジペコが車両倉庫を案内して、説明する列の最後尾を少し離れて歩いた。みんな、手にノートを持って、説明を真剣に書き留めて行く姿。保奈美はタブレットと専用のペンを使っている。相変わらず、電化製品マニアはお兄さん譲りだ。きっとあれも、プレゼントされたものだろう。隣の嵩森穂菜美は手ぶらで腕を組んでいる。おそらく、聞いただけですべて頭の中に入っているから必要がないのだろう。努力をして頭がいいと言うタイプではないようだ。


「チャーチル希望で、中を見てみたい人は?」
マチルダⅡもクルセイダーも車両数は多いので、全員が中を覗きこむことができた。最後に回されたチャーチルは、搭乗隊員は3年生が固めている。砲手を除いて。聖グロのチャーチルと言えば、その昔、戦車道を始めた頃から、全試合フラッグ車を務めている。それが聖グロの戦車道。試合ごとにフラッグ車を替えて作戦を練るのが一般的だが、聖グロは【高貴なる義務】として、必ずチャーチルがフラッグ車を務め、そして隊長が乗り込むのだ。
「よろしいですか?」
 乗り込む権利などないと誰もが思っているのか、一瞬静まり返った。その後、ノートを手にしていない嵩森穂菜美が真っ直ぐに手を上げた。
「私も」
 その隣にいる保奈美も遅れて手を上げる。それ以上の希望者はいないようだ。オレンジペコは倉庫の隅にある脚立を取りに行って上がれと命じた。近くにいた1年生が走って取りに行く。
「保奈美、足をぶつけないでね」
「お姉さま」
 少し離れて見ていたアールグレイは、保奈美に近づいて肩を叩いた。赤いリボンは相変わらず可愛い。2年前にあげたものを、ずっと使ってくれているのだろう。
「それ、持っていてあげる」
「ありがとう、お姉さま」
「案内してあげるわ。私が乗っているものだから」
履帯前輪に置かれた脚立に上り、保奈美に手を差し伸べたが、保奈美は嵩森穂菜美を先にと譲った。数秒見つめ合い、その差し出した手を要らないと言わんばかりの首席の子。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
 アールグレイは改めて差し伸べて、嵩森穂菜美の手を引っ張り、中に入れと伝えた。保奈美の手を取り、その背中を抱いて、戦車の中を覗き込んでみる。車長席の感触を確かめるように、嵩森穂菜美は座っていた。
「あなたは、そこを希望するの?」
「いえ。今はアールグレイ様が隊長ですので」
「ゆくゆくは、ということね」
「はい。そのつもりですわ」
「そう。保奈美、入りなさい」
 ハッチを開けて、装填手席から保奈美を入れた。保奈美はすぐに砲手の席に移動してみる。
「保奈美、居心地はどう?」
「広いです」
「今月中に保奈美の身体のサイズに合わせて、椅子を新調してあげるわ」
「え?でも、まだ……」
「いいのよ。そのために砲手は今、誰も座らせていないの」
 笑顔の後、少し困ったようにひそめられる眉。視線は車長席に座っている嵩森穂菜美へと向けられた。
「嵩森さんは、チャーチルの希望を出すの?」
「いいえ、車長の経験しかないので、マチルダⅡ車長の希望にするわ。ただ、チャンスがあったから、座ってみたかっただけよ」
「…………そう」

 保奈美は、嵩森穂菜美と同じ車両に乗りたいとでも言うのだろうか。困った眉のまま、無理に作った笑顔でアールグレイを見上げてくる。ため息を前髪に吹きかけて、飽きたら出て来いと2人に告げた。保奈美は照準器を覗いたり、砲塔回転ハンドルに腕を伸ばしてみたり、いくつか動作を確認して、居心地を確かめているようだ。嵩森穂菜美はじっと、その様子を見ているだけだった。



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Date:2016/07/26
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