【緋彩の瞳】 Because I love you ⑦

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you ⑦

 5月、連休が始まった頃に横浜港へと学生艦は到着した。すっかりチャーチルにも馴れ、高校生活にも馴れ、久しぶりに陸に降り立つ。呼んでもしないし連絡もしていなかったのに、学生が降りる許可が出る時間の5分前に携帯電話が鳴った。幸せそうなお兄さまの声。すでに車ですぐ傍に来ているらしい。横浜について、もちろん実家に顔を出すつもりでいた。出来ればお兄さまがいない時間帯を狙って、ひっそりと親に顔を見せようと思っていたのだが、やはりそんなに甘くはないようだ。それに、チャンスがあればダージリンに声を掛けて、2人でどこかお茶にでも、なんてほんの少しだけ期待をしていたのに。あのシスコン、部屋を見たいだとか、学校を案内して欲しいだとか、女子校だと言うことをすっかり忘れて、ずいぶんボケたことをお話されているから、取りあえず、お姉さまを呼ぶことにした。 
3日間のお休みの間、お姉さまは、ちゃんとお兄さまと会う予定を立てておられるのだろうか。そんなことを何も聞いていない。とりあえず、お姉さまを誘って一緒に降りると告げて、すぐに電話を掛けた。お出にならないので、GPSでお部屋の中にいるのを確認して、一言声を掛けるだけでも、と、お姉さまのお部屋を訪ねることにした。確か、バニラ様と2人部屋だと聞いている。
 アッサムの部屋の隣、ダージリンの部屋は静かだった。彼女も恐らく下船はするだろう。アッサムと同じように実家に顔を見せに行くかも知れない。聞いておけばよかったと思いながら、3年生の寮の階段を上がる。ノックをして、声を張り上げて名前を告げた。


「お姉さま~!」
3回ノックを2回繰り返す。寝ていると言う時間帯でもないし、責任者が寄港するという大事な時に部屋に立てこもるだろうか。でも、オレンジペコ様にすべて任せて、お仕事を放棄なんてことをされているかもしれない。
「お姉さま?」
「……………アッサム、どうしたの?」
「あ、バニラ様。ごきげんよう」
 重苦しいドアが開いて、バニラ様が顔だけを出してこられた。視界に入ったのは何も羽織っておられない肩。眠っておられたのか、シャワーを浴びておられたのかも知れない。
「アールグレイはお仕事よ」
「えっと、お姉さま、携帯電話をお忘れのままですか?」
「ん?えっと……ちょっと待ってね」
 手にシーツのようなものを持ったまま、裸身がちらりと見えて、ドアが一度閉じられた。


 背中に、いくつもの赤い噛み痕が見えた。



「お待たせ。えっと、充電されたままだったわ。もし、すぐに用事があるのなら、ペコに電話をするといいわ。きっと一緒にブリッジに行っているから」
「そうですか。外で待っていますわ。お休みのところ、ご迷惑をおかけしました」
 シャツを羽織って戻って来られたバニラ様は、やはり顔だけをドアから出して、アッサムを追いやるようにニッコリと笑みを浮かべる。見てはいけないものを、わずか20センチのドアの隙間から、1~2秒の間で見つけてしまうのだから、目が良いことも褒められたものじゃない。


 アッサムはお姉さまを待たず、そのままお兄さまが待っている横浜港へと降り立つことにした。




『部屋に来たって聞いたけれど、どうしたの?』
「………あの、お兄さまが学生艦まで迎えに来ていて。お姉さまをお誘いしようかなって」
『あら。でも、裕一さんは保奈美に会いに来たのでしょう?』
「まぁ、そうですが」
『今どこ?』
「拉致されて、デパートに連れていかれるところですわ」
『この、シスコン野郎って伝えておいて。夕食は嵩山の家に行くから、その時まで兄妹水入らずを楽しんできたらいいわ』
 シスコン野郎ってお兄さまに言ってみても、褒め言葉のように笑っている。服や靴やティーネームの刺繍を入れたハンカチやら、要らないと言うのにお兄さまが絶賛おすすめだという、デジカメとノートパソコンをプレゼントされた。情報処理部に寄付をすれば、オレンジペコ様もお喜びになるだろう。お兄さまはデジカメの性能を試してみると言って、制服姿のアッサムを勝手に撮影し出して、もうただの変態。可愛い可愛いと言われ慣れて、さほどうれしいとも思わない。お嫁さんになるお姉さまのためにも、同じようにいろいろ買ってあげたり、可愛い可愛いって言ってデートしてあげたりすればいいのに、大丈夫なのだろうか。



 学生艦の仕事を終え、夕方までバニラとセックスをした後、横浜に降り立った。バニラは東京出身だから、今から明後日まで、東京に帰るそうだ。昨日の夜も合わせて、強めに抱いて文句を言われたが、会えない間に痕が消えぬように、くっきりと痕を残しておいた。どこかで誰かと会っても、素肌を見せられない程にきつく。

「お姉さま、いらっしゃい」
「保奈美。あら、可愛いお洋服ね」
「………着せられたの。無理やり」
「いいんじゃない?」
 相変わらずのシスコンぶりを発揮しているようだ。困った顔で見上げてくる保奈美の頭を撫でてリビングに行くと、久しぶりに会う裕一さんがいた。せっかくの連休だと言うのに、妹に合わせて東京から戻ってきたのだろう。
「麗奈、久しぶりだね」
「裕一さん、保奈美の服を選んだのはあなた?」
「似合うだろ?保奈美は白がいいんだ」
 それは純白とか処女性を求めているからなのだろうか。溺愛されている保奈美はもう、完全に割り切っているようだ。出来る限り相手をしたくないと顔に描いている。
「本当、相変わらず変態ね。彼女出来ないわよ」
「ご心配ありがとう」
 女性からモテる顔に、モテる年収にモテる家柄。一夜を共にするくらいの女性なら、両手で溢れるほど、彼は手に入れることができるだろう。もしも裕一さんが、誰かと一途な恋愛をしているのなら、その人と結婚したいと言いだしてくれても、麗奈は困ることなんてない。だけど、保奈美が何を想うかを考えると、正しい道がわからない。
「お姉さまがお嫁さんになるのだから、そのあたりは生真面目にしておいてもらいたいわ」
「僕は、保奈美に給料吸い取られているからね。だから女の人は逃げて行くんじゃないかな」
 白い歯を見せて笑う裕一に、保奈美は汚いものを見るような視線を投げかける。麗奈は乾いた笑みを浮かべるだけだった。結婚をすることを嫌だと思わないし、保奈美を可愛がっている兄である裕一さんのことを、嫌いだとも思わない。ただ、本当に何も感情として揺さぶるものなどないのだ。でも、結婚と言うものにそう言うものがいるのかと考えても、必要じゃない気もする。家族になるということに、恋情なんていらないはずだ。そう言うものなのだ。
「お姉さまに何か、買って差し上げたらいいのに。私にパソコンをあと何台持たせるおつもり?」
「婚約指輪を買う貯金はしているからね。麗奈の好きなお店の好きなデザインを選ぶといいよ」
「あら、嬉しい」
 嬉しいなど思わないが、嫌だとも思わないので、麗奈は微笑んで見せた。高校を卒業したら正式に婚約をして、二十歳で入籍をする予定だ。大学に行くことは賛成されているのだが、いずれ海外転勤も考えているとは言われている。保奈美には多くを言わず、水面下で進む麗奈の未来設計。嫌だと思えるものが見当たらないから、進められている。
「お姉さまの婚約指輪、買いに行くなら、私も一緒に行きたいですわ」
「じゃぁ、買った後に裕一さんに請求書を送りましょうか」
 白い服に身を包み、保奈美は子供っぽい笑みを見せた。高校に入り、日に日に大人になっていくのだろうと思っても、こうやって家族で過ごしているときは、やっぱり無邪気な少女だ。愛らしくて守ってあげたいという想いはきっと、裕一さんと違いはない。保奈美が自由に生きて行くためには、麗奈が結婚をして跡取りを生んでしまえばいい。何となくそう思っている。何も聞いていないけれど、どこかの御曹司やらと結婚させられてしまうのは可愛そうだ。まるで、そんなことを思うと、自分が可哀そうだと思っているみたいだ。

自分を不幸だと思いたくはない。

「お兄さま、せっかくお姉さまがいらしているのだから、お2人でドライブにでも行って来たら?」
「そうか、そうだな。たまには麗奈の機嫌を取っておくのもいいな。保奈美に吸い取られた給料の残りで買ったポルシェでドライブにでも行こうか」
「私、お兄さまに学費を出してなんて一言もお願いしていないわ。全部、お姉さまとの将来のために、貯金なさればいいのに」
「いやいや、麗奈が責任者の学校なんだから、そこは兄貴のプライドだよ」
「でしたら、聖グロに寄付されたらよろしいわ」
「裕一さん、クロムウェルという戦車のレストアに多額の寄付を募っていますのよ」
「………似た者姉妹のようだ」
 この兄妹の仲良しは面白い。嫌な目で兄を見つめる保奈美も、何だかんだ小さい頃は裕一さんに手を引かれてどこへでも付いて行っていた。
保奈美が誰か、男の人と恋をして、結婚をすることになったら、裕一さんはどんな風になるのだろう。その恋人を殴ったりしないだろうか。そう言えば、保奈美はどんな人が好きなのだろうか。将来、どんな夢を持っていて、どんな生き方をしたいのだろうか。そう言うことを聞いたことがない。
きっと、自分が持っていないことを、聞いても仕方がないのだ。何のアドヴァイスもできないものなのだから。




関連記事

*    *    *

Information

Date:2016/08/04
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/757-be160afa
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)