【緋彩の瞳】 Because I love you ⑤

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you ⑤

「ダージリン」
「はい」
「初日からやってくれるわね」
「……アッサムは?」
「知らないわよ。チャーチルの隊員の責任はアールグレイにあるの。マチルダⅡの責任は私が負うの。17時までに始末書を書いて持ってきなさい」
 15分程停車していたチャーチルは、もう一度エンジンを掛けなおし、ゆっくりと動き出した。その後の1時間は、砲塔を一切回転させなかったチャーチル。おそらく、アッサムが酔ったのだろう。ランチを抜いたのは、嘔吐させないためのアールグレイの指示に違いない。
「承知しました。その時に、アッサムの様子をお聞かせください」
「……アールグレイがその時にいればね」
 訓練終了後、反省の様子も見せず、アッサムのことだけしか心配していない様子のダージリンは、深く一礼した後、マチルダⅡ2号車の隊員にも頭を下げに行った。頭を下げても、あの子は悪いと思っていないのだろう。友達が心配だと、それしか考えていない様子だ。状況を伝えないアールグレイも悪いが、あの人がイチイチ言うはずもなく。ただ、そう言う人だから、と教えておくべきだったのかも知れない。ダージリンからすれば、アールグレイはさほど信頼できない人と言う感じなのだろう。
「ペコ、そっちで何かあった?」
 チャーチルは車庫に入ったあと、アールグレイとアッサムだけが姿を消して、他の隊員たちがマチルダⅡの隊員たちのすぐ傍に並んだ。アールグレイがアッサムを背負って医務室に向かったらしい。後はよろしくと言っていたそうだ。誰に何をよろしくなのだろうか。
「……たぶん、アッサムが戦車酔い」
「あらやだ。初めて戦車に乗ったの?」
「さぁね。私は忙しいから、整備科とのミーティングには出ないわ。仕事放り投げて、アールグレイがいなくなったし」
「あらやだ、相変わらず」
「………あなたもね、バニラ」
 整備科とのミーティングをバニラだけにさせると、整備科のやりたい放題だ。ニッコリ笑って読みもせずにサインするから、経費が跳ね上がるばかり。それでも今日は1両も故障をしていないから、ミーティングは5分で終わるだろう。



 各車両整備に、1年生全員が授業の一環として参加をして、その後1日の報告書を車長に書かせる。各隊長であるバニラとオレンジペコが目を通して、最終的にアールグレイの元に提出される。そう言う流れだが、アールグレイはまともに読んでいるかどうか怪しい。
 バニラと共に隊長室でアールグレイが戻ってくるのを待っていると、先にダージリンが入ってきた。
「始末書と、報告書です」
 薄っぺらい紙が1枚と、報告書のフォーマットが印刷されているノート。
「あなた、始末書の書き方を教わったことは?」
「ありません」
「わからなければ、誰かに聞けばよかったのでは?」
「それ以上、書く言葉がありませんわ」
 報告書は丁寧に細かく、何をしたのかすべて書かれていた。オレンジペコすら忘れている訓練内容がびっしりと、他の車両がどう動いたのかも書かれている。だが、始末書は一行のみだった。今後、指示に従い、マチルダⅡ2号車の隊員に迷惑をかけぬように気を付けます、と。
「大した度胸ね」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
「………悪いって思ってないみたいね」
「いえ。何の指示も出さずにマチルダⅡから離れたことは、反省をしております」
 この手のタイプは、非を認めたりしないだろう。バニラがクスクス笑っている。
「アッサムが心配で飛び出しちゃったのね。可愛いじゃない」
「バニラ、口を出さないで」
「あら、私もペコに何かがあったら、試合放棄してでも助けに行って、抱きしめて差し上げるわよ?なんだったら、人工呼吸もサービスしちゃう」
「死にかけても、お断りするわ」
「あらやだ、振られたわ」
だから、何が“あらやだ”なのだろう。この天然、自分はまったくの無関係だから笑っていられるのだ。

 無言のまま3人でお茶を飲んでいると、アールグレイが戻ってきた。
「アールグレイ様、アッサムは?」
 ソファーから立ち上がったダージリンは、直ぐに尋ねる。ちらりと視線を投げかけたアールグレイは、ゆっくりと隊長席に腰を下ろした。
「寮に帰らせたわ」
「何があったのですか?」
「酔ったのよ、少しね」
「……そうですか」
 オレンジペコは予想通りの展開に、とりあえずホッとした。重大な病気だったとか、実は怪我をしていたとか、後々面倒なことにならないのならそれでいい。アールグレイの様子からみても、深刻なことではないだろう。きっと、想定していたはずだ。
「よかったわね、ダージリン。あとで、アッサムのお部屋を覗いてあげて。あなたはクラスメイトだし、お隣の部屋なんだし、ちゃんと面倒を見てあげてね。その人に気を使うことないわ」
 バニラが口をはさんできた。アールグレイはバニラをチラリと見つめた後、何か考えているようだ。
「アールグレイ、明日の訓練、どうしますの?」
「予定通りよ」
「今日みたいなことがあったら、困るわ」
「困るのは、オレンジペコだけよ。アッサムは、そのうちチャーチルに慣れるわよ」
 困るのは、アールグレイ以外の全員だ。そう伝えたところで、あっそう、と言われるだろうから、言わない。この人が隊長なのだ。どうしようもない。
「ダージリンが指示を聞かずに飛び出したので、処罰を」
「処罰?別にいいわ」
「………左様ですか」
 そんなことはどうでもいいのだろう。想定内の返事を聞かされて、オレンジペコはダージリンの書いた始末書をアールグレイの机の上に置いた。ちらっと見ただけで、面白そうなものを見たと言わんばかりに口角が上がる。
「ダージリン」
「はい」
「書き方を知らないのね」
「はい」
 アールグレイも始末書を上手く書けない人だった。書けと言われて、ごめんなさいと一言書いて、ルクリリ様を爆笑させた人なのだ。その後、連帯責任だと言われて、オレンジペコが代わりに始末書を何度か書いた。

「今後、オレンジペコに始末書を書けと言われても、書かなくていいわ。こんなもの、読むに値しないし、反省する気がないのに、しろと言っても意味をなさないわ」
「はい」
「もういいわ。用がないなら帰りなさい」
「はい」
 ダージリンは一礼してゆっくりと隊長室を出た後、盛大に靴音を鳴らして走って行った。

「アッサムの部屋に行くのよ、きっと」
「そうでしょうね」
 バニラはじっと座ったまま。冷めた紅茶をゆっくりと飲んでいる。相変わらずだ。
「可愛いわね。お友達が心配なのよ。アールグレイ、アッサムが酔うと分かっていたのでしょう?ダージリンはクラス委員なのだから、申し送りをするべきだったわ」
 お代わりを入れるついでなのか、立ち上がったバニラは、微笑みを携えたままアールグレイのためにお茶を淹れ始めた。バニラが淹れると美味しくないのだ。飲みたくはない。
「先に心配を煽ることでもないわ」
「そうかしら?ダージリン、あの目は本気でアッサムを心配していたわよ」
 アールグレイは何も言わなかった。美味しくなさそうな紅茶を、ちょっと嫌そうに受け取る姿。有無を言わさないバニラの笑みを見て、居心地が悪いのだろう。それなのに逃げられないのだから、本当、嫌な感じだ。この2人のやり取り、おおよそバニラが勝つことが多い。最後はアールグレイがふて腐れて負けるのだ。だからと言って反省をする人でもない。
「平気かどうかは、乗らなければわからないことよ」
「不安はあったのでしょう?」
「いいのよ、保奈美は…アッサムは私が面倒を見ると言ったわ」
 あぁ、バニラの淹れたマズそうな紅茶。オレンジペコは眉をひそめながら、自分のティーカップに注がれないように、手で蓋をした。少し頬を膨らませるバニラに、舌を出して反撃する。美味しくないものを飲ませるなと、ルクリリお姉さまから何度も言われていたのに、それでもゴールデンルールを守ろうとしないのだ。
「アールグレイ。隊員の体調管理はあなたの役目だからといっても、情報を共有していないことは大いに問題よ」
 オレンジペコは自分の紅茶はもういらないと、空のティーカップをシンクに置いた。3人でお茶をするなんて、そんな楽しくもないことに時間を割くのはごめんだ。
「わかっていたから、先に手を打っておいたわ。思ったほどひどくもなかった。1~2週間すれば、あの子も感覚を掴めるから平気。アッサムのことは私が責任を持つ。だから、もうこの話は終わり」
「……はいはい、左様でございますか。私は周りを見ろと言ったのに、見るつもりがないのならもうよろしいわ」
「ペコは、ダージリンが心配なのよね」
 ふわふわと愛らしく微笑むバニラ。顔に似合わず、紅茶を美味しく淹れられないスピード狂。まともに話をする相手がここにはいないのだ。オレンジペコはさっさと隊長室を後にした。






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Date:2016/07/31
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