【緋彩の瞳】 Because I love you ②

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you ②


「アールグレイ」
 一通りの戦車の説明と案内の後、整備科の新入生と合流して、それぞれの役割についての説明になった。オレンジペコと整備科の科長が説明するのを真剣に聞く1年生たち。相変わらず、タブレットの保奈美とペンを持たない嵩森穂菜美。
「バニラ、真面目に仕事したの?」
「もちろん。ところで、整備科の1年生から聞いたわ。あの嵩森穂菜美って、相当有名人だったみたいね」
「そう」
 それが重要な任務だったと言わんばかりに、ふわふわと笑っている。
「戦車道じゃなくて、整備科を受けた子たちの中で、同じ学校だった子がいたわ。支えたくて受験したそうよ」
「戦車に乗れないのに?」
「人望は厚いみたい。整備科の倍率を押し上げた原因も彼女ね」
「……あれは隊長の風格ね」
 今の2年生には、隊長という職務を任せられそうな子はいない。アールグレイの跡を彼女がついでも、あの余裕の表情を見ている限り、問題もなさそうだ。
「嵩森穂菜美の母親のティーネーム、たしか、ダージリンだったわね」
「あの子にその名前を授けるつもりなの?」
「いいんじゃない?あの手のタイプは責任を持たせた方が、力を発揮するわ」
「どうぞ、ご勝手に。ペコがうるさそうだけど」
 昼休憩をはさんで、レポートと成績上位者の希望を提出となり、1年生たちは教室へと向かう。アールグレイは保奈美を捕まえて、食堂で一緒にお昼を食べましょうと伝えた。





「アールグレイ、ちょっとあなたねぇ」
 1年生らしき可愛い子とアールグレイが、何やら仲睦まじくランチを取っている。周りがざわめき噂する声がオレンジペコの耳に届き、まさかと思っていつものテーブルに向かうと、赤いリボンの小柄なフランス人形みたいな子が、アールグレイのすぐ隣に座っていた。さっき、チャーチルに入った成績2番の子。
「何?」
「その子は?」
「嵩山保奈美よ。今、ティーネームは何がいいかしらって、話をしていたところ」
「………あなたねぇ」
「この子は私の後輩なの。聖グロに入ってこいって私が言って入ってきてくれたの。この子だけは私が責任を持って面倒を見るから」
「…………アールグレイ」
「あとは、あなたがやりなさい」
「………アールグレイ」
 ルクリリお姉さまが、アールグレイを隊長にさせたことは仕方がないと思っている。天才的な戦術で黒森峰を窮地に追いやることができるのは、アールグレイしかない。だが、隊長という責務を担うということは、この学生艦の責任者にもなるのだ。社交的なんてほど遠く、自由で、人任せなところもあって、人情なんてあるのかないのかわからないし、とにかく人の上に立つタイプとしては大いに問題があり、オレンジペコを困らせる存在でしかない。自分が副隊長に任命された時は、悲劇だと思ったが、バニラという天然不思議少女だけに副隊長をさせたら、聖グロの学生艦は機能しなくなってしまうのは目に見えてわかる。涙ながらに副隊長を受けざるを得なかった。ルクリリお姉さまに、実質、この船を動かすのはオレンジペコだから、と肩を叩かれたことを、今でも恨めしく思っている。
「保奈美、放課後は学校を案内してあげるわ。夜はドライブに行きましょう」
「はい」
 人目があるところで頭を撫でたりすると、そのうちその1年生が虐めの対象になるかもって考えないのだろうか。アールグレイは戦車に乗らない間は、意図的に、周囲の視線を遮断してしまう癖がある。人間嫌いの気と言うのだろうか。人が好きというタイプではないから、知ったことではないのだろう。遠巻きに見ている1、2年生の生徒たちの視線。その中に主席入学者がいる。
「あら、お人形ちゃん。お隣よろしい?」
 狙ったのか、何にも考えていないのか、バニラがニコニコしながら、トレイを手に嵩山保奈美のすぐ隣に陣取ってしまった。
「ごきげんよう、バニラ様」
「ごきげんよう。紅茶を淹れてもらってもいいかしら?」
「はい」
 アールグレイとバニラに挟まれても、嵩山保奈美は臆することなく丁寧に紅茶を淹れている。オレンジペコはアールグレイを睨み付けたあと、主席入学者の名前を呼んだ。
「お呼びですか、オレンジペコ様」
「あなた、そこに座りなさい」
「………ですが、この席は」
「座れと言ったわ」
「はい」
円になったテーブルで、オレンジペコはアールグレイの隣に嵩森穂菜美を座らせて、嫌味のようにその隣に腰を下ろした。人数分の紅茶を淹れる赤いリボンの子。GI6に何者なのかを調べさせなければならない。出身校がわかっているのだから、直ぐにアールグレイとの関係も調べが付くはずだ。
 アールグレイが保奈美、保奈美と名前を呼ぶたびに、嵩森穂菜美が気まずい様子で反応している。同じ名前なのだ。身体が反応するのだろう。主席で入ったにもかかわらず、見向きもされないとは可愛そうな子。嵩森穂菜美は西住まほの次に有名だった子だ。アールグレイはそれでも、大した興味がないらしい。目の前の赤いリボンの子だけしか、見えていないようだ。
「ペコ、補佐にその子を使うの?」
「主席なのよ。幹部候補生としてはね」
「そっちのお人形さんがペコのもの、このお人形さんがアールグレイのもの。あらやだ、私独りぼっち?」
 何がどう、「あらやだ」なのだろうか。補佐を付けなければならない程、バニラは不器用でもなければ、仕事を抱え込んでいるわけでもない。天然ふんわりで笑っていれば、勝手に周りが走り回ってくれるのだ。特定の人を傍に付けなくても、バニラは存在だけで得をしている。
「保奈美のティーネームは今日中に決めるわ。主席の嵩森穂菜美はダージリンにするから」
「…………そんな重大発表を、さらっとランチタイムにするなんて」
「重みのある名前の方が、その子には似合うわ」
「ダージリンなんてもう、10年くらい誰も受け継いでいませんわ」
「だから?」
「慎重にしろって言う意味よ」
「3日悩んだって、その子はダージリン。保奈美はもう少し考えるわ」
「………左様ですか」
 ティーネームってこんなに気安く付けられるものだっただろうか。ニックネームじゃあるまいし。将来的に学生艦の責任を担う者なのだ。適格者かどうか、十分考える必要はある。といっても、ルクリリお姉さまも、成績優秀者上位5人って適当に決めて、責任という2文字がもっとも嫌いそうなアールグレイに隊長を任せてしまっているのだから、今とさほど変わらないのかも知れない。







「ダージリン」
「………あれでもう、私のティーネームは決まったの?」
「お姉さまは、そのおつもりだから」
「……そう」

 随分と気安くティーネームを付けられたものだ。嵩森穂菜美は、ダージリンは母親にどう説明しようかと思いながらため息をついた。ランチタイムの時に決められて、何の確認もされなかった。とはいえ、ティーネームは上級生から授かる物。アールグレイ様の耳に、ダージリンが母親のティーネームだったという情報が入っていたから、同じ名前にしてくださったのかも知れない。まだ、入学したばかりで戦車に乗ってもいないのに。

「これから、お姉さまが学校を案内してくださるのだけれど、ダージリンもご一緒にいかが?」
「お姉さまと言うのは、アールグレイ様のことかしら?」
「そうよ」

 教室で、後ろの席に座る同じ名前の保奈美というクラスメイト。去年、同じチームで戦った子だ。あの時、最優秀砲手のノンナの次の優秀選手だった。撃破率もかなり高く、ダージリンの戦車の砲手よりも腕はいい。プラウダの青田刈りでノンナと共に北へ行ってしまうかもと思っていたから、聖グロの受験会場にいた時、本当にうれしかった。もう一度、出来れば今度は同じ戦車に乗って、彼女の腕を見てみたいと思っていたのだ。敵になって欲しくもなかった。選抜の訓練中も、別の学校、別の戦車と言うこともあり、一言も会話をしなかったけれど、顔と名前は記憶していた。素直にあの時、どこの学校に行くのかと聞いていれば、受験に迷わずに済んだのに。もし、聖グロの受験会場に嵩山保奈美がいなければ、後期受験でプラウダを受ける羽目になっただろう。母親の跡を追いかけなければならない理由なんて、何もないのだ。

「それで、よろしければご一緒にいかが?」
 彼女と2人きりで学内を歩けるのなら、喜んで一緒に行ける。だが、アールグレイ様という隊長が案内されるのだ。その場に自分は呼ばれたわけではない。
「ごめんなさい。整備科に入った中学のチームメイトたちと回るつもりなの」
「……そう、わかったわ」
 残念そうに微笑み、彼女は改めて自己紹介をしてはくれなかった。名前も出身校もお互いに知っているのだから、それ以上欲しい情報はない。アールグレイ様のあの様子では、彼女は最初からチャーチルの砲手を担うはずだろう。戦車道はチームだ。ダージリンが、自分のマチルダⅡの砲手に嵩山保奈美を希望したところで、アールグレイ様が許可してくださらなければ、どうしようもない。
「ねぇ、あなた……嵩山さんはチャーチルの砲手を希望するの?」
真っ白い希望用紙。ダメ元でチャーチル車長と書いても、致し方がない。チャーチル装填手を第1志望にすれば、あるいは同じ車両に乗る夢は叶うかもしれないが、ダージリンは俊敏に装填ができる腕の力がないのだ。足手まといでしかない。
「ダージリンはマチルダⅡの車長でしたわね」
「えぇ」


「…………………お姉さまを裏切ることは、出来ないから」


 少し困ったように微笑んで、もうすでに第一志望だけを書いてある希望用紙を見せられた。
「あなたの入学を待っていたようだったわね」
 同じ中学の先輩後輩の関係だったようだ。仲も良さそうだし、アールグレイ様は可愛がっておられるのだろう。この可愛らしい容姿だから、余計なのかも知れない。
「えぇ。聖グロに来いって誘っていただいて。でも、あなたがいてよかったわ、ダージリン。お姉さまとは1年しか一緒にいられないけれど、ダージリンとは3年間、ずっと一緒に戦えるわ」
 愛らしく微笑むから、私も嬉しいって言えばいいのに、言葉に詰まってしまった。何か恋をしている少女みたいな気持ちになって、妙な照れくささを覚えてしまう。
「………私は、アールグレイ様が引退されたらチャーチルに乗るわ」
「では、待っていればいいかしら?」
「えぇ。それに、あなたにマチルダⅡは似合わないわ。チャーチルで鍛錬を積んでおいて頂戴」
「わかりましたわ、ダージリン」
 ダージリンはしっかりとした文字で、マチルダⅡ車長を第1希望の枠に書き、他を空白にした。




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Date:2016/07/26
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