【緋彩の瞳】 Because I love you ④

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you ④

通常授業と戦車道の訓練。ミーティングに整備科との合同授業。中学時代とは違って、本格的に戦車道を学ぶこの学校では、毎日が目まぐるしい。その合間を縫ってお茶会があり、そのたびにアッサムと2人で紅茶の園に向かう。ダージリンと言うティーネームは、入学したその日に、アールグレイ様が決めた。母と同じティーネーム。アッサムは、彼女自身がアールグレイ様に希望を伝えたそうだ。どうしてその名前を選んだのかは、聞いていない。


「ごきげんよう、お姉さま方」
 入学してから2週間目の月曜日。今日から戦車搭乗だ。ダージリンはマチルダⅡ車長、アッサムはチャーチル砲手として、そして、希望を出せない1年生はそれぞれ中学時代の経験に基づきオレンジペコ様が決められた配置について、隊列訓練から始まる。
 昼休み、お姉さま方に紅茶をお淹れしたあと、ダージリンはいつものオレンジペコ様とアールグレイ様の間に座った。
「あら、アッサム。お食事は?」
 落ち着いた、少し高めの声質のバニラ様。ダージリンはまだこの1週間、バニラ様とあまり会話をしていない。食事のトレイもなく、ティーカップだけ置かれているアッサムを見て、ダージリンも少し不思議に思っていた。
「えっと、今日は抜いておこうかと」
「あらやだ、アールグレイが虐めたの?」
「いいえ」
 この1週間、入学して早々にティーネームを授かったと言うことで、オレンジペコ様にあちこち連れまわされた。学内の他学部への挨拶以外にも、船舶関係者や、この学生艦に住む住民の代表者とのお茶会、公共施設関係者への挨拶、分厚い緊急時マニュアルを渡されて、頭に入れるようにと言われた。もちろん、アッサムも共に行動していた。でも、他愛ない会話をする暇はなかった。
「私の命令。バニラには関係ないわ」
「後輩が虐められていたら、関係ないわけじゃないわ」
アールグレイ様は、相変わらずにこやかな表情をお見せにならない。淡々としておられる。アッサムを可愛がる時の声は少し色が変わるので、感情が乏しいという方ではないようだ。    
それが隊長として必要だからなのかどうか、ダージリンにはわからない。
「ご心配なさらず。先ほどのお茶会の時にお茶菓子を食べましたので」
「お腹いっぱい?」
「はい」
「………そう?」
 小首をかしげたバニラ様は、アッサムとアールグレイ様をじっと見つめた後、ダージリンを見つめてこられた。何も知らないダージリンは、首をかしげることすらせずに、見つめられても困ると言う代わりに見つめ返すだけだ。
「アールグレイ」
「何?」
「仲良しこよし、勝手にしてもらってもいいけれど、隊員に何かあったら、誰が責任を取るの?」
 にっこり微笑んだ後、何も言わないのがバニラ様で、小言を言うのがオレンジペコ様。このお3人のバランスは、ある意味ちょうどいい様子。ダージリンはどうだろう。アッサムとこんな風にちゃんと、お互いのバランスを取れる関係でいられるだろうか。
「私」
「誰が走り回るの?」
「あなた」
「………左様ですか」
 3方向から、良いのか悪いのか変な空気が押し寄せてきて、ダージリンはアッサムを見つめた。困ったような笑みが返ってくる。体調が悪くて食事を取ることができないのだろうか。ついさっきまで同じ教室で授業を受けていたが、何もそんな様子はうかがえなかった。アールグレイ様が何かご存じならば、ダージリンが出しゃばることはない。でも、クラスメイトとして、それで正しいのだろうか。ちゃんと、大丈夫なのかと聞いてあげるべきではないだろうか。
「ペコ、頑張ってね」
 微笑むバニラ様に、オレンジペコ様は無反応。面白い関係だわ、と思う。アッサムが縋るようにアールグレイ様を見つめていても、気にするなと言わんばかりに、紅茶を飲んでおられるお姿。
「………ダージリン、アールグレイを真似してはダメよ」
 恨めしそうにそんなことを告げられても、はい、と返事をするわけにもいかず、ダージリンは紅茶を飲んで誤魔化した。





 マチルダⅡの搭乗隊員は、全員が同じ中学出身の先輩方だった。意図的にそうされたのだろう。見知った先輩方と言うこともあり、動きやすさもある。どこの戦車内も、出来る限り、出身校を揃える、あるいは面識がある生徒同士を選ばれたようだ。オレンジペコ様の気遣いだと思われる。クルセイダーはスピードが違うため、別動隊として隊列訓練がすでに始まっていた。
ダージリンはマチルダⅡ2号車を与えられ、ゆっくりと1号車の後に続いた。
 聖グロの戦車道は隊列の美しさがとても有名だ。寸分の狂いなく、砲塔の回転も合わせ、隊列変更の時も優雅で美しい。そして、いついかなるときも、その中心にいるのがチャーチルだ。アールグレイ様の声が無線から聞こえてくる。命令を聞き逃さぬよう、隊を乱さぬよう、しっかりと前のオレンジペコ様の後姿を追いかけた。



『全車緊急停止、指示があるまで待機!』

 一時間ほど何度も隊列変更をしながら、砂利の続く戦車道訓練場を周回している途中、アールグレイ様が声を張り上げた。左斜め前を走っているチャーチルの車長ハッチから身体を出しておられたアールグレイ様が戦車内に一度入られる。
『アールグレイ、何事?』
 オレンジペコ様が無線で問いかけている声にも、アールグレイ様は応える気配がない。指示があるまで動けないようだ、と、砲手の先輩に伝えると、その間、お茶でもして待ちましょうと、穏やかな声が返ってきた。緊急停止の時でも、さほど緊迫したものではないと、周りは思っているのだろうか。ダージリンはハッチから顔を出したまま、チャーチルを眺めて紅茶を飲んだ。要らないとは言えないのだ。オレンジペコ様も他の車長も、顔を出してチャーチルからの指示を待っている。チャーチルはエンジンを切った。車両トラブルだろうか。
「……アッサム!」
 アールグレイ様が車長ハッチから顔を出して、その後、すぐにアッサムが出てきた。砲塔に上がり、アッサムを引き上げて腰を下ろしている。抱きしめるように態勢を整えて、その背中を摩っているから、アッサムに何かがあったようだ。力なく目を閉じている姿が見えて、ほとんど無意識に、ダージリンはマチルダⅡから降りていた。
「こら!」
 砲塔の中からお姉さまが引き止める声がしたが、構わず降りて、チャーチルの傍へと走る。
「馬鹿!!許可なく降りるなんて、何を考えているの?!戻りなさい、ダージリン!」
 熱を持った履帯のすぐ傍、アッサムを見上げてもアールグレイ様が抱かれていて、様子がうかがえない。ダージリンの背中にオレンジペコ様のお怒りの声が飛んだ。
「………はい」
 アールグレイ様は、ダージリンを見向きもされない。大丈夫なのかどうかさえ、何もわからない。10秒ほど見上げていたが、何も言ってくださりそうにないので、ダージリンは次の激怒の声が降る前にマチルダⅡに戻った。アッサムは大丈夫だろうか。
「馬鹿ね、最速で始末書よ?ペコちゃんを怒らせない方がいいわ」
「アッサムに何かあったみたいです」
「だからと言って、あなたが飛び出したら、私たちはどうなるの?あなたはマチルダⅡの車長。アッサムの傍には隊長がいるわ」
 マチルダⅡの先輩方は、チャーチルにアールグレイ様が乗っておられるのだから、彼女に任せたらいいと冷静でおられる。ダージリンは無線で、チャーチルの他の隊員に声を掛けてみようかと思ったが、余計な事をせず、落ち着いて指示を待てと言われた。10分ほど待機した後、アッサムが身体を起こして、アールグレイ様と共にゆっくりとチャーチル車内に戻って行かれる。青い顔色のアッサムと目が合った。

“ありがとう”

彼女の唇がそう告げて、ダージリンはため息を漏らした。





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Date:2016/07/31
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